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颯HAYATE★我儘のべる
明けない夜はないから 4
「・・・日本にきた以上はすぐにバレる。名前くらい本名を言って何が悪い?
牧野つくしじゃない。お前は鷹野都紅子だろ?
疑ったとしても俺たちがついてる。お前らのことは守るから安心しろ。」
「そうそう。紅、俺たちがついてる。世間はおまえのことを『とくこ』だと思ってるけど戸籍上でも『つくし』なんだから
そこはあいつらには本当のことを言ったほうがいいさ。どうせ仕事上でも付き合っていくことになるんだ。
鷹野家のことを調べあげるに決まってるからな。嘘はつきたくないし、つかない。
ただ、言わなくてもいいことは言わないだけだ」
そういうと煬介はつくしにウインクをした。
プッ!煬介兄さん・・・私を楽しませようとしてるんだね・・・
「笑うなよ。せっかくハンサムな俺が女にウインクを送ってるのに」
「妹に?妹に送ってどうするの?」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「確かめる価値はあるね」
類の言葉に俺たちは強くうなずいた。
つくしなんて名前は珍しい。人生の中で2度も出会う名前だろうか?
「俺が調べてみるよ・・・」
俺はなんとしても牧野を見つけたかった。
それは罪悪感かもしれない・・・
「・・・司、鷹野財閥ってことがわかってるからこれは俺たちで調べるよ。
本当は伝えなくてもいいけど、今、この場に司もいるし・・・結果はちゃんと報告してあげる。
司、覚えてるよね?あの時・・・俺が言ったこと。」
覚えている。俺は探すだけ、牧野の前に現れるな。
つまり、情報がある以上は3人で確認するということだろう。
俺は必要ない・・・
「わかった・・・結果だけは教えてくれるんだな?」
「ああ。自分で言っといてなんだけどさ、司はなんでまだ牧野探しを諦めないの?それって罪悪感から?
だとしたら・・・もうそろそろ手をひいてもいいかも。
そんな気持ちで探されても、牧野を見つけたときに救われるのは彼女じゃなくて司ってことになる。
それは俺たちは許せない。もう・・・手を引いてもいいよ。
できる限りのことはしてくれたしね。あとは俺たちで頑張るよ」
相変わらず類は不思議なヤツだ。俺の罪悪感を見抜いている。
いまだ牧野を愛しているのは事実だ。忘れられない女。
だが・・・今の俺は牧野の傷つけたという罪悪感の方が強い。
厳しい言葉だと思う。
司は幸せではない、それはわかっている。
いつも冷たい目をして感情をみせない。
たまにみせる感情といえば、牧野に関することだけだ。
司の深い痛みと悲しみをわかっていながらも、俺はあえて厳しい言葉をぶつける。
それは今、彼女が幸せかどうかわからないからだ。
司が幸せになっていけないわけじゃない。
だが、司の知らない事実があるから、俺は司の幸せを望まない。
それは友としてひどいことだとわかっている。
秘密も打ちあけられるなら打ち明けたい。
だが・・・そうしたところでどうなるのだろう。
今なら打ち明けても問題はない気がするけど、あれから既に5年の月日が流れている。
いまさら、彼女が司を望んでいるのかすらわからない。
・・・俺は・・・
もしも二人が再会するようなことがあれば、また二人の幸せを祈ることだできると思う。
俺たちは類の言葉に潜む感情を知っている。
あえてひどい言葉をぶつけていることも・・・
類のために、牧野のために、そして司のためにも
俺と総二郎が間にはいるべきかもしれない。
「司、お前の気持ちはわかっているつもりだ。
だけど今、牧野がお前のことをどうおもっているのか、俺たちにはわからない。
それがわからないうちはお前は会うべきじゃない。
それに、あの鷹野つくしが牧野かなんてわからないだろ?すべては今から調べるんだから」
最後の言葉は司を慰めるためにつけた言葉だった。
慰めになるなんて本当は思っていないが、これ以上、司を追い詰めたくなかった。
司は固く手を握り締め、おそらくは襲ってくる後悔と罪悪感に堪えているのだろう、
真っ青な顔でただ立ち尽くしていた。
