2005/01/03
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カテゴリ: 国内小説感想
 両腕を奇妙に折り曲げて頭の上で組む男か女かよく分からない人物の表紙を見ながら、はてこの本の中身はどんなものだったか、思い出せず困惑した。浮かんでくる部分部分は別の松浦作品からのものだった。題名通り幽(かそ)けき物語だった気はするが、だからといって数年前に読んだものではない、思い出せないことに首を傾げた。本を開いてようやく四編の、それぞれ繋がらない物語が収められていたと気が付く。本を開けば思い出せるのに、表紙を眺めているうちにまた物語があやふやになり輪郭を失いだす。男の目か、腕か、「幽」という文字か、何もかもか。この作者はいつも装丁に凝る。時には中の文章よりよほど本の内容を表している時もある。装丁が、時に物足りなく感じることもある作者の文章を充分に補っているどころか、陵駕している時さえある。最新刊『そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所』の装丁も良い。
 二編目の『ふるえる水滴の奏でるカデンツァ』を読んでる最中たまらなく欲情したのを覚えている。バンコックのホテルで駆け落ち旅行のような生活を送る主人公と片腕のない女のやりとりが異様に生々しく感じたためだ。これを読んだ頃にはまだ、津波にタイは襲われていなかった。




『幽』より


 生きてるのか死んでるのか分からない友人に偶然留守居を託された、ちょうど落ち着ける家を探していた病み上がりの男。その家は上記のように夢うつつの中にあるように虚ろで、それでいて主人公には優しい。他の住人も生きているか死んでいるか分からない。自分の生死も朧になり、しまいには「みんな死んだ」と結論づける。その後も生きているものはいるのだが。「生」と「性」がかかってもいたのか。書いてることが自分でもよく分からないが、それでもやっぱり『幽』が一番良かった。


講談社 1999年





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Last updated  2012/04/06 04:31:36 AM
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