颯HAYATE★我儘のべる

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高天の観察日記 16~17 番外付



僕は手に入れた電話番号を慎重にプッシュした。

『HELLO』

突然、聞こえた英語に驚いたが、僕だってこれくらいは知っている。

「ハ、ハロー。えっと・・・モリダー・プリーズ。」

『―――モリダー?』

モリダーだけじゃわかんないのかな? やっぱり、二人はコンビだから一緒に名前を言わないとわからないのかもしれない。

「モリダー&スキリー、プリーズ」

僕はすっごくわかりやすく、一語一語丁寧に言った。絶対これで伝わったはずだ。

でも・・・なぜだろう、電話の向こうで微かな笑い声がしているような気がする。

『―――オー、モリダー&スキリー、OK、OK!』

電話に出た男性は、陽気にOKを連発した。通じたんだ!!!

しばらく待っていると、また男性が出てきた。

『―――HELLO』

―――もしかして、モリダー捜査官!? 僕は緊張した。

「モ、モリダー捜査官ですか? 僕は道明寺高天です。英語しゃべれないから・・・日本語でお願いします。」

『―――OK。高天、初めまして。どうかしたのかな?』

彼はすぐに日本語に切り替えてくれた。―――でも、このモリダー捜査官の声って誰かに似ている気がするけど。

「あ、あの、カンっていう宇宙人が僕の家にいるんですっ!!!」

『―――え?』

「だから・・・カンっていう宇宙人が僕の家にいて、家族を操っているんです。助けてください。」

『えっと・・・どういうことかな? 宇宙人が君の家にいるの?』

「うんっ! そうなんだよ、お父さんはすでに操られているんだ。」

僕がそういうと、なぜか電話の向こうでクスリと笑うような音がした。

『君のお父さんが宇宙人に操られている!? それは大変だっ! どういうことか詳しく話してくれないか?』





僕は最初からすべてを話した。あのお父さんとお母さんのキスを観察日記にしようとしたことから、僕が吸血鬼(宇宙人)退治をしようとしたことまで。

随分と時間がかかったけど、彼は静かに僕の言うことを聞いてくれた。

「だから、うちの家族はカンっていう宇宙人に操られているんだよ。」

『―――それは、まだわからないよ。』

わからない? お父さんも実は操られていないとか!?

「え、でも・・・お父さんはなぜか僕のことがよくわかるんだよ。おかしいよ。

きっとカンに操られているから、不思議なことができるんだよ。絶対にそうだよ!」

僕がそう言うと、電話の向こうでクックックという小さな音がした。―――何?

『ち、父親っていうのはね・・・息子のことは何でもわかるものなんだよ。』

え~っ!? そんなの嘘だ。 それじゃ、お父さんはお兄ちゃんのこともわかるの?

そんなことはないと思う。だってこの間、お父さんがお母さんに言っていたもん。

(「アイツは誰に似たんだ・・・榊の考えることはよくわからねぇな。」)

だから、きっと彼の言うことは間違っている。僕がそう言うと彼はなぜか・・・笑った。

一瞬だったけど、絶対に笑った。 僕は真剣に悩んでいるのに・・・絶対に笑った。

「―――今、笑った?」

僕がそう言うと、彼は慌てたように返事をしたんだ。

『笑うわけないじゃないかっ! 僕も君の言うことを真剣に考えていたんだよ? 何かブツブツ言ったかもしれないが笑ったりしないよ。』

本当かな・・・。僕は疑わしげに問いかけた。

「ホント?」

『本当だとも!』

―――やっぱり、この声って誰かに似ている気がするけど・・・わかんない。誰だろう。

テレビで聞いたモリダー捜査官の声とは違う気がするんだよね。

「―――スキリー捜査官もそこにいるの?」

『・・・スキリー??』

「モリダー捜査官の相棒でしょ。そこにいるの? 僕、スキリー捜査官にも聞いてみたい。」

『・・・』

「かわってよ!」

本当にこの電話はFBIに繋がっているのかな? もしかしたら、今しゃべっているヤツこそ、カンかもしれない。

しばらく彼は無言で考えていたが、やがて「わかったよ」と言って彼女となんだか話しているようだった。

『高天くん?』

受話器から聞こえる女性の声。スキリー??