「わかっている。俺が今、罪悪感でいっぱいなのも間違いじゃない。
だけど牧野の幸せを確かめたい。牧野が生きていることを知りたいんだ・・・」
そういう司に俺たちは同情した。
彼女を傷つけたとはいえ、司自身も傷ついて選んだ道。
二人ともが傷つき、不幸せな道を進んでしまった。
「もちろん、俺たちは牧野を見つけたらお前にもきちんと知らせるよ。
そして彼女がもしも会いたいと望むなら会わせるさ。
ただ・・・彼女が望むなら、だ。」
「わかっている。俺は牧野には近づかないよ・・・」
「司、お前・・・離婚しないのか?」
総二郎が言った。それは俺たちがみんな思っていたこと。
今の道明寺に若宮は必要ない。それは俺たちが全員わかっていることだ。
「離婚?離婚してどうなる?また別の・・・同じような女と政略結婚することになるだけだ。俺は・・・」
最後は言葉にならなかったが、俺たちはそれに続く言葉を理解していた。
―どうせ牧野とは結婚できないんだから―
次の日、俺たちは自然と類の家に集まった。
それぞれが調べた情報を持って・・・
すでにジュニアとして、将来の社長として仕事をしている今、あまり自由になる時間はない。
「とにかく、鷹野つくしについてわかったことは?」
「・・・間違いなく鷹野家のご令嬢だよ。ただ、世間はとくこって名前で認識してるけど。
それ以上はあまり調べようがないね、鷹野家のガードがすごくって」
「鷹野都紅子?とくこって名前は聞いたことがあるな。
金と地位を狙っている男たちの最高の餌だ、政略結婚の相手としては一番ってことだな。
それに美女って噂だし。」
「さすが、総二郎。経済界には多少疎くても、美女のチェックは抜かりないな」
あきらのからかいに総二郎は顔をしかめた。
「確かに美女って噂に惹かれたけど、噂だけが先行して人前にでないから余計に興味がわくんだよ!!」
「そうだね・・・ホーク・ロードは鷹野財閥の一端でもともとは紳士服専門でNYでは人気ブランドだよ。
残念ながら日本ではダメだけどね。それであの鷹野颯介がでてきたんでしょ?
で、そのホーク・ロードだけど数年前から子供服とレディスも手がけててそれが結構人気なんだ。
そのころから彼女の名前が表舞台に出始めた。それまでは存在すら知られていなかったのに」
「・・・それの意味するところは?」
「なんだろうね・・・」
俺たちは完全に『鷹野つくし=牧野つくし』だと思い始めていた。
これは直に確かめるしかない。
俺たちは近いうちにホーク・ロードに鷹野颯介を訪ねることにして別れた。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
道明寺邸の東の角部屋。そこが俺の書斎になっている。
仕事部屋と銘打って、あの女にも立ち入らせない俺の聖域。
ここが唯一俺の安らげる場所・・・
司はテラスにでてタバコに火をつけた。
鷹野つくしは牧野なんだろうか?
もしも牧野だったとしたら俺は何をしたらいいんだろう?
類たちには会うなと言われたし、その約束は守るしかない。
牧野に逢いたい、抱きしめたい。
だが、それはもう叶わない夢だ。
俺はなぜあの時・・・この道を選んだんだ?
本当にこの道しかなかったのか?
牧野と道明寺、どちらも得る道があったんじゃないだろうか?
後悔は後悔でしかない。当然答えはでない。
いまさら、過去は変えられない。仮定で考えても仕方のないことだ。
牧野という女は俺の手から滑り落ちていった。
俺が自分で落としたんだ・・・・。
顔を見ることはできなかったが、鷹野つくしは華奢な体つきで雰囲気は牧野にそっくりだった。
俺のカンは「あいつは牧野だ」と叫んでいる。
俺は間違っていたのかな。
彼女が妊娠していたことを司に言うべきだったのかもしれない。
そうすれば、司は考えをかえて道明寺を救う別の手立てを考えたかもしれない。
たとえ避けられない運命だったとしても、彼女にとっては何らかの助けになったかもしれない。
類はベッドに座り、過去を振り返っていた。
俺は鷹野つくしを見た瞬間に「牧野だ」とそう感じた。
俺の全感覚が、牧野だと告げていた。
彼女に会って・・・俺はどうしたいのだろう。
子供はどうなったのだろう?
