父の定年（３）
定年をとうに過ぎた父であったが、そこは‘不況をともに支えてくれた担い手’として、父の職場は父を定年後も変わらず雇い続けてくれた。無趣味な父には仕事が唯一の生き甲斐だったので、その唯一の趣味を取り上げると父に何が残るだろう…と子供達は随分心配したものだ。その意味では、年寄りを変わらず雇い続けた雇用主には感謝の気持ちで一杯だ。
そんな父もこの夏‘寄る年波’というものを痛烈に実感したらしく…遂に辞表を出した。喜寿を迎えての定年退職だ。
昨年夏、仕事中父の右足に１００数㎏もある鋼材が落下した。父のちょっとした油断と、操作ミスによる労災だった。この事故で右足指５本全てを複雑骨折、うち第２・３指は壊死状態で切断を余儀なくされた。労災しかも右足を踏み込む力が半減してしまった父を、気の良い雇用主は復帰後再び雇い続けてくれた…。
しかし、そんな体で仕事を終えた後、田圃の見回りしに行った父はバイクでバランスを崩し転倒してしまう。今度は左鎖骨骨折。ここで父は引き際を考えるようになった。足に力が入らない上に手にも力が入らないのだから無理もない…。保存療法で経過観察となった父であるがさすがに体力の衰えは隠せず‘ここが身の引き時だ’と遂に観念してしまった。
お父さん、５人家族を支えるためにただひたすら頑張って・頑張って、働いてくれました。本当にご苦労さまでした。あとは‘自分の思うように、自分のやりたいように’生きていってくれたら…かつてあなたにそう言われた娘が、今父に送る言葉としてお返しします。
どうかこれからは‘自分らしい人生’を作り上げていってください…。
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