2007.05.06
XML
カテゴリ: 我*日記





本当に徒然に書いてみる。

古い友達に、久しぶりに電話した。僕から電話するなんて、本当に珍しいことだ。
彼とは、高校を卒業してからもしょっちゅう会っていたし、お互いに子どもが出来てからも
家族ぐるみだったり、家族抜きだったりで会っていた。
でも、生活が忙しくなるにつれ、僕は次第に、酒に酔った彼の説教くさい長電話が疎ましくなってしまっていた。


僕は、「見た目が変わった人」に興味を持つことが多いらしい。
だけど、それが失敗したことは幸運にもあまりない。
つまり、彼も変わっていた。

高校入学の初日、高校のクラスという異空間の冷たい空気の中(山際の日当たりの悪い教室だった)、僕の斜め前の席に座った彼のスリッパが、変わっていた。アイロンパーマとボンタンという典型的な当時のヤンキーファッション、その足下のスリッパは・・



とマジックで書いてあった。真四角の顔に似合わず、松本(仮名)の部分は極端にかわいい丸文字だった。
どういう経緯かは忘れたが、僕は、いっぺんに彼と友達になった。
仮にここでは、スリッパと呼ぶことにする。

高校の一年目には色々なことがあった。
ある日には、担任の先生が、クラスの不登校の男の子が、結局一度も学校にこないまま、自ら命を絶ったことを告げた。
また、ある日には近所で殺人事件が起き、数週間後、僕も知っている同級生の男子が犯人として警察に連行された。



そんな日々を、僕とスリッパは一緒に過ごした。



バイク通学が許されるほど山奥にある彼の家に泊まりに行き、矢沢永吉のを一緒に聴いた。
(当時の僕は佐野元春が好きだったので、あまりなじめなかった)

初めての彼女が出来たのも同時くらいで、学校の裏山で煙りを立てながらのろけ話を聞かされ、また話した。

スリッパは容姿に似合わず、「本当の意味」で、倫理感が高かった。


いつも、その授業の直前に学校からいなくなった。
仲間と近くのお好み焼き屋でメシソバ(神戸ではソバメシと言うらしい)を食べ、友達の家で麻雀をした(当時の僕は本当の意味でバカだった)。
でも、スリッパは授業をさぼらなかった。
彼が麻雀の誘いに乗るのはいつも休日で、それがまた恐ろしく下手だった。

スリッパの実家に泊まりに行った日、僕は彼のバイクを無免許で運転し、警察に捕まった。

なぜか僕の家に謝りに来た。
三十キロ以上離れた僕の家にわざわざ出向き、僕の両親に頭を下げた。
悪いのは僕なのに。

文化祭に出演した僕のバンドの演奏を、一番感動して聴いてくれたのもスリッパだった。
「本当に良かったわぁ・・・」
何日にもわたって、しみじみと言ってくれた。
そんな彼に、僕は「しつこい」と言ってしまった覚えがある。

スリッパは、今まで僕を傷つけたことは一度もない。
でも僕は時に彼を傷つけたと思う。心ない言葉で。
僕は、彼をあまり大切にしていなかったように思う。
彼は僕の名前を呼ぶのに、僕はいまだに彼の名字を呼んでいる。

「○○(僕の名前)、ヨメさんとは仲良くしよんか? ・・それは言うちぁあいけんでぇ・・」

酒に酔った彼の長電話。
次第によそよそしくなる僕の態度に、二週間に一回あった電話も、一カ月に一回になり、半年に一回になり・・。それでも僕が東京に転勤してからも何度か連絡はくれたのだが、僕は一度も電話をしなかった。
本当は聴いてほしいことがあったのだが、話せなかった。


ここ数日の間に僕は、とてもショックなことがあった。
それは僕の心にだけ届くもので、家族にも、仕事にも、生活にも何の影響もない。
それでも僕は、情けないことにまだ克服できないでいるし、もう少し時間が必要だろう。

