颯HAYATE★我儘のべる

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明けない夜はないから 5



鷹野颯介の都合と俺たち全員の都合がつくのがその日しかなかったからだ。

俺たちは日本支社をたずね、颯介に面会を求めた。

アポイントは当然とっていたので、すんなりと社長室へと通された。

もちろん、待っていたのは鷹野颯介・・・と鷹野煬介?

なぜ兄弟揃っているのかという疑問は置いといて、俺たちは礼儀正しく挨拶をかわした。

「どうぞ、お座りください。飲み物を用意しましょう、何がいいですか?」

そんなことはどうでもよかったので、当たり障りなくコーヒーをお願いした。




「さて、どういうご用件でしょう?有名なお三方がお揃いでいらっしゃるほどの用件とは?」

「・・・私たちには探している人物がいます。もう5年も探し続けています。

今、俺たちはその女性が見つかったかもしれないと考えています。」

あきらが颯介をうかがうように言う。

こういう会話というか交渉はあきらが一番適任と考え、俺と総二郎はあきらに任せて黙っていた。

その間に颯介と・・・ついでに煬介の様子を観察することにした。

どんな反応も見逃すつもりはなかった。

「それが私たちに何か関係がありますか?」

颯介も煬介も平然としている。あきらは直球をぶつけることにした。

「あなたがたの妹、鷹野つくしさんは・・・牧野つくしではありませんか?」

何が楽しいのか颯介は微笑んでいた。煬介は苦虫を噛み潰したようなしかめっつら。

いったい何を考えているのだろう。

「牧野つくしさんというのがあなた方が探している女性というわけですか。

では、紅を牧野さんだと考える理由は何でしょう?」

二人は否定しなかった。肯定もしていないが。

「つくしという名前は珍しいと思います。そうある名前ではありません。

私たちは持てる力の全てを使って彼女を探しました。

もう一人の親友、道明寺司も同じです。

いまだに探し続けていますが、見つかりません。

自惚れるつもりはありませんが、

俺たち4人が探し続けて見つからないというのは・・・殆どありえないことです。

より強大な力を持った人物が我々を阻んでいると考えられます。

鷹野財閥は・・・はっきり申し上げて我々には及びもつかない強大な力を持っていらっしゃる。」

「・・・つまり、私たちがその牧野さんを隠していると?」

「はっきり言うとそうです」

「おもしろい方ですね・・・美作や花沢、西門に比べれば鷹野は強大かもしれません。

これは失礼な発言ですね、申し訳ありません。

しかし、道明寺ならどうでしょうか、そうでもないのでは?」

颯介は相変わらず平然としている。煬介はただ兄を伺っている様子だ。

どういうことだかわからないが、この場の主導権を握っているのは鷹野颯介だ。

「いえ、私たちも同感です。確かに道明寺は経済界には鷹野家と同様に力がある。

ですが、そのほかはどうでしょうか?

政界や花柳界、鷹野家は京都の古いお家柄でもある。

はっきり言って俺たちにはあまり縁のないところ、

それこそ西門のように茶道の世界や華道にも縁が深い。

道明寺以上と言えるでしょう?」

「そうですかね・・・タバコを吸ってもいいでしょうか?」

颯介は礼儀上きいたたけで答えは必要なかったらしく、返事をしないうちに火をつけた。

「つまり、鷹野があなた方の邪魔をしていると、そういうわけですね?」

「いいえ、邪魔とは言いませんが・・・ところで最初の質問に答えていただけますか?」

颯介の術中にはまるわけにはいかない。

このままではうやむやにされそうな気がした。

颯介はゆっくりとタバコの煙を吐き出しながら、視線を俺たちに合わせた。

「いいでしょう。紅は5年前まで牧野という姓でしたよ。鷹野の養女ですからね」

「兄貴!?」

今まで黙って俺たちを睨みつけていた煬介が驚いた顔で叫んだ。

「煬介、うるさいぞ。言うべきことでもないが、隠すことでもないだろ。

それにこの人たちは・・・ほとんど確信してるよ。確認のために来たようなものだ」

確かにその通りだ。心の中では結論がでていた。

・・・俺たちはやっと、彼女を見つけた!

その思いで胸がいっぱいになった。

「牧野にあわせてください!」

今まで黙ってあきらに任せていた俺だったが、このときばかりは気持ちが前にでた。

「・・・牧野、ね。あなたがたはどこまで知っていますか?」

俺たちには一瞬どういう意味かわからなかったが、牧野の妊娠のことに違いないと思い、それに対して答えた。

「彼女が司の子を身ごもっていたことは知っています」

「・・・それは紅から聞いていますよ。そうではなく、道明寺と若宮のことです」

道明寺と若宮?それは・・・どういうことだ?

