海外旅行紀行・戯言日記

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レッド・ドラゴン



著者トーマス・ハリスの作品では「レッド・ドラゴン」は1981年出版で一番古いのだが、映画化された前二作品での鬼気迫るレクター博士の残虐・冷徹な性格が分かっているので、脇役であるこの作品では反って効果的に全編を支配している。“噛み付き魔”後には“竜”とマスコミに呼ばれた犯人は博士に崇拝の手紙を送りつけるし、捜査を担当する捜査官も犯人像に迫るために博士に助言を求めるのです。
口蓋裂に生まれた犯人は、母に捨てられ、厳格な祖母に虐げられ育てられた。そのことにより心の内に膨らむ悪と、一方盲人女性への愛の葛藤に苦しみながら、“赤い竜”に変身していく様子は将に「現代のフランケンシュタイン」である。

名優ホプキンスと名女優ジョディー・フォスターでアカデミー賞を多数獲得した「羊たちの沈黙」があまりに突出しているが、食人鬼を脇役に退かせたことにより「レッド・ドラゴン」が所謂名画の二番煎じで無く、楽しめそうなことが期待出来そうである。

前作「ハンニバル」は新潮文庫で出版されたが、「レッド・ドラゴン」は1989年に刊行されたものに著者の序文を追加し2002年9月にハヤカワ文庫として出版されている。

桐野夏生氏が「終わり無き夜に生まれつく」と言うあとがきを書いている。三作品とそれらの時代背景を次のように述べています。
1990年代人権、環境破壊、南北問題等に関する公正なる認識が高まっていた。しかし21世紀となった現在、人々は他人を理解することを止めて、個人の小さな楽しみに埋没してしまった様に見える。世界同時多発テロ以降、この世には想像し得ない世界や悪が存在することにようやく気付いたのか。はたまた壊れ行く社会に身を委ね、とりあえず個人の楽しみを優先することにしたのか。20年の長きに亘って、トマス・ハリスは食人鬼レクター博士を書いてきた。レクターが、唯の凶悪犯罪者から名精神学者へ、そして騎士道精神を発揮する当世風ルパンへと変貌しているのも、小説が社会の変化を先取りする優れたメディアであることを思えば至極当然科も知れない。最新作「ハンニバル」では、食人と性の愉楽に船出した。将に他人への興味を無くし、個人の愉悦を優先する現代の社会と良く似ているのである。


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