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夕飯の後すっかり眠ってしまい、こんな時間になりました。
さぁ! 本日の『こえめWorld』、はじまりはじまり。
【カーラ8】
魔法界の最長老セテ。
彼は今、《予言の間》で王に向かい合って立ち、
静かな、だが暖かみのある笑みをたたえていた。
その微笑みは、術を唱えるとき以外は自然とその口元にのぼり、
会う人に、安らぎと尊敬の念を起こさせる。
その一方で、長い銀髪の奥からわずかにのぞく、
落ち窪んだ虚のような眼が、
一種の畏怖を与えていた。
もはや光を映すことの無いその瞳は、
かつての眼光こそ失ったとはいえ、
何かじっと見つめているようでもあり、
さしもの王も、すべてを見透かされたかのようにたじろいだ。
セテは自らもさかずきを呑みほすと、
椅子の上に戻った。
「さて。タリユス殿。それでは用件を聞くとしようかのう」
王は先日の娘カーラとのやり取りを、かいつまんで話した。
黙ったままでひと通り聞き終えたセテは、
ポケットから何かを取り出し手の平に乗せると、
ひとつ大きく息を吸ってから
術を唱えはじめた。
真綿の固まりのような白いものは、
始めのうちは、セテの息遣いにあわせて揺れていただけだったが、
やがて出来立ての綿菓子のように膨らみはじめ、
繊維の一本一本がほぐれ出し、
見る見るうちに大理石の床に、霧のように拡がった。
セテが術を唱える声に力を込めると、
その霧は、まるで意思を持った何かのように
のろのろと床を這いながら集まった。
行き場をなくした霧の中心は、その色を濃くしながら
湧き上がるように、上へ上へと伸び上がった。
それは徐々に人の形をとるようにみえ、
王が神妙な顔つきで見守る中、
最後にとうとう、乳飲み子を胸に抱く聖母の姿となった。
輪郭が空気と交じり合って、ぼやけて歪んでいる。
魔法界の王といえども滅多に目にする事のない、
その見事な術に、王はひたすらじっと見惚れていたが、
ふと、気づいたようにつぶやいた。
「ラスティーヌ……」
「いいや。タリユス殿。これはカーラじゃよ」
セテは、王の幼い頃からそうしてきた、
ほんのわずかな間違いに気づかせるときの、
相手を思いやる口調でそう言った。
父王はハッとして霧から目をそらし、
偉大なる預言者の顔を見た。
しかし、魔術を終えた後の疲れからか
セテの口元から笑みは消え、
今はその表情から何も読み取れなかった。
(つづく)
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