2007.03.18
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毎週日曜更新! 「ブログ」がテーマの連続サイコドラマ

第十五話 最終話





「私たちは、地球の裏側にも届く“声”を持った。船や飛行機に頼らなくとも、山を越え、海を渡り、瞬時に届けることのできるテレパシーの装置を持った。なのに・・」

 時子のキーボードが重い音を立てていた。

「なのに、人に思いを伝えるということは、何と難しいことだろう・・」

 時子の中にあった疑問は、今ひとつの仮説に姿を変え、形を持った塊となって時子に言葉をつむがせていた。
 国内のブログ人口は、800万人を超えているらしい。そして、それらの人がブログを書く理由。それは、自分の愛しい人に、自分を探し出してほしいからではないか。自分の一番愛しい人に。

 別れてなお好きな恋人
 すれ違った時、胸の思いがはちきれそうになる片思いの相手
 もうべったりな関係じゃなくなった友達
 馴れ合いで心を通わすことの少なくなったつれあい

 思春期になり難しくなった子ども・・。

 匿名の小宇宙に身を隠しながら、実は発信者は、私たちは、その人に向けて叫んでいるのではないか。「サーチ・ミー、私を探して」と。時子は、そのことを、雪絵から感じたのだった。

 時子は思う。
 すぐにでも話せる人に伝えたい言葉が、行き場を失い世界中を飛び回る。もしそうだとすれば、それは何とせつないことだろう。
 どうして私たちは、すぐ隣にいる人に、気持ちを伝えることができないのだろう。
 どうして私たちは、大切な人に、本当のことだけは言えないのだろう。

 思い込みかもしれない。でも、社会に問い掛けてみたい。その思いが時子の背中を押した。

 では・・、と時子は思う。寂寥感の除去装置??。それがブログなのだろうか。いやそれだけではないはずだ。時子の胸に、Moonが時折見せた、幼い笑顔が浮かんだ。

「ブログはたくさんの副産物を生む。書くという行為は、それ自体、気持ちの整理の作業だ。一人で抱え込んでしまった叶わない思いも、文字という形にして外に出せば、いつか心には、新しい、新鮮な空気が入る容器が出来る。そして、またいつか歩き出せる。そんな気がしてならないのだ」
「ただ、もしーー」

 時子は、無口な群衆を思った。ラッシュアワーの駅、昼間のパチンコ店、深夜のネットカフェにいる男や女の群れ。その一人ひとりを想像した。その表情を、年齢を、家族を、友人を。



 時子の心に、ある人の顔が浮かんでいた。
 星野に原稿の完成を告げたあと、時子は、おそらく今は仕事中のその人に電話をかけた。呼び鈴がなる。「雪絵にも連絡しなければ」と思った。あのはかない姿を放ってはおけない。時子には、話を聞くことしかできないが、何か彼女の役に立ちたかった。そんなことを考えていたら、ようやく相手が電話に出た。「はい」という無愛想な声は、やはり時子を安心させた。

「あ、突然なんだけど・・。今日さ、ご飯食べにいかない? えっ、別に。ちょっと言いたいことがあるだけよ。言いたいというか、説明したいことかな。何、誘っちゃいけないの? もう・・。そんなこと言ったから、父さんのおごりだからね」

 時子は、水をやったことで少し元気を取り戻したスイートピーに近づいて、いつくしむように指の先でなでた。



~おわり~









あとがき



サーチ・ミーをお読みいただいたみなさん、ありがとうございました。
小説を発表する、ということ自体、私にとってはこれがほとんど初めてでした。
お読み苦しい点など、あったことかと思いますがご容赦を。
機会があれば、ご感想などいただければ幸いです。

さて・・
来週からなのですが。
次作はまだ執筆中です。でも思い切って来週から連載スタートしたいと思っています。
サーチ・ミー同様、毎週日曜更新にします。
そうすることで、自分のさぼり心にカツを入れつつ頑張ります。

ちなみに、次は雰囲気もがらっと変わって「児童もの」に挑戦します。
書き始めたまま、八年くらい放っていたかわいそうな作品ですが
再びイノチをチューニューいたします。
タイトルは「海の向こうに」
小学六年の女の子三人の物語です。

お気に召しましたら、毎週日曜にお越しください。


                                  2007/3/18
                                  38=kirin74









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Last updated  2007.03.18 17:35:07
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