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第二話・決意、紅く燃えて
「……それで、輸送の方は問題ないのですか?」
「ええ。機体は全て回収してこちらに保存されていますから。ただ、大部分が破壊されセイヴァーズも匙を投げた代物ですが、よろしいので?」
「構いません。あの機体を我々の手に戻すこと自体に意味があるのですから」
「なるほど。ご心中ご察しします」
どの口がほざくんだか。そう出かかった言葉をウイスキーで胃に戻す。安物バーらしく日本製の安物スコッチで大して美味くない。しかし、スコットランド含むヨーロッパ近辺などがほとんど氷で覆われてしまった現在、ワインすら壊滅したので贅沢は言えない。
地球の制裁事件によって一番の被害を被ったのは間違いなくヨーロッパだった。ヨーロッパはその緯度に反して温度が高い。この原因の一つに暖流である北大西洋海流があったが、大寒波のせいで海が凍り海流を塞いでしまったため、気温低下が他地域に比べ極端に出たのだ。必然、環境が変わったので自然環境に敏感な農業、畜産業は壊滅、というより絶滅と言うべき打撃を受けた。ワインなど望むべくもなく、それどころかチーズもハムもソーセージも、とにかくヨーロッパ産など今の時代存在しない。それら全て他の地域産に変わってから久しい。
などと物思いにふけていたら、横から小突かれた。
「村岡くん、何をしている。資料を出さないか」
「あ、はい、すみません」
あわてて鞄から資料を取り出し、橋場一等陸佐に手渡す。
「申し訳ありません、この者は歩兵科から引き抜いたんですが、なにぶん来たばかりなもので……」
「――その傷、戦傷か?」
傷? と橋場が惚けた声を出して、自分のことだとわかった村岡は少々驚きつつ、サングラスと帽子を被った“交渉相手”に答える。
「ええ、五年前に新――敵兵に負わされたものです。この通り右目を潰されたので実戦からは外されました」
そうか、とだけ言うと“交渉相手”は差し出された資料に目を向ける。その態度にムッとするものを覚えた。
思えば、この傷が自分が転落するきっかけだった。日本解放などと馬鹿なことを騒いだ新日本連合だとか言う連中の戦闘に巻き込まれなければ。こんな傷を受けなかったら。そうすれば――
「――受け渡し方法は?」
「は、万事完了していますよ。廃棄するとして、もう手筈は整っています。後はその日が来れば、ということです」
と、今にも揉み手でもしそうな橋場の態度に怖気が走った。
この男が、二年前『廃絶移民法』の最右翼と呼ばれた男、か。拾ってもらった恩はあるが、あれほど排斥を訴えた異国民に対しこんな軽薄な態度を取られるとさすがに引く。見てられなくなり、ウイスキーをもう一度腹に収めた。
その後どうしてだか今の地位を維持していられるのだから、世渡り術は相当なものなのはわかるが、それでも目の前でこうコウモリ振りを見せ付けられるとつくづく軍人向きではないなと白ける。もっとも、自分が言えたクチではないが。
「――わかった。報酬の方はきちんと通しておく。礼を言うぞ」
「そんなもったいないことを――あれ、今日はもうお帰りになられるので? せっかく――」
「ああ、失礼させていただく」
引き止めようと手を出すが、これで終わりだと無言の圧力をかけられ怯んだところをサッサと行ってしまった。完全に気配がなくなったところで「けっ」と橋場が悪態をつく。
「まったく礼儀というのを知らん奴だ。所詮は田舎者、アマゾンの野獣と変わらんな。なあ?」
様変わりした姿に少し戸惑い、ええと相槌をうつしかできない。わかってはいたが、これがこの男の本質か。
「しかし、いいんですか? こんなことが露呈したら――」
「あん? いいんだよ別に。どうせあんなもの残してたって倉庫が埋まるだけで特なんかありゃしない。あの馬鹿学者だって興味がなくなってこっちに放り投げたゴミだ。それを高く買ってくれるってんなら躊躇する理由などあるまい」
それが貴方一人のポケットに納まらないのなら、とはさすがに言わなかった。それ以前に、俺に口答えする気かという酔った目で睨みつける橋場にはこれ以上は余計なクチだ。