『話はモリダーから聞いたわ。私も・・・カンは宇宙人とは関係ないと思うわよ。』

えええっ!? そうなの??

「でも、お父さんは操られているんだよ。」

『モリダーの言うように、父親は息子のことがよくわかるのよ。』

「そんなことないよ。お父さんはお兄ちゃんのことがよくわからないって言っていたし。」

『え・・・榊のことが?』

―――僕、お兄ちゃんの名前・・・教えたっけ?


ううん!! 絶対に教えていないっ!!!! どうして名前を知っているのっ!?

僕は恐怖に体が竦んだ。もしかしたら―――

考えたくないことが頭に浮かぶ。

カンだ―――――。

ということは西田さんもカンに操られているってことだ。嘘の番号を教えたんだ。

「―――お前たち、カンだなっ!!!! くっそぅ~!!!!」

僕はそう叫ぶと受話器を勢いよく落とし、電話を切った。

切る寸前にスキリーが僕の名前を呼んだ気がしたけど、気にしなかった。

だって彼女は本物のスキリーじゃない。カンの仲間なんだから―――。

FIN




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■高天の観察日記 モリダーとスキリーの正体■

「高天ぼっちゃんのご相談は何だったのでしょうか?」

電話が切れるなり、秘書の西田が聞いてくる。

まだ小学1年生の高天がFBIに電話したいと言ってきたのだ、誰でも気になるだろう。

「・・・・ププッ!!! それがな・・・お父さんが宇宙人に操られているから助けてほしいそうだ。」

「―――は?」

「だからな、司がカンという名の宇宙人に操られて、道明寺家の危機らしいぞ。」

西田は訳がわからず、眉を寄せている。それが当然の反応だろう。

「・・・それにしても、高天はいったい何を考えて・・・」

彼女もいきなり電話を換わられて、事情がよくわからないようだ。

私自身、高天の拙い説明を聞いてもいまいち理解できない。

なぜ、そう考えるのか・・・高天の思考回路は理解できないが、おもしろい。

司のときには感じることのできなかった子供の成長というのは、こういうものかもしれない。

英は孫のおもしろい思考回路に笑いがこみ上げてくるのを抑えることができず、また吹き出した。

「あ~、高天は誰に似たんだろうな。まったく、勘を宇宙人とはね・・・」

「カンが宇宙人っていったいどういうことですの?」

楓は未だにわけがわからず、キョトンとしている。西田も同様だ。

実は、西田は今NYで楓の秘書として仕事をしている。普段はなかなか一緒にいない英と楓の夫婦が今日はたまたま一緒にいた。

西田はそれを利用し、高天にNYにある総裁室の電話番号を教えたのだ。

事情は簡単に説明し、英も高天の電話に興味を持ち、すぐさまモリダーのふりをして電話にでた。

しばらくすると、楓も総裁室にやってきたのでスキリーのふりをさせたというわけだ。





英は笑いを堪えながら、一部始終を楓と西田に説明した。

「ああ・・・つまりテレビドラマの登場人物に相談しようとしたわけなのね?」

「そうだな。勘を宇宙人だと思い込んで・・・なんでもニンニクと十字架で司を守ろうとしたみたいだぞ。」

「―――ニンニクと十字架ですか・・・それは・・・」

「吸血鬼と混ざってしまっているな。ま、6歳児のやることだ。」

英はニヤニヤしながら、楓と西田を意味ありげに見た。

「道明寺家の危機だそうだぞ・・・どうしようかね。」

「まあ・・・それは大変ですわね。」

二人は孫の微笑ましい考えにニッコリと顔を見合わせた。 

今、高天は自分で必死に考えて家族を守ろうとしている。勘違いを正してやるのは簡単だが、ここは自分で気がつくまで放っておくべきだと判断した。

高天は自分で考え、自分で解決する力を持っている。 将来、道明寺財閥を支える柱の一つになるのだ、それくらい自分で解決してもらわねば。

「それにしても・・・それを知っていれば、私ももう少しうまく芝居ができましたのに。

つい、榊の名前を出してしまって・・・高天に『カン』だと思われてしまいました。

