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颯HAYATE★我儘のべる
明けない夜はないから 3
「ああ、日本支社が業績が悪いらしいからな・・・親父の命令だ。仕方ない、諦めろ」
「・・・でも」
「紅(べに)、お前のことは俺と煬介(ようすけ)が守ってやるから心配すんな」
「・・・煬介兄さんも来るの?」
「ああ、後からくる。俺たち兄妹で日本を立て直せとさ。ようするに後継者としてのテストだろ?」
「私も含まれているわけ?」
「お前も鷹野家の娘だろ~が!兄妹で力をあわせてってヤツだ。美しき兄妹愛」
「・・・なにそれ?・・・でも私は・・・」
「関係ない。煬介も同じ気持ちだと思うけど」
「うん・・・ありがとう。あとどれくらいで日本?」
俺は腕時計を見て顔をしかめた。
日本時間に合わせてない・・・今何時だっけか?
「・・・あと2時間くらいで着くはずだ・・・たぶんな」
見えるのは雲だけ・・・日本の風景はまだ見えない
何年ぶりだろう。日本の土を踏むのは・・・
「何を考えてる?」
「・・・何も」
「うそつけ」
颯介(そうすけ)はそういうと妹の頭をなで、抱き寄せた。
「泣きたいときは泣いとけよ。溜め込むとよけい辛いぞ」
「・・・うん・・・ありがと、兄さん」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
大河原財閥令嬢、大河原滋の24回目の誕生日。
F3と桜子はこの・・・不思議なパーティーに招待されていた。
「この年齢でこんな格好をするとは思わなかったぜ」
「まったくです。滋さんってば何考えてるんですかね」
「24歳の誕生パーティーが仮装パーティーって有り得ないだろ」
「・・・大河原らしいんじゃないの?」
そう、滋は自分の誕生パーティーを仮装パーティーにしてしまった。
誰もが最悪と思っても・・・口にだせない。
大河原財閥の名と力で誰にも文句は言わせない。
グチグチと言っているのは親友たちだけだった。
「それにしても、花沢さんってそれ何ですか?」
「・・・サラリーマン」
「お前・・・ずるいヤツだな。それって普通だろ」
そういうあきらは海賊で総二郎は・・・医者?
桜子といえば・・・カルメンらしい。
主役の滋はというと着ぐるみの猿。
・・・それは仮装じゃないぞ・・・
俺たちはそう思ったが誰も口には出さなかった。
「お、あれ・・・司じゃないか?」
あきらの声で俺たちはみんなホールの入り口に視線を移した。
確かに入ってくるのは司だ。
仮装・・・していないように見える。
類と同じで普通の黒いスーツだ。
横には金髪の派手な女。短めの金髪に青い目。衣装はローブ・デ・コルテ。そしてティアラ・・・
何者だ?司の愛人か?
「あれ、司の奥さんじゃない?」
類の言葉に俺たちは女を凝視する。
言われてみれば・・・カツラをかぶり、カラーコンタクトを入れたのだろう。
顔は間違いなくあの女、道明寺沙織だ。
「滋、お前・・・司を呼んだのか?」
「そりゃね、道明寺財閥の副社長ですから。仕事の関係もあるしね。
仕方ないでしょ、誕生日と言っても仕事みたいなモンだからね」
「そうだね、久しぶりに挨拶でもする?」
「私は結構です。先輩が見つからないのに・・・道明寺さんとあの女に近づきたくありません!」
牧野を慕っていた桜子は彼女を傷つけた二人が許せないらしい。
あの女がいなければ二人は今頃結婚していたに違いない。
だが、あの女がいなければ道明寺財閥は崩壊していたに違いない。
二つの葛藤する思い。
「そ。俺はちょっと挨拶してくるね」
「「俺も行く」」
類の言葉に総二郎とあきらが同意した。
三人はゆっくりと二人の下へと歩いていった。
「久しぶり、司。その仮装・・・何?」
「類か。お前も普通だろ。」
「よお、司」
「ああ・・・二人とも元気そうだな。」
「まあな」
「司さん?お友達ですか?紹介してください」
4人の会話に割り込んでくる女。
F3は顔をしかめて女を睨んでいた。
「お前に俺の友達を紹介する必要があるのか?」
女の顔がすぐに真っ赤になった。恥ずかしいわけじゃない、プライドが傷ついたのだ。
侮辱の言葉に怒りが顔にでたというところだろう。
「冗談がお好きですのね、私はあなたの妻です。貴方のお友達は私のお友達でもありますわ」
「・・・俺は友達になる気はないけど?」
類はその女にはっきりと言った。俺たちも同じ気持ちだった。
この女の父親が道明寺の助けになったことは事実だ。
だが、この女の我儘が司と牧野を不幸にしたことも事実だ。
『この私にふさわしいのはあなたしかいませんわ。』
5年前はこの女がそう言って、若宮財閥の金と力を盾に司を動かしていた。
『そして、あなたにふさわしい女性も私だけですわ。最高の作法に最高の装い。
それに最高の家柄、そして最高の容姿。どれをとっても私こそあなたにふさわしい女性だと思いません?』
この女の厚顔ぶりにとてつもなく嫌悪したものだ。吐き気がする。
俺たちが出席した結婚式で彼女は司にそう言い放った。
それが当たり前のことで、誰もがそれに同意するかのように。
「結婚式のときお会いしましたわよね。あの時は慌しくて・・・ご紹介していただけませんでしたわよね。
私、道明寺の妻の沙織です。英徳で司さんとともにF4と呼ばれていた皆様でしょう?