ぼんやりするのは危険だと分かりつつ、ぼんやりとソファに座っていた。
何も出来る気がしなかった。


ステレオコンポの裏に、何か落ちているのが目に入る。

おめでとう・・ 幸せになって・・

僕の結婚披露宴で、みんなが贈ってくれた寄せ書きだった。
そして、僕の意識から遠のいていたスリッパは、そんなところにいた。
コンポの裏に落ちた寄せ書きの、わずかにのぞいた部分。




「いつまでも 友達でいよう」




スリッパ独特のあの丸文字で、一言だけ、そう書かれていた。

その言葉は、まるであいつそのものだった。

その言葉を、十数年間読み流し続けていたことを、僕は恥じた。

僕の友達は、きっと、いつでもそばにいた。





久しぶりにスリッパの声を聴いたあと、僕は思う。

彼があの時履いていたあのスリッパは、とっくにゴミに出され、
星のマークも丸文字も、砕かれて、焼かれて、煙りになって・・

それでも、僕の心に鮮明に残っているのは、何と不思議なことだろう。
うざったくも温かい印象とともに。

僕は、それを覚えている限り


これから先何があっても、なんとでもなる気さえするのだ。












-------------PS
こんなに長い記事になるとは思わなかった・・
身勝手な文章、失礼。














お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007.05.07 01:18:04
コメント(6) | コメントを書く
[我*日記] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


昔の友はいいね  
フランク・鰤杜 さん
 こんにちは。フランク・鰤杜です。
 昔の友達の声を聞くのはいいですね。何の利害関係も無い話だ。
 ただ、時間だけが経っていて、あの頃の想い出は忘れることは無い。
 僕は時々、そこが帰る場所だと思うことがあります。
 アディオス (2007.05.07 12:27:45)

Re:昔の友はいいね(05/06)  
kirin74  さん
フランク・鰤杜さん、こんばんは。
「そこが帰る場所と・・」
そうですね。
帰る場所というのは、たくさんあるほうがいいのでしょうが、僕は手のひらが小さく、あまりモノを持てません。。
コメントありがとうございました。
(2007.05.07 21:25:40)

Re:スリッパの星は煙りになっても(05/06)  
knob8  さん
こんばんは。
何年経っても、何十年経っても、
「いつまでも 友達でいよう」
と、思ってくれる人がいてくれる。
幸せなことですよね。

日記を読ませてもらって、
今日会った、そして明日も会うはずだろう、
友達を大切にしよう…と思えました。 (2007.05.08 23:51:30)

Re:スリッパの星は煙りになっても(05/06)  
101匹の羊  さん
僕が仮に70年生きるとして、その時間の中で僕のテリトリーに入ってくる人はおそらく数人だと思う。
あまり近寄りすぎて時には煙ったく思えたりすることもある。
「あ~、こんな面倒くさいのならもうたくさんだ~」と思い疎遠になっても、時間が経つとそいつを思い出す。
きっとこんなことをなんども繰り返しながら、僕は少しずつ年をとっていくのだろう。

70なんて、あっという間に迎えそうだなぁ・・・
(2007.05.09 00:12:21)

Re[1]:スリッパの星は煙りになっても(05/06)  
kirin74  さん
knob8さん、こんばんは。
なかなかできないけどね。
長い時間生きていると、自分の人生の背景になったり、自分が背景になったりする人が出てきますね。
それが誰だかはその時になって分かるものなのでしよう。
knob8さんにももういるはずですよね^^
(2007.05.09 22:28:12)

Re[1]:スリッパの星は煙りになっても(05/06)  
kirin74  さん
101匹の羊さん、こんばんは。
僕もあんまり近すぎるのは苦手なんです。
で、僕の場合は時々自分の生き方ってちょっと間違っているのでは??と思うことがあります。
例えばゴルフを楽しめる人など、環境や立場をそのまま受け入れて楽しんで生きられる人を見ると、自分が子どもに見えてしまう時がありますねぇ。
でも、きっと僕は3歳のころからこんな感じだったのでしょう。三つ子の魂百まで・・^^
コメントありがとうございます。 (2007.05.09 22:38:35)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Calendar

Freepage List

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: