シャンプー
ミヨちゃんのかみのけは、まいにちのびます。それはめにみえないくらいちょびっとずつですが、やっぱりまいにちのびているのです。
きょうミヨちゃんは、おかあさんのつかっているきょうだいのまえにすわって、かがみにすがたをうつしてみました。おかあさんにさんぱつしてもらったときはあごくらいまでしかなかったかみが、もうかたまでかかっています。
「かみは、いつのびるのかなぁ」
ミヨちゃんはふしぎになりましたが、そんなことはともだちとあそんでいるあいだにすっかりわすれてしまいました。
よるになっておかあさんといっしょにおふろにはいりました。おかあさんがシャンプーしています。おかあさんがあたまをシュッシュとこするたびに、あわがムクムクおおきくなります。
シュッシュ、ムクムク、シュッシュ、ムクムク。
それをみているうちにミヨちゃんは、いいことをおもいつきました。
「おかあさん、きょうはシャンプーじぶんでする!」
「まあ、ミヨちゃん。そうね、そろそろじぶんでしてみましょうか」
おかあさんのオッケーをもらって、ミヨちゃんはさっそくちいさないすにすわりました。
おかあさんがジャジャーっとシャワーしてれたあと、てにシャンプーをちょびっとだけだして、かみのけにつけます。
シュッシュ、ムクムク、シュッシュ、ムクムク。
「あらじょうずね」
おかあさんにほめられてミヨちゃんはますますはりきってこすります。
シュッシュ、ムクムク、シュッシュ、ムクムク。
そのうち、てにいっぱいのあわがつきました。ミヨちゃんはそのあわをじょうずにまとめて、おおきなあわのかたまりをつくってみました。まるでおそらにうかんでいるくもみたいです。そのあわがそらにうかんでながれているところをおもいうかべたあと、ミヨちゃんは、またかみのけをこすりはじめました。
シュッシュ、ムクムク、シュッシュ、ムクムク。
おゆにからだをつけてから、ミヨちゃんはおかあさんにこんなことをきいてみました。
「おかあさん、シャンプーってなんでするの?」
おかあさんはミヨちゃんをみてにっこりわらいました。
「それはね、シャンプーがミヨちゃんのあたまのなかを、きれいにしてくれるからよ」
「あたまのなか?!」
「そうよ。シャンプーはね、かみのけだけじゅなくって、あたまのなかのよごれもきれいにあらいながしてくれるのよ」
「うそだ! あらってるの、かみのけだけだよ」
おかあさんはふふっとわらっているだけです。ミヨちゃんはシャンプーをするのがちょっとこわくなりました。
「それじゃあ、おかあさんのことも、おともだちのよっちゃんのこともぜんぶながれてしまうの? そんなのぜったいいや。だいすきないちごも、まえのうちでかっていたジョンのこともぜったいながさないで」
ミヨちゃんはちょっぴりなみだぐみました。
「だいじょうぶよ、ミヨちゃん。ミヨちゃんにとってだいじなことはぜったいながれない。ミヨちゃんのためにならないことだけを、よごれといっしょにながしてくれるんだよ。だから、ちっともしんぱいいらないよ」
おふろからあがると、おかあさんがタオルでからだをふいてくれました。もわもわとゆげがあがって、とってもいいきもちです。ミヨちゃんはちょっとかみのけのにおいを、くんくんとかいでみました。
すーっ。
とってもいいにおいです。
すーっ。
そのにおいをかいでいると、ミヨちゃんはからだじゅうがピカピカになったようなきもちになりました。
「おかあさん」
「なあにミヨちゃん」
「ミヨね、なんだかうまれかわったみたい。とってもいいきもちなの」
おかあさんがまた、ふふっとわらいました。
「ミヨちゃん、そういうのをね、すがすがしいっていうのよ」
「ふーん、そっか。すがすがしい、か」
つぎのひも、そのつぎのひも、ミヨちゃんはじぶんでシャンプーしました。そのたびに、やっぱりなんだかうまれかわったようなきもちになるのでした。
ミヨちゃんのかみが、またちょびっとのびました。そしてミヨちゃんのせも、ちょびっとのびていました。ミヨちゃんがしらないあいだに。
【38作。無断転用しないでくださいね】
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