日常・・・

日常・・・

第一章 【あんた正気かよ!】


特殊部隊本部。高いビルで構成されていて、警備は厳重だ。
十階に位置しているオフィスの一つのパソコンに緊急メールが届いた合図のアラームがなる。
特殊部隊員は自分のデスクを持っている。
夕方になり、訓練が終わるとデスクに戻ってくる。
すると若い男がそのパソコンに近づいて、マウスを動かしクリックをした。
すると、いきなり独り言を言い出した。
「おぉ、嘘だろ。こんなのありか?」
その男がそう呟き椅子に腰掛けると、その若い男よりもすこし年上に見える男が近づいてきた。
髪は長めで、白人。顔もなかなか・・・そこそこ良い。
「なんなんだ、スコット。人が緊急メールを貰ったんだ。それを見に来たのか?」
椅子に腰掛けている男はやってきた男に対し、スコットという言葉を使った。
やってきた男の名前はスコットらしい。
「その通りだ。しかし、内容を見せてくれよ、ネイオ。俺も緊急メールを貰ったんだ」
スコットたる人物は椅子に腰掛けている男に対しネイオという言葉を使った。
珍しい名前である。
この二人は二年前、ある島に行き謎の怪物たちに襲われ命からがら帰還した、幸運とも取れ、不運とも取れる人物たちなのである。
しかもこの二人、特殊部隊入隊の同期生で仲が良いのである。
「内容?あぁ、見てくれ。俺達が島に行ってリッカーに襲われただろ?
その島に飛行機が墜落して、怪物が人を襲ったみたいなんだ。
 飛行機の乗客を救出しに行った二人の警官のうち生きて帰ってきたひとりの警官が話しているらしい」
ネイオは一通り解説をする。スコットがある疑問をぶつける。
「リッカーって・・・あの気味悪い怪物だろ?あれなら俺達が・・・
いや、“俺”が倒しただろうが。それに、俺達が帰って来て、わりとすぐに軍であの島を空襲して焼き払ったんだろ?
なら、あいつが生きているわけが無いじゃないか」
「確かに空襲で焼き払ったが、もう約二年前のことだ。
木々も再生して美しい島に戻っているだろうな。あのリッカーだって、新しく投入されたとしたら?
その可能性もあるだろう?」
あの脅威の島はネイオたちが帰還して五日後、アメリカ空軍により焼き払われた。
それであの島にいるものすべてが失われたと思えた。しかし木々が復活したように怪物も・・・。
ちなみにあの怪物は「怪物」じゃ何かつ分かり辛いので、ネイオが「長い舌だった」と
いったことから「舐める舌」を意味する「リッカー」と名づけられた。
ネイオは解説を終えてふっと、息をついた。
そして、メールの最後の行に書いてあった。
一番嫌なパターン。最も嫌うパターン。二人は目を見合わせ、ため息をついた。

