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日常・・・
<最終節>【逃げるが勝ち】
「中に行くか?」
ロスソンがエンゼルスタジアムを目の前に全員に訊く。
アポーが銃を装填する。
次いでラッセルも。
最後にグリーが装填した。
「よし、行くか」
グリーがロスソンを促した。
ロスソンはひときわ大きな銃を取り出した。
「了解だ、グリー」
一同はエンゼルスタジアムに向けて歩き出した。
トミーとアンソニーが格納庫にたどり着いた。
アンソニーが昇降口を開いた時、トミーに尋ねた。
「本当に・・・助けに行こうっての?」
扉が横にスライドして開く。
トミーは大きなライフルを持ってきた。
「もちろんだ」
そのライフルを肩に被き、そう答える。
アンソニーが顔を青くしてヘリコプターに乗り込んだ。
今度ばかりはクビも覚悟しておかないと・・・
そんなアンソニーを横目に、トミーは冷静な顔でコックピットに入り込んできた。
いつものように淡々と計器類をチェックする。
ただ違うのが、2人でかけ合いをしていないところだ。
シーンと静まり返ってしまっている。
「アンソニー」
唐突にトミーが口を開いた。
アンソニーは雰囲気が雰囲気だけになぜか汗が噴出している。
「・・・なんだ?」
「操縦は任せた」
アンソニーはトミーの普段と変わらない言葉を聞いてしっかりと操縦桿を握れた。
トミーはコックピットを出て輸送機の席の部分に行く。
扉を横にスライドすると、トミーはそこで銃を構え、感触をチェックした。
「よし・・・」
トミーが感触を確かめてそう呟いたとき、輸送機のプロペラが音を立てた。
ロスの4人は目に飛び込んできたものに仰天した。
あのあと、彼らはゲートをくぐり ―もちろんチケットはいらない― 建物内を警戒した後、
直接 ―グッズショップに行くのは帰りでいい― バックネット裏の席に向かった。
そして目にしたのだった・・・。
「何でなんだ・・・」
そう呟いたのはアポーだった。
これを見れば誰だってそう呟きたくなるだろう。
「ああ、神よ・・・」
ラッセルは神に祈った。
強いものもこう呟くのだ。
「ありえない・・・」
ロスソンも顔に銃を寄せた。
「・・・・・・」
グリーは完全に無言になってしまった。
「これは・・・なんでこうなるんだ?」
ラッセルが誰ともなしに呟いた。
しばしの沈黙が続いた。
そしてようやくグリーが声をあげた。
「偶然じゃないっすかね・・・」
エンゼルスタジアムにはゾンビがいた。
想定内だったが想定外だった。
量だ。
いつもの試合の観客動員数と同じくらい入るかもしれない・・・
それくらいの多さのゾンビたちが、グラウンド内を歩き回っていたのだった。
「爆弾をよこせロスソン」
アポーがバックネット裏の観客席に座りながら言った。
もちろん見ているのは試合ではなく、ゾンビたちの大行進である。
しかしロスソンは拒否をした。
「ダメだ・・・すまんが、ここに爆弾を仕掛けると爆破の時に外壁だけ崩れてゾンビたちが逃げ出すかもしれない・・・」
「というか、何でこんなスタジアムに爆弾を仕掛ける前提なんだ?」
グリーがあまり声を出さずに呟く。
「覚えてないか?今後行われる一斉攻撃の先駆けとなる大爆発を起こすためだ。
このスタジアムの爆破と共に、特殊部隊の隊員たちが一斉にロサンゼルスに殴りこんでくるんだ」
ラッセルが解説する。
グリーはようやく思い出せなかった部分が思い出せたようだ。
しかしラッセルは渋い顔をする。
「これはこのゾンビの大群がいると知らずにここを選んだか、本当はこの状況を知っていて、こいつらを瞬殺するために選んだのか・・・」
空白
「迷うところだな」
ラッセルの自説を聞いている間、ロスソン1人頭を下げていた。
そして頭を上げた。
「くそ、いいアイデアが思い浮かばないぞ」
ロスソンが苛立ったような声をあげる。
たしかにこの状況で爆弾を仕掛けるのは難しい。
まずグリーが案を出した。
「スタジアムを四角形とした時の各点のところに爆弾を仕掛ければどうだ?」
しかしアポーが反対する。
「それは内側の破壊が不十分に終わる可能性があるだろ・・・多分無理だ」
すると次はそのアポーが案を出す。
「この爆弾を中に放り投げてしまえばどうだ?そうすれば、安全に設置できるぞ」
しかし、次に反対したのはロスソンだった。
「もちろんその案は考えたがそれも不可能だ。リモコンで爆発させるから、そのためのアンテナを立てなくてはいけない。
そしてアンテナの直立を維持するため、地面に固定しなくてはいけない・・・だからそれは無理だ」
その言葉に一同は下を向いた。
そしてラッセルが口を開く。
「誰かあの中に入るか?」
彼の指は大量のゾンビが屯っているグラウンドに向けられている。
「馬鹿いうなよ、ラッセル」
アポーが笑いながら止める。
「だったら、1番内側に近いグラウンドの外側に爆弾を仕掛けるぞ」
若干、こんがらがる。
ロスソンがいつもの如く整理する。
「分かった。となるとベンチ内とか客席の下のロッカールームとかだな・・・分かった」
そこでグリーが顔を上げた。
「やっぱ4箇所に設置した方がいいよな?となると、1人1人が設置しに行く・・・」
「安全にいくとすれば全員で・・・早々切り上げたい、そして腕に自身があるのなら1人1つ設置・・・ということになる」
ロスソンは頭にある一通りの考えを出す。
そして3人の顔を順次に眺める。
「・・・早く帰りたいし、内部にゾンビは居なかったから・・・1人ずつでいいんじゃないか」
グリーが頭にあるのを出した。
4人は顔を見合わせる。
「よし、最速の案だな!」
ロスソンが括った。
「よし、皆、爆弾を持ったか?」
ロスソンがティッシュ箱ほどの大きさの直方体の爆弾を抱えて問う。
3人も同じように背中に被いている。
ロスソンはそれを見て言い始めた。
「よし、さっき言った通りの場所に仕掛けてくるんだ。グリーはライトのポール、アポーがレフトのポール。
ラッセルが三塁側の関係者通路。で、俺が一塁側ベンチ・・・いいか?」
頼んだ、という風に全員を見つめた。
もちろん3人から帰ってきた答えは、
「了解」
であった。
まだ薄暗いロスの空の下、エンゼルスタジアムはゾンビで溢れ返っていた。
そしてスタンドを生きた人間が歩くとなれば、ゾンビ共の視線はそちら側に向いた。
グリーはそんなゾンビたちの視線を浴びながらライト側のフェアとファールを仕切るポールにむかっていた。
――ポールはホームランかファールを分けるという重大な役目を果たす。
グリーは向こう側―レフト側―にいるアポーを見た。
グラウンドの向こう側なので、やけに小さく見えてしまう。
グリーは耳の通信機のスイッチを入れた。
「アポー、見てるぞ。おどおどしてるな」
グリーは笑いながら言った。
アポーもそれに返信してくる。
『こっちから見ている限り、お前も十分怖がっているな』
向こう側にいるアポーが笑いながら手を振るので、負けじとやり返す。
「今にもゾンビが登ってくるんじゃないか?お前はうまそうだしな」
とても任務中に吐き出す台詞ではない。
ついにプライベートに戻ったようだ。
アポーが返信する前に、別の男の声が耳に入った。
『お前達』
ラッセルだ。
『会話が筒抜けだ。早いとこ、爆弾を設置しろ』
筒抜け?
となると、この無線で話していたことは、ロスソンにも聞こえているのだ。
ラッセルのストレスを倍にしているとしか言いようが無い。
「すまないな」
グリーは心でロスソンにも詫びながら、アポーをチラッと見て無線をきった。
もちろんロスソンは聞いていた。
無線から流れてくる、ふざけた男の会話に一瞬、文字通りうなだれた。
(何やってるんだ・・・)
と思いつつ普通なら選手しか通れないような通路を歩いていた。
もちろん銃を持って警戒している。
その時、耳の無線に第3の男の声が割って入った。
―これで2人は安心できるな。
しかし、ロスソン本人は安心できる状況には置かれなかった。
ロスソンは「1塁側ベンチ」と書かれた扉を見つけた。
サブマシンガンを握る手に力が入る。
「・・・ふう」
大きく息を吸い込んで、取っ手に手をかけた。
扉をスライドした瞬間、向こう側から手が伸びてきた。
ロスソンが一瞬にして、通路の壁に叩きつけられる。
中からはもちろん、血に飢えたゾンビ共が飛び出してきた。
「くそ!!」
先頭のゾンビを右足で蹴り上げて倒すと、後続のゾンビをマシンガンで撃ち殺した。
しかし、中からは文字通りゾンビが溢れてきた。
ロスソンはマシンガンに持ち代えると通路を後退し始めた。
狭い通路なので、ゾンビたちの狙いは簡単についた。
しかし、問題は数だった。
倒しても倒しても数は変わらない。
「くそ!」
ロスソンは腰から手榴弾を取り出すと、今は離れてしまった先ほどの扉の方向目掛けて投げた。
投げた瞬間、自分は角を曲がった。
そして大きな爆発音が狭い通路に響き渡った。
それと同時に、大量のゾンビたちが根から吹き飛ばされる。
(これで少しは時間が稼げるはずだ・・・)
ロスソンは曲がった後の通路を少し走った。
そして、そこで爆弾を設置し始めた。
背中から爆弾を下ろすと、下部にくいを打ち込めるところがあるので、機械でそれを埋め込む。
通路がかなり暗いので慎重に作業を行う。
下が一般的な「タイル」なので効果は信用できなかったが、しっかりと固定できた。
全てのくいを打ち終わった瞬間、曲がった角からゾンビが顔を覗かせた。
もちろんロスソンを見つけ一目散にむかってきた。
ロスソンは走りながらマシンガンを連射する。
先頭のゾンビと、2番手のゾンビの頭にしっかりと撃ち込んだ。
3番手のゾンビは腹に銃弾を撃ち込んだ。
そしてロスソンの設置した爆弾を、ゾンビたちは悠々と越えた。
それを見てロスソンは無線機に向けて叫んだ。
設置完了
「やった!設置完了した!そっちはどうだ!?」
しばらくしてアポーの緊迫した声が返ってきた。
『ロスソン!大丈夫か!?』
「こっちは大丈夫だ!・・・いや追われている!」
『だろうと思ったんだ。ゾンビが一斉に1塁ベンチの中に入ったと思ったら急にドカン!・・・
何があったと思ったら・・・。よし無事なんだな?今何処か分かるか?』
ロスソンがアポーの問いに少し歩を遅めた。
手がかりになるようなものを探す。
しかし、そこは廊下だ。
何にも看板も無い。
扉がたくさんあるが、どこに繋がっているか分からない。
(球場はややこしいな・・・)
すると、目の前の通路が見えた。
ついに関係者通路が終わったようで、一般客の通るような通路が見えた。
正面にはグッズショップとある。
「アポー、場所が分かった。1塁側の客席入り口に当たるところだ。その通路に出たらスタンドに上がる。
ゾンビの状況を報告するんだ。減ったか?さっきより」
すると、間をおいて今度はグリーが返事をした。
『ラッセルがスタンドに上がってきてゾンビを掃除してる。それに1塁ベンチに入ったゾンビもいなくなったから、
さっきよりかなり数は減った。まぁ、そっちの具合によっちゃ減ったとはいえないけど』
グリーの嫌味とも取れる発言を聞いてロスソンは振り返った。
かなりの数のゾンビがロスソンにまとわりついて追ってきている。
「あまり減っちゃいないな・・・よしグリー、今からむかう」
ロスソンはそう言って、一般客通路に出たと同時に無線をきった。
次にスタンドに上がる階段を探す。
ゾンビに追いつかれるとスタンドに上がられるのでダッシュで探した。
マシンガンを片手に持ち、その通路を上がろうと階段に脚をかけた。
その時、ロスソンは見てはいけないものを見てしまった。
リッカーがスタジアム内をのっしりのっしり巡回している・・・
「やばい・・・」
言葉にならないほどの声を発し、先ほどよりも急ぎ足でスタンドに上がる階段を上がった。
しかし、不運なことにそれを目撃された。
リッカーに。
リッカーはロスソン目掛けて、数十メートル向こうにいたのを、すぐにかけてきたのだ。
「やばい!!」
そのリッカーは水路内で戦ったリッカーよりはるかに大きい、大型車くらいの大きさのリッカーだ。
人間1人じゃとても勝てない・・・
ロスソンはシャッターのスイッチを押した。
階段と通路の境目に金属製で、網目状のシャッターが下りてきた。
かなりゆっくりと。
ロスソンがシャッターのボタンを連打するが、早くなるわけではない。
ロスソンは時間を神にゆだね急いで階段を駆け上がった。
リッカーの視線が完全にロスソンを捉えて、飛びかかろうとした瞬間、やけにゆっくり降りていたシャッターが閉じた。
シャッターが閉じる音を聞いてロスソンはひっそりと確認に来た。
すると金網のシャッターの向こうに頭をぶつけたリッカーが座っているではないか。
ロスソンはそれを見て急に滑稽になった。
「ふっ、残念だったな。後数秒ってところかな」
しかし、その嫌味にリッカーが反応して、シャッターに猛烈な体当たりを食らわせた。
「カシャーン!」と金属が響く音がロスソンの耳を揺さぶった。
次に響いたのは銃撃音だった。
ロスソンの銃から無数の弾が連続的に発射される。
弾は体当たりするリッカーの腹に命中した。
しかし、ロスソンは攻撃をやめなかった。
リッカーがそれくらいで死ぬような奴ではないと知っているからだ。
しかし、先手を打ったのはリッカーだった。
すぐさま起き上がり、鉄製のフェンスに体あたりを再開する。
「くそ・・・」
ロスソンはしばらく考えた。
時間の問題である・・・
そして顔を上げた。
出した考えは・・・逃げるが勝ち。
ロスソンは階段を一気に駆け上がった。
ラッセルはスタンドの最前列まで下りて、フェンス越しにグラウンドにいるゾンビの頭を撃っていた。
グリーとアポーも上段からポータブルランチャーでゾンビ共を葬っていた。
「気持ちがいいのか悪いのか・・・どっちなんだろうな!」
また一発発射しながらアポーが呟いた。
発射されたミサイルは1体のゾンビにもろに命中した。
グリーはラッセルのところまでスタンドを駆け下りた。
「ラッセル、これじゃきりがない。ロスソンを迎えに行くぞ」
ラッセルが銃撃をやめた。
言葉が耳に入ったようだ。
「たしかにきりがないな!・・・よし、アポーに言って、ロスソンを迎えにいくぞ」
グリーはOKサインを出すと、薄暗い空を見上げた。
だいぶ空も明るくなってきた。
そしてアポーを迎えに行こうと上へ上がったとき、すぐそこの階段からロスソンが駆け上がってきた。
「ロスソン、大丈夫か?」
グリーがすかさず声をかける。
しかし、ロスソンは緊迫した表情でグリーを見つめた。
「・・・この階段の上り口にリッカーがいる。今にも突破されそうだ。早く逃げ―」
その時、ロスソンのやって来た階段からリッカーが飛び出してきた。
グリー、アポー、ロスソン、ラッセルが一斉にそいつに目が止まる。
一瞬の時間が止まったような時が過ぎた。
「伏せろ!!」
リッカーがすぐに飛び掛ってきたのだ。
ロスソンとグリーは何とか交わしたが、その下にいるラッセルに衝突した。
ラッセルは勢いで高々と舞い上がり、グラウンドに着地した。
「ラッセル!!」
グリーが投げ出されたラッセルに目をやった。
すると、ラッセルは意外と早く起き上がった。
無事のようだ。
3人は胸をほっとさせたが、そうしてはいられなかった。
リッカーの今度の狙いは3人だった。
「くそ!!」
アポーがポータブルランチャーをリッカーにむかって発射した。
そして次の瞬間にはリッカーの首元から血が飛び散っていた。
リッカーが一瞬ひるむ。
しかし、一瞬だ。
今度は思いだしたかのようにアポーの方に向かってダッシュをはじめた。
「やばい・・・」
アポーはランチャーをすてて逃げ出した。
「くそやろう」
今度はグリーがポータブルランチャーを取り出す。
「狙うんだぞ」
ロスソンが脇で突っ立ったままアドバイスする。
「分かってる・・・」
そういった瞬間、グリーのランチャーからミサイルが発射された。
しかし、これが手前の席に当たる部分に命中した。
「アホか!」
アポーが必死で逃げながら叫んだ。
グリーは慌てて装填する。
ロスソンはマシンガンで反撃開始・・・しようと銃を装填した―
直後、何かが何かを噛み千切る音が聞こえた。
グリーとロスソンは頭を上げた。
リッカーがアポーを咥えて立っていたのだ。
「嘘だろ・・・」
ロスソンが銃を持ったまま呟く。
リッカーはアポーの骸を咥えて上を向くと、ゆっくり飲み込む・・・その時、ロスソンの横の男が銃撃を開始した。
言わずとも、グリーである
親友をリッカーに殺されたのだ。
「うおおおおおお!!!!」
特攻さながらの叫び声をあげている。
「馬鹿!!戻れグリー!くそ!」
ロスソンがグリーに叫ぶが、聞こえていないようである。
グリーはマシンガンを連射し、どんどんリッカーとの距離を縮めた。
大きなリッカーは若干ひるんで、少しずつ後ずさりしている。
しかし、ふいにリッカーが弾丸に耐えだし、足を止めた。
そしてグリーはリッカーまで5mほどになったとき、初めて気付いた。
立ち止まったリッカーが片腕を振り上げ、グリーを振り払おうと構えていた。
「・・・」
グリーは無言で立ち尽くした。
まるで早く殺せ、といわんばかりであった。
そしてようやく口を開いた。
「・・・殺せ」
その言葉に反応し、リッカーは腕を振り下ろした。
しかし、グリーの目前に来た瞬間、グリーは姿を消した。
「う!・・・・・」
グリーはロスソンに倒されていた。
ちょうどリッカーに死角になる席の下に、ロスソンはグリーと共に入り込んだ。
「何をするんだ!?」
狭いスペースでグリーはロスソンに怒鳴った。
しかしロスソンは動じなかった。
「それはこっちの台詞だ!」
ロスソンがグリーに問い返す。
「あいつアポーを殺した!・・・アポーが殺された!・・・」
グリーが凹凸を繰り返す。
「だから殺そうと特攻したのか!?そこまでは分かった!では、何故リッカーに殺せと命じた!?」
ロスソンが半ば興奮気味に尋ねる。
すると、グリーはだんまりを通した。
ロスソンが呆れ気味に切り出した。
「アポーを失った悲しみはよく分かる・・・だが、その後追いはダメだぞ!・・・俺らの目的は、あいつを倒すことでもある。
アポーの後追いなら、立派に戦ってからだ。もしあの世でアポーに会った時、リッカーを倒したと報告したいだろ。
まずはあいつを倒す・・・それが無理なら最低限生きることだ!・・・分かったな・・・グリー・・・」
ロスソンが気まずい空気にする・・・
が、グリーは元気になっていた。
単純というか、ロスソンマジックである。
「分かった。あいつを倒す・・・それでいいんだな?」
「そのとおりだ」
「でもラッセルはどうする?それに、作戦がないとダメだ・・・」
ロスソンは頭を上げた。
今回は作戦がある。
「これを使うんだ・・・爆弾のリモコン・・・俺はハンディースからいざという時のために設置する爆弾のリモコンを預かった。