おそらく、あの子の頭の中では西田もカンに操られている存在になっているでしょうね。おもしろいわ。」

「私が操られて・・・?」

西田はそういうと楽しそうに微笑んだ。

「高天ぼっちゃんは次男のせいか、考えが自由というか、奔放というか・・・」

「ええ、あの子は司そのものって感じですけど、榊は司とつくしさんのいいところをうまく受け継いでいる気がします。

まじめで堅い部分と司の大胆な発想をうまく受け継いでいますね。榊には司のように全てを直感で行動する勇気はないようですが・・・。

それでもつくしさんの慎重さでキチンと下調べをして、そして大胆な策にでるところがあります。

そこに補助として司のような直感で大胆に行動していく高天が加われば、きっとこの先も道明寺は安泰ですわ。」

楓は優れた孫達を思い浮かべて満足そうに頷いた。

「―――私としては、椛の行動力も捨てがたいけどね・・・だが、なんだか椛は鷹野家に奪われそうだね。

だが兄弟として助け合うことはできる。うちの孫達がいれば、道明寺はもちろん、鷹野家も安泰だろう。」

西田は二人の会話を聞いて、静かに微笑んだ。 二人の子、椿と司が育つ過程では聞くことができなかった言葉。

親として、この二人も成長したのかもしれない。

子供に一部の事業を任せたことでゆとりができたこともあるだろうが、遅ればせながら、今この二人は親としての責任を果たしている。

西田の頭の中に一つの言葉が浮かんだ。―――親バカ。

実際に榊ぼっちゃんも高天ぼっちゃんも先が楽しみだ。二人とも優秀な経営者になるだろう。

だが、まだ15歳と6歳。まだまだ先の話なのだ。

この場合は――――孫バカなのだが。

だが二人の幸せそうな笑顔を見ていると、自分も同じバカになってもいいかと思ってしまう。

「そうですね。私も道明寺財閥は安泰だと思いますよ。」

FIN



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■高天の観察日記 17■

やっぱり「カン」は侮れない。海外にまで手を伸ばしている。

この世界に操られていない人間っているのかな?

僕はとっても怖くなった。もしかしたら・・・僕だけかもしれない。

おじいちゃんやおばあちゃんは大丈夫だろうか。外国にいるから大丈夫ってことはないんだ。

―――電話してみようかな。もしかしたら大丈夫かもしれないし。

僕はもう一度電話をかけた。今度はNYにいるおじいちゃんのところへ。

この時間なら時差ってやつがあっても多分、向こうでは夜。はっきりとした時間はよくわからないけど。
夜なら家にいるはずだから。





RRRRRRR・・・ 

「HELLO」

「ハロー、えっと、マイ、ミー?ネイムイズ高天・道明寺・・・グランパは?」

英語で答えようと努力しているのだが、まだペラペラと話せない高天は単語を並べて必死で話しかけた。

「ああ、高天坊ちゃまですか。お久しぶりです。」

相手は高天だとわかると即座に日本語に切り替えてくれた。どうやら

電話にでたのは、どうやらNYで「羊」っていうよくわからない仕事をしている人だ。

生粋のイギリス人でエドワード・ブレイスさん。名羊って言われた人をおじいちゃんが無理やり連れてきたんだって。

「エディ?」

僕たち兄弟は全員、彼をエディと呼んでいる。彼はNYに来てから、雇い主の母国語である日本語を勉強したらしい。

プロフェッショナル!! 僕も早く英語を完璧にしないとねっ!

「そうです、お久しぶりですね。お元気ですか?」

「うん!元気だよ。でもね・・・今、ちょっと大変なんだよ。あのさ、おじいちゃんって変なところない?」

「変なところ・・・?」

「うん、えっとね・・・誰かに操られているっぽくない?」

遠まわしに聞いているつもりだが、結局は単刀直入に言ってしまった。

「操られている? 誰にでしょうか?」

「それは言えないんだけど、そんな感じはない?」

「旦那様は・・・操られるというよりも操るほうだと思うのですが・・・」

エディの戸惑ったような声が受話器からこぼれる。

操るほう・・・?まさかっ!!! おじいちゃんがカンなのかっ!?

