クロクロ日記

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今週の主張(奥井禮喜先生)




「経営者よ 正しく 強かれ」


 日本経団連経営労働政策委員会報告2006年版には「経営者よ 正しく 強かれ」というキャッチコピーがつけられた。復古調にしてはなるまい。

 敗戦後、連合国総司令部GHQの組合育成策により、組合が急速に組織され、1949年には組織率55.8%に達した。組合組織率の最高点だ。組合の攻勢下で経営側も体制を整えるべく、経済同友会1946.4、経団連1946.8、商工会議所1946.11が結成された。労務対策を担う日経連が1946.2に結成をめざしたが、組合の体制不十分というGHQの反対で1948.4の結成となる。日経連の結成に当たって「経営者よ、強かれ」を掲げた。2002年経団連と日経連が合併し日本経団連になったのは記憶に新しい。

 2006年版報告は景気の現状について外需・内需が回復したものの地域・業種・規模間の景況感格差が依然として大きいと指摘する。この間の景気回復は経営者・従業員一体の努力の成果であるとし、今後は「攻めの経営戦略」「選択と集中」の必要性を唱える。グローバリゼーション下、企業活動を活発にするためには労使協調・人材力・現場力を高めるなどに付言している。

 M&Aがマネーゲーム化することに懸念を表明している。「人材力の強化とICT(情報通信技術)化推進」「地域経済活性化」「社会保障」「治安問題安心・安全な国づくり」に付言している。経営・労働の課題としては、「人口減少・高齢化社会への対応」「人材戦略」「規制改革・民間開放の徹底」などを上げている。

 「春季交渉・労使協議」については、1支払能力論、2総額人件費管理の徹底、3中長期的見通しに立った経営判断、4短期的業績成果は一時金で、など例年同様の主張を展開している。

 最後に経営者の在り方として、企業倫理徹底のための経営者の自己改革を呼びかけ、それら全体のイメージを「経営者よ 正しく 強かれ」と結んでいる。日経連創立時のものと異なるのは「正しく」が追記されたことであり、経営者自らが企業の社会的責任・CSR(Corporate Social Responsibility)の推進に邁進するという文脈である。

 経営者が正しく強くあってくださるのはおおいに結構だが、その前にくれぐれも忘れず押さえていただきたいことがある。

 社会の健全性の基盤は経済活動である。犯罪はいかなる社会においても壊滅させえないものであるが、企業活動が不健全だと、治安悪化に拍車をかける。企業不祥事・経済的犯罪・詐欺などは、企業活動が健全でないために増加したと見られる。何でもコストという時代に働く人々が「よい仕事」を通して、社会を担っているというような精神状態にならないのは必然である。

 労働基準法が守られているか。経営者の倫理を唱えCSRを掲げるが、企業内部においてすでに遵法精神を無視している。羊頭狗肉・看板に偽りあり。経営者が「お経」を唱えたところで企業倫理が発展するものか。企業を構成するすべての人々が「よい仕事をしよう」という思いで働いてこそである。

 ワークライフ・バランスが崩れている。人口減少に慌てて、出産・育児しやすい条件を整えるなどと言うが、現実に長時間労働・サービス労働・有給休暇切捨てなどが産業界全体を覆っている状況において、出産・育児対策にのみ力を入れても問題解決できないのは当然である。

 「人材力」「現場力」などを削いできたのはこれまでの経営戦略の間違いなのであり、まずこの十数年の反省をきちんと押さえておかなければ、号令をかけても人材力・現場力が向上しないであろう。

 1980年代後半からは無茶な新規採用を展開した。1993年以降はひたすら雇用削減して、とりわけ中高年層を邪魔者扱いした。そして、今度は2007年問題だと騒動する。まさしく一目瞭然、歴史的事実が「人事管理なき企業社会」の惨状を暴いているではないか。

 「経営者よ 正しく 強かれ」というコピーはまあよろしいとして、果たして現在の圧倒的多数の経営者にとって妥当であろうか。指示・指令だけすれば何でも実現すると考えるようなアホな経営者が少なくない。むしろ「経営者よ 人間を見よ」であり、「経営者よ 現場を知れ」である。マクロ景気は回復しても企業体質は惨憺たる状態にありはしないか。



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