無事に産まれたのだろうか?
牧野、君は今・・・幸せだろうか?
また君を道明寺財閥のドロドロとした闇に巻き込んでいいのだろうか?
ほうっておいたほうが君は幸せ?
牧野、君が俺たちの前から消えたとき、俺は悟ったよ。
俺では、君の救いにはならないんだね・・・
でも、せめて手助けはしたかったのに。
牧野、君の幸せな笑顔を見たい。
はやく俺に笑顔を見せて・・・
たぶん類はまだ牧野が好きなんだな。
だからあの男があそこまで必死に牧野を探す。
うまくいかないものだな。
牧野が類を好きだったとき、あいつは静を愛していた。
類が牧野に目を向けたとき、彼女は司を愛していた。
あの二人の愛情はすれ違うようにできているんだろうか。
牧野も類を愛していれば、きっと幸せだっただろう。
泣くこともなかったに違いない。
俺は・・・女と遊んでばかりだけど、牧野には一目置いている。
あんな女は俺の周りにはいなかった。
たぶん・・・親友の二人が惚れなければ俺もいずれは惚れたかもしれない女。
総二郎は親友二人の苦悩を感じて、ため息をついた。
司も辛い立場だが、類も辛いだろう。
あいつは他人を愛してる女を必死で守ろうとしている。
いろいろと司をからかって遊んでいたが、親友を裏切る真似をしたことはない。
司が牧野を愛している限り、どんな状態になろうとアイツは牧野と一緒になることはないだろう。
たとえ、奪うと宣言したとしても・・・アイツは司からは奪わない。
あきらは空を見上げた。
月がとても綺麗で、なんとなくあの夜を思い出した。
俺は牧野が好きだった。
親友の愛している女で、親友を愛している女。
だから俺は自分の心にストップをかけていた。
牧野のような女が俺にはお似合いだと思ったこともある。
俺を照らす太陽が牧野だと感じたこともある。
だけど、すでにアイツは親友の彼女で・・・
司と牧野の恋愛は俺たちにとって希望だった気がする。
俺たちには政略結婚が当然のことだった。
俺の両親は愛情に溢れている珍しい夫婦だが
大企業のトップとなると・・・恋愛結婚は殆どない。
お見合いか、最悪の場合はお見合いすらなく気がつくと婚約していたり。
会社と会社の結びつきが結婚だと思っていた。
そんな考えを捨てさせたのがあいつらだった。
あいつらがうまくいけば俺たちも・・・なんて考えたりした。
俺たちはあの二人に自分たちの夢を押し付けていたのかもしれない。
牧野が戻ったら・・・あの二人はどうなるのだろう?
今度こそ二人とも幸せになってほしい・・・
二人とも大事な親友だ。
永遠に変わることのないもので結ばれた「親友」
司さんの様子がおかしい。
まさか、離婚なんて愚かなことを考えているのではないでしょうね!?
「ふ・・・若宮財閥の助けなくして道明寺など・・・」
沙織は内心の不安を押し隠して、笑みを浮かべた。
私は自分で夫を選んだ。道明寺司を選びだした。
初めて彼を知った時、すでにあの女がいた。
あの女のことは有名だった。
それというのも司さんがメディアを通じて全国に宣言をしたからだ。
「4年後、必ず迎えに行きます」
女性のほとんどがこの言葉にうっとりとし、そして嫉妬したに違いない。
私はこの宣言を聞いて、道明寺司が気に入った。
道明寺財閥の御曹司という立場は私の夫として素晴らしいし、
なにより私の横に立つにふさわしい容姿。
なんとしても道明寺司を手に入れたかった。
私は父に道明寺司を手に入れてほしいと頼んだ。
タイミングよく彼の父親が倒れたこともあって私の願いは即座に叶った。
最初は私との結婚に難色をしめした彼だけど、最後にはあの女より私の方がふさわしいことを理解したようだ。
当然のことだわ―私以上に彼にふさわしい人間はいない。
跡取りを産むのは私の義務、そして私の権利。
道明寺財閥の次代の母親は私でなくてはならない。
まだ子供はできない。
彼に検査を要求したのに、つっぱねられてしまった。
男のプライドが許さないのかもしれない。
でも・・・彼は私のものよ。
私以外の人間が彼の横にいるなどありえない。
あの溝鼠を追い払うには最高のチャンスだった。
だけど・・・間違っていたのだろうか?
