


血縁係数を視野に入れて考えれば、近親に対する利他的行動は生物学的には意味がある。家族の誰かを助けることは、自分がその家族と共有する遺伝子、つまり自分の遺伝子を助けることにもなるからだ。
場合によったら、自分の子どもを育てるより、血縁者の適応度を高めることに労力を注いだ方が生物学的には有利になることもある。日本にも、昔貧しい時代には、その風習があった。
女性が、自分の孫の世話にエネルギーを費やせば、自分の遺伝子の25%が残る確率を高めることが出来る。母親なら、同じ行動によって50%の利益になる。
ハミルトンは、一見非利己的に見える行動もコスト上に適応度を高める可能性があるとしたら、遺伝子レベルで利己的な意味をもつことを明らかにした。
ハミルトンは、進化を推し進めるのは、生物が子孫を多く残そうとする働きではなく、遺伝子が自分のコピーを多く残そうとする働きだ、ということに初めて気付いたのだ。
利他的行動を取る個体は、自分にもっとも近しい親しいもの世話をすることで、自分の適応度を高めている。弟を守っているという行動は、実は、弟の遺伝子を守っている訳だ。
進化生物学は、これまでの私たちの常識を覆すかも知れないが、そこに科学の目があるのであって逃れることの出来ない科学的真理でもある。それが何であろうと、恐らく、デッドロックは続くのだろう。