倶楽部貴船

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初めての童話… お菊人形



我が家には古い蔵がある。
その古い蔵に、わがやのいたずら坊主と近所の悪がき2人が入ってなにやら探検中…
蔵のある家の武志、隣の家の和夫、そして一番チビのアキラだ。

「わっ、なんだよ。お前押すなよ」
「だってさぁ、暗くてよく見えないんだよ」
薄暗いなかを 押し合いへしあい すすむ。
「なんかさ、ねずみくさいよな」
「ほこりっぽいし」
「なんでこんなに、ガラクタいっぱい集めてあるんだろ」
見たことの無いような置物、年代物の器、古い書物。
少年たちには、ガラクタにしか映らない。
「なんかさ、お宝って無いのかよ」
「まあ、そう言うな。これでも爺ちゃんが大切にしていた物ばかりなんだから」
その家の少年、たけしがつまらなそうに言う。
「おい、もう出ようぜ」
「ああ、そうだな」
「なぁ、あれ 何だよ?」

高いところの窓から入り込む一筋の光。
そこに照らし出されているのは、古びた日本人形だった…
「なあ、ちょっとあれ見ろよ」
武志が言うと、和夫とアキラが覗き込む。
「なんか不気味な感じもするなぁ…」
「こんな所に人形があるなんてな」
気にはなった三人だが、人形を手に取るでもなく、蔵を後にした。

「母さん、蔵にさ、古い人形があったけど、あれって…」
武志が不思議そうにお母さんに聞くと、
「ああ、市松人形のこと?」
「そうそう、着物を着て、こんなふう」
武志は、両手をヒラヒラしてみせた。
「何をやってんの。まあ、昔の人形って、なんとなく気味悪いけどネ。
でも、そんな人形が家のお蔵にあるとはね。
お母さん、お蔵は暗くてちょっと苦手なのよ」
と、お母さんは、ため息をついた。
「ああ、お母さんも知らないんだ。あーあ、残念、むねん」
武志は大げさに首を振ると、二階の部屋へ上がっていった。
「武志が人形の事を聞くとはネェ…」
お母さんはクスッと笑って、夕飯の用意を始めた。

─1─

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