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会いたかったの。 こえめ
です![]()
実際には、一番会いたい人って、
もう会えない存在だったりするんですけどね……。
でも、彩葉は会えたようですよ。
―10―彩葉
理科室を飛び出して家の前まで走って帰ると、
既にエンジンの掛かった乗用車の窓から
母と弟が手を振っているのが見えました。
ランドセルごとどさりと乗り込むと、
いつもは泣きべそばかりかいている弟が
その時ばかりは真っ赤な顔で何か言っていたけど、
なぜかわたしの耳にはひと言も入ってきませんでした。
出迎えた私たちに気付いたときの父の驚いた顔や、
そのあと皆で食事をしたことや、
抱き上げられてぐるぐる回って、
弟の新しい靴が脱げて広いロビーを滑っていったこととか……。
皆な笑顔で嬉しそうで、
わたしも確かに一緒に笑っているのに、
それを見ているもう一人の自分が、
ずっと違う事を考えていたんです。
あれは真矛がやった事なんじゃないかって……。
次の日、
山本君は学校を休んでいました。
彼もまた、余程ショックだったんだと思います。
昨日去り際に、倒れていた彼の足をわざと蹴っていった事を
思い出して、少し反省しました。
自分から言い出した居残り実験に失敗したうえに、
おかしな現象を見てしまったわけですから。
もっとも先生の山本びいきは、
その後もずっと続いていましたけどね。
授業の始まる前、誰もいない階段の上で、
真矛に、恐るおそる聞いてみました。
「あのぉ、昨日の実験の事だけど。あれ、真矛も……見た、よね?」
「じゃ、やっぱりそうだったのね? 私もビックリしたわ。
あれ、彩葉よね。すごいわ」
「えっ? まさか。わたしは真矛がやったのかと……」
「ううん、私にはあんなこと出来ないわ。あれは、彩葉よ」
そんなふうに決め付けられても、
わたし困るって言いました。
でも、あのきらきらした大きな瞳で、自信たっぷりに見つめられると、
その言葉を信じたくなるって言うか、
本当にそうだったらいいな、なんて思っちゃうんですよね。
いくら魔法ごっこで修行と称して色々やったって、
「ごっこ」は「ごっこ」、真似事でしかないんですから。
本当に魔法があるかどうかぐらい、
分かってるつもりでした。
だからあの実験は、混ぜる液体を間違えたとか、
何かの光が反射して、見間違えたんだって、考えればいいんです。
でも、そう思えば思うほど、
でもあの液体は先生が用意してくれたものだから、間違いない、
この手で混ぜたし、 確かに何度も色が変わった、
全部この目で見たじゃないかって、
変に確信みたいのが出てきちゃって。
こんど山本君が登校してきて、何か聞かれても、
どう言ったらいいのか、
さっぱり分かりませんでした。
そんなのもう、シラを切るしかないって感じです。
それから二、三日して、山本君が学校に出てきましたが、
意外にも、何も聞いてきませんでした。
それどころか、どうやらわたしの事を
避けているみたいなんです。
まるで怖いものを見るような目つきで。
(つづく) ( 次のお話
魔法の真矛ちゃん(16)実夏 March 20, 2009
魔法の真矛ちゃん(15)塔哉4 March 18, 2009
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