Once upon a time, there was a little girl who lived in a village near the forest. (昔々、森の近くのとある村に、小さな女の子がいました)
Once upon a timeはご存じのように昔話の冒頭の定番表現「昔々…」であるが、ここでtimeは「(それなりに区切りのある)時代」を指しているので、「とりあえず特定されていない、『とある』時代に」ということで a time でよい。a little girlは当然、初出の「とある女の子」。a villegeというのも、どこか特定はしないけれど、そこらにいくつかある村のうちのとあるひとつの初出。だがthe forestは、その地域や生活圏内にある森ということで初出でも一応限定されるのである。
Whenever, she went out, the little girl wore a red riding cloak, so everyone in the village called her Little Red Riding Hood. (その少女は出かけるときはいつも、赤い乗馬用マントを身につけたので、その村の人は皆、彼女を「赤ずきんちゃん」と呼びました)
"Remember, go straight to Grandma's house," her mother cautioned. "Don't dawdle along the way and please don't talk to strangers! The woods are dangerous." (「いいかい、まっすぐおばあちゃんのうちに行くんだよ」お母さんは言い聞かせました。 「途中でぐずぐずしちゃいけないよ。それに、知らない人とはしゃべらないでおくれ。森は危ないからね」)
"Don't worry, mommy," said Little Red Riding Hood, "I'll be careful." But when Little Red Riding Hood noticed some lovely flowers in the woods, she forgot her promise to her mother. She picked a few, watched the butterflies flit about for awhile, listened to the frogs croaking and then picked a few more. (「心配ないわ、ママ。私、気をつけるわ」と赤ずきんちゃんは言いました。ところが、森で可愛い花を見つけたとき、赤ずきんちゃんはお母さんとの約束を忘れてしまいました。花をいくつか摘み、そのあたりをひらひら飛び回るチョウチョをしばらく眺め、カエルがゲコゲコ鳴いているのに耳を傾け、それからまたもういくつか花を摘みました。
Little Red Riding Hood was enjoying the warm summer day so much, that she didn't notice a dark shadow approaching out of the forest behind her... (赤ずきんちゃんはその暖かい夏の日をとても楽しんでいて、背後の森からとある暗い影が近づいてきていることに気づきませんでした)
the warm summer dayも当然、そのおばあちゃんちに出かけた特定の日のことを指しているので問題ない。 そして、a dark shadow~ は、非常によく典型的に「a」のキモチを表している。つまり「アナタのまだ知らないなにかが、ほら、ここに出てきましたよ~」というキモチ。
Suddenly, the wolf appeared beside her. (突然、そのオオカミが彼女の脇に現れ出ました)
ここにはちょっと違和感がある。いきなり出てきたオオカミだからa wolf となるのがしかるべきであろうかと思われる。だがたぶんここは、その前に出てきたa dark shadow がすでに「その」オオカミのことを暗示しているというキモチが強いのだ。ここのtheには「とある暗い影の主であるそのオオカミ」という意味があるのだと思う。
"What are you doing out here, little girl?" the wolf asked in a voice as friendly as he could muster. (「ここで何をしているのかな、お嬢ちゃん」 オオカミは、ありったけの優しげな声で尋ねました)
ここにも違和感がある。a voiceだ。冠詞の問題というより、voiceが「可算名詞」であるということが日本人の感覚としては分からない。けれどvoiceはたしかにまごうかたなき可算名詞で、 a voiceとなったり複数形のvoicesとなったりしている。単数になる場合は「ひとりの人間(ここではオオカミだけど)の、とある調子の、一連の発声」を指しているらしい。このことについても後ほど加算・不可算をとりあげるときに考えてみたい。
また少し略す。先回りしたオオカミはおばあちゃんを呑み込んでしまった。 A few minutes later, Red Riding Hood knocked on the door. The wolf jumped into bed and pulled the covers over his nose. "Who is it?" he called in a cackly voice. (数分後、赤ずきんちゃんがドアをノックしました。オオカミはベッドに飛び込み、鼻の上まで布団を引き上げました。「だれだね?」 彼はかん高い声で呼びかけました)
jumped into bedのbedにはtheがついてもおかしくないとは思う。だがとりあえずフェイクではあっても「寝込んでいる」(ふりをする)ためにベッドに行くなら冠詞はいらないことになる。the door やthe coversのtheはしつこいようだが前後関係から具体的に指しているものが明白だからである。以下この手のtheについては言及を省く。a cackly voice(かん高い声)にはまたaがついているが、さっきはこのオオカミはa friendly voiceを使っていたので、また別の声色なのだ。1人(1匹)でもいろいろなvoicesを持っているのである。
また少し省略。オオカミと赤ずきんちゃんのしばしのやり取りの後。
Almost too late, Little Red Riding Hood realized that the person in the bed was not her Grandmother, but a hungry wolf. (ほとんど遅すぎたのですが、赤ずきんちゃんはそのベッドに寝ている人が、おばあちゃんではなく、お腹を空かせたオオカミだということにやっと気づきました)
the bedは、単に寝ている、ふせっている機能を問題にしているのではなく、「目の前のそのベッド」と特定しているキモチが強いのでtheが出てくる。 a hungry wolf ・・ここまでwolf にはずっとtheがついていたのに、ここで a ? 「初出のモノにはa、それ以降はthe」と機械的に覚えていると、「おかしい!」と思ってしまう。だがここでは、赤ずきんちゃんからの視点になって「自分がそれまで知らなかった存在が、出てきた!」というキモチなのである。