「おじいちゃんは人を操るのっ!?」

思わず大声で問いただした。だって一大事だよ、おじいちゃんがまさかのカン!?なんだよ。

とにかく、まだわからないよね、おじいちゃんと話してみなくっちゃ。

「たとえ、たとえ話ですよ。旦那様は誰にも操られるようなことはありません。」

「そ、そうなの? でも・・・エディ、おじいちゃんと代わってくれる?」

「はい。少々お待ちください。」

エディが受話器を置いた音が聞こえた。そしてよくわからないけど眠くなりそうな音楽が聞こえてくる。





おじいちゃんがカンなのだろうか・・・。

もしもそうなら、以外なところにいたなぁ。絶対にお父さんの近くにいる人間がカンだと思っていたのに。

おじいちゃんがカンだとしたら、どうやってお父さんを操っているんだろう。

やっぱり超能力? 頭の中で考えるだけで操れるのかな?

NYから日本にいるお父さんに念を送っているのかもしれない。

この間テレビで気孔っていうのをやっていたけど、あれは手を使わずに相手を飛ばしていた。

「気」っていうので相手を投げ飛ばすらしいんだけど・・・気って何だろう?

でも、きっとカンも似たようなことができるんだと思う。

そんなことを考えていると、受話器の向こうから音がした。きっとおじいちゃんが電話を取ったんだと思う。

僕は気を引き締めた。(どういう意味かよくわからないけど)

おじいちゃんがカンだとしたら、電話で話しただけで僕も操られるかもしれない。

とっても気をつけて話さないと!! おじいちゃんとはいえ、油断禁物だっ!

僕はちょっとだけ緊張して、受話器を耳にギュッと押しあてた。

「もしもし、高天か? どうしたんだ?」

―――受話器から聞こえる声は間違いなくお祖父ちゃんの声だ。

だけど本当かわからない、更に緊張して僕は返事をした―――。






「もしもし、高天?」

受話器の向こうからお祖父ちゃんの声がする。

どうしよう、普通に返事をして大丈夫かな? 返事をしただけで操られたりしないかな?

「高天、どうした?」

「―――お祖父ちゃん?」

電話をかけたことをちょっとだけ後悔したけど、とにかく勇気を出して返事をしてみた。

――まだ何も変化はない。大丈夫・・・かな。操られてないみたい。

「高天、久しぶりだね。今日はどうした? 何か欲しいものでもあるのか?」

「えっとね・・・」

どうしよう、何て言ったらいいんだろう。僕はすっごく焦ってしまった。

だってそうでしょ、カンかもしれないお祖父ちゃんに「カンですか?」なんて聞けない。

聞いたって「違う」って言うに決まっているよ。

どうやったら確かめられるのかな。エディはお祖父ちゃんの正体を知っているのかな。

エディはお祖父ちゃんが人を操るって言っていたし、もしかしたらエディだって仲間かもしれない。

「高天、どうしたんだ? 今日は元気がないじゃないか。」

「あ、あのね・・・エディってどこから来たの?」

僕はとにかくエディのことから聞いてみようと思った。イギリスって国から来たことは知っているけど、イギリスってどこ?

「エディ?何でそんなことが知りたいのか・・・まあ、エドワードはイギリス人だね。代々イギリス生まれのイギリス育ちだよ。

高天はイギリスってわかるか?女王様や王子様がいる国なんだよ、お話みたいだろう?でも男の子は、お姫様なんて興味ないか。」

イギリスがどこにあるのかわからないけど、王子様やお姫様がいる国らしい。もしかしたら、お話の中にしかない国かもしれない。

あとでキチンと地図で調べてみよう。本当にあれば地図に載っているはずだもん。

僕はどうしようかなと思ったけど、どう聞いていいのかわからず素直に聞いてみた。

「お祖父ちゃんは人を操るの?」

「―――」

僕の質問にお祖父ちゃんはしばらく無言だった。どうしよう・・・もしかしたら・・・

「高天、人を操るっていうのは案外簡単にできるものなんだよ。でも、それは人を騙すことでもあるんだ。

何度も人に言うことで思い込ませることができる。人は自分が思い込んでいるなんてことは認めないものだ、いったん思い込んだ人間に言葉で誘導すればどうなる?