財閥は素晴らしく発展した。
それは嬉しいことだが、司は・・・機械になってしまった。
ただ寝て、起きて、会社のために行動し、会社のために息をするだけ。
他人や世間のことはどうでもいい、冷たい人間。
財閥のトップに立つには時には冷酷にもなれる人間でないといけない。
それは当然のことだ。
だが・・・今の司は・・・
子供ができれば、司も変わるかもしれないと思って
「はやく跡継ぎをつくりなさい」とまで言った。
返ってきた言葉は「不幸な子は俺だけでいい」
私は間違っていたの?
私は自分の子を不幸にしたの?
女遊びを繰り返す司。
どの女にも子供はできない。避妊はきちんとしているようだ。
若宮財閥からお嬢さんとの結婚話があったとき、私は喜んだ。
これ以上の良縁があるかしらと心の中で手を叩いた。
夫が危険な状態で、会社が傾きかけたから特に喜んだ。
司の抵抗は激しかったが、財閥の社員を盾に諭すを渋々ながら了解してくれた。
結婚してしまえば、私に感謝するようになると思っていた。
司は、今でも牧野つくしを愛している。
タマさんに彼女の写真や思い出の品を預かってもらっていることも知っている。
私は・・・親として子供にしてはいけないことをしたの?
決して、司の不幸を望んだわけではないのに・・・・
昏睡状態から覚めたとき、すべては決まっていた。
息子は結婚し、付き合っていた女性は・・・失踪していた。
私が倒れたことで息子が犠牲になったようだ。
楓と違い、私は司の交際相手「牧野つくし」に不満はなかった。
調べ上げた結果、知性もある、根性もある。
磨けば光るダイヤというわけだ。
教育次第で彼女は道明寺を支える土台となっただろう。
私は司が変わったときから牧野つくしを調査させていた。
それはあの運命の日も、失踪した日も・・・
私が回復し、道明寺が軌道にのっても息子は離婚しようとしない。
結婚相手に愛情があるわけではなさそうだ。
まったく愛情も信頼もない相手との結婚は司に悪影響を与えている。
楓も良かれと思って押し通したのだろうが・・・
今では若宮は厄介の種でしかない。
「鉄の女」が見誤った事実がある。
若宮財閥の現総裁、司にとって義父でもある若宮智成(ともなり)は・・・
チャンスを狙っていた。道明寺を若宮に取り込むチャンスを。
たとえ今は道明寺が盛り返していようと、ダニはいるのだ。
小さくて見えない・・・やっかいなダニ。
そのダニが道明寺を刺そうと狙っている。
果たして司にそれが見えているだろうか・・・。
このままでは将来、司も倒れ、道明寺も倒れる。
もしかしたら、このまま全てがうまく回るかもしれないと様子を見すぎていた。
現役を長く離れたためにカンが鈍っているようだ。
楓も今では後悔しているようだが・・・どうなることか。
ただわかるのはこのままでは未来はない。
全然変わっていなかった。
久しぶりに見たアイツは、相変わらずのくるくる頭に端正な顔。
私の大事な人たちにそっくりな・・・顔。
道明寺に再会してどう感じるか、自分でもよくわからなかった。
恨んでいるのか、憎んでいるのか。
もう何の感情もないのか。
それとも・・・まだ愛しているのか・・・
道明寺が私の目の前に立っている。
私が感じたのは・・・何だろう?
恨みでも憎しみでもなかった。
わからない。今の感情は自分でも理解できない。
彼の奥さんがいることはわかっていた。
時々、鋭い視線が突き刺さっていた。
彼女の目の中にあるのは・・・何だろう。
愛情ではない気がする。
鷹野家に入って、事情を知った。
道明寺は私を裏切ったんじゃないって。
仕方のない選択だったんだって・・・。
あの記者会見はタイミングが悪かった。
どうして私に言ってくれなかったの?
すべてはタイミングだ。
微妙なズレが決定的な溝を生む。
道明寺・・・あの時、私は・・・
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