PR
Calendar
Category
Comments
Keyword Search
こえめWorld へ。
リカムと従者たちの、脱出劇の続きです。どうぞ
【カーラ12】
「……姫様ッ!」
リカムはポケットの中の小さな輝きを
眼の端に映しながら、必死で考た。
この手を離した一瞬の隙に、術を唱える事は可能だろうか。
だが、思い浮かんだ短い術の言葉では、
どれも役に立ちそうにない。
そもそも如何に俊敏なリカムであろうと、
このわずかな隙間では、どんな術も唱えきれるわけが無かった。
床と岩天井にがっしり押し挟まれて
指一本動かす余裕も無い。
汗で手がすべりそうになる。
岩の天井と化した玉座の椅子が、
その重さを増してくるような気さえしてきた。
若い従者は目をギュッとつむり、歯を食いしばっていた。
ベテランの従者が「くそっ」と言ったようだった。
いよいよこれまでか。
従者二人の意識には、
《最後》という言葉が、それまで何度となく
思い浮かんでいたはずである。
だが、リカムは諦めていなかった。
彼は、意識を失って足元に倒れていた
従者ジイドの頬に
わずかな赤みが差してくるのを、見逃していなかった。
地獄のような圧迫感の中で、ジイドを呼んだ。
「ジイド、起きてくれ、ジイド!」
気が付いたジイドは、飛び起きた拍子に
頭をイヤと言うほど天井にぶつけた。
「アイヤッ!」
重量のある岩は、その程度では振動すら伝わらない。
だがジイドはどんな状況であっても、
図らずして場を和ませる天才だった。
リカムは、身体に再び力が漲(みなぎ)るのを感じた。
「ポケットの中のものを!」
姫様からいただいた、大切なガラスびんを、
リカムが視線で示した。
ジイドは鋭くうなづき、
その節くれだった指で、小瓶を取り出した。
(つづく)
魔法の真矛ちゃん【カーラ38】の2終 July 8, 2009
魔法の真矛ちゃん【カーラ38】の1 July 1, 2009
魔法の真矛ちゃん【カーラ37】の2 June 15, 2009