2002/04/24
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 完全に中立の立場であることは可能であるか。

 白か、黒か。右か左か。有か無か。あれかこれか。どちらか一つを選べ。選ばなければ殺す。しかも沈黙していることはならぬといわれて、どちらも選びたくなかった場合、どういって切りぬけたらよいかという問題である。二つの椅子があってどちらかにすわるがいい。どちらにすわってもいいが、二つの椅子のあいだにたつことはならぬというわけである。しかも相手は二つの椅子があるとほのめかしてはいるけれど、はじめから一つの椅子にすわることしか期待していない気配であって、もう一つの椅子を選んだらとたんに『シャアパ(殺せ)!』、『ターパ(打て)!』、『タータオ(打倒)!』と叫びだすとわかっている。こんな場合にどちらの椅子にもすわらずに、しかも少くともその場だけは相手を満足させる返答をしてまぬがれるとしたら、どんな返答をしたらいいのだろうか。
                 開高健「玉、砕ける」より

というほどではないにしろ、私達は普段から対称的な物事に対して概ね二つに分けられると言っていい態度をとっており、また、単純に分別されるものではない、芸術と呼ばれるものらに対しては、好みの問題という曖昧な判断基準しか持たない。ならば完璧な中立とは、何も選ばず、何も好まずという、非人間的なものとなることか。それは私には出来ない。
 誰でもいい、ある作家Aをある人間Bがひどく嫌っているとしよう。その作者の、作品の悪いところを、彼が嫌う理由を、彼がどれほど嫌いかを、別の人間Cに語るとしよう。CはAに関しては全く無知であるとしよう。Cの中に蓄積されるのは、いかにAが酷いやつであるかということではなくて、どんなものを書いてるか知らない作家の悪口を延々と語る目の前の人間Bへの嫌悪感である。C自身もAを嫌っていれば問題はないかもしれない。あるいは好きであったら反論も出来るかもしれない。しかし知らなければAへの判断はBの話を基準とするしかその場では出来ず、CはAに関しては中立の立場であるのだから、むしろBへの嫌悪感からAに同情、Bと同類の者への嫌悪感を育むこととなりかねない。
 何かを貶めるという行為は、結局行為者を自身を貶めることにもなってしまう。
 戦後短篇小説再発見シリーズ三冊目。結局、この程度の枚数の短篇一篇読んだところで、一人の作家の全てを判断した気になることは不可能である。

・田中英光「少女」
・林房雄「四つの文学(或る自殺者)」

・野間宏「立つ男たち」
・埴谷雄高「深淵」
・倉橋由美子「死んだ眼」
・井上光晴「ぺぃう゛ぉん上等兵」
・古井由吉「先導獣の話」
・金石範「虚夢譚」
・高橋和巳「革命の化石」
・開高健「玉、砕ける」
・桐山襲「リトゥル・ペク」


 埴谷雄高・古井由吉に関しては、面白いことは元々知っている。だが、こうしてアンソロジー中の一編として読むには申し分ないが、長編小説に手を出すのは、少し面倒な気分になるので、まだ手を出せないでいる。
 高橋和己にはもっといい短篇がある。毛色を変えたものを取り入れたかったのは分かるが、それは高橋和己でやることじゃあない。

戦後短篇小説再発見〈9〉政治と革命(講談社文芸文庫)





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Last updated  2002/04/24 09:34:06 PM
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