2002/04/09
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 意外だったのは、「楢山節考」を怖い小説だと思っている読者の存在である。それも少なくはないらしい。深沢はそんなことを言われるのは嫌だったけれど、そんなことを言う人は多かったらしい。私は怖いというか、確かに恐怖は感じたけれど、悲鳴をあげて震えるような恐怖ではなくて、「それほど文学に親しんできたわけでもない、ギター弾きの人が、こんなにすごい小説を書いてしまったのでは、文壇の人達なんてみんな死んでしまうんじゃないか」というような恐怖であった。
 深沢は丸尾長顕という人に小説を書けと勧められて書いた時、自分では書いたものが良いかは分からなかったらしい。それを中央公論の賞に出せと言った丸尾という人と、「官能小説家」の半井桃水と樋口一葉の話じゃないけど、「もし二人が出会ってなかったら」を思うとそれも怖い。
 私は深沢七郎は大好きだが、正宗白鳥の本は読んだことがない。けれどもこの日記に出てくる正宗白鳥は好きである。他にも石原慎太郎や石坂洋次郎や武田秦淳や伊藤整や井伏鱒二も出てくるが、やっぱり正宗白鳥が一番可愛い。
 小説に影響を受けて人を殺すやつは馬鹿である。小説の中で殺された人の復讐を現実でするやつも馬鹿である。小説に天皇が出てきたというだけで不敬というやつも馬鹿である。小説の中で天皇の首が転がったからといってそれを書いた人を脅迫するやつは馬鹿である。それを載せた出版社の社長を殺すやつも馬鹿である。そのような特別な事情があるということだけで「風流夢譚」という小説を過大評価するやつも馬鹿である。
 深沢七郎の位置付けというのは、宮澤賢治に近いところであると思う。ともすれば内輪にしか受けないような、分かりにくい言葉で分かりにくい事柄を書いてばかりしてしまう文学なんていう小さなジャンルを簡単にぶち壊す作品であった「楢山節考」は、病床の老婆に「七郎さん、早く私を楢山へ連れてって」と言われるほど大衆にも影響力を持った。文壇という狭い場所から離れたのは正解かもしれない。しかしそれは人を殺す馬鹿から逃げるためでもあった。人を殺す馬鹿に殺されないため深沢七郎は細々としか作品を発表出来なくなった。本人はもともと農場の方が好きだったかもしれないが、多くの、彼によって書かれる可能性のあった物語が殺されてしまったのは、世界にとって大きな損失である。

深沢七郎「言わなければ良かったのに日記」(中公文庫)





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Last updated  2002/04/10 09:34:10 PM
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