高名は聞き及んでおります。私もお仲間に加えていただきたいものですわ。」
類の失礼な前言を無視し、女は厚かましくしゃべりつづけた。
「・・・なんであんたが仲間にはいるの?友達でもないのに」
「・・・ですから、お友達になって差し上げます」
差し上げます・・・?何様だ、この女・・・
俺たち三人は言葉もでなかった。俺たちは友達は少ない。
はっきり言って幼なじみのこいつらの他は牧野と滋、桜子くらいだろう。
だが・・・どんなことがあってもこの女を友と呼ぶことはない。
俺たちはそう思った。
「司、どう?最近は」
類はこの女を完全に無視して司に話をふった。
類の聞きたいことはわかっている。
あれから5年が経過しているが、牧野が見つからない。
約束通り、俺はまだ牧野を探す努力をしている。
それは類も総二郎もあきらも・・・同じだろう。
「あいかわらずだ」
俺はそれで類の質問に答えた。
この女の前で牧野の名前を出すことはない。
「ちょっと仕事の仕事がある。向こうにいっててくれないか?」
沙織は不敵な笑みを浮かべ・・・
「あら、秘密ですの?仕事の話なら聞いてもかまわないのでは?」
「・・・仕事に何も知らない女がでしゃばるな。邪魔なだけだ。消えろ」
俺は無常に言い放った。とにかく俺の隣から消えてほしかった。
沙織はまた顔を真っ赤にして怒りながら、それでも誇り高く顎を突き出し、颯爽と歩いていった。
俺は沙織が視界から消えるのを待って三人に話しはじめた。
「類・・・あれからもう5年だ。あの時、お前らはアイツは自殺なんてしないと言ったが・・・
俺はもしかしらアイツはもうこの世にいない気がして・・・」
類は顔をしかめた。司のこんな弱気な発言を初めて聞いた。
「・・・司、自惚れてるね。司が牧野を捨てたから牧野が自殺した?
自分にはそんな力があると思ってるの?
牧野なら・・・自分を捨てる人間は宝石を捨てるようなバカだと考えると思うね。実際にそうだと思うし。
司は価値のあるものを捨ててしまったんだよ。」
「・・・それはわかっている。牧野ほど価値のある女はいねぇよ・・・。
自惚れてるわけじゃないが、ここまで探して見つからないと・・・な、不安なんだ」
最近の司は感情を表に出さない。その司が辛そうな表情をしているのは珍しいことだ。
司はまだ牧野を愛しているんだと実感する。
ちらりと視線を横に移すと総二郎もあきらも同じように思っているようだ。
「司、牧野は死んでない。俺たちはそう思っているよ。だから俺たちも探しつづけているんだ。司もしっかりやってよね!」
「・・・わかっている」
急に会場がざわついてきた。
何事かと視線をホールの入り口に向けると・・・
オペラ座の怪人とおそらくクリスティーヌだろう仮装をした男女が入ってきた。
大河原財閥令嬢の気まぐれによる仮装パーティにもかかわらず、やたらと力を入れた仮装だ。
ただ・・・怪人の背が異様に低く、女の背があまりに高い・・・
「リキはいってんな」
総二郎のつぶやきに俺たちは無言でうなづいた。
会場の視線を一身に集めている。目立ちたがりなのか?