結局この男は自分にとって得なことしか興味が無いし、そのためなら自分を曲げることだって平気でする。いや、こいつに『自分』なんてものがあるのか? 変節や日和見主義も悪くはないが、この男には自我というものが感じられない。あるのはただただ欲望のみだ。
もっとも、信念や不屈の精神なんていう言葉に疲れた自分としては心地よくもあるが……。
「しかし、あんなボロ使って何するんだか……なにが信仰だ、何が神だ。神様が飯くれるのかね。神頼りであいつら負けたんじゃないのか? まったく馬鹿馬鹿しい」
ふと、そんな風に呟いた橋場に村岡は驚いた。わざわざ自分で言うからには、ただのコウモリではなく考えるところがあるのかもしれない。
しかし、そんなことは関係ない。理想も信念も、現実の前では何の意味もない。それだったら自分だって、こんなところで安物のウイスキーなどかっ喰らっていないだろう。
この男もそうなのか? とバーボンを一気飲みする横顔を見つめてみる。こいつも理想に裏切られ、絶望という浅はかな言葉では足りない地獄を味わったのか? 思案してみようとして、それこそ詮無いことと思い直した。
そんなこと知って何の意味がある。この男がどんな地獄を見たなど、自分には関係ない。
こちらはこちらの目的を果たすだけだ。そのためにはどんなことでもしようと決めた。こんなクズに付き従うのも、これから起こることに比べれば大したことではない。ならば真面目になるほうが愚かだ。
「……まあ、福音書がどうとか抜かすやつよりはあいつらのほうがマシだけどな」
と、ポツリと呟いたのには、まあ同意しておく。
GIGANTOMACHIA~巨神戦姫ブレイブノルン
第二話・決意、紅く燃えて
――四月二十二日 夜十時頃
「う、うん……?」
真っ暗闇から光が差してきた。その感覚から、未来は自分が寝ていたことに気がついた。
起きた時から、今自分使っている布団があたしの家で使っているものではないのはわかった。家の布団よりもっとフカフカで、いい匂いがする。これはベッドの感触だ。
(あれ――あたしなんでベッドなんかで寝てるんだろう)
保健室かな? でも今日は部活しなかったような。なんか嫌な感じがしてそのまま帰って、ちょっと海に立ち寄って――
「――!」
そこで全て思い出した。
空から落ちてきた箱、それを襲った怪獣、そして――その怪獣を倒した自分。
がばっと飛び起きる。ぼやけた目の入ってきたのは、見たこともない部屋。
高校とは違うけど、どこかの医務室みたいだ。様々な医療機器に囲まれた清潔そうな部屋。
「……あれ?」
そこで気付いた。自分の服が病院で使われる貫頭衣になっていた。そしてその下は……
「……え、ええ!?」
「ど、とうしたの!?」
思わず叫んだら、誰か部屋に飛び込んできた。
入ってきたのは、スーツ姿の女性だった。長いロングにオシャレなメガネをかけていて、あ、綺麗と思ったけど、すぐにそれどころじゃないと頭を振る。
「あ、あの……ここどこですか。それと……なんであたし下何も着けてないんですか?」
「ああ安心して。着替えさせたの私だから」
「はい!?」
何を言っているのだろうこの人は。いや、それよりもどうしてこの人の目はあたしの身体を嘗め回すようにジロジロ見ているのだろう。ああ、そんな艶っぽいため息出さないで。
「そんなことはともかく、身体は大丈夫? どこか悪いところ無い?」
「そんなことなんですか? あたしの服はどこ?」
「うーん大丈夫そうね。ちょっと待ってて、みなさん呼んでくるから」
「ちょっと待って、説明してくださぁい!」
こっちの制止に耳を貸さず、さっさとその人は出て行ってしまった。また一人になってしまった部屋でどうしたらいいかわからず、とりあずベッドに戻った。
(うう……どこよここ。あたし何があったの? あの怪物とかは全部夢で、病院にでも運ばれた? でも、ここはどう見ても病院じゃないし……ま、まさか誘拐!? そんなあ……ふえ~ん、助けてよう、夕……は、あ、あたし今何を!?)
頭をかすめた男の顔を打ち消そうとベッドの上でゴロゴロ転がっていると、誰かが入ってきた。それも複数。
「あの……どうかしたのかね?」
「え!? あ、い、いやこれは……」
口ごもっていると、「やっぱりどこかおかしいんじゃないの?」と話しかけてきた五十くらいの男性は、隣に居た医者風の人に質問する。医者はとんでもないと首を振ったが、おかしいのはこの状況と思うのはあたしだけ?
