颯HAYATE★我儘のべる

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榊:母としつけ



椛が妊娠した。

俺の親友である野見山祥吾と結婚して1年以上。

子供を切望していた椛が妊娠した。つまり俺は伯父になるってことだ・・・

まだ若いって言うのに!





「お母さん!ついにやったわ!!私、妊娠したの!」

いきなりリビングに飛び込んできた椛は興奮気味に報告した。

そこにいたのは母と父と俺。高天と楸は友人と出かけていた。

「なんだと!!!」

最初に覚醒したのは親父だった。母は椛の興奮気味に多少唖然としていた。

俺は突然入ってきた椛に驚いただけで言うことは別にないし・・・とりあえず「おめでとう」と一言。

「妊娠!?誰の子だ!!!」

「祥吾の子に決まってるでしょ!」

親父のボケに大して怒りもせずツッコむと椛は一目散におふくろの隣に来て座った。

「おめでとう。椛は母親なんて信じられないわね」

おふくろはニコニコして椛の手をポンポンと叩いた。

「ありがとう。とっても嬉しくって、ちょっとわれを忘れてる?」

「完全に忘れてるよ」

「榊には聞いてないから」

「どっちだ!?」

俺と椛の会話に割って入り、親父が聞いてきた。

「「は?」」

思わず二人で答えてしまった。

「男か?女か?」

「・・・まだ2か月だっつうの!!わかるわけないでしょ。それに産むまで聞かないつもりだから。私は男でも女でもいいもの」

「椛が母親かぁ。」

お袋はつぶやくと真剣な顔をして椛を見据えた。

「椛、子供はかわいいけど親はかわいがるだけじゃダメなのよ。時には厳しく叱ることも必要よ。親には子供に対する責任があるの。」

親としての心得を椛に説いている。

それを聞いているうち・・・俺の脳裏にある記憶がよみがえった。

そう、あれは俺が小学1年か2年になった頃だった・・・・






「榊!やめなさい!」

母と椛とスーパーに買い物に行ったときだった。

俺はどこの子か知らないが同じくらいの年齢の子と喧嘩になってしまった。

他愛もない理由だった。お気に入りのお菓子が棚に一つしかなく、それをめぐり喧嘩になったのだ。

「俺のだ!」

お互いに俺が先に取ったのだと言い合いをしていると母のカミナリが落ちたのだ。

「いい加減にしなさい!榊!!!お店の人にもっとないか聞いてみるから、それはその子に譲りなさい!!」

「いやだ!無いかもしれないもん!!」

「榊!お菓子はほかにもあるでしょう!? 今日ぐらい、違うお菓子で我慢しなさい!」

子供の喧嘩と母の大声で客が俺たちを取り囲んでいた。近くにいた店員はどうしたものかとオロオロしていたが、母の言葉で我に返ったのか在庫を見に行ったのだろう。その場を離れた。

「い・や・だ!!!」

俺はその時、なぜかそのお菓子にこだわっていた。今ではなぜそこまでこだわったかわからない。

だからつい・・・手が出たのだ。

俺が欲しいお菓子をつかむ相手の頭を殴ったのだ。当然、殴られた男の子は大泣きし始めた。

「榊!!!」

一段と大きなおふくろの声が響いた。そして・・・ボコッ!!!!!

