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第2話 日常(地獄)の喪失
朝礼の中、何度思ったか分からない言葉をまた反芻した。
「てんめえ、いい気になってんじゃねぇぞ!!」
「あ~らそれはあなたでしょう? 代議士の息子かどうか知りませんが、この私にそんな下賎な口叩いてもいいと思って?」
金髪ツンツン頭の不良と、金髪ツインテールの女が言い合っている。
「なぁにがこの私だ! ただの薬屋じゃねぇか!!」
「ただの薬屋!? 失礼な、この大大手折口製薬の一人娘、折口 麗奈(おりぐち れいな)に向かってそのような暴言……許せませんわっ!!」
「ゆぅるぅさぁなぁいぃ? じゃあどうすんだお嬢様ぁ?」
「くっ……乾、やってしまいなさい!」
その声を聞き、秋葉原にいそうな厚縁メガネの男子が現れる。
そんなこと気にせずに朝礼は続けられる。校長のバーコード黒部 林蔵(くろべ りんぞう)もお定まりの挨拶をグダグダ続け、我が3-A担任の物理教師新木 郎(あらき ろう)に至ってはあくびをしている。
山伏 幸光率いる野球部と、折口 麗奈の取り巻き集団(と言っても戦っているのは乾 叶(いぬい かのう)だけだが)が乱闘していても誰も気にしない。
ここはそんな学校。それが県立燃余(もえあま)高校。表斬(おもてざん)市最低と呼ばれている高校だ。
――やれやれ、やっと終わったよ。
放課後の学校の階段を2段飛ばしで駆け下りる。
こんなとこ早く帰りたいと言う思いが強くて、つい前方不注意をしていた。
「きゃっ!」
「おっと失敬」
下からきた女子にぶつかりそうになった。とっさに急ブレーキしたので衝突は防がれて、そのまま過ぎ去ろうとしたが、
「ちょっと待ちなさい! この無礼者!!」
呼びとめられた。喋り方で誰だか分かる。
――うっわ最悪だ。まずいのに会っちっまった。
見上げてみると、中学生に見える身長に金髪ツインテール。間違い無い。今日の朝礼でけんかしてた女だ。
「人にぶつかっておいて何も言わずに行くとはどういうつもり!?」
ぶつかってもいないし一言言った、などとは言わない。この女には無駄だから。
3-B折口 麗奈。山伏率いる野球部と並んで俗に『燃余高校関わっちゃいけないグループ』の頭角。
いっつも取り巻きを連れて歩いて……ないな。あれ?
「どうかしましたか、麗奈さん」
ああ、いたいた。3-A、つまりクラスメートの藤沢 慶(ふじさわ けい)。スポーツ系を思わせるスラリとした長身にショートカット。だが実際は、
「聞いてくださいな慶! こいつ、人にタックルしてきたんですよ!!」
「まぁ、麗奈さんにそんな乱暴なまねをするなんて、まったく一般人はこれだから……」
――お前だって一般人だろ。このコバンザメ。
嫌らしいほどの口調で、だいぶ膨らました話だと知っていながら驚く振りをしている。だいだい真相は分かっているんだろう。
藤沢は、折口のもっとも近くにいる腰巾着、つまり恩恵を1番手にしている人間。故に嫌われては困るから徹底的に媚びを売りまくる。コバンザメというより寄生虫。
――バカバカしい。ついてけるかこんな連中。
これ以上付き合いたくないと帰ろうとするが、そうは問屋がおろさない。
「ちょっと、どこ行こうとしているんですの!?」
「そうよ、麗奈さんの話は終わってないわよ!」
あー、やだやだ。
「はい?」
嫌々ながらも振り返る。その顔を見たとたん2人は顔をしかめる。
「……ちょっ、ちょっと、なんですのその目つき! この私を愚弄するつもり!?」
「……は?」
――愚弄? してますよそりゃ勿論。うざったくて仕方ないです。はい。
「おい貴様、いったいどういうつもりだ。その目は何だ」
藤沢が詰め寄ってくる。よっぽど軽蔑の目で見られたのが気にくわないらしい。
「的場。貴様勉強もスポーツもダメなくせに、何でそんな目で見る」
「……はぁ?」
――なんだそりゃ。確かに成績だって下の中だし、体力測定も平均より下だけど、そりゃお前だって一緒だろ。
「謝れ」
襟首を掴んで絞めてくる。苦しい……。
「…………」
「謝れっつってんだよぉ!!」
――冗談。
何で俺が貴様ら“ごとき”に謝らなきゃならんのだ?
「……フン」
「……!」
思考が伝わったのか、2人は顔を歪めて憤怒をあらわにする。
「この野郎……」
「ええい、乾、やってしまいなさい!!」
その声に従い、朝礼の時出てきたアキバ系が現れる。
――ゲッ! 犬以下いたのかよっ!?
それまで平然としていた一機の顔に焦りが生まれる。
2-C乾 叶。ひきこもりを思わせる風貌とは仮の姿。実際は少林寺拳法全国大会3位受賞の実績を持つ怪物だ。
だが、折口に下僕のようにしたがっているので、名前をとって『犬以下、能無し』との二つ名を持つ。
――やばい、こいつはやばい。
何度も野球部とのケンカを見物していたので、こいつの強さは十分知っている。格闘技の心得を知らぬ身で戦ったら一瞬で塵になる。
と、その時。
「危な~い」
全然危なくなさそうな声が上からきた。
「? ……うわぁ!?」
ドサッ、ドサドサッ!!