「あのー……すいません、ここどこなんですか? あなたたちは……」
と言うと、男性は呆けた顔をすると「説明してないの?」と一緒に入ってきたさっきの女性に声をかける。そういえば……と返した女性に呆れながら、「いやあすまない」とこっちに笑いかけてきた。
「沼口くんが説明してると思ったから、挨拶が遅れてしまったね。私は御剣拓斗、国連直属の神獣研究機関、『御剣機関』の所長を務めている」
最初から最後までまるで理解できなかった。国連? 神獣? 御剣機関? 何一つ知っている単語はない。
すると、御剣さんとやらの横にいた金縁メガネの男性が口を挟んできた。
「ダメですよそんなんじゃ。何の説明にもなってないじゃないですか」
「うん? そうかい? そうだな、すまない」
「私に任せてください。――さて、何から聞きたいかね、須藤未来くん」
真横に座られて、すぐフルネームで呼ばれてどきりとする。最初三十代と思ったけど、近くで見るともっと年は行っているように見えた。若さを感じるのは、全身から出す異様な雰囲気からかもしれない。
「手帳見たんですか、私の」
「ああいや、手帳は無い。だから調べさせて貰ったよ。私達はそういったことが出来る人達、と思って構わない」
つまり、その気になればプライバシーや個人の尊厳を無視できる、と暗に言っている言葉に震えた。国連直属、の台詞が真実だと言うことわからせるためにわざわざこんな話し方をした。形の見えない恐怖を感じていると、「ちょっと、怖がらせないでくださいよ……!」と沼口と呼ばれた女性が間に入ってきた。
「ごめんなさいね。安心して、私達は別に悪い人じゃないから」
今更そんなこと言われても、と後ずさる。て言うかこの人、さっきから潤んだ目でこちらを見つめてるんですけど。
「……沼口くん、私にはむしろ君を怖がっているように見えるんだが」
「いやですよ所長、別に寝ていることをいいことに身体を撫で回したりしてませんからぁ。ふふふ」
「したんだな君。見ろ、あんな怯えて……ああすまない。確かに彼女も悪い人ではないのだが、ちょっと変わっていて……」
ちょっと? ちょっとなの? ものすごくやばいところに連れ去られたのかもしれない。やっぱり誘拐?
そう震えていると、金縁メガネの男性がため息をついて、
「このままじゃらちがあかないな。それじゃあ未来くん、一つ聞きたい。どこまで覚えている?」
覚えているの単語に、自分を覚醒させた記憶を呼び覚まされた。目を見開くと、「覚えていたか」と安堵するような声を誰かが漏らした。
「覚えているなら話は早い。それで色々聞きたいんだがね」
「覚えているって……何がなんだかわからないんですけど。なんなんですかあの化け物は? それにあのロボット……BWでしたっけ、どうしてあたしがあんなものに……」
「BW?」
そう言うと御剣さんとやらが、小さく苦笑した。
「初めて巨神を実戦運用した米軍がつけた名前だ。戦略的人型機動兵器など、センスのない名前だが、彼らにとってはそれだけの価値しかなかったということでもあるな……」
そこで区切った目には、嘲りと哀れみが含まれている気がした。どこかで見たような瞳……
「あの……?」
「すまない。話の腰を折ってしまったな。あれはBWではない。戦姫、と呼ばれているものだ」
「戦、姫……?」
全く聞いたことが無い言葉。ますます混乱する。
「聞いたことが無いだろう。巨神はなし崩し的に公表されたが、戦姫は秘匿されていたから当然だ。……まあ、二十年近く何もわからなかったというだけだが」
「そう卑屈にならないでください。悪いのはあの白夜なんでしょう?」
「あいつは悪くは無いさ。私があまりにも自分勝手すぎただけだ」
どうもあたしは置いてけぼりにされているらしい。勝手に話が進んでいっている。白夜って、あの白夜? この人たちいったい……。
「お二人とも、ですから未来ちゃんが困ってるじゃないですか」
「あっと、悪い。説明がまだだったね。何から聞きたい?」
「……全部」
とりあえずそう言うしかなかった。わからないことが多すぎて優先順位などつけられない。
