不思議日記

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May 17, 2006学級リレー


同じくKENさんのお話です。

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 ウチの学校は体育大会は毎年5月に行われる。大会の中でも非常に盛り上がる競技の一つが各学年の「学級リレー」。

 クラス全員が一回ずつ走り,全員でバトンをつないでゴールを目指すというもの。

 中には(ワタシ自身がそうであったように)走るのが苦手な子もおり,この競技のことが気になって「大会が近づくにつれて胃が痛くなる」という生徒もいないわけではない。

 そこで,体育大会が近づくこの時期,ワタシは担任の生徒たちに毎年同じ話をしてきた。

 もう10年以上前のTVニュースで見たドキュメントの話である。内容は多少ズレもあるかもしれないが,とても感動したお話だったので,今もわりと鮮明に覚えている。今日もそのお話を生徒の前でしてきたので,ここに書きとめておこうと思う。

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 とある小学校の6年生のクラスで,4月に「ぼくの夢,わたしの夢」という作文を書かせたそうである。その中である生徒,Aくんが「一度でいいから運動会の徒競走で1位でゴールテープを切ってみたい」と書いていたそうだ。

 Aくんは幼い頃に交通事故で片足を失い,義足で生活していた。彼にとって運動会で1位でゴールテープを切ることはこの上なくカッコよい姿であると同時に,自分にとっては不可能な「夢」だと思っていたのである。

 授業でこの作文を聞いたクラスの仲間は,「なんとかAくんの夢をかなえてあげたい!」と考えるようになったのだそうだ。そして,彼の夢をかなえるためには,「学級全員リレー」のアンカーしかないと…。

 Aくんにバトンを渡すまでの35人で,2位のクラスに一周以上の差をつけることができれば,アンカーの彼がゆっくりと走っても,きっと1位でゴールできる,と考えたわけである。

 しかし,まさに「言うは易く,行うは難し」である。35人で一周以上の差をつけるといっても,他クラスにももちろん足の速い子はいる。自分のクラスにも走るのが苦手な子もいるわけである。

 彼らは秋の運動会に向けて,早速トレーニングを始めた。
 毎朝,早く学校に来て走る。夏休みもみんなで学校に集まり,走る練習とバトンを渡す練習に取り組む。走るのが苦手な子は家でも走った。

 2学期が始まると練習にますます熱が入っていった。もちろんAくんも頑張った。自分の夢を支えてくれているクラスの仲間のためにも,少しでもスピードを上げて,倒れずにしっかりと歩く練習に毎日努力した。

 こうして迎えた秋の大運動会。当日の様子は,Aくんのご両親がカメラに収めていた。

 リレーのスタートから,みるみるうちに他クラスに差をつけていく。(ワタシの目はすでにウルウルになりながら,リレーの様子に釘づけになっていた。)

 35人がバトンをつなぎ,いよいよAくんの番だ。このときまで,なんと,2位のクラスに1周半もの差をつけていた!

 歯を食いしばってバトンを受けたAくんは,一歩一歩慎重に足を運びゴールテープを目指す。

 少しずつ,後ろのクラスが追い上げてくる。

 割れるような大歓声。

 そして,ついに,ついに,Aくんの夢がかなったのである。ぎりぎりで2位のクラスをかわし,Aくんが念願のゴールテープを切った!

 彼は泣いていた。クラスのみんなも先生も泣いていた。もちろん家族も,見ていたすべての人々が感動の涙を流していた。(もちろんワタシも)

 そうして,涙のあとにやってきたのは,弾けるような笑顔。誰かを笑いものにして喜ぶような最近の「オワライ」ではない。本物の「笑い」が,そこにはあった。

 このクラスの仲間たちは,「そのときに一番つらい思いをしている人」を自然に支えることができる,すばらしい仲間たちだったと思う。

 その人のために,みんなが全員で少しずつ努力を重ね,互いのがんばりを大切にし,結果として,一人ひとりが力を伸ばしてきたのだ。

 誰かを支えるためには強くならなければならない。そしてその「強さ」こそが本当の「優しさ」の証なのだとワタシは思う。

 足の速さ,順位の上下,結果ばかりを気にするのではなく,友だちのがんばりに気づいたり,たたえ合ったり,きつiい思いをしている子をみんなで支え合ったり…。そうした経験を通して,ゴール後にみんなで本当に笑い合える学級リレーにしたいね!!


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