2004/11/15
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カテゴリ: 詩集感想
 というわけで川崎洋をまとめて読んでみた。これまでも結構触れてはいたのだ。ただ意識の上の方に上っていなかっただけで。亡くなってからしかその人に気付かないなんてあまりに寂しい。意識して見れば毎日のように訃報欄で文筆家が死んでいく。知らない人の名前の下に時折聞いたことのある作品名がある。やがて忘れる。


  こもりうた

あかんぼは
うすめをあけて
うわめづかいなど
するもんじゃない
ねむりなさい
ここはおやじとおふくろに
いっさいをまかせて
わるいやつがきたら
とうさんとかあさんが
ちゃんとしまつをつけてやるから
ねむりなさい
すこしぐらいいびきかいたって
やっときこえるぐらいの
いびきなんだから
えんりょするこたない
ねむりなさい


 ベビーカーを押す母とその母か、姑かが何事か言い争っている。心配そうな眼差しで赤子が見上げると婆は「大丈夫よ~」と優しい声を赤子にかけた。その時の赤子の目が可笑しいと言っては悪いのだが、とても赤子とは思えない深淵な悩みを抱えた壮年の人の眼に見えた。この詩を読んだのはその風景に出会う前。


  海で

今年の夏 ついこのあいだ
宮崎の海で 以下のことに出逢いました
浜辺で
若者が二人空びんに海の水を詰めているのです
何をしているのかと問うたらば
二人が云うに
ぼくら生まれて初めて海を見た
海は昼も夜も揺れているのは驚くべきことだ
だからこの海の水を
びんに入れて持ち帰り
盥にあけて
水が終日揺れるさまを眺めようと思う
と云うのです
やがて いい土産ができた と
二人は口笛をふきながら
暮れかける浜から立ち去りました
夕食の折
ぼくは変に感激してその話を
宿の人に話したら
あなたもかつがれたのかね
あの二人は
近所の猟師の息子だよ
と云われたのです


 という話も川崎洋が作り上げたもの、というオチも続くかもしれない。死んだ者の名が「大きな舟」という名なら、名を告ぐものが産まれるまで、または死の悲しみが薄れるまで、大きな舟そのものは違う名で、たとえば「多人数乗れる海を横切る乗り物」という風に呼び換えなければならない、という話を思い出した。あまり関係なく。小説ではなくエスキモーの風習。今もあるかは知らない。
 新聞や週刊誌の見出しをコラージュして作った詩がある。たまに面白い組み合わせもあるが、全体としてはとても評価出来るものではない。幸い収録作は少ない。


朝からコップ酒の
高校生活
一日に十六時間寝ていた

コラージュ詩『履歴書』より


 詩人の発見とその発見を発見していなかったことの告白。

 にじ

にじが かかると
みんな空をふり仰ぐ
そのとき
はんたいがわの空に
すらりと
白一色の にじが でる
のを
だれも知らない
わたしも
知らない


  花と魚の関係

はなは
はなやで
はなひらくけど
さかなは
さかなやで
さかない


 解説日野啓三。故人の名が続くと気持ちは暗くなるのに、読み直した川崎洋の詩のほとんどは無邪気な顔。今年川崎洋、去年日野啓三・・・と錯覚で時を縮めて故人たちを近づけようとした。


中央公論社 1983年





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Last updated  2004/11/15 02:46:07 AM
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