「全部、か。そうだな。ではまず、君が乗ったあれについて話そう。あれは戦姫と呼ばれるものだ。巨神……BWと同じく、発掘された古代兵器だ。……一応、ね」
一応、部分をやたら強調した。この人はBWに恨みでもあるのだろうか。
「一万年以上前、戦姫はこの地に降臨し、神の獣によって滅ぼされようとしていた世界を救った。そう発見された古文書には記されている。それ以上は、恥ずかしいが私も知らない。そもそも動かせたのも今日が初めてだからな」
「神の、獣?」
「君が倒しただろう? あれが神の獣、神獣さ」
倒した、の言葉にぞくりとする。あの異形の怪物、忘れていたわけはないがそれでも怖いものは怖い。それを自分が倒したのが今でも信じられない。
「――かつて、人が神の知を持っていた時代、世界には大いなる巨神が存在していた」
突然、詩を口ずさむような口調になった。その目はこちらを見ておらず、物思いに耽っているみたいになっていた。
「しかし、巨神の大いなる力に魅せられた人々は争いを行い、世界は荒れ果てた。
神は怒り、自らの従者たる獣を地に放ち、巨神と人々に罰を与えようとした。
神の罰により世界が終わろうとしていたその時、慈悲深き戦姫が地上に降り立ち、獣たちを倒し、世界を救った。
だが戦姫たちは傷つき倒れ、深き眠りに入る――まあ、これが古文書に書かれていたノルンの全てさ」
「ノルン?」
聞き返すと、御剣さんは「ああ」と微笑み、頭を掻いた。
「そういえば言ってなかったな。戦姫のもう一つの名前。勝手に付けた名前だけどね」
「もう一つの、名前?」
そうとも、とそこで区切った御剣さんは、夢見るように遠くを見ながら紡いだ。
「古文書より戦姫は時を象徴しているらしい。それ故私はブレイブノルンと名づけた」
「ブレイブ……ノルン?」
「そうとも。北欧神話における運命の神から名前を付けた。神獣に唯一対抗できる、人類の守護神さ」
理解の範疇を超えていた。そりゃ私が生まれる前からBWはあったから、古代兵器なんていうものは理解しているつもりだった。でも、そんな怪物とか神様なんて……
「ちょっ、ちょっと待ってください、そんなものにあたしは乗ったんですか?」
「ああ、その通りだ」
「そんな、どうして……どうしてあたしが!」
「選ばれた、としか言えんな」
もはや投げ捨てるような台詞に愕然となると同時に、怒りすら覚えた。
「選ばれた――どういうことです?」
「さっきも言ったろう。戦姫は二十年以上前、巨神より早く見つかったものの解析はまるで進まなかった。動かせなかったからだ。それが今日、初めて動いた。いや、戦った。搭乗者を見つけたからだ。つまり君をね」
「そんな……どうしてあたしなんですか!」
「悪いが、それはわからない。戦姫に意志があるのは確かだが、コンタクトできたためしがないんだ」
わからないわからないの一点張り。もはや投げやりと言っていい態度に怒りが頂点に達する。
「そんな無責任な……どうしてだかわかんないけど巻き込まれたって言うんですか!? あたし戦いなんて全然関係なかったのに……!」
「あっはっはっはっは!」
突然、開いたままだったドアから甲高い笑い声がした。今までの誰とも違う声に戸惑う。
「いやいや失礼、立ち聞きしちゃってたよ。しかしなんだね。お嬢さんずいぶん馬鹿だね」
現われた女性の姿にびっくりした。赤毛にボンテージスーツ。どこで商売してる方ですかとは聞けなかったが、それ以前に言うことがあった。
「ば、馬鹿ってなんですか馬鹿って!」
「だってそうじゃないか」と笑いながら言ったその女性は一言、
「戦いに関係ない人間なんていやしないよ。ただ、みんな自分の喉元に銃を突きつけられるまで気がつかないだけでさ」
「……え?」
「この国だって、一見平和そうだけど、実際は今だって海自が不審船を探査していたり空自が監視してたりしてるのさ。派手にドンパチやってなくたって、いつ敵が襲ってくるかわからない。これが戦争してるのとどう違うんだい? 世界中で見たら戦争なんて二十四時間休みなくやってる。ここだけたまたま戦場からちょっと遠いってだけさ。この国だって戦争はやってるんだよ。あんたは、それを理解してなかった。それだけ」
