まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2022.04.09
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すでにいろんなところで言及されてますが、
カムカムの成功要因は、大きく以下の3つ。

1.三世代のヒロイン交代がうまくいった
2.謎解き/考察系ドラマとしての側面をもっていた
3.歴史パロディや自己パロディの小ネタが共有された


さらに、
評価すべきポイントとして、

4.女性描写の批評性
5.戦争描写の批評性


…が挙げられます。


これらを、すこしくわしく分析します。


1.三世代のヒロイン交代

わたしは、16年前に、
このブログで「朝ドラの成功セオリー」を提唱したことがあります。

その要点は以下のとおり。

2.原作にもとづいて豊富なエピソードを確保する。
3.新人ではなく実績のある女優をヒロインに起用する。
※くわえて「脇役にイケメンを起用する」のも重要と考えていました。

これは、
当時の「純情きらり」を基準に考えたものでしたが、
そのセオリーは、のちの「ゲゲゲの女房」にも当てはまっていた。

しかし、近年は、
原作なしのオリジナル脚本でも、
けっこう良質な朝ドラが作られるようになっています。

そして、今回のカムカムは、
上記のセオリーを「半分守って、半分破った」形になりました。

つまり、

実績のある女優を起用したことはセオリー通りだけど、
原作のないオリジナル脚本で、
ヒロインを世代ごとに交代させたのはセオリー破りでした。

とりわけ三世代のヒロイン交代は、
朝ドラ史上初めての、かつてない試みでした。



当初は、
ヒロインを交代させることが不安視されていました。

わたし自身は、この試みについて、
「萌音を長期間拘束できないための苦肉の策」
だろうと見ていました。
※萌音は年明けに「千と千尋」の舞台が決まっていたから。

しかし、実際はそうではなかった。

むしろ、
ヒロイン交代にこそ本作の核心があり、
そこにこそ物語の積極的な意義があったのだろうと思います。



従来の朝ドラでも、
子役から成人役への俳優の交代は通例だったし、
おしんのように3人の女優が交代する例もあったので、
視聴者は、意外に俳優の交代そのものには慣れていました。

しかし、
今回はたんなる俳優の交代ではなく、
主人公そのものが代わってしまうわけなので、
下手をすると、ヒロインが代わるたびに、
視聴者が離れてしまうことも危惧されました。

しかし、結果的は逆でした。

視聴者は、ヒロインが交代しても、
ひとつ前の世代のヒロインへの関心を失わなかった。

それどころか、
安子編での「娘への関心」が、
るい編では「娘と母への関心」に変わり、
ひなた編では「娘と母と祖母への関心」に変わり、
ヒロインが交代するたびに視聴者の関心が倍増していきました。



2.謎解き/考察系ドラマの側面

こうしたヒロインへの関心を支えたのが、
なんといっても、物語に内在する「謎解き」の要素でした。

とりわけ初代のヒロインである「安子の謎」は、
物語の最後まで視聴者を引き留めることになりました。

逆にいうと、
それなしにヒロイン交代が成功したとは考えにくい。

ちなみに、近年は、
考察系のサスペンスドラマがとても人気です。
SNSでの考察合戦が、視聴者の関心を増幅させるからです。

カムカムは、
サスペンスドラマではなかったけど、
祖母の人生にかんする謎を終始引き延ばしたので、
まるでサスペンスのような考察合戦をSNSに巻き起こし、
日に日に伏線回収への期待を高めることになりました。



3.パロディの小ネタ共有

近年は、
(たとえばクドカンの「あまちゃん」が典型的ですが)
小ネタやパロディを散りばめたドラマも人気です。

マニア心をくすぐるような小ネタはSNSで話題になるし、
「どこにどんな小ネタが隠れているか」を探すこと自体が、
ある意味では、ひとつの考察対象になるからです。

今回のカムカムに散りばめられた小ネタは、
たんなるパロディではなく、
ことごとく歴史の「記憶」にかかわるものでした。

それは、
桃太郎伝承についての記憶であり、
ラジオや映画の歴史についての記憶であり、
あるいは「月光仮面」「暴れん坊将軍」やら、
もしくは「泳げ!たいやきくん」「だんご三兄弟」やら、
NHKの歴代の朝ドラやら、…といったテレビの記憶でもあった。

