ココ の ブログ

運転(12)

運転(12)

 その事件は施工業者にとっては日常茶飯事の事故であったのかも知れない。ところが、それが命取りに成り兼ねないのである。事件はボクが夕方定刻になったので現場事務所から引き揚げ、国道を走っている最中に携帯に掛かって来た情報で知ったのだった。「◎◎高校事務局の◎◎です。先生、現場でクレーン車が傾いて、4階教室の窓ガラスを割ってしまったのをご存じですか?」「エッ!それは何時の事ですか?」「矢張り・・・ご存じ無かったですか。夕方4時頃、仮設足場解体作業中に起きたのですが、割れた窓ガラスが教室に飛び散って、教室で文化祭の準備をしていた女子生徒がキャッ!と驚いたのです」それを聴いた瞬間、ボクは咄嗟に訊き返した。「生徒さんに、怪我はありませんでしたか?」すると彼は急に言葉の調子を変え、意外な事を言ったのだ。

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 「ああ、矢張り先生は、それを気にされますか。そうなんです、その一言が、施工業者からは一度も無くガラスを片づけるだけで、先生方や生徒はカンカンに怒っているのですヨ。お蔭で、誰も怪我はありませんでしたが、業者の対応が悪すぎますヨ」「当然の事をお訊きした迄の事ですが、怪我が無くて何よりで、ホッとしましたヨ。それで事故処理の方は上手くやりましたでしょうか?」「処理は終わりましたが、跡片付けで未だ作業を続けていますヨ」「そうですか。それじゃ、電話で現場に問い合わせて事実確認をしてから明朝、事故報告を兼ねて今後そういう事の無い為の対応策を文書で提出する事にしますので宜しくお願いします」と切ってから現場監督に電話で確かめた。しかし、現場監督は要領を得ない返事しかしなかった。尤も、窓ガラスは1時間後に入れ替えた事だけは確かめられた。

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 次に役所に電話で事故報告をしておいた。担当者は出掛けて不在だったので事故の概要と人身事故が無かった旨を伝えておいた。帰宅して1時間ほどして役所担当から電話があり、詳しく事情を訊くので得た情報をそのまま伝え、事務局部長の弁も伝えておいた。すると「現場監督に、事故の経緯をメールで私宛にくれる様に伝えて下さい。遅くても待っていますから」と言う。それはボクも同じ気持ちだったから折り返し現場監督に電話をし、役所担当へメールを入れる件とボクの自宅にも同じものを入れるよう伝えた。ボクのメール・アドレスが分からないと言うので自宅の電話番号を教え、それがファックスにもなっている事を言った。しかし、その日は何の連絡も来なかった。自宅に連絡が無いという事は役所にも連絡を入れていないと言う事になる。役所担当者は、まんじりもせず遅くまで待っていた事だろう。 

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 しかし、本当に気に成るなら役所担当は自分から現場に電話を掛けるだろうという気も働いた。ところが役所担当は其処まではやらないだろうという気もした。気には成るだろうが、業者から知らせて来るべき事案であって自分からわざわざ電話する程の事も無いと想うか、業者の対応を観て評価するだけの体質だからだ。業者の体質を改善させようとか期待通りのアクションを起こさせる気なぞ彼には全く無いのだ。それに多分、あの現場監督では何も対応できないだろうとも予測できた。日頃から接して来て嫌と言う程そういう目に遭わされているのだ。その事は工事の遅れや精度の悪さになって出て居て、愚痴ではないが業者のいい加減な体質が工事遅延になっている旨を最初の頃、ボクから役所担当にメールで伝えてあり、そういう業者だが何とか指導しながら工事を進める旨のコメントも入れておいたのだ。

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 それが今、生きて来た訳である。多分、そういう施工業者が現実には多いのだろう。そのせいか役所担当からはその後何の返事も無かった。だから思い余ってボクの方から業者の社長に電話を入れ、現場監督の能力に問題があるから応援を出すよう要請し、暫くして応援が来てからは工事は順調に進み出したのだ。そして完成間際になって定例工程会議で「此処で気を抜かず気を引き締めて作業に当たるように」と口を酸っぱくして呼び掛けたにも拘わらず、事故を起こしてしまったのだ。それは結局は業者の企業としての体質の問題でもあり起こるべくして起きた事故であったのかも知れない。この辺りで神様がお灸をすえたとしか想えないタイミングであったからだ。不幸中の幸いは人身事故が起きなかった事だろう。出来ればボクに取って何事も無く工事が完成してくれれば良かったのは言うまでも無いが仕方が無い。神様が決める事だ。

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 翌日、早朝に現場監督に電話し昨夜の対応について訊いた。すると役所に電話をしたが繋がらなかったと言った。では何故その旨をボクに伝えて来なかったのかと訊けば黙っている。ボクも待っていたのだ。本当に電話したのかどうか分からない。ボクに電話を掛けて来なかったのがそれを物語っている。そこで、事故の報告書が出来ているのか訊くとそれも出来ていないという。要するに何もしていないのだ。だから、急いで別の担当者に顛末書を作らせるよう指示して現場に向かった。一事が万事そういう対応だから無理に作らせ、現場事務所で打合せをしている処に役所担当が来た。顛末書を見せながら事故の経緯と原因と今後の対応策を説明した処「しかし、こんな顛末書だけでは事は済みませんヨ。指名停止処分も含めて覚悟して置いて下さい」と業者に言い残して担当は帰って行った。それでやっと業者に衝撃が走った。初めて事情を聞いた業者の社長が急いで役所へ謝罪に行った。が、時既に遅すぎた。それを観てボクは東電の対応と同じだと想ったのだ。

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