ぐさりと、胸を刺されたような衝撃が走った。
「あ、あたし、あたしは……」
「リヴァルさん、帰ったんじゃなかったんですか?」
遮るように相模が割って入った。
「冗談じゃない。慰謝料貰うまで帰れないね。依頼を偽って危険な目に遭わせたんだ、あの程度じゃ割に合わないよ」
「……わかりました。違約金はお払いします。こちらへ」
そう言うと二人は部屋から出て行き、重苦しい雰囲気だけが残る。
「……確かに、私は役立たずだな。謝るしかない。しかしこれだけはわかってくれ。神獣は、戦姫でしか倒せない。つまり奴らを倒せるのは、この世でもう君だけなんだ」
御剣さんはそこで座ったまま頭を下げた。
「頼む、協力してくれ。戦姫の力が無ければ、神獣によって世界は破壊される。君しか、倒せる者はいない」
下げた白髪まじりの頭を見て、この人はなんて卑怯な人なんだろうと思った。
口調こそ丁寧だけど、これじゃ脅迫じゃない。こちらに選択させる余地なんか与えず畳み掛けてきた。そこまで言われて嫌だなんて言えるわけない。
でも、やっぱり戦うなんて――あの感覚を思い出す。戦姫に乗り込み、怪物を撃破したあの一瞬を。
燃えるような感覚。凄まじい昂揚感。敵が迫ってくる時の戦慄、そして――
ダメだ、やっぱり。怖い。戦うなんて。でも断るという言葉は形にならず、
「……考えさせてください」
としか出てこなかった。
「――そうかい、わかった」
御剣さんは顔を上げると「あとはよろしく」と言って沼口さんに一声かけてから部屋を出た。
突然の事態にどうしていいかわからなかったが、今はただ家に、日常に帰りたいと願って止まなかった。
「……リヴァル艦長はどうした?」
「とっくに帰りましたよ。違約金とやらたっぷりせしめてね」
ずいぶん持ってかれたのだろう、露骨に顔をしかめて相模はコーヒーをすすった。
御剣機関が持つ数少ない研究施設、その中の所長室御剣と相模はコーヒーを飲んでいた。
「だからあんなならず者のようなやつを使うのは反対だったんだ。いくら『ミクロラプトル』が完成していないからって、よりによってバイキングを使うなんて……」
苦虫を噛み潰したような顔をするのも、当然かもしれない。富田と同じ自衛軍出身の相模にとって、バイキングなど敵以外の何者でもなかった。いくら今は国連所属とはいえ、現役時代散々仕事を邪魔された身としては嫌な感情しか抱いていなくて当然だ。
「……まだ、完成しないのか?」
「しばらくは無理ですね。既存艦にある程度改修を加えるだけでよかったアノマロカリスと違って、こちらはほとんど一から作り直したようなものですから」
やはり、戦姫用にと要求した部分が足かせか。正直こんなに早く神獣が目覚めるとは思っていなかった。読みが浅すぎたな。
「それで、どうするんですか彼女。沼口が怒ってましたよ。あれじゃ脅しだって。かなり強引に勧誘したそうじゃないですか」
「――悪いとは思ってるよ。しかし現状で神獣を倒せるのは戦姫しか……スクルドしかいない。手段を問える立場にいないのだ、私は」
他人への思慮が足りない、そう言われれば返す言葉も無い。実際に私は他人のことなど考えずただ己の研究のみを好き勝手やってきた。その結果ある今の私は、とてもじゃないが充実しているとはいえない。五十過ぎて気付くのは、やはり私はただの愚か者なのだ。選ばれてなどいない。
「それなんですがね、教えなくて良かったんですか? 戦姫のこと」
「言っても仕方が無い。当てがないのはスクルドと変わりないのだからな。そんなあやふやなものに頼って戦うようでは話になるまい?」
そこではっと苦笑が聞こえた。小さく相模が漏らしたのだ。冷酷な奴、と笑われたか? そうだろう、実際その通りだ。
「いやはや……研究室からみんな逃げたというのがわかりますな。付き合ってられるかと言いたくなる気持ちもわかる」
「研究室? ――ああ、いいんだあれは。元々注目を浴びるのは嫌いだし、巨神はあまり興味が無かったからな。白夜が持っていってくれて重石が取れた気がしたよ」