今にも殴りかからんとしていた乾と的場の間に本が大量に落ちてきた。しかも百科事典とか大長編小説とか重くて固いものばかり。こんなの食らったら下手すりゃ即死。
折口も藤沢も、さすがの乾も目を白黒させている。
「すいません落としちゃいました大丈夫ですかぁ~?」
さっきと同じく全然謝っているように聞こえない声色で早口でまくし立てて降りてくる。その正体は、
「お前、間蛇羅っ!!」
「あら、誰かと思えばクラスメートの藤沢 慶さん~。ケガしませんでした~」
さっきからいつもと違う(いつも全然喋らないのだが)すごいのっぺりとした口調で話続けている。間違い無く棒読み。
「な、なにが『ケガしませんでした』ですか! 危うく死ぬところでしたわよっ!!」
「ええ。ですから大丈夫ですかと聞いてるんでございですますなのですよ~。折口 麗奈さ~ん」
滅茶苦茶な敬語でひらりとかわしながら、一機をちらちら見る。
――ああ、そっか。
それほど仲が良いわけではないので信じがたいが、多分それが落とした理由だろう。
「ケガは無いようですますでございようですね~。センセー、大丈夫でしたよー」
見上げながら言ったので、つられて折口達も見上げる。その瞬間的場がすばやく階段を駆け下りた。
「あ、逃げたっ!!」
「ま、待ちなさいこの無礼者っ!!」
誰が待つかとフルスピードで逃げるつもりだったが、1階下に降りて止まった。
「よ、よう的場」
「……先生」
そこに、担任教師新木 郎、朝礼であくびしていた男が立っていたから。
「なんか騒がしいな。来たばっかりだからわからないが、どうかしたのか?」
「……いえ、別に」
――この大嘘つき。自分で最初からいたことバラしてるようなもんじゃねぇか。
大方、関わり会いたくなかったのだろう。ボコボコになる前に出てこようとしたか、大ケガ負って倒れているところを今来ましたよとばかりに現れて抱き起こそうとしたか、多分後者だ。
「そ、そうか? ならいいんだが」
「ええ、それじゃ」
それだけ言うと、逃げる様に走り去った。実際逃げた。1秒もこんなところいたくない。
「フゥ……」
ようやく家に帰ると、カバンを放り投げてベットに倒れこんだ。
それから冷蔵庫を空け、中に入っているリンゴを取り出して、皮付きのままガシュリとかぶりつく。
テレビをつける。ニュースで半年前に消息を絶った自衛隊の事が流れていた。つまんないから消す。
リンゴをかじりながら漫画を読む。つまんなくなって止める。
「はぁ……」
溜め息をまたつきながら部屋を見まわす。
1DK風呂トイレ別。そんな一室には似合わない代物が多い。
テレビは50インチの液晶デジタルテレビだし、ゲーム機は携帯機も含めて最新機はすべて揃っている。パソコンも数10万円する最新鋭機。冷蔵庫も1人暮しには不釣合いなほど巨大。他にも数え切れない。
だが、そのどれもが大して使われていないか、1桁も2桁も安い代物と変わらないぞんざいな扱いをされていた。
ベッドの下から預金通帳を取り出した。
その中には、彼が持つにはあまりにも大きすぎるゼロの羅列があった。そしてそれはどんどん増えていく。
使わないのに高いものを買いつづけるのは、一機のかすかな抵抗だった。
このゼロの羅列を、少しでも削り落としたかったのだ。
だが、そんな抵抗も空しくゼロは増えつづけている。
増やす人間を失ったまま。
「……ったく」
悪態をついて、リンゴをシンクに放り投げるとふてくされるように横になった。
腹立たしいのは、誰でもない自分自身。
そんなこと、一機自身が1番よくわかっていた。
サジタリウス~神の遊戯~
第2話 日常(地獄)の喪失
「ん……んぅ……?」
体中に重みを感じながら目を覚ますと、一機はベッドの中にいた。
――ベッド?
そこで妙なことに気づく。明らかに自宅のベッドとは寝心地が違う。
自分が有り余りすぎる金で買った高級ベッドより、全然感触が良い。
不審に思い起きあがり、寝ぼけた瞳で辺りを見まわすと……
「――へ?」
別世界があった。
自宅より明らかに広い空間。床には高価そうな絨毯が広がっていて、天井にはシャンデリア。壁は石造り。よく見てみると自分が寝ているベッドもキングサイズ。
断言する。こんなの自分家じゃない。
「え? えぇ? え……えぇっ!?」
いきなり違う世界に飛ばされたような事態(正解だが)にパニくる一機。
「どうした、何があった!?」
「へぇ!?」
バターンと、混乱状態のさなかにドアから誰かか飛び込んできた。
「あ……」
思わず見とれた。見た事もないような美女だったから。
折口とは比べるのが犯罪的なほど美しい金髪。サファイヤのような青い瞳。白く輝く肌に人形の様に整った顔。スレンダーな肉体を赤のシャツと紫のズボンというラフな格好で包んでいる。
しばらくボーッと見つめていたら、美女は気持ちが悪くなったらしく、
「え、ええい。何をそんなに見つめている。私の顔に何かついているか!?」
ヅカヅカと一機の傍に寄ってくる。
――うっわ、意外と胸大きい――!
遠めでは気づかなかったが、それは予想外のボリューム(D、あるいはE)を誇っていた。
部屋の異様さも美女が誰なのかも全く考えず、ローレライの虜にされた船乗りのように、ただただ見惚れていた。
「おい、貴様聞いているのか? いったいなにを見て……!!」
美女も一機の視線がどこに向けられているのかわかったらしい。顔を真っ赤にして、
「ど、どこを見ているんだこの馬鹿者っ!!」
バシイィ!!
