節約の美徳


価値観というのは本当に多様だ。
自分の住居としてのマンションの快適さは、私にとっては
●セキュリティがしっかりしていること
●両隣上下の方と気持ち良くお付き合いできること
●不在時の荷物等を預かってくれる管理人がいること
●管理に時間が必要でないこと
●資産価値があること
の順だろうか。

が、管理費節約が理事長夫人にとってはトップに来るらしい。
以前に管理業務の下請け業者契約について書いたが、今回の節約はちょっと違う。それは、 マンションの管理業務のうち、住人にできるものがあればやってもらうということだ。

まず、ある日掲示板に報告があった。
「階段の滑り止め補修は○○○号室の△△さんが×,×日二日間で行いました。日当として一日あたり5000円お支払いしましたのでご報告します。」

私は何だか釈然としなかった。たまたま、マンションの住人の中に、もっと言えば理事会のメンバーの中にこのような作業を仕事としてできる人がいたということなのだが、もしもこの滑り止めの補修が不完全で事故が起きた時、いったい誰が責任を負うのだろう。業者の仕事ならば損害賠償を要求できる。でも、同じマンションの住人に賠償を要求する神経を私は持ち合わせていない。ならば理事会もしくは管理組合を訴える?そこから補償があったとしても、それは我が家も払っている管理費からである。そして全住人に後ろ指をさされるようなことをするのはやはりイヤだ。結局泣き寝入りをするしかないだろう...


隣の老夫婦には時々おすそ分けや旅行のお土産を持っていく。留守がちな我が家を気にかけてくれる心の優しいご夫婦でお花の世話が趣味という点が私と共通しており、時々は苗を交換するお付き合いなのだ。

ある日、何かのお土産を持って行くと、

「植栽管理について何か言われなかったかしら?」と奥さんに聞かれた。

「いえ。うちには何も。何かあったんですか?」と聞くと、
「あの植栽の剪定、うちでやってもらえないかって言われたのよ。」
どうやら、マンションのために無償奉仕するよう要求されたらしい。一度は断ったのだが、二度ほどさらに依頼されたという。
「趣味でやっている分にはいいけれど、お父さんも年だから、高い木なんて怪我をするかもしれないし...」

植栽管理と言っても、百世帯以上が住むこのマンションは敷地に沿ってグルリと生垣が作られ、また観賞用に配置されている木も含めれば相当な量になる。業者の人だって一人や二人で来るわけではない。

「何日かかってもかまわないから、って言うのよ。」

元々辞めてしまった管理人ご夫妻ととても親しく交流のあったこのご夫婦は理事長夫妻に反感を持っている。『理事長夫人がやってきた』で書いたように、「あんたとはやらない」という言い方で理事を断ったくらい、嫌っていると言っても過言ではない。この無償奉仕の要求はご主人の怒りの炎に油を注いでしまったらしい。

もし、作業中に怪我をしたら。もし、彼の剪定の腕前を気に入らない住人が「マンションの美観を損ねた」と文句を言ったとしたら。もし、この方の作業で他の住人に迷惑がかかったとしたら。切り落とした枝葉の運搬をする人を集める必要もあるし、その人々の怪我の心配だってある。

お金を払ってプロにまかせた方がいいことは世の中にいくらもあるのだ。

仕事をしている人間はすべて報酬を受け取るが、そこには必ず責任が発生する。だから仕事をするときには責任の範囲を明確にして、それに見合った報酬を得ているのだ。自分や他人の安全や資産価値に影響を及ぼすことは、プロしか請け負うことができないと私は思う。

使っていない電気を消す。

ムダな水は使わない。

配布物は両面にコピーしたり、可能な場合には縮小して使用する紙を減らす。

もしある住人が不要だから処分しようとしているものが、マンションの運営に必要なものならわざわざ購入せず、ありがたく頂く。

こういう節約なら私だって大賛成だ。特に空気入れを数名の方が寄付してくれたので、自転車置き場の数箇所に設置されたのはありがたいなあと思っている。


実は先日、このご主人が断って良かったなあ、としみじみ思ったことがあった。会計報告の欄に「見舞い金:5000円」の文字を見たときだ。

植栽管理業者の方が作業中に怪我をし、結果として足を切断されたそうだ。
現場を見ていない私には何があったのかわからないが、プロの身にこういう事故が起きることだってあるのだ。怪我をされた方はとても気の毒だが、少なくとも労災として保障が受けられるはずだ。

もし、住人だったらどうなるのだろうか。
...うちも何か頼まれたらどうしよう...と不安に思うが、まあ何も特技がないから大丈夫だろうなあ。           【さて次回はどうなるやら...】


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