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颯HAYATE★我儘のべる
椛:食わぬなら食わせてみせる!
据え膳に手をつけない男がいる。
それで考えられるのは・・・私に魅力がないってこと!?
考えれば考えるほど、納得のいかない答えが頭の中に渦巻いていく。
祥吾の気持ちがまったく見えない。
据え膳を食わない男なんているの?
椛は信じられない思いで考えていた。
どうしても祥吾がほしい、他の女にくれてやるつもりはない。
もし祥吾が他の女の惚れたなら、取り戻すだけのことだ。
振られたら、より魅力的な女になって見返してやるという女もいるけれど私は違う。
―――見返すよりも取り戻す!!
私に惚れ直させればいいだけの話だ。
椛はすでに22歳、今年大学を卒業する年齢になっていた。
もちろん同い年である祥吾も大学を卒業する。
双子の兄、榊は卒業後NYの祖父母の下で修行することになっているし
祥吾は道明寺系の会社で秘書室に就職が決まっている。
これは将来、榊の右腕となるように父が配慮した結果だ。
あの父にそれだけ見込まれているということ、私が惚れるだけのことはある。
私自身、卒業後は鷹野家が経営するホークロードのレディス部門で働くことになっている。
それにしても、祥吾とは高校生の時からすでに5年を越える付き合いをしている。
それなのに・・・22歳になった今も私はバージンだ。 これってどういうこと!?
未成年の時は祥吾の堅い性格と昔かたぎの考え方のせいだと楽観していたけれど
20歳を越え、さらに社会人になろうとしている今・・・不安になってくる。
彼は本当に私を愛しているのだろうか?
私は将来と言わず、今すぐにでも結婚したいと思っている。
もしかしたら、私たちの愛には温度差があるのかもしれない
――――それも、激しい温度差が。
「椛、お前・・・何しているんだ?」
突然、後ろから声をかけられて椛は飛び上がりそうになった。
リビングのソファで考えことをしていたので、榊が帰ってきたことにも気がつかなかった。
「さ、榊!! びっくりさせないでよね。」
「―――びっくりしたのはこっちの方だ。ただいまとも言ったし、何度も名前を呼んだ。
ボーっとしているから具合でも悪いのかと思ったぞ。」
具合悪くなることなど有り得ないというような言い草で、榊は隣に腰掛けてきた。
「で、いったい何を考えていたんだよ、祥吾のことか?」
「―――わかる?」
「わかるに決まってるだろ。俺たちは双子だぜ、絶対とは言えないが、何となく考えていることがわかるってことあるだろ。」
「確かにね」
二卵性とはいえ、双子のせいか小さい頃からお互いの気持ちがよくわかった。
表情だけで簡単に気持ちが読める、親以上に近い存在だった。
「で、どうなんだよ?」
「祥吾って・・・私のこと愛していると思う?」
「―――はあ?」
椛の質問に榊は素っ頓狂な声をあげた。
「お前、何を言ってるんだ? 祥吾がお前を好きなのは一目瞭然だろ。」
そうだろうか・・・椛は眉間に皺を寄せた。
他人には一目瞭然なのだろうか、自分には全くそうは思えない。
「お前、それが不安なのか? 椛らしくねぇな。」
「だって!!!!」
「だって、何だよ?」
「榊、あんたさ・・・好きな女が誘っていて・・・断る?」
「―――はああ?って、お前・・・」
「いや、別に露骨に誘ってはいないから」
「そういう問題かよ、お前先走りすぎじゃね?」
「先走り!? 何言っているのよ! 私たちもう22だよ。
付き合って5年になるんだよ、キス止まりって有り得なくないっ!?」
椛の剣幕に榊は思わず腰を浮かせた。
ついつい逃げ腰になるのは仕方がない、道明寺家は女性の方が強いのだから。
「―――え・・・っと、まあ・・・」
「あんただって、好きな女性がいたら手を出すでしょ!?それなのに祥吾は・・・」
語尾がだんだん小さくなり、気の強い妹が泣きそうな声を出していることに榊は驚きを隠せなかった。
恋をするとこんなに脆くなるのかと、生まれて初めて妹を可愛いと思った、女の子だったんだと改めて感じた。
母親の胎内にいたときから一緒にいて、今まで異性として捉えたことがない。
妹というよりも自分の分身・・・いや、同志って言ったほうが間違いない。
「確かに惚れた相手なら自然とそういうことになるかもな・・・。
だけど祥吾には祥吾の考えがあるんじゃねぇの? お前だって言ってただろ、あいつは昔かたぎなところがあるって。
結婚するまでは手を出さないとか考えてるんじゃねぇのか?」
それはありえる・・・椛は苛立ち、唇を噛み締めた。
「椛、唇を噛むなよ。傷つくだろ。 そんなに祥吾が欲しいのかよ・・・。
お前が親父の嫉妬からアイツを守れるなら・・・・お前が祥吾を襲えば?」
榊の言葉に椛はハッとして顔をあげた。
そしてニヤリと意味深な笑みを浮かべると・・・
「そうよね、榊ってば良いこと言うじゃない。据え膳食わないなら無理やり食わせればいいのよ。」
榊は唖然としたが、これこそ椛だと思いなおした。
親父ソックリの俺様な性格なのだ。
自分が世界の中心って遣り方をすることがある、やられる方は大迷惑だろう。
椛は思い立ったら一直線、勢いよく立ち上がるとサッサと部屋を出て祥吾のもとへ向かった。
―――かわいそうな祥吾。
だが、あの椛に惚れたのが運の尽き。
ま、いいか・・・これであの二人も何らかの進展を見るだろう。
あとは椛の暴挙が実行された後、それを知った親父をどう諌めるか―――。
問題はソレだけだが、それはあの二人の問題だ。
榊も立ち上がり、床に置いた荷物を抱え上げ、自分の部屋へと向かった。
俺には関係のないことだ―――あの二人が突破すべき障害だ。
FIN――→裏★につづきがあるのです。
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