グリーが設置した爆弾が2、アポーが4、俺のが1、ラッセルが設置したのが3番だ・・・
今回はアポーが設置した4番ってところだな・・・」
「分かったよロスソン・・・爆弾はリモコン爆破が出来たんだな・・・で、これを爆破するのか?危険だぞ」
ロスソンは大きく息をついた。
「一か八か・・・かけるのさ」
そのときラッセルも窮地に立たされていた。
ゾンビが戯れるグラウンド内に投げ出されたのだ。
ピンチも当然だ。
すぐに銃を拾い上げると、周りのゾンビをとっとと払いのけて、銃撃を開始した。
しかし<生きた獲物が入ってきた>という情報を聞きつければゾンビたちはいくらでもやってくる。
ラッセルの16方位は完全にゾンビで埋め尽くされていた。
が、それを何事も無いような戦闘技術で切り抜けるのがラッセルである。
まず右手のナイフで4分の1のゾンビを切り殺し、左手の軽マシンガンでさらに減らす。
マシンガンの弾が尽きるとそれを投げ捨て、開いた左手でゾンビの首に回り込み右手で刺す。
そのままゾンビを投げ捨て、前のゾンビを後退させたあと、後ろにいるゾンビはとび蹴りで首をへし折った。
そして新たなマシンガンを連射し始める。
そのように独特で、確実な戦法をラッセルは好んだ。
一通り戦闘が終わると、自分の周りのゾンビは倒れている・・・ラッセルは得意げに鼻を鳴らした。
そんな彼も、アポーの死をその戦闘中に見ていた。
そしてそれに向かうグリーも確認し、ロスソンがそれを押さえ込むのも見ていた。
しかし、これから行われる捨て身の作戦は、さすがのラッセルも考えていなかった。
ラッセルがゾンビを圧倒している時、スタンドの上ではグリーとロスソンが話し合っていた。
スタンドといっても、その中にある座席の下である。
「これは運よく行くか分からない・・・タイミングだ・・・俺を信じるんだぞ、グリー」
ロスソンがグリーに話しかける。
あの作戦のことだ。
「最後に言っておくぞ、グリー」
ロスソンが寝そべりながらグリーに言う。
グリーが耳を傾ける。
「逃げるが勝ち・・・だ」
「分かってる・・・」
その次の瞬間、グラウンド内のラッセルに狙いをつけていたリッカーの横を、グリーが走り去った。
リッカーの目にはグリーしかなくなった。
「なっ、馬鹿やろう!!」
グラウンドのラッセルがそれを見つけ、リッカーに狙いをつける。
「やめろ、ラッセル!」
しかし、席の下から這い出してきたロスソンに止められる。
ラッセルはもう一度、リッカーに追いかけられるグリーに目をやった。
振り返ってポータブルランチャーをリッカーの足に放っている。
それに一瞬ひるむリッカー。
もうダメだ。
「あれが作戦か!?多分死ぬぞ!」
ラッセルが珍しく冷静さを失い、ロスソンに怒鳴る。
しかし、ロスソンは危険をかえりみずスタンドからグラウンドにジャンプして、着地した。
「馬鹿、くるな・・・」
ラッセルがロスソンの近くのゾンビを一掃する。
ロスソンは一掃が終わると元へ急いだ。
「ラッセル、作戦を聞け・・・」
野球場のスタンドは走りづらい。
所狭しと椅子が並んでいて、段にもなっている。
その椅子の上をグリーは走っていて、それをリッカーが追う。
「こっちへ来い!!」
グリーはリッカーを招くように走った。
リッカーも走りづらいようで、いつものスピードの半分くらいしか出ていない。
幸運だろう・・・
いや、これもロスソンの作戦のうちだった。
でかいリッカーは席と席の隙間は走りづらいだろうと。
グリーは椅子の上を走っているので、隙間を走るより十分走りやすかった。
そのグリーが向かっているのはレフトスタンドのポールである。
そこにはアポーが設置した爆弾がある。
グリーはついにそれを捉えた。
「見えたぞ・・・」
グリーはその爆弾の上に立って、そしてフェンスを飛び越えてグラウンドに飛び出した。
グリーがグラウンドに着地した瞬間、リッカーもその爆弾の上に立った。
