2007.03.08
XML
カテゴリ: 我*物語




ポップコーン.jpg



それにしても悪魔というのは、実にいろんないたずらを思いつくものです。

ここは日本という国のとあるスーパーマーケットです。
2007年の春のある日、その大きな駐車場の片隅に、赤い小さなテント屋根の露店ができました。カウンターの上には、古い小さなラジカセと、何やら小さなピエロの人形がついた機械のようなものが置かれています。
オーバーオールを着たおじさんが、ラジカセのスイッチをがちゃりと入れると、スピーカーから歌が流れ出しました。

♪ポッブコーンはいらないかい
 ポップコーンを食べてみな
 塩とモロコシこうばしい
 大人も子どもも大好きさ
 魔法のコショウが隠し味

 お金はいっさいとりません
 ポップコーンはいらないかい・・

どうやらポップコーン屋さんのようです。
歌は雑音の混じったひどいものでしたが、それでもつられた客が次々と集まり、店の前はすぐに行列ができてしまいました。その様子を見て、オーバーオールのおじさんと、ピエロの人形が顔を見合わせてニヤリと笑ったのですが、それに気付いた人はだれもいませんでした。

「おい、ポップコーンをくれ」
列の一番先頭。髪の毛をきっちり横で分けたスーツ姿のおじさんが言いました。
「もちろん金はいらないんだろうな」
「はいはい。もちろんです。では、この機械を回しましょう」

オーバーオールのおじさんがスイッチを入れると、ピエロが動き始めました。
横にはトウモロコシの入ったガラスの筒があり、ピエロはそのハンドルを器用に回してポップコーンをこんがり焼いていくのです。

「ほう・・よくできた機械だな」


おじさんは、立ったまま夢を見ていました。目の前に、札束の山の上にあぐらをかいて座った大金持ちの老人の姿が見えます。
『おい、その金をよこせ』
おじさんが言うと、老人がいくらかの札束を投げてよこしました。
『いいぞ、じいさん。もっとよこせ。そうだ、もっとだ・・』
おじさんの周りには、あっと言う間に札束が積まれていきました。そして最後には、おじさんは体がすっかり札束に埋もれてしまい、身動きがとれなくなってしまいました。札束はなんと重いことでしょう。

老人が最後の札束をおじさんの口にねじ込んだ時、おじさんは白い目をむいて気絶してしまいました。そこで目が覚めました。

「ぷるるるるっ。お、おいっ、ポップコーンはもういらねぇぞっ」
おじさんはそう言うと、逃げるように早足で去っていきました。

**

「なんだいあの人は。次はあたしだよ。タダだからどうせまずいんだろうけどね」
太ったおばさんの注文にオーバーオールのおじさんは、「はいはいただいま」と機械のボタンを押しました。

ピエロが筒を回し始めると、またです。おばさんの様子がみるみるおかしくなっていきました。
おばさんの夢の中には、うり二つのおばさんがいました。
『誰だい、あんた。あんたみたいな太った人はきっと能無しだね』
『何だって!? あんたみたいな口汚いババアはとんでもないロクデナシに決まってるさっ』
二人はとっくみ合いのけんかを始めました。そして、二人ともがお互いの太い腕にかみついたところで目が覚めました。

「ぶるるるるっ。やい、あんたっ、こんな店、つぶれちないな!」
おばさんもぷんぷん怒りながら立ち去ってしまいました。

**

そんなこんなで、来る客来る客、みなポップコーンを食べる前に、取り乱した様子で帰って行きます。その様子を見て、オーバーオールのおじさんと、ピエロの人形は愉快でたまりません。そう、もうお分かりですね。この二人こそが、人間をバカにして暇つぶしをしようとやってきた悪魔の兄弟なのです。二人は、人の心の奥を鏡に映し、その人にはねかえす魔法が、大の得意なのです。

「ポップコーンください」
客はもう、一番後ろに並んでいた男の子だけになっていました。
男の子は、この店と同じように駐車場でタコヤキの露天を出している夫婦の息子でした。星条旗がデザインされたうす汚れたエプロンを付けています。お店の手伝いの合間に、お父さん、お母さんに時間をもらったのでした。

「お父さんとお母さんと、弟がいます。だから四人分お願いします。それから、これ・・」
男の子はほかほかのタコヤキの乗ったプレートをオーバーオールのおじさんに差し出しました。
「お父さんとお母さんが、おじさんにって」
悪魔は、こういうことが大嫌いです。でも、プレートをたたき落としてやりたい気分を抑えて受け取りました。

「じゃあ、焼くよ。キミはいい子だから、特に念を入れて焼こうね」
ピエロ役の悪魔も張り切りました。筒を回す手が、どんどん速くなります。
ところが、回しても回しても、男の子は何食わぬ顔でその様子を見ています。それどころかにこにこしています。

「これ、すごいですね。まるで生きてるみたい。かわいいな」
ピエロはますますむかっ腹が立ち、さらにスピードを上げました。それでも男の子が笑っているので、もっともっともーっとスピードを上げました。そして・・

「パンッ!」
音とともに筒のふたがあき、中からポップコーンの香ばしい香りがたちこめました。
筒の横には、目を回したピエロの人形がノビていました。

「おじさん、ありがとう!」
ぽつんと立ちつくすオーバーオールのおじさんをよそに、男の子はお父さん、お母さんの待つタコヤキのお店に駆けていきました。
両手いっぱいのポップコーンを持って。









お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007.03.09 00:52:33
コメント(2) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Calendar

Freepage List

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: