ほしはひかるのかな????

ほしはひかるのかな????

その1 恋



●恋の始まりの詩
●恋人同士の詩
●恋が終わった詩
●奥さんからだんな様への詩

を、集めています。

やっぱり、恋ばなですよね~。

探しやすいように、スクロールバーでどのへんか、題名の横に書いておきます。

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●恋の始まりの詩

「春」
「春も半ばに」
「初夏」
「あんたのことを」
「沈黙」
「嫌かな」
「胸には多分」

●恋人同士の詩

「春一番」       (このへんで、スクロールバーの4分の1くらい)
「春一番の吹き返し」
「この空の下」
「君と話を」
「誘ってね」
「近しい間柄」
「待っててね」
「君の旋律」
「雪」
「孤独を看取る」
「無」
「チョコレート」
「あなた」       (このへんで、スクロールバーの真中くらい)
「300回」
「夜が明けたら」
「愛しさ」
「音」


●恋が終わった詩

「不在」
「さようならです」
「ひぐらし」
「オフィーリア」
「それからの季節」
「だって抱いて」
「駅のホームで」     (このへんで、スクロールバーの4分の3くらい)
「裸の雲」
「ベル」
「それからの季節」
「もういいよ」
「恋心」


●奥さんからだんな様への詩

「王子様眠る」
「うつろうあなた」
「だんな様へ」
「忙しい朝なのに」

を、集めています。

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●恋の予感の詩  ↓↓↓ 


「春」


街路樹に寄り添う
子猫の尻尾は
ふわふわ乾いていた

僕の敬愛するあの人は
苺のムースをひとさじ
やわらかな唇に運び

にこりとして
もうすぐ春なのね
と 言った

そうです
昨日、水族館で働く友達から
短い手紙が届きました

これからイルカのエサは
3月が旬の
チカという魚になる

そうです

と僕

あの人は
また
にこりとした


春よ

早く

来い

                              (2004.2.15)



「春も半ばに」


春も半ばに
風はさらに強く吹く
北風が南風にバトンタッチ
激しいキスを交わしながら

桜なんかとっくに散り終わった
藤もあっという間だったんだ
ハナミズキは小さなハンカチをいくつも出して
木々の若葉は白いうなじを見せる

まだ夏じゃないのに
夏服の心配をしている
あの子の髪をアップにしたところ
また、見れるんだなあ

春は悪くない
もちろん夏もいいけど
春と夏の半ば
今くらいが

あの子を想うにはなおさら丁度いい季節


                             (2004.5.3)
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「初夏」


流れる雲を追いながら
ベランダで
メロンのシャーベットを

さくさく

平べったいスプーンでつついた

君はきっと笑いながら
青い
草いきれの中を

さくさく

進んでいるだろう

風に解けた君の髪は
メロンの匂いで

陽に溶けた僕のシャーベットは
君の香り

ふたりは

初夏の遠近法の上にある

レンアイの輪郭の外にある

僕の願いの中にある

君の自由の元にある


                              (2004.3.12)
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「あんたのことを」


落ち葉で焼き芋をしようと祖母が言う
最近はダイオキシンなどうるさいよと私
文句を言われたら消そうということで
集めた
落ち葉と枯れ木に
点火
もうもうとすごい煙だ
私は涙を流しながら息を吹き込む
だんだんに燃え広がり
だいだいに落ち着く火
枝で隙間をあけつつまんべんなく
燃やす
顔が熱い
頬がぱりぱり
ポケットに手をつっこむと
つまらなすぎて最後まで読めなかった
恋愛小説
ぽいと火に投げる
めらめら燃えたのは表紙だけで
あとはちっとも燃えようとしない
ページを開きつつ、一枚ずつ燃やす
濡れた新聞紙にくるんだ芋を
手際良く祖母が入れる
焼けたら呼んでね だって
私は火の周りを立ったりしゃがんだり
しながら
ぐるぐる
煙で目が痛い痛い
でも、火をつつきながら
枯れ枝をガンガン
投入
ふーと息を入れると
ぱあーと赤くなる
面白いから何度も何度も
火の粉は飛び散る
上にも下にも
本はまだ燃えない
周りだけ焦げて、文字は犯されているようで
気の毒
飼い犬は怖がって近づこうとしない
図体ばかりでかくて
しょうもない
芋はまだか
頬が熱い
足が寒い
芋の固さを調べつつ
火をつつきつつ
真剣に
ぐるぐるぐるぐる
している
私が考えていることといったら
たった一つなんだよ。