その人の言いなりに行動してしまうだろう?それは人を操っているのと同じだ。いけないことなんだよ。」

お祖父ちゃんの言うことは、よくわからない。だけど、ってことは、お祖父ちゃんは人を操れないって言っているんだよね?

「でもね、高天。道明寺のような大きな企業を経営する者にはそういう言葉で人を誘導することもたまには必要なんだ。

カリスマ性っていうのかねぇ、そういうものが必要なんだよ。そういう意味で言えば・・・私は人を操れるのかもしれないね。」

なぜかお祖父ちゃんがクスッと笑う声が聞こえた。どうして笑うの?

それに・・・お祖父ちゃんは人を操れる!!!! もしかしたら「カン」じゃないのか!?

頭の中がグルグルと回っている。もしもお祖父ちゃんがカンだとしたら、どうなるの?

お祖母ちゃんもカンに操られているかもしれないし、道明寺財閥で働く人すべてが操られているかも。

だとしたら、その家族だってそうだよね?ってことは・・・どうなるんだろう。

「お、お祖父ちゃん・・・本当に、本当に人を操るの?」

「―――高天はどう思う?」

なぜかお祖父ちゃんはすっごく楽しそうに僕に言ったんだ。

なんでそんなに楽しそうなのさっ!? 絶対に笑っているよね?

「ぼ、僕・・・わかんない・・・」

お祖父ちゃんがカンかもしれないと思うと、僕はどうしていいのかわからなくなって・・・。

頭の中は今もグルグルだし、涙が出てきそうになった。

僕はそれだけ言うと黙って電話を切った。

―――どうしよう。僕の周りだけじゃなくって、地球上でカンに操られていないのは僕だけかもしれない。

FIN


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■高天の観察日記~榊の葛藤~■

―――あいかわらず、変なことをしているらしい。

アイツは本当に俺の弟だろうか。どこまでも変だ。とてつもなく変だ。

いまだにカンを探しているのだと気がついて驚きを隠せない。

タマが辞書で調べろと子供辞典を与えたらしいが、調べなかったということだろうか?

それにしても・・・なぜカン(勘)が人というか、生き物だと思ったのだろう。

いまどき、幼稚園児でもカンっていうのを何となくだが知っていると思うんだけど。

勘の意味はわからなくても、何となく理解しているってあると思うんだよ、だけど高天は全然だ。

これって―――どう考えてもバカってことだよな。

この間も親父の書斎に隠れていたけど、あれってよくよく考えると吸血鬼退治って感じだよ。

もしかしたら「勘=吸血鬼」っていう結論に達したんじゃないのか?

―――う~ん・・・誰か真実を教えてやれよ。いや、俺が教えた方がいいんだろうか。

っていうか、あれからどれくらいたってるんだよ!?そろそろ気がつけよ・・・って突っ込みたい。

ここは一つ、俺が教えてやるのが親切ってもんだよな。

榊は大きなため息をついた。

俺がアイツと同じ年頃のときは、どんなだった? 少なくとも高天よりは物知りだったと思う。

俺も椛も勘がなんたるかは知っていたというか、なんとなくわかっていた。

少なくとも生き物じゃないってことは理解していたと思う。

榊はまた大きなため息をついた。―――とにかく、俺が真実を教えてやろう。





「高天、ちょっと来い。」

「なに?」

「お前、まだ勘の正体がわからないのか?」

「・・・」

高天は何も返事せず、ただ榊の顔をじっと見ていた。

なんだよ・・・一体何を考えているんだ? 自分の弟ながら、理解できない奴だ。

「もう面倒だから俺が教えてやるよ、勘っていうのはな・・・」

「いいっ!!!教えなくていいっ!!! 僕は操られたりしないぞっ!!」

高天はそう叫ぶと走って俺の前から姿を消した。

―――って、操られるって何だよ? まさか・・・まさかだけど、俺が勘とか思ってねぇだろうな。

榊は呆然と弟の走り去る背中を見ていた。

「ちょっと待てよ、俺の話を聞かないなら教えようがないだろ。」

榊は今日三度目の大きなため息をついた。

それにしても操られるって・・・アイツの中で「勘」はどういう存在になっているんだろう。

前はタマを「勘」だと思っていたよな。見張っていたし。

あのセリフから察すれば、俺がアイツを操るかもしれないってことだろ?

