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いらっしゃいませ。こえめです![]()
人間界にお忍びでやってきた、魔法界の王女カーラ。
さぁ、どんなことが起きるの?
【カーラ4】
カーラは、カラフルに埋め尽くされた小さなテーブルに、
目を奪われた。
さっきの男性店員が、赤くなりながら
やたらカチャカチャ音を立てて並べていったのは、
可愛らしくも美しいケーキの数々。
それとは知らず、彼女が注文した、
アイスティーとプチフルールのア・ラ・カルトだった。
カーラには、その一つ一つが魔法を使わずに
作られていることが、まるで信じられないのだった。
魔法びと達は、人間を、野蛮だ卑怯だとさげすんでいた。
その人間のなかに、
こんなにも繊細な製菓技術を、持つものがいるとは。
魔法教育課程では、
あらゆることで魔法びとに遅れを取っていると
教えられてきた人間。
しかしカーラは今、人間のそれまでのイメージが
間違っている事を確信しつつあった。
魔法界で年に一度開かれる、
マジカル・コンフェクション・コンペ優勝者といえども、
到底適わぬだろう。
両者の作品を同時に並べなくとも、
どちらが優れているかは、一目瞭然だった。
しかもそれが何のもったいぶった様子もなく、
小さな店で出されているのだ。
(人間は、私たちの祖先と闘っていた時代とは変わったのよ。
お父様にもその事を、知っていただきたいのに……)
カーラは頼んだ覚えのないケーキを、
少しづつ味わってみた。
その一口ひとくちが、何と甘美な陶酔感であったろう。
このように繊細な食べ物を作り出せる人間が、
魔法界に永く言い伝えられたほどの、
恐ろしい存在であるはずがない。
彼女は、魔法びとと人間たちとの関係に、
あらたな希望を見い出だしたのを感じていた。
それから店の奥に向って、
つややかな声で話しかけた。
「ねぇ、そこの方。とても素晴らしいお味でしたわ。
これを作った方にも、そう申し上げてくださいませね?」
「ね?」といわれ、
それまでずっとカーラを見つめていた男性店員も
同じように首をかしげると、
「......はい......?」と呆けたような返事をした。
カーラは立ち上がると
「ごきげんよう」と微笑み、
咲きかけた薔薇のような余韻を残して、店を出た。
カーラは再び、喧騒の中に立っていた。
思いがけず人間の新しい一面を知ることができた喜びに、
気をよくしていた彼女は、さらに素晴らしい発見を期待して
ゆっくりと辺りを見渡した。
彼女は爽やかな風に吹かれた木の葉のように、
軽い足取りで先へと進みだした。
(さぁ、次はどちらの方角に進んでみようかしら?)
とその時、誰かが走ってくる姿が見えた。
白い上着に、緑の腰巻。あれは確かに、先ほどの店員だ。
(まぁ、あんなに急いで。もしや、
ケーキ職人からの礼の言葉を、わざわざ届けに?
なんと親切な方なんでしょう)
カーラは心満たされる思いだった。
だが近づくにつれ、見えてくる形相が何やら険しい。
だが、すっかり気をよくしていた彼女に
その表情は見えていなかった。
「ねぇッ、ちょっと待って!! 忘れてますよッ、代金!! 」
いきなり腕をつかまれた。
「何です、無礼な! 離しなさい!」
「えっ?!」
店員が一瞬たじろいだ。
「……あんた、もしかして、コレ?……」
店員が眉をひそめ、指で数回、円を描いた。
(な、なぜそれを?! あの店で魔法など使ってはいないのに......まさか?)
カーラは声をひそめた。
「......もしや貴方も、わたくしと……《同族》なのですか?」
「どッ、同族って、なんだよアンタ! フザケんなよ!
……あぁ分かった、病院から抜け出したんだな?
ともかく警察だケイサツ!!」
今度は無理やり腕を組まれ、引っ張られた。
(やはり人間は恐ろしい生き物……お父様……!)
カーラはとっさに術を唱えはじめた。
その時もう一人、男の声が聞こえた。
「なァ! 何をそんなにいきり立っているんだ? しかも、こんな往来でさァ」
背の高い一人の若者が、
その行く手を遮るように立っていた。
店員が幾分及び腰になりながら、
腕組みをしたその若者に、食い逃げのいきさつを話した。
それを聞きながら、カーラはやっと、自分が何か
大きな間違いをしたらしいと気づいた。
「じゃあ、これでいいよな。ほらッ、早く戻らないと、
今度こそ本当に食い逃げされるぞ!」
それを聞いて店員は、慌てて戻っていった。
若者がカーラに向き直った。
ピシッと着こなしたスーツを通してでも、
鍛え上げられたしなやかな体つきから、
男の色香が漂ってくる。
優しい笑顔だった。
「貴方には、助けられましたわ。礼を述べます。ありがとう」
「別に気にすることじゃないさ。忘れ物なんて、誰だってするよ」
「それで、あの、わたくし何を……?」
「なに?……あぁ、別に大した額じゃないから、気にしなくていいさ。
人助けが趣味ってわけじゃないけど、
あんたみたいな美人には、誰だっておごりたくなるからね」
気をつけて帰んな、といってその若者は
夕刻の人ごみに紛れていった。
「あ、お待ちなさい!……」
追いかけようとして、カーラは
はじめて自分の脚が震えているのに気付いた。
「……あの方が……」
初めて会ったのに、懐かしい気持ち。
名前も知らないのに、なぜか分かり合えるという確信。
それは、カーラがはじめて感じる、
不思議な感覚だった。
人ごみに消えた後姿を、焼き付けるように目を閉じると、
なぜかまた、
必ず会わなくてはいけないような気がするのだった。
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