お袋の拳が俺の頭に落ちた。一瞬、俺は何が起きたかわからず茫然としていたが、母親にゲンコツで殴られたことを悟るとショックが襲ってきた。

「うわ~ん!!!」

俺は恥ずかしげもなくその場で泣き出した。

でもそこで聞こえた言葉に更にショックを受けた。

『子供を殴るなんて・・・虐待よね。体罰よ。児童相談所に通報した方がいいんじゃない?』

『体罰なんて最低な親ね』

難しい言葉なんてわからない。でも母親が最低だと言われていた。

「榊!なぜ殴られたかわかる!?」

辺りの声などものともせず、お袋は俺に問うて来た。

「・・・お菓子を我慢しなかったから? けんかしたから。」

「ううん、違うわね。」

「・・・その子を叩いたから・・・」

「そうよ! 叩かれたら痛いでしょう! アンタはその痛い思いをあの子にさせたのよ。
どう?とっても痛いし、悲しいでしょう?殴られたらどんな気持ちになる!?」

「痛い。悲しい。」

「そうね。じゃあ、どうしたらいいの?」

母親のその言葉に俺はいまや茫然としているその子を振り返り、頭を下げた。

「叩いてごめんなさい。お菓子も譲ります。ごめんなさい。」

「・・・・・うん。」

「よし!仲直りね。榊、痛みがわかったからには二度と人に手を上げるんじゃないわよ!」

「はい、ごめんなさい」

俺はお袋にも謝った。だが、周りの親からは白い目で見られていた。

『どんな理由でも子供を殴るなんて最低の行為だわ』

人ごみの中からそんな声が聞こえた。

「・・・自分の子供が他の子を殴ったのにただ『いけません』というだけなら他人でも言えます。注意するだけなら親のしつけ放棄ではありませんか?」

お袋は突然、人だかりの方を振り向くと非難する人たちに話しはじめた。

「私も体罰には基本的に反対です。しかし親は子供に対して色々な責任があります。しつけもその一つです。私は今回、子供が他の子を殴った。だから同じ痛みをわが子にも与えました。
そして相手の気持ち、痛みを考えさせたつもりです。注意するだけで痛みを知らなければ、反省はしても、また同じことをするかもしれない。
でもこの子は同じ状況になったとき、今日の痛みを思い出し、少なくとも相手を殴ることはないを私は信じています。」

「でも・・・」

「子供は悪いことをしたらすぐに叱る!それが私流のしつけです。もし今日のことを帰宅して叱ったなら子供は何を叱られているかわからない!また時間がたって私が子供を殴れば子供はなぜ殴られたか理解できず、それこそ虐待や体罰と同じ効果しか出ない。」

一気に自論をしゃべり、お袋は俺と椛の手を握り、レジへと向かった。

すると一部の人は「でも」と連発していたが、一部の人からは拍手が起こった。

俺は叩かれたときは痛かったが、それを体罰だとも虐待だとも思っていない。

お袋がそうしてくれたおかげで俺は叩かれたときの痛みを知っている。だからこそ思いやりも生まれるということも知っている。

きっと・・・椛もお袋のような母親になるに違いない。

あのあと、店を出た俺を追って、あの男の子が走って追いかけてきた。

そしてあのお菓子を開けると・・・半分、俺の手に握らせてくれたのだ。

その後ろでおそらく母親と思われる女性が軽く頭を下げた。

あとで母とその女性は友達になり、今も交流が続いている。

あの男の子は今や教師となり、俺の友だちでもある。めったに会う機会はなくなったが、たまに会うとお袋の話になる。

そう、あれは苦い思い出ではなく俺にとっても、あの男の子にとっても貴重な思い出になっていた。






「妊娠なんて許さん!!!」

親父の大声で俺は我に返った。

「・・・???」

許さんと言ってもしかたがないだろうに親父は一人、椛の妊娠を反対していた。

お袋も椛を大きなため息をついて、リビングを出て行った。

それでも後ろ姿に「妊娠反対」を訴える親父に俺は・・・

「もう妊娠してるっつうの。」

俺の一言に親父のゲンコツが飛んできた。理不尽な暴力。

これは虐待だろう!?




おしまい







※体罰や虐待に関する感じ方は人それぞれあると思いますが
私も上の話を同じように育てられました。父は絶対に手は出しませんでした。
女の子だったので父親は力の加減が難しいと思ったようです。
ですが母は遠慮なく平手打ち(ビンタ)やゲンコツを落としていました。
それを体罰・虐待だと感じたことはありません。
なぜ叩かれたか、そして何が悪かったのか。私に考えさせていましたし、
強く怒った後はたいてい小さなことでほめてくれました。

この話に反論もあると思います。
でもこれは私の考えです
そして決して体罰を推奨するものではありません。
理不尽な暴力には断固反対です!!









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