つまりはどう考えても俺が勘ってことだろ、いいかげんにしてくれよ・・・。

榊は呆然と頭を振りながら、諦めたようにつぶやいた。

「もうどうでもいいよ・・・いずれ気がつくだろ。」

FIN



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■高天の観察日記 ジジ馬鹿■

「楽しそうですね」

西田が声をかけてくる。そんなに楽しそうな顔をしているのだろうか。

そう思ったが、自分でも顔がニヤけるのがわかるほど綻んでいることに気がついていた。

「高天から電話があってね。私は人を操れるのか、って聞くんだよ。」

「―――?人を操る?」

「そう、エドワードにまず私が誰かに操られていないかって聞いたらしいんだが、彼には珍しく『旦那様は操られるよりも操る方だと思う』って答えてしまったらしい。」

「それは・・・冷静で真面目で無駄口を叩かない彼にしては珍しい回答ですね。」

西田の答えに英はまた微笑んだ。

「そうだろ? 覚えているか、高天が前に電話してきたときにモリダーとスキリーのふりをしたことがあっただろう?」

「はい、カンが司様を操っているとか・・・」

「あの時、高天はどうもモリダーとスキリーもカンに操られていると思ったか、カンそのものだと感じたようなんだが・・・

それが高天の頭の中でどう整理されたのか、NYも安全ではないと思って私もカンの餌食になっているのではと考えたらしい。」

そう言うと、西田は笑いたいような困ったような顔をした。

高天の純粋さが可愛く笑顔になりそうだが、その反面、騙したという負い目もあるのだろう。

別に騙したわけではないが、結果的に嘘をついたのだから。

「では、今でも?」

「そうだね。今回の電話のせいで完全に私は操られていることになっただろうね。いや、操っている方かな。
私をカンだと思ったかもしれないね。」

「訂正されなかったんですか?」

「うん、楽しかったんでね。嘘はついていないんだけどねぇ。」

そう言って、彼に高天に言ったことをそのまま話して聞かせた。

西田は苦笑して、仕方がないというように小さく息を吐いた。

「それにしても高天坊ちゃんに教えたほうがいいんじゃないでしょうか?」

「―――そうだね、だけど自分で調べて知ることが大事だよ。何でも教えればいいというものではない。」

それに高天の発想は面白い、意味を教えるのは簡単なことだが・・・したくない。

もう少し、彼の柔軟で突拍子もない発想を楽しみたい。

我が孫ながら天才だな、と実感する。なかなか「勘」を「カン」という生き物だと考える者はいないだろう。

企業を背負うものには人が考えないようなことを考え付く者も必要だ。

―――さすが私の孫だ―――

英は自然と顔を綻ぶのを抑えることができなかった。

西田といえば、そんな英の心のうちが読み取れるのか、静かに微笑んで何も言わなかった。

「高天は大物になると思わないか?」

そう訊ねると彼は更に顔を綻ばせた。笑いが止まらなくなったという感じだった。

クククッと微かに声を洩らしながら肩を揺らしている。顔を逸らし、笑い顔を私に見せないようにしているようだ。

「西田、言いたいことがあるなら言ってもいいぞ?」

そう言うと、やっと顔を上げて笑い顔を見せた。それでも止まらないらしく肩を揺らし続けている。

「いえ・・・」

言いよどむ西田に私は深いため息をついた。

「言いたいことはわかっているさ。親ばか・・・いや、ジジバカだと思っているんだろう?」

「そうですね。」

今度は素直に頷いた。自分でもわかっているのだが―――。

「ジジバカと思われようといいのさ、高天は豊かな想像力を持っている。天才だと思っているからな。
榊も椛も当然、楸もそれぞれに天才だが。

どの子もさすがに私の血を引く子たちだ、私の孫だけのことはある!!!」

そう断言すると、西田は呆れてような顔をしたが、肩をすくめただけで何も言わなかった。

だが、私の耳には彼の心の声が聞こえた気がした。

『ジジバカにも程があります。困ったものですね・・・』

FIN







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