出会い②意外な一面



亜流英語を話す現地スタッフ達とうまく協調すること。熱帯での体調管理。東京への報告。新しい指示。展示会での接客そのもの...東南アジア出張中は、日本にいるのとはまた違う種類のストレスがだんだん溜まってくる。

その日も夕方展示会が終わってから、現地スタッフがみんな帰ったオフィスで一人仕事をしていた。

「後どのくらいで終わるかな。」
営業部長である駐在員の一人が声をかけてくれた。
「良かったら、食事に行きましょう。」

お言葉に甘えて、食事に連れて行ってもらうことにした。
「ペーパー・チキン」で現地では有名なとてもおいしい中華料理店。そこに「彼」がいた。
「どうしよう...あの怖い人がいる...」

仕事がうまく行っているか、現地スタッフはシステムをよく理解しているか、展示会での来場者の反応は?と矢次早に部長が質問する。私は、いつもより言葉を選んで慎重に答えていた。顔と名前は一致するが、一緒に仕事したことのない部長N氏と技術系の駐在員F氏。そして恐ろしい「彼」。私はかなり固くなり、あまりビールや料理に手をつけずにいた。

すると、あの恐ろしい「彼」が、シンガポールのローカル風中華の食べ方を教えてくれたり、飲み物に気を配ってくれたりと、「恐ろしくない一面」を見せてくれた。
しかも、自分はあまり料理を口にせず、アルコールも飲んでいない。思わず聞いてしまった。

「あの、健康にかなり気をつけていらっしゃるのですか」

途端に食事の席は爆笑の渦。アルコールは体質に合わないということだったが、食事は単に好き嫌いが多いだけ。
偏食の彼を「健康志向」だと思ってしまった私の発言は、本人をも大笑いさせてしまった。

この夜。国籍不明な真っ黒な顔や腕の持ち主は、左手だけが
透き通るような肌の白さだったのが目に焼きついた。
そして、意外な気配りの人であることも...

怖いけれど、仕事を離れれば気さくな人なんだな...と思った「彼」とは、一ヶ月後、天王洲アイル「シーフォートスクエア」で再会することになる。


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