『明日、午後九時、最高司令官室まで来ること』

こういうふうに書いてあったわけである。二人は大きな息を付いた。

日付変更し、訓練も終え、オフィス整理も終え、午後八時にオフィスを出た。
そして建物の中の施設を順に歩き回って時計を見た。
まだ八時三十分。しかし、ネイオは予定より早く行かないと、気が済まないタイプなのですぐに向かう。
すると、部屋の前では別の男が扉にもたれかかっていた。
ネイオは、その男の正体がすぐに分かった。
「や~カプラン、元気か?」
壁にもたれかかっていたのはカプランという男で、あの島からネイオ、スコットと共に生還した人物である。
彼の専門は機械。なので部署が違い、会うことはめったになかった。
「久しぶりだな、ネイオ。・・・あれ、スコットは一緒じゃないのか?」
カプランはネイオより三つ年上かつ一年先輩である。
しかし、一年の入隊の差など関係が無かった。さすがに二十年違うと敬遠もしたりするが。
「スコットは相変わらず遅刻だろ。それより、カプラン、お前も呼ばれたか。
一体あのくそジジイは何を考えているのやら・・・」
あのジジイとはネイオたちを呼び出した張本人、この特殊部隊の中で、最高の権力を持つ最高司令官、ランコアのことである。任務の詳細やメンバー、日程はすべて彼が決める。
その日程などが強引すぎるという事で、部下からは嫌われているが
本人はそれを気にもしていないようで、平然と物事を決めている。
時間まで後五分、ようやく長い廊下の奥から足音が聞こえてきた。
「スコットだな」
ネイオはすぐ分かった。もちろん走ってきたのはスコットであった。
「すまん、今日は新入部員に一日指導でついて回ったんだよ。それでやっと終わってよ・・・まだなのか?」
「まだのようだ。ネイオと俺は三十分前からいる。性格はそう簡単に変わらんな」
「カプラン、お前がどうしてここに・・・呼ばれたのか?何をやらかしたんだ~」
スコットの冗談はよそに、ネイオとカプランは緊張していた。
ランコアのことだ、何を言い出すか分からない。もしかしたら、解雇宣告されるかも・・・。
そんなことを思っているうちに扉脇のイヤホンから音声が聞こえた。
『入れ』
これはランコアの部下の声だな。誰もがそう思った。
「失礼します!」
三人はさっきまでのあの態度はどこへやら、一転して礼儀正しい特殊部隊員に変身した。
三人はソファの前に並ぶ。テーブルの向こうのランコアが手で、座れとサインする。
ネイオはふかふかのソファに腰を下ろした。前回は会議席のように配置していたからパイプ椅子だったけど、今回は三人だ。ソファが堪能できた。
くつろいでいるネイオたちを見ながら、ランコアは厳しい口調でいい出した。
「君達に半年の資格停止と減俸、外出禁止の処分を与える」
―はい?
―解雇宣告ではなく資格停止・・・?
いきなり語りだしたランコア、その言葉はいきなりすぎて三人は呆然とするしかなかった。
「何でですか?理由が分かりません!?」
もちろんカプランは激しい口調で質問する。
「そうです!理由を述べてください!納得が出来ません!」
スコットも便乗する。
ネイオも何か言おうとしたがランコアが先に喋りだした。
「落ち着け。私だって納得はしていないさ」
「だったらなんで・・・?」
「いいから聞け。お前達はあの島で警官は一人と、さらには墜落したイギリス飛行機の乗客乗員が全員死亡した事故を知っているな?」
三人は静かにうなずく。
「その飛行機は墜落当時、少なくとも十数名は無事だったそうだ。
しかし、わが国の警官が二人、現場に行った時、一人が怪物に・・・リッカーだろうな。
だから生き残った乗員達もリッカーにやられたと予想。そしてイギリスの政府が・・・」
そこまでランコアが話したとき、ネイオが言った。
「何故、墜落当時に乗員達が生きていたって分かるんです?」
「あぁ、パイロットから連絡が入ったんだ。今のところ、死亡者はわずかだってな・・・。
それで軍の配置が整うまで、一応二名の警官を派遣して確認作業に当たらせた。
そしたら一人は靴紐が取れたかなんかで先に行った奴が、化け物に襲われたのを見たらしいんだ」
ランコアの説明にネイオは納得する。
「で、本題に戻るとしよう。イギリス政府は島で怪物に襲われた人のぶんの慰謝料を請求してきた。
そして“あの島に行って倒したと報告をしたものの怪物を生存させた偽の情報を流したものを処分せよ”
という・・・訳のわからないことを言ってきたんでね・・・それで・・・」
ネイオたち三人は納得が出来なかった。
あの時船ごと爆発させて怪物、リッカーを巻き込んだ筈だ。
なのに・・・なぜ生存を?
「君達、処分は嫌だろう。イギリス政府は処分を逃れる唯一の方法を言ってきた」
「なんなんです?」
スコットは興味心身だ。
そして、少し希望も見えた。ランコアはその希望を口にした。
「あの島に行って、怪物を完全に抹殺することだ」
三人の考えは希望から絶望に変わった。信じられない。
「あんた・・・」
ネイオは何かを口にする。
「あんた、正気かよ!」
大きめの声でネイオは言った。
「もちろん行かなくてもいい。減俸や資格停止といっても半年だ。
しかし外出禁止だ。これは地下にある施設から出られないということだぞ。
それに・・・リッカーは生存し続ける。また新たなる被害が出る可能性もある・・・」
ネイオはその言葉を聞いたとたん、特殊部隊員の意地とプライドが湧き出てきた。
「よし、行ってやりましょう!」
そのネイオの言葉を聞いたとたん、スコットの口から出たのは
「あんた正気かよ!?」
であった。

ありえない考えではあったが。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: