くんちゃんの・・・

くんちゃんの・・・

それぞれの受容

それぞれの受容


 入院するとき‘温存’にこだわって揺れていた私の気持ちが二転三転してしまったので、結局“おっぱいはなくなっちゃうこと”子供達には伝えられず仕舞いだった。手術のあと、子供達は夫の口から‘何となく’は聞いていたようだ。
 自分自身に自信がない私にとって、この傷を子供達に見せることにはさらに自信がないと言うことで術後しばらくは子供達が寝静まるのを待ってこっそり入浴していた。この傷を見たときの子供達の反応が正直怖かったのも事実である。
『母さんと一緒にお風呂には入れないんだ』
というのは子供達の中でも暗黙の了解のようになっていた。

 そんなある日、(昼寝が夕寝になって夜まで寝入っていた)息子が目覚めた拍子に突然入浴中の私のところへやって来た。寝ぼけ半分とは言え、それまで殆ど毎日のように母子で入浴していたわけだから、無理もない。躊躇したのは私だが、慌てて隠そうにも無防備で間に合わず…私の傷を目の当たりにした息子ははっと息をのんでいた。顔が固まっている…「まずいっ!」と言葉を探すわたしに、しばらくの沈黙の後…息子は私の胸の傷を撫で…「かあさん、かわいそうねぇ~!でも大丈夫よ。もうちょっとしたら新しいオッパイ生えてくるからね。頑張ろうね。」と言うのだ。固まった浴室内の空気が息子に救われた。と同時に大人の感性では掛けられない癒しの言葉が自然とでてきた息子に「優しい子に育ってくれてありがとう!」と感謝の気持ちで涙があふれた。

 女の子だし、お年頃だし…「傷を見せることはショックが大きいだろう」と躊躇っていたわたしにとってはこの出来事が自信につながり…それからまもなく、上の子ふたりにも傷を見せた。お姉ちゃん達とひとりずつ一緒に入浴して「母さんのオッパイはこうなっちゃったんだよ…」と。確かにその事実は子供にとってはショックな筈だけど、目に涙を一杯ためながらも…ふたりはそれぞれに静かに受け入れてくれた。思春期を迎えた今、娘達はこの母親この傷をどう捉えているのだろう…。

 ただ一つ確かに言えるのは子供達が‘思いやり’と言うことを私の傷を以て学んだと言うことだろうか…。お手伝いを積極的に引き受けてくれたり、「無理しちゃダメ」とか「ちょっと休んだら?!」とか言う優しい言葉掛けが自然とできるようになった。私は我が家の中では「重いもの持っちゃダメ!右手使っちゃダメ」などと‘箱入り母さん’で通っている。


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