2003/03/03
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 短篇集。『無妙記』『妖術的過去』『女形』『因果物語』『小さなロマンス』『妖木犬山椒』『村正の兄弟』『戯曲 楢山節考』。
『妖術的過去』『因果物語-巷説・武田信玄』は以前読んだことがあるので飛ばした。この中で『無妙記』一番を『無妙記』あげるなら『無妙記』やはり『無妙記』になる。六十歳をすぎた神経痛持ちの骨董品露天商の男が隣室の若い大学生の男の未来を想像する。やがて自分と同じような老人に、そして死んで骨に、白骨になる、と思った時から登場人物が白骨になり、視点が老人から離れても白骨たちが京都の町で話し、動き、生き始める。


 腕の神経痛の男はアパートを出た。西大路の大通りに出ると目の前を一台の霊柩車が走っているのが目に映った。金閣寺の裏の火葬場へ行く市外を乗せて走っているのだが、その運ばれている死骸も間もなく白骨になるのである。霊柩車のあとからタクシーが二台つづいて走っていて、中にいる喪服を着た会葬者たちは、何年か、何十年かたてば白骨になるのである。だから、いま霊柩車で運ばれている死骸とはわずかの別れだが、別れを惜しんで憂いに沈んだ顔をして乗っているのだった。腕の神経痛の男は銀閣寺、百万偏行の市電へ乗った。
 電車の中には白骨たちがいっぱい詰って乗っていた。これから映画を見に行く白骨たちや、夕食の買物に行く白骨たちや
(わたしの来ているお召の着物や西陣帯はなんと美しいことだろう)
 と思いながら乗っている白骨たちが顔を合わせたり、電車がゆれて顔が触れそうになったりするがお互いに黙り込んでいた。


 神経痛の男は、金を貸した若い男に逆上されて刺される前に、その傷が原因で死んでしまうことを先に書かれてしまう。実際には若い男の母親が借金の算段をしてどうにかなりそうなところで話は終わっているのに。「白骨の母親は」「母親の白骨は」と、借金男の母親の白骨は強調されているが、神経痛の男と借金男の前に「白骨の」とつくことはない。神経痛の男がやがて死ぬことははっきりと書かれているのに。あまり深い意味はないかもしれないが、若い男は近いうちに死ぬわけではないから白骨ではない、人を殺そうとするような奴は今白骨のようであるわけがない、生きているのに白骨に見えるような者達と並べたら白骨にしてしまうわけにはいかない、だから、白骨ではない者に刺される神経痛の男は刺されるための肉を持っていなければならない、ということかもしれない。しかし数年後病気で死ぬ母親だって肉あってこその病気なのだけれど・・・。
 楢山節考は小説の方がいい。

深沢七郎「妖木犬山椒」(中公文庫 この本は現在お取り扱いできません)





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Last updated  2003/03/03 10:10:19 PM
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