二十年前、発見された戦姫は最初、発表は控えられた。社会的影響が大きすぎると判断されたからだ。小さな大学だった母校では有名になるチャンスと教授たちが砂糖に群がるアリの如くこぞって集まってきて、戦姫の研究チームが生まれた。
が、その研究はいくらやってもまるで成果を上げなかった。現代科学で対処できるような存在ではなかったのだ。研究が行き詰まり皆に焦りと憤りが見えた。それで、同時に発見されまだ理解しやすそうな巨神に目が向くのは自然なことだったろう。
私は反対した。今は戦姫解析に力を注ぐべきだと。理由は無いが、非科学的に言って勘がそう言わせていた。しかし教授たちは自分の理解から外れた戦姫を相手にしようとはせず、一人、また一人と研究チームからいなくなり、とうとう一人だけになった。
ここで事件が発生する。白夜が巨神のことを世間に公表したのだ。無論彼一人の功績としてではなく、研究チームの人間や沖縄で探査した者も含まれていた。――たった一人、私を除いては。要するに研究を盗まれたのだが、白夜の発表の後ではそんなこと言っても誰も信じないだろうし、弁護するであろう関係者は全員白夜の味方だった。所詮、自分は嫌われ者だったのだ。
まあそんなことは百も承知だし、戦姫に関する研究は残してくれたのでいいかという気にもなった。ただその後、半強制的に大学を追われたのは困ったが。その後も色々あったが、こうして対神獣機関とやらを作れたのはほとんど奇跡に近い。人生どう転ぶかわからないものだというが本当だ。
「巨神と戦姫、ねえ……私としては違いがよくわからないんですが」
そう呟いた相模を睨みつける。「おお、怖」と言った相模は笑っていた。この男は……と思いつつ、質問に答えてやることにした。
「私もわかっているわけではないがな。知る限りでいいなら答えるが……まあ、違うから違うと言ったところかな」
「は? いや、だからその違いがわからないから聞いているんですけど」
「その質問では逆だな。同じところがわからないと聞くべきだ」
「どういうことですか?」
「つまり、違わない部分がないんだよ」
この男が当惑している姿は珍しいな――笑いをかみ殺し、コーヒーを半分ほど飲むと続けた。
「巨神は、恐らく超古代に発生した先史文明の遺産と思われる巨大ロボットだ。世界中で百体以上発見されたもの全てが巨神と一くくりされるように、その構造には類似点が多い。動力源も同じエデニウムだしな」
「はあ……それくらいは私も知っていますが」
「しかし戦姫は違う。装甲も、内部構造も、巨神とは二頭身であること以外はまったく異なっている。まるでわざわざ逆に作ったかのように類似点が無い」
「――要するに、まったく別の代物ということですか?」
「いいや。動力源はエデニウムとある程度類似した反応を示す。数字で表すなら……62%くらいかな?」
言い終わると、相模は心底呆れた様子でソファーにもたれかかった。
「なるほど。よぅくわかりましたよ」
「わかったかね」
「ええ」
と言うと、座りなおした相模はこちらを向いて苦笑した。
「一言で言うと、何も解ってないんですね?」
「その通り」
さしたる躊躇も無く言ってやった。
「二十年、ただただ戦姫の研究に人生を費やしてきたが、わかったことはたった一つ、自分が何もわからない愚か者であることくらいだ。その間に数少なかった友人は離れ親類からは見放された。もう何も残っていない。ならば仕方がないと何も判明しない研究に没頭するしかないと思っていたが……まさか、自分が生きているうちに戦姫と神獣が目覚めるとはね」
「僥倖ですね、お互い」
お互い、のフレーズに引っかかるものを感じたが、無視することにした。恐らくADによる自衛軍の大幅リストラのことだろう。復帰の道が開けてよかったという意味か。しかしこの男は優秀だと聞いたが……
「それよりも、話しておかなくてはならないことがあります。SE-1のことです」
「SE-1? スクルドが破壊した神獣かね?」
「それはSE-1Aですよ」
御剣は眉をひそめた。Aとはなんだ? いつの間にそんなものが付け加えられた?