思いっきり引っ叩かれた。
「あだっ!!」
想定外の大ダメージで、頭を抱えてうずくまる。
「き、貴様、助けてやった恩も忘れて、このヘレナ・マリュースの胸をいやらしい目で見るとは……なんという奴だ!!」
「いたた……そ、そんなこと言ったって俺女がそんな至近距離まで近づいた事なくて……助けた?」
必死に言い訳をひねり出そうとした一機の耳に聞き逃せないフレーズが入った。
「助けたって……誰を?」
「貴様に決まっているだろう! 森の中で倒れていたろうがっ!!」
睡眠からの覚醒と混乱状態だった脳内が整理されていく。
――倒れていた? 森の中で? 家の近くに森なんて……!
「――どうした今度は? おい」
頭を抱え、目を見開いたその姿に、ヘレナも異様な様子を感じ取る。
「――そうだ。帰る途中にあの石を見つけて……それで……」
そして思い出す。
石の中から現れた、ほの暗く、どこまでも自分を飲みこまんがばかりの、あの暗い光を――
「あ、ああ……ああああああああアアアアアアアアッ!!」
「おい、どうした!? しっかりしろ!!」
激しく揺さぶられて、現実に引き戻される。目の前にはヘレナの顔が。
「え……? あ……」
「どうしたんだいったい。なにがあったんだ」
「えと、あの……学校から帰る途中で石を拾って、その石を見ていたら……」
言われるまま説明している途中で、大事な事に気づく。
「なあ、ここはどこなんだ? 表斬市じゃないのかここは?」
この部屋の様子はどう見ても日本のものじゃない。まるで中世のヨーロッパだ。表斬市のような田舎にこんな場所があるとは到底思えない。
それを聞くと、ヘレナは辛そうな顔をして目をそらした。
「……その前に、一つ聞いても良いか?」
「あ、ああ……」
「シルヴィアという土地に聞き覚えは?」
「……いや」
「ならばギヴィン、アエス……グリードは?」
「……ない。そんなの。」
全く知らぬと言うその姿に偽りはないと判断したのか、ヘレナは立ちあがって困った様に頭を掻いた。
「……やはり、『文明の漂流』か。これは問題だ……」
「……文明の、漂流?」
また聞き覚えのない単語が出てきた。いや、どこかで聞いたような……。
「……貴様、名前は?」
「え? ま、的場、一機……」
「ならばよく聞け一機、ここは……」
そこで言葉を切り、腕を組みながらはっきりと言った。
「この世界は、お前のいた世界ではない」
それより数時間前。一機が倒れていた森周辺。
筋肉質の巨漢の男が土色のフードを被ったまま戦乙女の帰っていったほうを向いていた。
「…………」
「フゥ……、なんとか、見つからずにすみましたね団長」
「…………」
返事をしないのに、同じくフードを被った10歳近く年上の男は構わず続ける。この男にとって、この反応は至極当然の事なのだ。
「交渉からすぐに帰ってきてみたら、魔獣とシルヴィア親衛隊との戦闘に遭遇。しかもあのヘレナ・マリュースとは。悪いもんでもついてんでしょうかね、まったく」
「…………」
「ま、見つからなかっただけよしとしましょうや。で、そろそろ聞かせてくれませんか、理由を」
質問が来たので、やっと振り向いた。
「交渉を早引けしてすぐさま基地に飛んでった理由ですよ。勝手がすぎるんじゃないですか? これまで慎重に事を運んできたのをダメにしちまう、てのはないでしょうが。じじい達に怒られますよ」
口調は冗談めかしているが、目には非難の色がある。
「……すまんな。だが、この事は巫女からの告げだったのだ。急ぐ必要があった」
「……巫女? ドロネさまで?」
巫女の言葉に顔色を変える。その意味がなんであるか知らぬほどこの男はバカではない。
「ああ。すぐに戻れと知らせがあった。災厄が現ると」
「それって……交渉の時言ってた奴ですかい? 破滅を招くって……」
「……恐らく」
そういうと、男は口元に手を当てて考え込んだ。一見無能そうだが、実は頭の切れる男。それを十分に知っていた。
「――ヘレナ・マリュースのこと、じゃないですよね。奴が隠れ家近くに来たのは、ただの偶然ですし」
「……偶然、で片付けて良いものか」
「はい?」
「……巫女の予言が示す地に、シルヴィアの守り神が現れた。これが何を意味するか……」
「……追わなくて、いいんですかい?」
しばし考えるが、やがで首を横に振って、
「生身ならともかく、MNに乗っていれば勝ち目はない。MBが使えれば話は別だが……」
「そりゃ無理ですよ団長。ありゃ慣れるのに時間がかかります。整備だってまだまだやらなきゃいけないことばっかりだし、とても動かせません」
横から新たな声が割って入ってくる。
褐色の肌に黒目、ブラウンの髪をバンダナでまとめた活発的な姿から、機械油の匂いがする。手にはペンチが。
「ビビ……お前いつの間にきたんだ?」
「たった今ですよ副団長。それよりドロルの奴がいつまで隠れてりゃいーんだーってぼやいてますよ」
「あのバカ……ちょっとそのペンチでブン殴ってこい」
「はーい」
冗談だと思う命令にもなんのリアクションも無しに明るく実行しに行った。
「まったく……団長、俺らも戻りませんか」
「……ああ」
それだけ言うと、森の中に潜めた隠れ家に向かっていく。
――いずれ会う事もある、か。
荒野の犬神団長、ガッド・ザン。
彼が災厄と出会うのは、もう少し先の話である。
「俺のいた世界じゃ、無い……?」
ついオウム返しをしてしまった。まったくわけがわからない。
「信じられない気持ちもわかるが事実だ。ここはシルヴィア大陸。こんな場所お前の世界にあったか?」
「……いや」
「そうだ。ここはお前のいた世界ではない。全然違う世界なのだ。」
冗談としか思えないが、言っているその顔は真剣だ。
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ。平行世界って奴か? その手の話は嫌いじゃないけど、いくらなんでも無理があるよ……ははっ」
失笑しながらヘレナの顔を見る。見なければよかったと後悔した。目は口ほど物を言い、だ。
「……なんで、どうして、どうやって……そんなバカな事があって……!」
「……どうしてかは知らぬが、どうやってかはわかるぞ」
「……え?」
「これだ」
そう言うと、ヘレナはポケットからなにかを取り出した。それを見てギョッとする。
「……その石……!」
それは、あの時拾ったダイヤのような石だった。
「見覚えがあるのか?」
「道端でその石を拾って……そしたら急に真っ黒な光に包まれて……なあ、なんなんだその石は?」