焼き芋焦げた。


                            (2004.1.22)
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「沈黙」


あなたは細い筆で
私の輪郭をなぞります
薄い紅を頬に
唇に
指します

ガラス瓶で洗われる筆
瓶の水は
乳灰色に濁り
濁り
濁り・・・

絵の中の私は
目を伏せたまま
あなたのいいような
美しい言葉を
話します

あなたは私に
さくらんぼをすすめ
私は1つ口にしました

絵の中の私は
さくらんぼなど食べずに
薄紅の唇を閉じ
二人を見つめ

沈黙します
沈黙します
沈黙します・・・・


                            (2004.9.19)
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「嫌かな」

蝶が飛ぼうともがいている

かわいそうに。

ファックスが届いたのは今朝だった
それは他愛もない話だったけれど
なんだか忘れられない

突然、会いに行ったら嫌かな

改札口はカードで入って
手紙は携帯のメールで
もう、紙なんていらないねって言っていた

切符を折ったり丸めたりするの好きだったけど
手紙の重さを確かめたりするの好きだったけど

手紙はもう何年ももらっていない
最後にもらったものを
もっと大事にしておけばよかった

飛べなかった蝶には
蟻が真っ黒にたかって
運ばれて

後には何も

ファックスの紙はぺらぺらで
まるで蝶の

ほんとうはいつも忘れられないんだ
なんて、言ったら嫌かな




・・・ひさしぶり
あ びっくりした

(2005.3.15)

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「胸には多分」

胸には多分
花が香っている
あなたを待っている
だから
あんなに
苦しかったんだ

胸には多分
泉が涌き出ている
あなたを望んでいる
だから
あんなに
溢れてしまったんだ

胸には多分
鐘が揺れている
あなたと共鳴している
だから
あんなに
震えたんだ

胸には多分
蛍が光っている
あなたと呼び合っている
だから
あんなに
明るかったんだ・・・・

(2004.4.1)

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●恋人同士の詩      ↓↓↓ 


「春一番」

彼女が慌てて押さえた
スカートのすそは
スイトピーに似て

乱れた髪は
くり色に
新しく染めたばかり

花屋の小さい看板は
どこかへ
飛んでいってしまった

オランダのキューケンホフ公園では
チューリップの絨毯が
敷かれ

そろそろ
猫の恋が
吹き荒れる頃

                              (2004.2.22)
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「春一番の吹き返し」


彼は私の
スカートのすそを
気にしてばかり

北からの
吹き返しに
笑う水仙

花屋の小さな看板は
誰かが見つけて
結んでいった

先週観たロシア映画
あおさぎと鶴の
おかしな恋

やわらかく
沈丁花が
匂い乱れる頃


                              (2004.2.23)
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「この空の下」


空は柔らかくなり
大地は布団を剥ぎ
命をたたき起こす
そんな花曇りの空の下
君は好きなパンを買いに
サンダルで歩く

空は分厚くなり
ラムネの瓶には希望
飲むとちりりと痛い
そんな青空の下
君はお気に入りのMDを聴きながら
自転車で走る

空は高くなり
落葉樹は夕日に染められ
恥ずかしくなるほど紅い
そんな茜空の下
君は似合うピアスを探して
3軒目の店へ

空は天井を突き抜け
宇宙からの風が
強く吹きすぎる
そんな星空の下
君は僕とのメールで
寝不足気味

この空の下
この同じ空の下
君に会いに行こう
僕は
空に
感謝しながら


                             (2004.3.17)
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「君と話を」


君と話をしたかったよ

小さい頃ね
例えば幼稚園で同じ組で
糊のつけ方やハサミの使い方やなんか

もう少し大きくなってからでも
例えば小学校で同じ委員で
校内放送の内容なんかを

もっと成長してからでも
例えば中学校ですれ違い
「シャーペン落ちたよ」「どうも」なんて

もっともっと大人に近づいて
例えば大学生
「次の講義行く?」「どうしようかな」なんて

例えば同じ会社
「さっき怒られてた?」「ああ、へこむな」とか

きっとどの瞬間も
君は君らしく
僕を見てくれるだろうから

僕は僕らしく
やはり
君に憧れてしまうだろうから


                             (2004.5.8)
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「誘ってね」


誘ってね
それから
ここへ
コインを入れてね
一生懸命
動くから

誘ってね
それから
ここへ
サインを書いてね
一生懸命
働くの

誘ってね
それから
ここへ
水をかけてね
一生懸命
咲きまする

どんなお花がいいですか?

誘ってね
それから
ここへ
タオルをかけてね
一生懸命

泣かせて

あげる

                              (2004.6.23)
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「近しい間柄」


あなたと私は近しい間柄
私はあなたの
あなたは私の好きなことを
人よりはよく知っています
(これは重要)

パーマをかけたての髪は
よくはねるのです
あなたは髪には触れずに
頬をつまみました

あなたは私の
私はあなたの嫌がることを
お母さんよりもよく知っています
(これも重要)

夏のプールへは
今年も行きません
あなたはほっとして
眠りました

それで私は
とても安定した速度で
ゆっくりと坂を下りることが
できたのです

無事におうちへ
帰ることが
できたのです

                              (2004.8.1)
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「待っててね」


あなたは私を急かします

待っててね

1度目の
「ね」

強制ではなくお願いよ

2度目の
「ね」

お願いではなく懇願よ

3度目の
「ね」
は・・・・・

鶏のモモ肉に、まだ火が通っていないの


                             (2004.9.5)
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「君の旋律」


君の旋律は
洗いたてのピアノのように
削りたての音符のように
僕を。
つかんでつかんで
ゆさぶり
遠くへ
投げ飛ばし
また
とらえて けっして
はなさない

君の旋律
君の髪
君のまぶた
君の足
君の小指が
僕を。
だいてだいて
手の中に
くるりと回し
また
にぎって けっして
はなしてくれない

ああ、ひどい
君の美しい旋律

                              (2004.5.25)
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「雪」


ちら。
ちらちら。
ちらちらちらと雪が。
あ 雪 もうふゆなんだね   
ふゆがきて 雪 なんだね

雪 がふるといきがしろい 
しろいいきが 雪 にかかると
ちいさな 雪 はすぐにとけて
なくなってしまう

それはとおいきおくのように
とけてしまう 雪 はまるで
とおいきおくをよびさますように
雪はやさしくふる 

あ 雪 またふゆなんだね

ふゆがきたから 雪 なんだね

ちいさいときひとりで 雪 をみた

また 雪 をみれてよかった

あなたとふたりで  

雪 はつめたいから

あたたかなあなたと

     雪 はわたしとあなたと

 ふたりのてのうえに。


                             (2004.1.6)
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「孤独を看取る」


あなたは私好みの無表情な人で
めったに笑ったり怒ったり哀しんだりしない

あなたは私好みの臆病な人で
めったに近づいたり話したり触れたりしない

あなたの瞼にはいつも孤独の影があり
私は一層あなたを愛す

あなたは恐ろしいと笑う
失われる時が来てしまうのが

あなたは楽しいと哀しむ
その楽しさがいつまで続くのかと

あなたはめったに怒らない
その孤独のせいで
一人ならば、怒ることもない

私の性懲りもない説得で
あなたは私を見始めて
くだらない理論に
耳を傾ける

私の性懲りもない愚行で
あなたは私に同情し始め
つまらない笑い話に
無理に笑う

私の性懲りもない情熱で
あなたは私に触れ
冷たい指で
髪をほどく

安っぽいラブホテルで、私は
裸の乳房であなたを抱く
あなたは、恐れおののきながら私に抱かれる

あなたの瞼の孤独の影が
すこし薄れ
私は一層あなたを愛す

汗くさいラブホテルのベッドの上で
私は唇を寄せ

あなたの孤独を看取る

どうにも暗すぎるあかりの下で
私は両手を組んで

ふたりの孤独を看取る。



                            (2004.1.10)



「無」

無になりたい
無になりたい
私の存在が
そんなにも
あなたを
苦しめるのなら

無になりたい
無になりたい
それでも
あなたは
私と
共に行くというのなら

無になりたい

無になって
あなたの行間に
埋もれてしまいたい

                              (2004.2.2)
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「チョコレート」

どろりと溶けたチョコレートに
ずぶりと足を突っ込んで
つらつら考えた

私は彼の何かしら
彼を被う皮膚
皮膚にすがりつく肉
肉を支える骨
かりり、と骨を回転させる関節
そのように骨を動かす脳
脳にはりめぐらされた
シナプス
流れる赤血球
純粋な白血球
リンパ節
NK細胞
ゴルジ体
アミノ酸
そんなものには
なれはしない

彼は私の何かしら
私を私たらしめる意識
その下にある巨大な無意識
無意識を支える混沌
混沌の中の噴出
ごごご、と渦巻く感情の渦
そのような渦の中の闇
闇の中の自我
か細く一人で
立ち上がろうともがく自我
自我をじっと監視する超自我
そんなものでは
ありはしない

どろりと溶けたチョコレートは
冷えて固まり
突っ込んだ足は
もう動かせない

このままで
行くところまで行ってみる

彼は私の何でもない
私は彼の何でもない

行きつく果ては

どろりと溶けた、チョコレート
白や赤や黄色の。


                              (2004.2.13)
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「あなた」

あなたのいない
はかなき空間

あなたのいない
かそけき空間

桜はさく
かなたへちりゆく

あいたい
あいたいのに

ちのかよわない
ひえたつまさき

あなたのいる
じょうねつの時間

あなたのいる
ぜったいてきな時間

薔薇がさんざめく
ごうまんにちぎられ

にげたい
にげたいのに

ちかづきすぎて
もがくゆびさき

                             (2004.3.8)
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「300回」


知ってた?

子供って、
1つの言葉を
300回も
繰り返し言われないと
理解しないんだって

私はあなたに言ったかな

「好き」って

300回


                             (2004.2.24)
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「夜が明けたら」


夜が明けたら 
雲は
桃色に燃えながら
流れてゆきます

みずいろのかぜ を

眠るあなたの
髪へ

始まりは
そっと穏やかに

もう一度、寝返りを打ったら

もう、作られるの

私とあなたの

ほんとうの国

東の空で
鳥が鳴いたら
星のリボンをほどいて

風の大きな
とても大きな手のひらが
空や
海や
大地を撫でて

最後には私へ

みずいろのかぜ は

寝返りを打つ
あなたの
睫毛へ

もう、作られたの

私とあなたの

二度と戻らない国



                             (2004.9.13)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「愛しさ」


彼女の形のままの布団を
そっと抱いたら
くしゃりと潰れた

ぼんやりと空いた両手
ピックでも持とうかな
ギターでも弾こうかな

半日たって
彼女から電話
笑いながら
タバコは最後の一本に

タバコのカラを
握り締めると
くしゃりと潰れた

愛しくて
しばらく捨てられなかったなんて

言えるわけないだろう


                             (2004.10.9)
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「音」

難しいね、と君はつぶやいて

身体を離した

キスの後
キスの、跡

そうだね、と僕はつぶやいて
続きをしようとしたんだけど

君はもっとうまいやり方を考えていて
させてくれなかった

鍵を鍵穴に差し込んで、回すと
カチッて音がするでしょ
そういうふうに、したいの

それは難しいんじゃないかと思った
それはきっと、アダムとイブだってできなかったんじゃないかな

そうかな
わたしたちなら、できる気がする

僕は君の首についたキスの跡に触れるけど
音は聞こえてこない

鍵を鍵穴に差し込んで、回すと
本当にカチッて音がするんだっけ

するの
確かに
1回だけ

その音を君は聞いたの

聞いたわ
確かに
1回だけ

難しいね、と僕はつぶやいて

君を抱き寄せる

君はくにゃりと抱き寄せられて
耳をすます

そうかな

わたしたちなら、できる気が・・・・

(2006.1.4)

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●恋が終わった詩      ↓↓↓ 


「不在」

慟哭で目覚めました
真昼でした
抱いていたお人形の腕はとれていました

あなたが不在の夜には慣れましたが
朝はだめです
昼もだめです

特に朝
金魚とピアノにエサをやる時が
きついです

昨日の昼は
あなたに似た桃を買いました
無論あなたではないのですが
おいしくいただきました

私にも
エサはやっておりますので
どうぞ、
ご心配なく

慟哭で目覚めました
白いお皿が落ちていく夢でした

今夜は
兜虫の幼虫を抱いて眠りますので
どうぞ、
ご心配なく


                             (2004.1.21)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「さようならです」

もう留守録は聞き飽きて
立ちあがり

部屋にある本を
1ページずつ
食べた
あなたのために買った本

それから、
鍋いっぱいのスープを
全部
飲んだ
あなたのために作ったスープ

それから、
廊下いっぱいのスリッパを
全て
売った
あなたのために用意したスリッパ

それから、
お風呂場いっぱいの湯気を
全部
吸いこんだ
あなたのために温めたお風呂

それから、
ベランダいっぱいの花を
1本ずつ
下へ投げた
あなたのために育てた花

それから、
窓の夕日を
思いきって
切り離した
あなたのために落ちないでいた夕日

それから、
飼っているカナリヤを
夜風に放した
これは、わたしのために飼っていた鳥

これから、
新しい爪切りを
買いに出かけます

これがわたしの
さようならです


                              (2004.1.27)



「ひぐらし」


ひぐらし

かなりながく
ないてないかも
かなかななかない
なかなかなかないな
かなしくはないのかな
なかなくてもいいのかな
かなしくないふりなのかな
なかなくなっちゃったのかな

かなりながいこと
なかないのはわたし

ひぐらし

かなかなないてる
なかなおりなんて
かなわないのかな
ないていいのかな
かなしみはかなた
ないていいのかな
かならずわすれられるのか


かなりながいこと
ないているのはわたし

ひぐらし
カナカナカナ・・・


                             (2004.2.12)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「オフィーリア」

あの人は明るい絵の具を好み
黄色やだいだいの潰れた絵の具が
いつも散らばり
黄色やだいだいの模様が
いつものエプロンの染み
微笑んでいるような染み
きんぽうげやひなぎく
そんな絵をよく描いて

私は放課後
あの人の乾ききっていないキャンバスに
そっと触れ
指先を暖めるのが常でした

ある時から急に
あの人は
蒼い絵の具で
オフィーリアを描くようになり
私は自分の面影を
オフィーリアに探したけれど
微塵もなく

夕暮れの下で
水面に絡まれ花を抱く指に
私の指を重ねても
冷たいばかりか
ハムレットを想うあまり狂い死んだ彼女の
薄く蒼い蒼い破片が砕け散ったので
思わず目を背けました

そのかけらがまだあります
幻想が終わったその証に
指先に
突き刺さったままなので


                                                                  (2004.2.12)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「それからの季節」


彼女は何も言わなかった
本当のことは何も

甘い桃が
沢山なる季節

彼女の髪から来る風は
新芽を誘うように
冷たい涌き水を撫でたように
さらさらと流れた

白い空の破片が
沢山降る季節

彼女の瞳から見える空は
星座を閉じ込めるように
薄い氷を割るように
きしきしと響いた

彼女の唇は
いつも紅かった

本当のことは何も・・・

彼女の唇から
種火があふれ

僕は何かを答えた気がする

本当のことなど何も・・・

それからの季節

彼女の後姿が
夕暮れのコウモリのように
かき消え
また現れる

僕の頬をかすめるそれを
よけきれない

ずっと
ずっと


僕は何を答えたのか考えている





                            (2004.9.17)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「だって抱いて」


だって抱いてくれたっていいじゃない
そうじゃなきゃ
セルロイドはダメなの
だって抱いてくれたっていいじゃない
そうじゃなきゃ
ナメクジはダメなの

だって抱いてくれたって
私は私よ

どうなるっていうの
壊れてしまうっていうの
溶けてしまうっていうの

だって抱いてくれたって
あなたはあなたよ

どうなるっていうの
崩れてしまうの
終ってしまうの

だって抱いてくれたって
あの子はあの子よ

どうなるっていうの
泣いてしまうの
嫌ってしまうの

今夜こそ
あなたでいっぱいになりたいのよ
だから
抱いてくれたっていいじゃない?
だって・・・・


                             (2004.1.23)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「駅のホームで」


駅のホームで
身をよじり
叫んだ

私の言葉は
あなたに
伝わったの

あなたは
振り返りも
せず

駅のホームで
泣きながら
叫んだ

私の言葉は
あなたに
投げ捨てられたの

人ごみのホームで
ただ一人
振り返ったのは
私・・・・


                             (2004.2.26)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「裸の雲」


裸の雲を眺めていた
どこにいけばいいかわからず
ふらふらする膝を抱えた

あの頃は
有無を言わさず
君をきつくしちゃっていればよかった

それで君は
泣きそうな顔で
笑顔を見せていればよかった

世界は
とてもシンプルだった
雲が裸でいるみたいに
二人だけの
世界は



                             (2004.6.14)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ベル」


もう出発の時刻
ベルが鳴って、どこかにぶつかって
コトリと落ちていった

鳩の巣があるね
駅の屋根
もうすぐに追い出されてしまう

缶コーヒーは温かい方がよかった?
指が白くなっている

行き先の住所を
何度も聞いてごめん
鳩のことを考えているんだね

こっちを見ないね

出発のベルがまた鳴って
鳩の胸にぶつかって
二人の間に落ちていった

二人はうつむきかげん

雪が降ったらいいね

雪を見ていれば少し
顔があげられて

ううん、雨でもいいの

出発のベルが続いているうちに
二人で見たいものがあるの
最後に、同じ物を見たいの

その時

奇跡的に鳩が飛び立ち

出発のベルを裂くように
二人の視界をよぎった

二人は同時に天を見上げた



じゃあ、元気で
・・・缶コーヒーは温かい方がよかった?

ううん、冷たいのでいい

冷たいままでいい。


                             (2004.8.15)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「それからの季節」


彼女は何も言わなかった
本当のことは何も

甘い桃が
沢山なる季節

彼女の髪から来る風は
新芽を誘うように
冷たい涌き水を撫でたように
さらさらと流れた

白い空の破片が
沢山降る季節

彼女の瞳から見える空は
星座を閉じ込めるように
薄い氷を割るように
きしきしと響いた

彼女の唇は
いつも紅かった

本当のことは何も・・・

彼女の唇から
種火があふれ

僕は何かを答えた気がする

本当のことなど何も・・・

それからの季節

彼女の後姿が
夕暮れのコウモリのように
かき消え
また現れる

僕の頬をかすめるそれを
よけきれない

ずっと
ずっと





僕は何を答えたのか考えている





                             (2004.9.17)
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「もういいよ」

気がつくと
あなたのことを
思い出し

ああ、もう
思い出すことができるようになったのだと
不思議な気持ちがした

多分何もしなかったと思うのに

朝のあたたかい紅茶や

午後のさわやかな風や

夕暮れの一番星が

言ってくれたのだと思う


「もういいよ」

と。


(2005.1.25)