「一ヶ月ほど前、日本近海で発見されたSE-1は富田のアノマロカリスの攻撃によって四散しました」
「知っている。40cm砲の直撃を喰らったのだろう? しかしその程度で神獣は死なん。だが今日スクルドが完全に破壊した」
「ええ。ですがそのSE-1は全長約50m、富田と戦闘になったのは約200mです」
「なに……?」
相模が備え付けのディスプレイに画像を出す。上下に並んで映される二体のSE-1は、さながら鯉のぼりの親子だ。
「どういうことだ。神獣の細胞はほとんど不滅だ。死滅しないにしても、まさかここまで小型化するなど……」
「そうです。ですから思ったんですが、この原因は富田が40cm砲の直撃でSE-1を“四散”させたことにあるのではないかと」
「――まさか」
さすがに目を見開いた。そんな馬鹿なことがあり得るとは――いや、神獣にこちらの生物界の常識など通用しない。
「分裂して、四体に分かれたというのか? 不可能ではないと思うが、しかし……」
「私もそう思います。ですから話を伺いに来たのです。RA-1の時には似たようなことはありませんでしたか?」
「――いや、RA-1はほとんど消滅してしまったからな」
RA-1……四年前、初めて確認された神獣。神代の時代の復活を示したその存在が、今の自分を生み出したと言ってもいい。だがあれはもうサンプルも残っていない。細胞単位でほとんど死滅しきっていたからだ。恨まなかったといえば嘘になるが――今となっては彼が消えたのは惜しい。
「今富田に、周辺海域の探査を行わせています。杞憂であると嬉しいんですが……」
「……自衛軍や国連軍は動かせないのかね?」
「我々はまだ公式な機関ではないので、国連を通して自衛軍を動かすようなことはできません。それに国連軍なんて形骸化したものですよ。今我々の手駒は、アノマロカリス一隻だけです」
結局、遅きに失したということか。わかりきっていたが、こうも露骨にやられるとさすがに傷つく。もっとも、それは軍人である相模が一番感じていることだろうが。
「……どうするべきかね?」
どうにもならないとわかりながら、とりあえず言わずにはおれなかった。すると相模は以外にも考え込んで、
「そうですね。じゃあうちの名前でも考えてくれませんか? さすがに御剣機関では恥ずかしいので」
あっさり言ったその様にさすがに凍りついたが、すぐ自分を取り戻した。相模は部屋から出ようとしている。
言われるまでもない。どうせ書類上必要だったから一応付けていただけの名前だ。しかし新に名前を付けるとなると何にすべきか――
「あっと……忘れていた」
「なんです?」
自動ドアをくぐろうとした相模を引きとめ、一瞬躊躇ってから告げた。
「彼女は……須藤未来はどうしている?」
相模と「ああ」と思い出したかのように言うと、
「一旦帰りたいと言っていたので、沼口が送りましたよ。戦闘に巻き込まれて病院に運ばれたという名目で。勿論こちらのことは他言無用と念を押しましたが」
そう言って相模はさっさと部屋を出た。ドアが閉まると、残ったのは自分一人。ソファーに倒れこむと、さすがに自分を罵りたくなった。
本来一番気にすべきこと、戦姫に選ばれた巫女のことを失念していた。自分はどうしてこうなのだろう。目先のことに捉われているわけでもない。かと言って大局を見ているわけでもない。つまり何も見ていないのか。それは違う、と否定する材料も体力も無かった。
馬鹿だな、と幾度と無く行った自嘲をもう一度繰り返した。
――四月二十二日 深夜
着替え(何故か制服ではなく沼口さんが買ってきたという服だった)沼口さんに連れられ、御剣機関とやらの研究機関から離れ病院へと向かった。丁度セイヴァーズとゲルダーツヴァイが戦闘したので、それに巻き込まれたことにして欲しいとのことだった。協力するかしないかはともかく、それはまあ同意した。病院へ向かう車の中沼口さんはただ平謝りしていたっけ。
正直戸惑っていた。十分にも満たない時間で狂わされた私の日常。戦いという関係ないと思っていたものに巻き込まれ、世界という実感のなかったものを守らなくてはならなくなった。理解しろというのが無理がある。
――関係ない、か……
思い出されるのは、やはりあのボンテージ女の言葉。全く持って言うとおりだった。この国が戦争しているということも、どこかで誰かが死んでいるというのも、自分は考えないで生きてきた。今大抵国内産で補っているとはいえ、今自分の纏っている服の中には、戦争が起こっている地域で作られたものがあるかもしれない。
確かに、戦争に関係ない人間なんていない。今日あたしが喉元に突きつけられただけのこと。それだけだ。