「これは、アマダスだ」
「……アマ、ダス?」
聞いた事がある。確かダイヤモンドの俗称で、『征服せざるもの』って意味が……。
「この石はシルヴィア全土で見つかる石なのだが、この石には世界を繋ぐ力があるとされている」
「世界を、繋ぐ?」
「そうだ。実は一機、貴様のようなことは決して珍しい事ではないのだ。ここ、シルヴィアではな。」
「……なに?」
「人々はこれを『文明の漂流』と呼んでいる。詳しく話そう」
それがいつ頃から起きているのか、知っているものは誰もいない。
太古の昔からかもしれないし、最近かもしれない。
だが、それは今でもなお続いている。
ある日突然、この世界のものとは思えない『なにか』が現れる不可思議な現象は……。
人々はそれを『文明の漂流』と呼んだ。
それは時に人々に恩恵を与えるものとして敬われ、また時に災厄を呼ぶものとして恐れられている。
現れる場所はアマダスが発掘される場所が多いので、アマダスにそのような力があるのでは、と言われている。
「――で、その『文明の漂流』とやらで俺はここに運ばれた、と?」
「そうだ。『文明の漂流』で運ばれるのは決まっていないが、あまり多くのものや人が来るのは珍しい。……どうだ、まだ信じられぬか?」
「いや、嘘はついてないってのはわかるよ……」
この人の、ヘレナの目を見ればわかる。嘘がつけないタイプだ。
それを聞くと、ヘレナは安心したかのように息を吐いた。
「理解が早くて助かる。それで、2,3聞きたいことがある」
「? いいですけど」
口調を丁寧語に直す。さっきは頭がパニックだったので忘れていたが。
「このアマダスをどうやって手に入れた? お前の世界にもアマダスがあるのか?」
「いいえ、似たような石はありますけど、世界を繋ぐ力なんてないですよ」
「ふむ……」
「……どうかしました?」
ヘレナが怪訝な顔をしているので、思いきって聞いてみた。
「ああ、このアマダスはこれ1つでアマダスの結晶らしいのだが、どうも信じられんでな」
「信じられない?」
「普通発掘されるアマダスは、小さくバラバラになっているか他の鉱石と混じっているかなんだ。こんなに大きなアマダスの結晶は見た事が無い……で、どうやって手に入れたのだ?」
「どうやってって、道端に落ちていたのを拾っただけですが」
「むぅ……」
また黙り込んで考えてしまった。正直こんな状態で沈黙は息苦しい。
「――わかった。質問を替えよう。一機、これを持ったとき何を考えていた?」
「――は?」
質問の意図が理解できず、あんぐりとバカみたく口をあける。
「この石にはもう1つ力があってな。そのものの魂の力、霊力に反応して力を生み出すのだ。主に強い思いなどにな。なにか考えてなかったか?」
「いやそんな、別になにも考えてなんて……」
そこまで言って、ハッとする。
――強い思いに反応する?
あの時、いいやいつも何を考えていた?
今のこの生活が嫌で嫌でたまらない。止めたい。抜け出したい。
こんな退屈な世界、逃げれるものなら――!
「……ああ」
思いっきり脱力してベッドに仰向けに倒れた。すごくバカバカしくなった。
「な、お、おい、どうした!?」
気絶でもしたのかと思ったらしく、血相変えてベッドの前に来た。
「ああ、大丈夫大丈夫。……1つ、聞いていい?」
「え、あ、構わんが、なんだ?」
平気そうに見えたのでなんなんだと考えているようだが、律儀に返事を返してきた。
「元の世界に戻る方法ってある?」
「! いや、そ、それは……」
あからさまに動揺したその様子から、簡単に答を知る。
「――嘘がつけないんだねぇ……ないんだ、帰る方法」
「だ、だからそれは、その……その通りだ」
ごまかしても仕方がないと思ったのか、ため息をついてベットの前の椅子にドサッと腰掛ける。こちらも脱力したようだ。
「あっそ……さて、どうするかな」
完全に力の抜けた頭で思案する。
別世界だとか何とか言っているが、状況的には身寄りもない外国に飛ばされたと同じ。明日からどうしよう。
「どうした、急に黙りこみおって。何を考えている」
「ん……いやね、ああ……あのですね、これからどうしようかと思っていただけです」
スッカリ丁寧語を忘れてたのに気付いて慌てて戻す。その様子に、ヘレナは初めて顔をフッと緩ませる。
一瞬また見とれてしまった。懲りない男だ俺は。
「そう無理して敬語を使わなくていい。これから私たちの仲間になるのだから、余計な気遣いは無用だ」
「え……いや、上下を心得てるだけで気遣いなんて別に……仲間?」
今なんか変な単語が聞こえたような……。
「そうだ。おいマリー、そこにいるんだろう」
「わわわっ!?」
ヘレナがドアの方へ声をかけると、ひどくビックリしたような声とズテンッ! とすっ転んだみたいな音がした。
「な、何でわかったんですか隊長!?」
ドアが勢いよく開かれて人が入ってきた。よほど驚いたのか、すごくパニクってる。
入ってきたのは、茶髪ボブカットの活発そうな女子。年は俺と同じくらいか。栗色の瞳にヘレナと同じくシャツとズボン(青と茶色だが)だが、いかんせん背丈が俺と同じくらい(163cm)で、しかも胸がないので全然色気がない。
「私を誰だと思っている」
「ほえー、隊長相変わらずすごいですねぇ」
「とは冗談で、お前なら絶対覗いているだろうと思ったからだ」
「あだっ」
ギャグ漫画みたくずっこけた。どうやらかなりノリがいいタイプらしい。
「ひどいです隊長~」
「それはともかく。マリー、倉庫に男子用の鎧があったろう。取ってきてくれ」
涙目のマリーを無視して用件を述べる。おそらく日常茶飯事のことなんだろう。
「へ? なんでですか?」
「あとで説明する。すぐに持ってこい」
「――ああ、そういうことですか。了解! ダッシュで持ってきま~~す!!」
ビュンッ! とありえない効果音を出して駆け足で走っていった。ノリがいいどころじゃないなあれは……。と、ふと変な事に気付く。
「なあヘレナ……じゃなかった、ヘレナ……隊長?」
『さん』付けで人を呼ぶのが苦手(というよりやったことがない)ので、とりあえず隊長と呼んでみた。
「ぷ……くくく、あっはっはっはっはっ!」
すごく笑われた。
「だから、仰々しくするなと言っているだろう。それにお前はまだ隊員じゃないのだから、隊長はどうかと思うな。ヘレナで充分だ。で、なんだ。何か聞きたいのか?」
「はあ……あのさ、何で言葉通じてるの? 俺日本語しかしゃべれないのに」
「ああ、それもアマダスの力だ」
はい? またですか?
「人が召喚された記録は少ないが、その者はこちらの言葉がしゃべれたと聞く。どうやらアマダスにはそのような力もあるらしい」
「……アマダスって、なんでもできるんだな」
「いや、人間の制御はほとんど受け付けない。アマダス機関くらいがせいぜいだ」
「アマダス機関?」
また出たよ変な単語。今度はなんだ?
「アマダス機関とはな……」
「隊長、持ってきたですよ!」
その時、ドアが勢いよく開け放たれ、両手に銀色の重そうな物をドッサリ持って。
「な、なにそれ……?」
「見てわからないの? 鎧だよ。おっと」
バランスを崩して、ガラガラと床に落としてしまう。その中には、西洋の兜みたいな物(アーメット)や胴体の鎧(プレートメイル)とか腕の鎧(ヴァンブレイス)、足の鎧(キュイス)などがあった。
「いやいやいや、鎧なのはわかるけど、そんなもんどうすんの……?」
心の奥底で解答が出されているが、必死に消し去ろうとする。なんかものすごく嫌な汗が出ている。
「着るんだよ」
「誰が?」
「あんたが」
「なんで?」
「入るから」
「何に?」
「親衛隊に」
「……はぁ!?」
――親衛隊って何!? 入るって!?
突然入ってきた情報に頭の中がピジー状態になっていたら、マリーと呼ばれた女の「にししし……」という嫌な笑いがした。こいつ、人が混乱してんの見て笑ってやがる!!
「からかうのは止せマリー。さて、では一機、改めて自己紹介しよう」
マリーを諌めながら、ヘレナはすっと立ち上がった。そして、まるで勇ましい王のように言った。
「私の名はヘレナ・マリュース。シルヴィア王国親衛隊隊長だ。的場 一機、お前を我が親衛隊に入隊させる事にする」
…………………………………。
言語把握プログラム崩壊。思考停止。再起動ヲ開始シマス。
…………回復。現状ヲ把握スル……って、
「……はああぁ!?」
「……私は反対です」
ブロンドセミロングの青い瞳の堅物そうなメガネ美女(ヘレナほどじゃない)が、イメージ通りの声を出していった。彼女はグレタ=エラルド。親衛隊副隊長だとか。
その発言に、ヘレナは面倒くさそうにため息をついた。
ヘレナの親衛隊入隊宣言から少しして、副長がやってきて話し合い開始。今はテーブルの前で向かい合って二人は会話している。ドアの外ではわずかなすき間からさっきのマリーを含める多くの女性が(どれもこれも美人)が興味深そうにトーテムポールのようにして覗いている。で、俺はベットの前で所在無く動向を見守っている。
「……そう嫌うな、グレタ」
「いいですかヘレナ様。我々は創設百年の歴史を誇るシルヴィア王国騎士団最強の親衛隊。その長い伝統は生半可な事で生まれるものではありません。それをあなたは何だと思っているんですか?」
「別に私は親衛隊を軽視などしていない。私はただ……」
「いいえ。それならば、我が誇りある親衛隊に男を、しかも『文明の漂流』でやってきたどこの誰ともわからぬ馬の骨を親衛隊に入れるなど愚かな行為、出来るはすがありません」
「……ハンスがいるではないか」
「ハンスはゴールド家がどうしても言うから仕方なく認めた特例です」
「前例があるならいいではないか」
「よくありませんっ!!」
バンッ! とテーブルを叩いた。こっわぁ、この人。
「ヘレナ様、この際はっきり言わせてもらいますが、あなたは栄光ある親衛隊を何だと思っているのですか!? そんなことでは、先代の隊長たちになんと言えばいいか……」
嘆かわしそうに語るグレタに、ヘレナはすごく困ってしまっている。というかかなり失礼なこと言われてるような。
「じゃあ一機をどうしろと言うのだ?」
「知りません」
「え?」
ギョッとした。おいおい即答かよ!?
