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颯HAYATE★我儘のべる
青いのは芝生だけ? 4
久しぶりに感じる彼の体温がとても暖かく、自分を穏やかにさせる。
彼の隣にいるだけでこんなに安心できるとは思ってもみなかった。
高校の出会いから何年が過ぎただろう。たくさんの出来事があった。
いつしか、道明寺が身近にいることが当たり前になっていたのかもしれない。
4年間離れていたが、あの頃はまだ子供だった。
自分たちにはどんなことでもできるのだと信じることができた。今では無謀と思えることも・・・。
きっと、あの4年は色々な意味で成長するために必要な年月だったのだ。
彼のお母さんは離れることで絆が強くなると知っていたのかもしれない。
大人になって仕事が忙しく、離れていた時間もある。会えなかった時間もある。
たったの数ヶ月が、子供の頃と違って些細なことで不安にさせる。
成長した私たちは責任を果たさなければならないことも知っているから無謀な行動はできない。
だからこそ・・・必死にもなる。たったの数ヶ月でこんなにも・・・。
つくしは自分が道明寺を強く欲していたことにようやく気がついた。
「道明寺・・・」
欲望に掠れた声で呼ぶと抱きしめる彼の手がピクリと動いた。
首を捻り、彼の顔を見あげると、そこには大人になった凛々しい彼の姿がある。
それは新鮮でとても輝いている。
今まで見たこともない彼の姿・・・そんな気がした。
彼の手がシャツをめくり、胸へと伸びてくる。
つくしは息を飲み、道明寺のくれる悦楽へと身を委ねた。
目を覚ますと真横に彼の顔があった。
昨日はそのままホテルに泊まったのだと気がついた。
「よお、おはよう」
目覚めとともに彼の顔を見るのは恥ずかしい。
真っ赤になった顔を彼は微笑みながら見ていた。
「今日は休みか?」
「―――うん」
道明寺と会うと決めたとき、有給休暇の届けを提出した。
大学を卒業して2年・・・必死で働いていた。
彼女に追いつくことだけを考え、休みを取ったことは一度もない。
それこそ必死に上を・・・道明寺楓に近づくことだけを考えてきた。
―――道明寺の手が裸の身体を包み込んだ。
「なあ、牧野・・・俺はお前が望むなら、どんなことでもしてやりたい。
お前が道明寺家の嫁になるのが嫌だというなら、道明寺を捨てて駆け落ちしたっていいと思ってるよ。
もっと俺を信じろ、俺を頼れよ・・・俺はそんなに頼りにならないか?」
彼の言葉に涙が溢れた。
「―――嘘つき。道明寺財閥を捨てて駆け落ち?そんなのできるわけないじゃない。
何千、何百という道明寺系列に勤める社員を見捨てられるの?」
つくしの言葉に司は眉をひそめた。
「そう・・・だな。俺たちはもう学生じゃない、責任の意味を知っている。
たぶん・・・捨てられないだろうな。」
「ふふ、そうでしょ?」
「ああ、だけどな・・・そういう気持ちも嘘じゃねぇぞ。
俺が道明寺で頑張っていけるのはお前がいるからだ。牧野つくしという存在が俺に力をくれるんだ。
お前がいなかったら俺はここにはいない。道明寺財閥なんて捨てて荒んだ生活を送っていると思う。」
真摯な視線をつくしは受け止めた。司の言葉が意地っ張りなつくしの心を溶かしていく。
潤んだ瞳で司を見つめながら、つくしは今の気持ちを素直に言葉にした。
「道明寺・・・別にアンタが信じられないとか頼りにならないとかじゃない。
私の気持ちの問題なの。道明寺家ってやっぱりお金持ちで・・・庶民から見れば高嶺の花って言うか、緊張するんだよね。
でも私は道明寺と一緒になりたいと思うし、ずっと傍にいたいと思うよ。
アンタの力になりたい、そう思っている。だけど、その方向を間違ったの。
道明寺司の傍にいたい、力になりたい・・・その気持ちがいつのまにか・・・
道明寺財閥に相応しい人になりたい。道明寺楓に認められたいになっていた。
そうしないとアンタの傍にいられないと思いこんでいたのよね。」
彼は静かに聞きながら、守るように私の頭を胸に抱えてあやすように髪を撫でていた。
「もう・・・わかったか? お前はお前でいいんだ。誰も道明寺楓になることを望むヤツはいない。
いっそ、道明寺財閥をお前らしく変えてしまえよ!」
その言葉につくしはハッとした―――古暮の言葉を思い出した。
『上が俺たちに求めているのは、こういうものじゃない気がするんだ』
今まで企画を考えるとき、いつも念頭に「メープルらしさ」を置いていた。
ゴージャスで気品溢れる高級ホテル。
気品を失うことはできないが、もう少し庶民的な考えも取り入れるべきかもしれない。
私や古暮くんに望むことは、私たちにしか思いつかない斬新な企画なのだと悟った。
それが彼も引っかかっていたことなのだろう。あまりにも凝り固まっていた思考に自分自身が驚いた。
「牧野?」
黙り込んだつくしを訝しげに眺めながら司が問いかける。
みんなのおかげで・・・やっと気がつくことができた。自分を見失っていたことを再確認した。
つくしはクスッと笑い、司の頬に勢いよくキスをした。
驚いて目を見開く彼の顔に微笑みかけ、もう大丈夫だと伝えるように、何度も軽いキスをする。
すると頬をつかまれ、唇に吸い付かれてしまった。
突然、貪るようなキスを仕掛けられて、今度はつくしがうろたえてしまう。
舌を蹂躙され、唇が離れたときは唾液の糸が二人をつないでいた。
火照った顔で彼を見つめ、ハッと我にかえる。
「な、何よ・・・! 突然!」
「あんな子供みたいなキスで足りると思うか?それに・・・今は俺のことだけを考えていろ。いったい、何を考えていた?」
少しだけムッとした口調で言われ、仕事のことだと正直に答えると呆れられてしまった。
「お前・・・まだわからないのかよ。」
「ち、違うよ! やっと気がついたの! 私は私でいいんだってことに。
仕事も私らしさを出していけばいいんだって・・・たぶんお義母さんが望んでいるのもソレなんじゃないかなって。」
一気に言うと司は満面の笑みで応えた。
「その通りだ。それでいいんだよ。お前はお前らしさで、あのババアに認めさせてやれ!」
「―――ありがとう、司」
つくしは微笑んで小さくつぶやくように言った。
彼は初めて名前で呼ばれたことに、真っ赤になって照れながら「お、おう」とだけ答えた。
隣の芝生は青い、だけど自分の足元を見れば、やはり芝生は青い。
比べても遜色はない・・・いや、身近にある分、足もとの方がより青く見える。
そういうことだ・・・。
目を曇らせれば、足元になるものが見えない。つくしはやっと気がついた。
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