(でも……あたしは戦わなくてはいけない。あの化け物たちと)
それこそ冗談ではない。いきなりそんなことを言われて「はい戦います」なんて言う方がおかしい。いくら幻想だったとはいえ、あたしは戦いなんかと何も関係なかったんだ。それをあんな一方的に戦えなんて、身勝手すぎる。
でも、それでもやらなきゃならない。選択肢なんてない。あの人は暗にそう言っていた。卑怯だ、あんな言い方。優しく言っているようでどこまでも残酷で自分のことしか考えていない。怒りを通り越して呆れた。だけど――それでこの話が真実なんだと理解できた。
心苦しさが感じられた顔。あの人も自分の行いに納得してはいない。でもあんなことが言えるのは、言った言葉に何一つ嘘がないからだろう。神獣という存在がいることも、それが戦姫しか倒せないことも。そして戦姫があたしにしか動かせないことも。どうせならただ身勝手な大人と憎めればいいのに、どうしてこんなことに気付いてしまうのだろう。
どうしていいかわからない。違う、どうするのかなんて決まっている。でも嫌だ。そんな気持ちが荒れ狂ったまま治まる気配がない。沼口さんが帰って一人きりの病室ではその寂しさも手伝って一際だった。
すると、ドアに気配がした。何人かがドアの前に立ったみたいだ。
「ちょっと未来大丈夫!? 戦闘に巻き込まれたって聞いたけど!」
「怪我したか! ミサイルでも命中しなかったよな!」
「馬鹿ですか叶。ミサイルなんか命中してたら死体も残りませんよ。気絶しただけって言ってたでしょう」
部屋に入るなり大騒ぎだ。茜と叶、華子の三人が飛び込んできた。一人ぼっちから解放されてまずホッとする。
「ああみんな、大丈夫大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから、戦闘に巻き込まれたってのも大したことじゃないし。あたしったらどうしちゃったのかな、あはは」
そう力なく笑うと、何故か三人ともから怪訝な顔をされた。
「み、みんな、どうしたの?」
「いや、どうしたのって……ねえ?」
「なあ? なんか……」
「どうしたのはこっちの台詞ですよ。未来さん、貴方人変わってますよ」
「え?」
思わず自分の身体を見回す。あの戦姫に搭乗した影響でどこか身体に変調でも? だけど沼口さんは何も異常ないって……
「そういうことじゃなくてですね、人が変わってるって。久しぶりに聞きましたよ未来さんが『あたし』なんて言ったの」
言われてから初めて気付いた。そういえばいつの間にか言っていた。あの日以来、ずっと封印していたつもりだったのに。
「ねえ未来、何かあったの? あたしとかは知らないけど、変よ貴方」
「そう、かな? そう思うの、茜?」
「……うん、ちゃん付けじゃなくなったし」
「あ、あはは、はは……」
力なく笑う。ますます変な顔をされたけど、愛想笑いをするしかない。
鋭い華子や叶はともかく、茜にまで見抜かれるとは。やっぱ疲れてるのかなああたし。別に自分を偽ってたわけじゃない。ただもうちょっとおしとやかに、花のようになろうとしただけだったのに、こうも簡単に化けの皮が剥がれるなんて。泣きたくなってきた。
ふと、廊下を走る音がした。ずいぶん慌てているようでドタドタ盛大に鳴らしている。
「誰だろ、こんな夜中に」
「ひょっとして夕じゃないですか?」
「え? 夕来るの?」
「うん、さっき来る途中電話したから。そろそろだと思ったけど」
気付かないうちに何故か顔がほころぶ。叶と華子が渋い顔をした。
やがて足音はこちらを通り過ぎ、また戻ってきた。音が止まると同時に勢いよくドアが開かれる。
「なんだよおい、びっくりさせやがって。怪我したならまだしもどうして倒れただけで病院行きなんだよ。お前みたいなやつが病院のお世話になるなんて……」
異様に高い声の軽口は、こちらと目が合った途端途切れた。何とも言えない顔をした後、目を逸らして行ってしまった。
「ちょっ、ちょっと夕!?」
あわてて茜が追っかけていった。呆然と取り残されるあたし達。
どうしてしまったんだろう。そんなにあたしは情けない顔をしていたの? 嫌われてしまったんじゃ……
「未来さん、気にしちゃダメですよ。あいつ、今の今まで神奈川中走り回ってたんですから」
「え?」
「茜が言ってたんだよ。夕方、お前がいなくなったって連絡したら飛び出していっちまったてな。今までずっと探してたらしいぞ?」
探してくれていた……そのことに素直に嬉しくなると同時に、少し顔が赤くなってしまった。
そこで二人とも渋い顔をしたのに、未来は気付けなかった。
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