「王都に連れて行けばいいじゃないですか。それを我々が何かする理由はありません」
「私が拾ったのだ。私には一機の身をどうにかする責任がある」
「だから王都へ行って頼めばいいではないですか。このような男がどうなろうと我々の知ったことでは……」
「……本気で言っているのか、グレタ?」
その時。
一瞬絶対に部屋の温度が下がった。
「――――!」
鋭く、全てを射抜くようなヘレナの瞳孔。
自分に向けられたものじゃないのに、背筋に冷たい電撃が走ったかのようだ。
向けられたグレタはたまったものではない。蛇に睨まれた蛙とはこのことだ。
「今の王都の現状くらい知っているだろう。今一機をあちらに行かせたら、どうなるかわからんぞ」
「し、しかし……」
「案ずるな。シルヴィア王国親衛隊に、『文明の漂流』でやって来た的場 一機なる男はいない」
「「……は?」」
今、初めてグレタと意見が一致した。わけわかんない、と。
「というわけで一機」
「は、はい!?」
いきなり呼ばれてビックリした。しかし本当にビックリしたのはこれから。
「お前名前を変えろ」
「……へ?」
「的場 一機ではバレるんだ。この国風の名前を考えろ」
「……ようするに、シルヴィアのどこかから来た馬の骨ってことにすんの?」
「理解が早くて助かる」
ヘレナに微笑まれた。笑顔綺麗だけどあくどいなあ……。
「名前ったって……そうだな。ハインリッヒ、いや、ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフとでもするか」
フッとその名前が浮かんだ。
「? ずいぶんスラスラ出たな。どう言う意味なんだそれは?」
「俺の名前、だよ。こっちでの」
読んだ時思ったんだ。自分と似てるって。とは言えなかった。
「わからんな。でもまあいい。ではラスコーリニコフ、今日からお前は親衛隊の仲間入りだ」
「ちょっ、ちょっと待ってください。勝手に話を進めないで下さいっ」
強制的に話を終らせかけられたので、あわててせき止めた。
「まだ言うか、グレタ」
「まだ言います。話は終ってません。これ以上親衛隊に男を入れるなど言語道断……」
「……その前に、1つ気になっているんだが、聞いていいか?」
「む? 今度はなんだ、一機……じゃなかった、ラスコーリニコフ……長いな。ロジオンからとってロージャにするか」
さっきからずっと妙に感じていることを聞くチャンスがやっときた。
「親衛隊って、騎士団、だよね」
「そうだ。騎士団の特別上位に存在するのが我が親衛隊だ」
「……騎士団に男が入るのに、なんでそんなに騒いでるの?」
「「……え?」」
今度はヘレナとグレタから変な目で見られた。そんなに変な事言いました俺?
「あなた、何を言っているんですか。親衛隊は通常全員女と決まっています。今は違いますけど」
「……ええっ!?」
女しかいない騎士団!? ありえないだろそんなの!
「一機、お前の世界では違うのか?」
「いやいやいや、今現在騎士なんかいないよ。でも、女騎士ならともかく、女だけの騎士団なんて全然聞いたこと……」
そこまで言うと、グレタは憤慨したかのように赤くなった。
「なにをおかしなことを! 確かに騎士団員はほとんど男ですが、士官クラスは近衛隊を除いて全員が女です!!」
心外だ、とばかりに怒声をぶつけられた。その言葉に理解できない。
「……えええぇ!? うそぉ!!」
おいおい無茶苦茶にもほどがあるぞ! 議員ならともかく、騎士が女って……!
「グレタ、一機の世界とシルヴィアとは常識が違うのだ。そんなに怒るんじゃ……」
「いいえ!! この男が今言ったことは、我ら親衛隊、いいえ、カルディナ神への侮辱と同じ!! 断罪すべき行為です!!」
「いいから落ちつけ。立つな、ダークを構えるな!」
短剣で今にも刺し殺そうとするグレタをヘレナが必死で羽交い締めにする。怖くて手も足も動きません。
「ええい、おいお前ら、グレタ抑えるの手伝え!!」
隊長の声に従い、部屋の外で覗いていた女たち(やっぱ全員女)が飛びこんできた。
フゥ……助かった、ってなんで俺まで押さえつけるー!?
「グレタ副長、どうぞ!」
「ええーーっ!?」
「こんな大ばか者、処刑されて当然! カルディナ神の名の元に裁かれなければなりません!!」
「ちょっ、ちょっと待てぇーー!!」
なんだよそれはぁ!?
しかも俺押さえつけてる奴のほうが圧倒的に多いじゃねーか!!
「お前らもやめんかっ! そんなことで殺してどうする!!」
「そう……よっ! あんたたち、やってることメチャクチャよっ!!」
「いたたた、副長暴れないで下さい! そうです殺しちゃダメですよぅ!!」
バタバタ暴れるグレタを羽交い締めにしている(止めてんのこの3人だけだよ……)が他の隊員の説得をする。この説得が失敗に終ったら俺は死ぬぅ!!