そして飛び越えようと足に力を入れた。
瞬間
その足にミサイルが命中した。
遠くからロスソンとラッセルが同時に放ったものだ。
そしてリッカーがうずくまる。
さすがに効いているようだ。
そして何より幸運なことは・・・
爆弾の真上に座っているということ
グリーはリッカーから逃げた。
しかしこれは自殺を免れるための行為である。
「グリー!早いとこするんだ!!」
ロスソンが大声で叫んでいる。
ラッセルはゾンビ掃除に専門している。
そしてグリーは振り返った。
「さらばだウイルス!!」
グリーはポケットから先ほど、ラッセルから借りたものを取り出した。
起爆装置。
そのスイッチを押した。
一瞬時は止まり、次の瞬間にはリッカーの下からものすごい爆風が吹き荒れ、一瞬炎も上がった。
グリーもその衝撃で吹き飛ばされた・・・
いわゆる、爆発である。
グリーが起き上がったとき見たのは、目の前でラッセルとロスソンがゾンビと戦っているところだった。
そして辺りを見回す。
空もやっとオレンジ色が見えてきた時間帯であった。
「グリー!」
ロスソンが駆け寄ってくる。
「大丈夫か?」
グリーの手を掴むと、ロスソンは強引に立たせた。
「リッカーは・・・死んだのか?」
「ああ・・・」
ロスソンが肯定的に頷く。
「よし、後はゾンビ共を抹殺するだけだな」
グリーは根気よく銃を取り出した、
しかしロスソンは浮かない顔のままであった。
「どうした?」
グリーが尋ねる。
「お前は・・・もしこのゾンビ共を全滅させた時・・・どうやって帰るんだ・・・」
いわれてはっとした。
長距離通信機はハンディースしかもっていなかったのだ。
もしここでゾンビを全て倒したとしても、迎えは来ない。
つまり、永遠にここにいるというわけだ。
「そうだった・・・」
グリーはうなだれた。
希望が何もなくなってしまったのだ。
帰れない。
ラッセルも銃を連射してゾンビを殺しているが、内心ではかなり厳しい想いをしているに違いない。
「大丈夫だグリー・・・」
ロスソンがグリーの肩を叩く。
「必ず救助は来るさ」
神に聞こえたのか。
オレンジの光が・・・朝日がスタジアムを、グリーを、ロスソンを、ラッセルを、ゾンビ共を照らした。
それをバックに受け、1台のヘリコプターがスタジアム上空に現れた。
「おい!ロスソン!ヘリだ!救助がきたぞ!!」
ラッセルが叫んだ。
グリーとロスソンが同時に上を向く。
ヘリコプターからは聞いたことのある声が響いた。
「脇にどくんだ!!」
次の瞬間、ヘリコプターの輸送席に座っているトミーが目に入った。
そしてトミーの手に握られている銃から、大きな弾が連射された。
次々にゾンビは倒れていく。
そしてアンソニーの操縦はトミーの銃撃を更に際立たせた。
「救援に来てやったぞ!感謝するんだな!!」
笑いながらヘリコプターの機内からスピーカーを使ってアンソニーが喋る。
そして円を描くように最後は期待が回転し、それにあわせトミーが銃撃をする。
すると、ゾンビが一部だけいなくなってうまい具合にヘリポートが出来た。
「ありがとよ」
ラッセルが小声で感謝の言葉を述べた。
そしてついに、ヘリコプターは着陸した。
トミーが迎える。
「生き残ったのは・・・3人だけか?」
プロペラの回転音に負けない声で、トミーが尋ねる。
そしてロスソンが小さく頷いた。
しかしゆっくりしているとゾンビに囲まれて動けなくなるのは事実である。
「よし、ラッセル、グリー、乗るんだ」
ロスソンがトミーの横で手招きする。
グリーが倒れるように乗り込み、ラッセルは最後までゾンビを撃ち続けていた。
「よし、乗り込んだな!アンソニー!逃げるぞ!!」
トミーが離陸前に言った言葉。
ここでもやっぱり
「逃げるが勝ちだぞ!!」
であった。
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