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「恋心」

凸凹を指で辿ると水滴
そんなふうに降り出しました、今日は

外はラムネ瓶の中のように
雨粒がぷちぷちとはじけ
落ち着かない感じは
まるで恋心のようです

恋の話をしましょうか

ホットケーキの上に
バターと蜂蜜を乗せて
食べたかったのですが
バターも蜂蜜もなく
切り分けるナイフやフォークすらなく
冷めたホットケーキを
一人でもそもそと食べました

そんな恋でした

雨は激しくなります
急かすように窓を打ちます

雨を封じるのに
レースのカーテンだけでは役不足ですので
いそいで遮光カーテンを閉めるのですが

窓の外を見ると
土砂降りの中
傘もささずに
駆けぬける人がいました

その人のために

少しだけ

カーテンを閉めるのを待ちました

今日は・・・

(2005.1.17)

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●奥さんからだんな様への詩  ↓↓↓



「王子様眠る」


王子様眠る
丸まって
睫毛はあるけど短い
鼻は高くは無く
唇は薄い
瞳は輝く事無く
語る言葉は仕事の愚痴

好きなものは納豆
嫌いなことはお出かけ

王子様眠る
久々の休日なので

どうぞごゆっくり

お姫様は
納豆を買いに行ってきます

カッコイイ自転車にまたがって
白いシャツをはためかせ
今日もあなたの
お城を守る。


                             (2004.5.4)
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「うつろうあなた」


そうですね、今日はもう
お疲れでしょう

窓辺には少しの灯りだけ置いて
私はいるようないないような感じで
あなたの近くにいたいです

お話したいことがあれば
なさって下さい
あの時のように
仕事の愚痴でもかまいませんよ

手を伸ばしてきたらば
その手を取って
ただ持つような感じで
あなたの近くにいたいです

ため息もどうぞ
深く、ひとつだけ

そういえば今日は
日食だったそうですよ

待ちながら、アイロンがけをしました

おいしいお水を用意したかったです
あなたのために
それから・・・
いいえ、何でも

眠りに入れそうですか

では、私も眠ります

   を、ひとつだけ抱いて

窓辺の灯りを

ふっと消して

うつろうあなたと・・・


                             (2004.10.15)
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「だんな様へ」


いってらっしゃい

ううん、ほんとは寂しいの

でもそんなことを言ったら
笑ったあなたの頬が困ってしまうから
言わない

昼間、楽しいことがあったとき
あなたがいないと、少し寂しいの

遅くなっても、帰って来てね

帰ってこない時は
お願い
「帰ってこないよ」って言ってね

待つのはつらいです

だんだん、面影がやさしくなって、消えてしまうのがつらいです

そして思い出せなくなって・・・・


いってらっしゃい

ううん、ほんとは寂しいの

でも、仕方がないの

これだけが、妻のつとめですから


                             (2004.10.23)
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「忙しい朝なのに」


忙しい朝なのに
失礼しますが

ちょっと抱っこして下さい

さっき、ニュースで怖い事件があったのです
みんな、おそらく、普通の人々です
朝起きて、顔を洗って、服を着替えて、ご飯を食べて、
あなたと同じように家を出て
それから・・・

昨日の新聞でも
おそらく、普通の人が
朝起きて、服を着替えて、顔を洗って、ご飯を食べて、
あなたと同じように家を出て
それから・・・

不安が雑巾のように私を絞ります

もう少しだけ
抱っこして下さい









もう、いいです

忙しい朝なのに
失礼しました


                             (2004.11.2)
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