「離して、離して下さいヘレナ様!!」
「こっちも離せえぇぇぇーーー!!」
その悲痛な叫びは、シルヴィア中に木霊したとかしなかったとか……。
台風一過。
「――えー、それでは、本日我が親衛隊に入隊した新人を紹介する。ロージャ、来い」
髪はグチャグチャ、服も所々千切れている隊長の声にしたがって前に出た。
「始めまして。ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフです。どうかよろしくお願いします。」
……………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………しぃ~~ん。
うう、総勢40人の沈黙は痛い……。
あれから数時間。
なんとか騒ぎは終結し、談話室にて隊長権限での入隊に隊全員がしぶしぶながらも納得した。
まぁあまりの乱戦に皆疲れ果てたってのが最大の要因だと思うが……みんなひどい容姿になってるし。
――それにしても、完全女性上位社会とはね……沖縄のノロじゃあるまいし、そんな社会が成立するとは……。
さっきヘレナに説明を受けたが、シルヴィアでは女性中心の社会で、男子の権利はかなり低いのだとか。
政治を支える元老院などの議員ポストは100%女。そりゃ騎士には屈強な男がいいから男が多いが、それでも指揮官は必ず女なんだと。俺のいた世界の中世ヨーロッパとはまるで逆だ。
なんでも、シルヴィア王国全土で信奉されているカルディニス教の神が女だからとか。それで、シルヴィア全体で男子を軽視する傾向があるらしい。
うう……。とんでもないとこ来ちまったな、といまさら改めて事の重大さを感じた。
「まったくお前達ときたら……」
「当然です。皆のこうした反応こそが普通なのです。ヘレナ様、やり直すなら今のうちですよ」
うっわぁ、ものすごく睨まれてるよ。
このグレタ副長は熱心な信者なんだとか。だからヘンなことを言うけど気にするな、ってへレナに言われたけど、こりゃ大変そうだ……。
「ダメですよ副長。もう今更ですよ」
「そうそう、マリーの言う通り。OKしちゃったんだから、現実を見なきゃ」
「黙りなさいっ、マリー、イーネ! どうしてあなたたちまでここに……」
「だって私専属整備士ですもん」
「アタシに至っては普通に隊員ですし」
「口を慎みなさい!!」
二人の馬鹿にしたような態度に苦々しく叱咤。
さっき二人に自己紹介された。整備士が鎧を持ってきたマリー・エニス。隊員がイーネ・ブルーローズ。
――それにしてもこの人、すごいスタイルだな……まるで漫画だ。
そうしみじみと思いながら、イーネ・ブルーローズの肢体(特に胸とか)を凝視した。
歳を聞いたらひっぱたかれたので不明(20代後半と思われる)だが、背丈はヘレナとあまり変わらないのに、胸がずっと大きい。(F、いやG)古い言葉でボン、キュッ、ボンだ。
着ているのは同じシャツとズボンなのに、シャツは胸の部分が大胆にカットされていてちょっと動いたら見えそうだし、ズボンに至っては半ズボン、いや股下から計ったほうが早いくらい短いんですけど。もはや水着。
とび色の瞳と赤毛のポニーテールが目を惹かせ、妖艶さを生み出し、心臓バクバク。
と、そんな目で見ていたら、視線に気付かれたらしく目が合った。
なんかいやらしい笑顔をされてしまった。ぐうぅ……しょうがないだろ、そんなもん見るの初めてなんだから。
「なあに、その目は?」
「え?」
ちょっと目を逸らしたスキにイーネが目の前にいた。いつの間に近づいた!?
「そ、そっちこそなんですかその『ウブねぇこの子胸凝視しちゃって。ちょっとからかっちゃおうかしら』て目は?」
「カンがいいのね君は。わかってるなら話は早いわ♪」
むぎゅー。
「わっ、わあっ!?」
「ああん。そんな激しくしないで。胸が、胸が感じちゃうっ」
「胸が、胸が」って言いたいのはこっちだっ!! なんで抱きつくんだよ!?
あああっ、顔が胸に潰されて、いや胸が顔に潰されて、ええいどっちでもいい!! 大ボリュームに顔をスッポリ覆われて呼吸できませーん!!
「い、い、い、イーネッ!! あ、あなたなんて破廉恥なことをっ!!」
副長が真っ赤になって(見えないので多分)怒っている。怒る前に助けろっ!!
「イーネ、いいかげん止めんか」
「だーってぇ、ハンス君隊長にゾッコンだからからかえないし、ここ女ばっかりなんだもーん。たまには男と肌を触れ合わせたいじゃな~い♪」
「ハンスが私に? なんだそれは……それより放せ。苦しそうだぞ」
「いいじゃないですかぁ。女の胸の中で死ねるなんて男として最高の喜び……あ、あら?」
イーネが気がついたときには、俺は甘ったるい匂いの中男として最高の喜びを堪能していた――。
「……俺の人生、女の胸で窒息死して終わるとは予想外だった……ハァ、ハァ」
「死んでない。そんなことで死んだら末代までの恥だぞ」
「死んでしまえば良かったんですよこんな破廉恥な男」
「だから、もうその辺で止めんか」
死にかけの人間に相変わらずキツイ一言を発するグレタに一喝した。すごく嬉しかった。
イーネの胸の中で気絶したら、グレタ率いる隊員に「この変態、変態っ」とドカスカ蹴りをぶち込まれ意識を取り戻した。痛い……。
「まったく、ホントに失礼ですよね副長ったら」
「そもそも、あなたが原因ではないですか!」
「新入隊員と交遊を深めただけですよぅ」
イーネ、人を殺しかけたくせに悪気0。ある意味尊敬に値する。
「……あの、ちょっと聞いていい?」
2人に聞こえぬようにヒソヒソ声でヘレナに質問する。
「む? イーネのことか?」
「うん……なんか他のヤツとずいぶんキャラ違くない?」
「キャラ?」
「人柄とか、人格とか」
なんか、みんな俺を汚いものでも見るかのような蔑んだ目してるのに、こちらはずいぶんフレンドリーというかなんというか……。
「ああ、グレタは元々王都を騒がせた義賊だったんだ」
「義賊!? なんでそんなのが親衛隊に?」
「捕らえたときに私が誘ったんだ。罪を免除する条件でな。いい腕だったからもったいないと思って。グレタには随分反対されたがな」
「“盗賊なんてっ!!”とでも言ったんだろ? わかりやすいなあ……」
「なに2人で盛りあがってるんですか隊長。で、ちょっと聞いていいですか」
会話が盛りあがり始めたところを、イーネに邪魔された。
「なんだ、イーネ?」
「ロージャ……一機で良いですよねみんなの前では。MNに乗せるんですか? もうエンジェルは余ってないと思いますけど」
メタルナイト? なんだそりゃ。
「ああ、いやそれは……」
「有り得ませんそんなことっ!!」
うわっ、またキレた。
「親衛隊に入ることすら遺憾なのにMN!? 国の品位が問われますそんな事をすれば」
……そんな重大なことなの?