また、安子編は、
戦前・戦中を描いた過去の朝ドラや、
映画「戦場のメリークリスマス」や、
アニメ「この世界の片隅に」のパロディでもありましたが、

それは、
ひなた編の川栄李奈が、
こうの史代原作の「夕凪の街・桜の国」に出演していたことにも、
通奏低音のように響き合っていました。



その一方で、

たとえば「初代モモケン」や「ケチベエ」のように、
ドラマ内で視聴者に共有された "架空の記憶" にかんしても、
それを反復すること自体が、ある種の小ネタになっていた。

いわば自己パロディです。

しかも、
たとえばトランペットを吹けなくなったジョーの病気は、
このドラマの音楽を担当した金子隆博をモデルにしていましたが、
終盤では、そのジョーがカムカムの音楽の作曲をしはじめたり、

それがテーマ曲として使われた、
ひなたが講師のNHKラジオ英会話では、
カムカムの物語それ自体が教材になっていて、
それを朗読したのがビリー(城田優)だったことによって、

それまで視聴者が見てきたドラマの内容そのものが、
あたかも「ひなたの英会話講座」だったように反転して見えた。

ついでにいえば、
アニー(森山良子)が安子であると判明したことで、
その息子が「アルデバラン」を作曲したかのようなメタ構造にもなった。

いわば、
カムカムのなかでカムカムが作られて、
そこで作られたカムカムをいまTVで見ている…みたいな、
入れ子状態の、ドロステ効果的な自己言及パロディになっていました。



4.批評的な女性描写について

…ところで、

三世代のヒロインを、
こうした大きな歴史のなかで描くという試みは、
3つの時代の類型的な女性像を、
対比的に浮かび上がらせることにもなりました。

つまり、

10代で結婚と出産をし、はやくから経済的にも自立し、
戦前・戦後の激動期を生き抜いた「祖母世代」の太くて逞しい人生。

挫折と波乱万丈を繰り返しながらも、
高度成長期に自己実現を果たした「母世代」のしなやかな人生。

晩婚化のなかで恋愛も仕事もうまく進展せず、
長いモラトリアム期間を過ごした「娘世代」の自分探しの人生。


こうした時代ごとに違う女性像をくっきり浮かび上がらせたのも、
この作品のユニークな成果だと思います。



このドラマは、
100年の謎を解く「ファミリーヒストリー」であると同時に、
3人の女性それぞれの「個人の物語」でもありました。

過去のNHK朝ドラには、

魔性の女・桜子 (純情きらり) とか、
あばずれ女・純 (純と愛) とか
自己中女・鈴愛 (半分、青い。) とか、
サバイバル女・喜美子 (スカーレット) とか、

古典的なヒロイン像をくつがえすキャラが定期的に現れていますが、

そんななかでも、
娘を捨てた女・安子 (カムカムエヴリバディ) は、
もしかしたら朝ドラ史上最大のヒールだったかもしれません。


娘を売り払った男が "朝ドラ史上最悪の父親" と言われました。
やはり大阪放送局の制作。


そのような女性像をあえてヒロインにすえた果敢さと、
その人生について考えさせる物語だった点でも、
このドラマは有意義だったと思います。



5.批評的な戦争描写について

このドラマは、
「あんこ」「英会話」「ジャズ/映画」 の物語でした。

それはちょうど、
「安子」「稔」「ローズウッド」 の位置づけに対応していて、
つまりは、日米関係という背景を基礎的なテーマにしています。

悲劇の発端は、
日本と米国との戦争であり、
さらに戦後の占領政策が事態をこじらせたのだから、

諸悪の根源は米国だったと見ることもできるけど、

もともと米国文化を好んだ亡き祖父=稔の悲願は、
「世界が平和的に結ばれること」であり、
けっして米国を憎悪することではありませんでした。

そうした祖父の願いは、
三代にわたって受け継がれただけでなく、
もともと米国文化に関心がなかった弟の勇でさえ、
最後には「野球=ベースボール」で米国に繋がります。

もしも、物語の終盤で、
稔にそっくりの雉真昇が登場し、
「ジーンズ」の生産に乗り出す様子が描かれれば、
そこでもまた日本と米国の文化は結ばれたかもしれません。
(かえすがえすも、なぜ昇を登場させなかったの?)



そこで注目されるのは、
脚本家の藤本有紀が、くりかえし、
大島渚の「戦場のメリークリスマス」を引用したこと。

欧米の行事であるクリスマスに、
このドラマが複雑な意味合いを与えただけでなく、

この物語の設定が、
あの映画のなかでの、
「ビートたけし」「坂本龍一」「デヴィッドボウイ」 の関係に、
重ね合わせられていた可能性があります。

今後、このドラマは、
そうした面から言及されることになるはずです。




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最終更新日  2024.06.20 06:41:56


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