「あれって男女逆の仮装してるよね」
類の言うとおり、どうも男が女装しクリスティーヌになっているようだ。
そして女がオペラ座の怪人エリックに扮している。
もちろんクリスも仮面をつけているし、怪人にいたっては顔を半分以上隠すマスクをしている。
全然誰だか検討もつかない有様だ。
「誰だ?」
あきらがボソっと言った。
「たいていのヤツはわかるけど・・・あいつらはわからないな。」
「そうだね・・・」
「・・・滋ちゃんにもわかんないな」
いつのまに来たのか、俺たちの横に滋がいた。
相変わらず着ぐるみの猿だが、頭だけは滋に戻っていた。
・・・いい加減に脱げよ・・・
「お前が招待したんじゃないのか?」
「・・・私が招待した人もいるよ。だけどほとんどは仕事がらみでしょ」
「こっちくるぜ。お前の誕生日だし、お前に挨拶にくるんじゃないのか?」
「かな?誰だか当ててみる?」
「だから検討もつかねぇよ」
「こんばんは、ご招待ありがとうございます。滋さんですよね?」
挨拶してきたのは大女の方。やはり男らしく、声が低い。
女であろう怪人はしゃべらない。挨拶もしない。小さく頭を下げただけ。
「はい、そうです。ごめんなさい、立派な仮装すぎて誰だか全然わかんないです。」
「・・・ははは、わかったとしても初対面ですよ。私たちは日本は久しぶりですので」
「そうなんですか?えっと・・・どなた?」
滋が礼儀もなく単刀直入に聞いた。
「先にそちらの方々を紹介していただけますか?」
そういうとオペラ座の二人は俺たち4人に視線を向けた。
まるで観察するかのような視線。
「あ、そうですね~。こっちが道明寺財閥の御曹司、道明寺司さん。その横が
花沢類さん、西門総二郎さん、美作あきらさんです。で?」
で?って・・・滋は本当にご令嬢なのか?
「はは・・・有名なF4の皆さんですね。お名前は存じております。私はホーク・ロードの鷹野颯介です。こっちは妹の都紅子(つくし)です。」
その紹介に俺たちは固まった・・・。つくし???
「珍しいでしょ?みやこ、べに、子供の子でつくしと読むんですよ。
家族は『べに』と呼んでますが。」
そう言って鷹野颯介は笑った。
牧野・・・?俺たち5人の頭の中に浮かんだのは牧野なのか?という思い。
だが、牧野のはずがない。牧野つくし=鷹野都紅子ではない。
類は怪人に視線を送ったままだ。俺たちも疑いは抱いているが・・・
怪人は相変わらず一言もしゃべらない。
紹介されても軽く会釈するだけだ。
怪人の仮装をしているために顔の半分以上がマスクで隠れている。
これではどんな顔だかまったくわからない。
「あ!」
怪人から視線をはずせない俺たちをよそに鷹野颯介が大きな声をあげた。
「こっちだ!!」
そういうとパーティーの席にもかかわらず大声で呼び、手を振っている。
ホールの入り口に目をやると走ってこっちに向かってくる貴族風の仮装をした男。
「弟ですよ」
怪訝な顔をしている俺たちに颯介が説明する。
「ゴメン、遅れてしまって・・・」
「寝つきが悪かったか?」
「いや、そうでもなかったけどね。よ、紅。久しぶり」
そういうと妹の腰を掴んで引き寄せ、唇に軽くキスをした。
怪人は少し身を引いた。怪人が見せた初めての反応だった。
「おい!・・・弟の鷹野煬介ですよ」
「ども。妹との久しぶりの再会なんで・・・。で?誰?」
颯介は簡単に俺たちを説明した。すると煬介の反応は以外なものだった。
「へぇ・・・あんたらがF4か。で、あんたがあの道明寺の跡取りね・・・」
まるで汚いものでも見るかのような態度。
俺たちに恨みでもあるのだろうか・・・。
「おい、煬介、失礼な態度はやめろ!すみませんね、しつけがなってなくて。
日本は久しぶりだし、コイツはNY育ちなもんで日本語がいまいち・・・」
「ふん」
「煬介!・・・すみません、久々の日本でまだご挨拶したい方もいるのでこれで・・・」
鷹野颯介はうやうやしくお辞儀をすると弟と妹を連れて俺たちの目の前から去っていった。
「ねえ、あの人、なんのために俺たちのとこに来たの?」
鷹野一家が見えなくなると類がすぐに聞いてきた。
あきらかにあの鷹野颯介は俺たちを観察していた。
「わからないが、あきらかに最初から俺たちを知っていたよな」
「ああ、知っていて俺たちのところに来た・・・間違いないな」
総二郎とあきらも納得のいかないものを感じているようだ。
俺はつくしと紹介された怪人が気になって仕方がなかった。
「司?あの怪人が気になってるの?」
「ああ・・・つくしなんて名前が他にもいるか?」
「俺もそれは思った。牧野かもしれないな」
あきらが司の言葉に同意する。滋も総二郎も類も・・・同じ気持ちだった。
「つくしだったとして・・・どうして鷹野家にいるの?」
「さあな?それは調べないと。だが・・・鷹野家がガードしているなら牧野を探し出せないのも納得だ」
「そうだね、鷹野財閥といえば今はNYを拠点にしているけど・・・日本でも道明寺にひけを取らない大財閥。
道明寺よりも格式のある古い財閥だよね・・・」
「ああ・・・俺らとはまた違うレベルだろ」
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