「言い過ぎだグレタ。今はまだMNに乗せる気はない。その前に騎士として鍛え上げなくてはな」
あれ? なんか鼻膨らましてるよ。ひょっとしてそう言うの好き?
「やれやれ、隊長も好きですね。おい一機、あんた地獄見るわよ」
「……えーと、色々聞きたい事あるけど、まず1つ。MNって何?」
「ん? 言ってなかったか? いいだろう。ちょっとついて来い」
ヘレナに言われるまま後についていく。隊員全員もそれにならう。
そして、到着したでかい倉庫みたいなところで見たものは……!
「…………」
「どうした一機、そんな大きな口あけて」
そりゃ口ぐらい開けますよ。だって、
「あ、あの……これは……?」
「MN。我がシルヴィアを守る剣だ」
だって、目の前にあったのは……
「……巨大ロボット……?」
そう。巨大ロボット。
中世の甲冑みたいな風貌をした20mくらいの純白の巨人。
――純白の巨人。
「あ……!」
これ、あのとき見た……。
「お、おいこれ森の中で……」
「ああそうだ。これは私の機体、MNヴァルキリーだ。さっき魔獣と戦っているところを見たのか?」
魔獣……そうだあん時もそんな事を……。
「え……じゃあ俺を助けたのって……ヘレナなの?」
そう言ったら、「なんだこいついまさら何を」って意外そうな顔をされた。
「言っていなかったか?」
「言ってない言ってない言ってない言ってない」
そういやさっきそんな話してたような気もするけど、いろいろあってスッカリ忘れてたっけ。
「ちょっと待ちなさい。ロージャ、さっきからヘレナ様になんて口の聞き方してるんですか!?」
はい? 今度はなに?
「いやだって、敬語はいらんと言われたから……」
「1国の王女に対してそんな不遜な態度、許されると思いで!?」
……1国の王女?
「グレタ、何度言えば分かる。王女は姉上、私は親衛隊隊長。それ以上でも以下でもない」
え? え?
「しかしヘレナ様……」
「王位継承権は姉上にある。私は女王の子というだけだ」
え? ちょっとそれつまり……
「……ヘレナって、王女様……」
「だから違うと……」
「その通りです! 今ごろ気付いたんですか!?」
「……えええぇっ!?」
今日は驚いてばっかだな、とか思ってみたり。
「……だぁ」
部屋に戻り、ベッドに倒れこむ。スゴイ疲れた。
だが別にヘレナにしごかれた(今日はもう遅いから明日、だそうだ)とか副長に怒られたとかじゃない。
ヘンな言いかただが、驚き疲れというやつだ。
「……ありえねぇよこの世界」
ベッドの上にある電気スタンドっぽいものに手を伸ばす。
ボタンみたいなのがついている。ポチッとな。
「……点いたし」
電球から明かりがさんさん。そうこいつは本当に電気スタンド。
「なんで中世ヨーロッパに電気あるんだよぅ……」
何度言ったかわからないセリフを吐く。
電気だけではない。ここシルヴィアは科学の発達が滅茶苦茶なのだ。
電気があってガスがない。無線があって電話がない。水道もあるし(井戸の変形みたいなもんだけど)トイレ(しかも水洗)まである。
そして車や飛行機を作れないのに……
「……なにあの巨大ロボット」
20mくらいの巨大人型兵器。あんなの自分の世界でも作れない。
本当にいびつな世界だ。
「……それもこれも、『文明の漂流』によるものか……」
ヘレナに詳しく聞いた。
『文明の漂流』でやってくる様々なもの。その中には機械類なども多い。
それらの技術を手に入れ流用するので、航空技術に例えるなら紙飛行機からジェット機を作るような無理が可能になるらしい。
「なんか、すごいとこ来ちゃったんだなぁ……」
いまさらながら痛感する。
だが、いくらそんなこと思っても仕方がない。
自分で来たのだ。もう元の世界には戻れない。
同時刻。シルヴィア王国地方都市カルバナ(一機達が今いるところ)倉庫地下。
「――くうぅ、ちょっと休憩っと」
首が大分こってしまった。機械油まみれの手で汗を拭く。
「だいぶ修理できたね。あとは起動テストがしたいけど……」
ここに来てこれを発見してからかれこれ数ヶ月。
王都に戻るときは涙を流して再会を約束したが、こんなにも早くチャンスが来るとは。
「でも、隊長に怒られちゃうだろうな。『こんな騎士道に反するものは認めない』って、副長にも怒られたし……」
どうしようかなと首をひねる。
せっかく修理したのに、これでは宝の持ち腐れだ。
「私MNに乗れないし、う~ん……そうだ!」
ピッタリな人材がいるではないか。今日来たアイツだ。
「アイツを上手くそそのかしてこいつに乗せて、性能を見せつければいくら隊長だって……くふ、ふふふふふ……」
目の前にそびえる鋼鉄の巨人を見ながら、上品じゃない笑みを見せる。
一目で惚れこんだ無骨なフォルム。背中の大砲。これを世に出さずにおられるか。
マリー・エニスの名にかけて。
「え? なにここ? なになに? 今回から次回予告やるから1回目やれ? ええー? まあいいけど。どうも、親衛隊専属整備士マリー・エニスです。で、次回はなんと、ついにアレが出てきます! ……え? あれってなに? やだなあ最初に出てきたじゃないですかアレは。……わかんない? 確かに出番あんまりなかったからなぁ……というわけでこれからが本番! プロローグの謎がついに明らかになる次回、サジタリウス~神の遊戯~ 第3話 『神の矢 来たる』 をどうぞご期待下さい!! ……私の血と汗と涙の結晶がついに日の目を……ううぅ……」
to be continued……
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