「それは・・・どういうことでしょうか?」

「ようするに・・・何も知らないんですね」

「司が追い詰められて若宮の令嬢と結婚させられたことは知っています。

親父さんが倒れて危篤状態になり、その噂が席巻し道明寺は傾きかけた」

「その通りですが、なぜ道明寺ほどの財閥が噂ひとつ抑えられなかったのか、

考えたことはありますか?」

「司が・・・公の場で倒れたためだと・・・」

確かにあんなに早く総裁の危篤が広まったのは不思議だった。

トップが突然に危篤なんて状態になれば、会社の混乱をさけるためにしばらくは隠したいはずだ。

「あのとき、道明寺氏は父にあることを相談していたんです。

あるレストランの別室で食事をしながらね」

颯介は小さくなったタバコを灰皿に押し付けながら言った。

「以前から若宮智成が自分の娘との縁談を道明寺英(すぐる)氏にもちかけていたのはご存知ですか?」

颯介は質問したものの、やはり答えは期待していなかったようでそのまま続けた。

「ある理由から道明寺氏はそれを断り続けていた。」

颯介はそこでいったん言葉を切って、また新しいタバコに火をつけた。

俺たちはただ黙って続きを待った・・・。

「あの日、食事を終えて部屋をでると、偶然というには怪しいが若宮智成がいた。

そして場もわきまえずにまた縁談を持ち掛けた。

しつこい交渉に道明寺氏は声を荒げて激怒したそうだよ。

父はプライベートなことだし、他用もあったのでそこで失礼した。

道明寺氏が若宮氏を二人が出てきた部屋に入れるのを見たそうだ。

場所が場所なだけに個室に入れたんだろう。

大声で話したために店員が飛んできたらしいからな。

そこで何があったかはわからないが、道明寺氏はそこで倒れた」

つまり、司の父親が倒れたときに一緒にいたのは若宮智成ということか?

「殺人・・・とは言わない。あれは事故だろう。道明寺氏は以前にも倒れているし、

はっきり言って激怒して興奮していたそうだから、心臓に負担をかけたんだろう。

だがね、その後・・・道明寺氏が危篤に陥ったことが若宮には有利に働いた。

つまり、噂を広めたのは若宮智成だよ。それは私たちの調べで間違いない。

道明寺が傾きかけたのを利用して、断られたはずの縁談を今度は楓さんの方に持ち込んだ。

楓さんとしては、夫が危篤で不安なうえに総裁の代理としての重圧があった。

渡りに船の縁談だっただろう。

彼女の心理状態が不安定だったのと、紅と別れさせたかった思いが若宮の思惑を見抜けなかった理由だろうね」

「・・・若宮はなぜそこまでして娘と司を結婚させたかったんですか?」

「さあね。それはまだわからないが、発端が娘のわがままからはじまったのは事実だろうね」

それは俺たちにもわかっていた。

あの沙織という女が司に惚れこみ、いや惚れたといえるだろうか?

自分に似合う男として司に白羽の矢を立てただけだ。

愛情とは思えない。

ほしいものは何が何でも手に入れる、わがままな子供。

それが俺たちの若宮沙織の印象だ。

とにかく、あの女が司を欲しがった。

そして父親は司を買ったんだ。

そう、娘に買い与えたんだ・・・

「牧野に会えますか?」

類がまた聞いた。俺たちも牧野に会いたかった。

「紅は会いたがってないと思うけど。」

答えたのは颯介ではなく、煬介だった。

「煬介、この人たちは道明寺ではない。紅を助けようとした人たちだ。

紅にきちんと決めさせなければ。紅もそろそろ決断のときだよ。

あの子たちもどんどん成長していくんだから」

あの子たち???

もしかして、司の子のことか?

でも・・・あの子たち!?

「司の子、産んだんですね?」

「あ?産むに決まってるだろ!紅をどんな女だと思ってるんだ?」

なぜか鷹野煬介は俺たちに敵対心、敵愾心を持っているようだ。

「煬介!!・・・もちろん、紅は産みましたよ。

一緒に日本に来ています。かわいい子たちですよ。

双子の兄妹で、榊(さかき)と椛(もみじ)って名前ですよ」

榊と椛・・・その名を聞いて俺たちが感じたのは道明寺を意識してつけた名だということ。

司の母、楓と姉の椿。どちらも樹木からそのまま取っている。

司は違うが漢字ひと文字という共通点はある。

榊も椛もどちらも樹木。

少なくとも彼女は出産した段階ではまだ司を想っていたに違いない。

でも、すでにそれから4年は経過している。

彼女の想いが変わっていたとしても不思議はない。

「彼女に・・・俺たちが会いたがっていると伝えていただけますか?」

「それはもちろん伝えよう。だが、さっき煬介にも言ったが紅の気持ち次第だ。

それは忘れないでもらいたい。」

その煬介はまだ苦虫を噛み潰したような顔で俺たちをにらみつけている。

よほど俺たちを嫌っているのだろう。

理由はよくわからないが・・・?

「わかっています。彼女の気持ちを尊重します。」

「あともうひとつ、あなたたちに会うことを同意しても道明寺となるとまた別だ。

一緒に連れてきたり、無理強いして会わせることのないようにお願いしたい。

もしもそんなことをしたら鷹野が黙っていないと思ってくれ。」

「彼女が会いたいと言わない限り、司と会わせるつもりはありません。

それは司にも言い聞かせています。司自身、会わせる顔がないと思っていますし。

ただ、鷹野つくしさんが牧野だったということは伝えさせてください。

その結果は伝えると約束してますので、勝手ですが約束は破りたくない。

あとは彼女の意志を尊重します、俺たちを信用していただくしか証明のしようがありませんが・・・」

後日連絡をもらうことを約束し、俺たちはホーク・ロードを後にした。









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