颯HAYATE★我儘のべる

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明けない夜はないから 7



5年間探し続けた親友が今、目の前にいた。

俺たちはこんなに早く彼女に会えるとは思っていなかった。

ホーク・ロードで鷹野兄弟と会ってからまだ5日、颯介からあの翌日に電話があったときは正直驚いた。

日程を指定したのは颯介。俺たちは即座に予定を組み替え、今日に臨んだ。

どんな予定があろうと、牧野に会うことより大事なことはない。

それは、総二郎やあきらにとっても同じだったらしく、連絡すると絶対に行くという返事だった。

「「「牧野!」」」

俺たちは5年ぶりにあった彼女に驚嘆した。

綺麗なだけでなく、以前にはなかった輝きと自信。

さらに・・・強い女性になったようだ。

俺たちを見た彼女の顔が喜びに輝いた。

「類、西門さん、美作さん・・・おひさしぶりです。あの時は・・・ごめんなさい」

そういう彼女の顔にさっきまでの喜びはなかった。後悔と悲しみ。

「みんな、私のことを・・・色々考えていてくれたのに・・・逃げてしまって・・・」

彼女の頬を涙がつたって落ちた。俺たちは彼女の今までの苦労と悲しみを見た気がした。

「牧野、俺たちのことは気にしないで。結局、大変な思いをしたのはあんたでしょ?」

俺は昔に戻ったような気がした。

「そうだな、心配してないとは言わないよ。だけど、俺たちがしたのはそれだけだ」

あきらも少し涙ぐんでいた。

「ああ、お前は本当に苦労好きだよな。俺たちがあんなに助けるって言ったのに、

わざわざ逃げて苦労する道を選ぶんだからな。変なヤツだよな。」

総二郎が笑って彼女の額を小突いた。

俺もなんとなく笑顔になった・・・。

彼女も微かに笑った。ただそれだけのことがなんだか嬉しかった。

「お母さん・・・」

ドアの方から子供の声がした。

俺たちがそっちに振り返ると・・・子供が2人。

・・・この子たちが榊と椛に違いない。司にそっくりな二人。

男の子と女の子。二卵性双生児にもかかわらず、二人とも司に生き写し。

違うのは髪がストレートなくらいだろうか。

あの時なら4歳になるはずだ。

「牧野・・・この子たちがあの時の?」

「うん、そうだよ。榊、椛、おいで。お母さんのお友達だよ」

おずおずと二人がこっちにやってくる。

近くで見れば見るほど、司にそっくりだった。

そう、司の4歳の時にそっくりだ。双子の顔は似ているが瓜二つというほどではない。

それなのに、どちらも司の小さい頃にそっくりだ。

「お母さんの?」

二人は彼女の足に張り付いてしまった。

足をぎゅっと抱きしめて顔を少し隠しながら目線だけこっちに向ける。

司の子にしては・・・人見知りなのか?

司はこのころから我儘で傲慢で大胆、そんなヤツだった。

「そ、お友達。ご挨拶して?」

二人はやっと完全にこっちを向いた。

「「・・・こんちは」」

おずおずと答える姿がかわいい。

「どれがお父さん?」

言ったのは男の子、たしか・・・榊だ。

それにしても、お父さん?

「ち、違うよ!榊、この中にお父さんはいないわよ」

慌てた牧野が思いっきり否定。

榊はふくれっつらになって、プイッと横を向いた。

「ご、ごめんなさいね。この子たち男の人を見るといっつもお父さんかって聞くの。」

焦った彼女が慌てて弁解する。この子たちはお父さんが欲しいのかな・・・

「気にするこっちゃないだろ。小さい子だ、父親が恋しいんだろ?

それより牧野、お前・・・あれからどうしていたんだ?」

総二郎が話を本題に持っていった。俺たち全員が知りたかったこと。





「あの日、みんなから咄嗟に逃げたんだけどすぐに後悔した。

あの時は道明寺を思い出すもの全てから逃げたかったの。

だけど、お腹の子のことを何も考えていなかった・・・。

とにかく、あまり遠くへ行くお金もないし隣町へ行ったのね、

そしたらさ、教会があったの。私、教会なら助けてくれそうな気がして。

私は仏教徒だけど、教会のイメージって迷える子羊の救済って感じだから。

でも、その教会は鍵がかかってて開いてなかったの。途方にくれて入り口の前に座り込んじゃった。

そしたら身なりの良いおじさんが声をかけてきた。

『行くあてがないなら、家においで』って。私ものすごく警戒したよ~。

誘拐?強盗?まさか・・・強姦?そこまで考えたんだけどさ・・・。

その時にはなんか、自暴自棄になってて。どうなってもいいかって。

だからあまり考えずについていっちゃった。」

彼女はそこで言葉を切った。そして視線を部屋の隅で遊んでいる子供たちに向けた。

俺たちは何も言わず、ただ彼女がしゃべりだすのを待っていた。

「また子供のことを考えてなかったんだ。

でもついていってびっくり。道明寺レベルの部屋につれてこられてしまって。

家じゃなくてホテルだったんだけど。頭の中は援助交際って言葉ばっかり浮かんでた。

でも実際は違ってて、食事をさせてくれて、シャワーを使わせてくれて、

ベッドを貸してくれただけ。一晩泊めてくれたの。

そして、朝目覚めたら・・・その人が言ってくれたの。

『行くところがないなら家に来なさい、仕事をあげよう』って。

どうせ行くところはないし、戻りたくなかったから・・・

このおじさんに賭けよう!って思ったの。悪い人じゃない、そう思った。

そのおじさんが鷹野泉一(せんいち)、今の義父。

まさか、来なさいって言ってくれた家がNYにあるとは思わなかったけど。」

彼女はそう言って小さく笑った。

「妊娠初期に飛行機は危ないって言われたけど、私・・・日本にいるとふさいでしまって。

まだつわりも大したことなかったし。健康状態も悪くはなかったから

このときも子供のことを考えていないって言われればそれまでだけど

私は早く道明寺を思い出すすべてのものから離れたかった。すべて捨てたかった、忘れたかった。

だから・・・無理をしてすぐにNYに行ったの。

なんとか、流産もせずNYに到着。NYに着いてすぐに産科に行ったけど異常なしだった。

そしてデザイン学校に通わせてもらった。ホーク・ロードのレディスと子供服は私のデザインなの。

今、やっと少しづつ学費を返済しているんだ。

妊娠8ヶ月になって、義父から言われたの。養女にしたいって。

迷ったけど・・・ありがたく受けた。

でも、もしも道明寺の家に見つかったとき、鷹野財閥がバックにいると強いかなって。

ちょっと打算的だけどね・・・。

子供が生まれる前に、養子縁組をして正式に鷹野の娘になったの。

義父の奥さんは数年前に病気で亡くなってたから、その日から鷹野の女主人役をやってる。

子供はねNYで生まれたし、日本に戻るつもりもなかったからアメリカ国籍しかないんだ。」

アメリカ国籍しかない?・・・ってことはこの子たちは両親ともに日本人で

身内に誰一人として外人はいないというのに・・・アメリカ人??

「ちょっと待って。アメリカって日本みたいな戸籍制度はないよね。」

そう、もちろん国籍ってものはあるけど日本のような戸籍制度はない。

アメリカは出生証明書というものがあって、結婚していなくても父親の名を書ける。

たとえば、鷹野榊。父親は道明寺司、母親は鷹野つくしっていうように書いて提出。

それでOK。そして出生証明書はいろんなものの証明になり、控えみたいのがあって自分で保管している。

たとえ、父親がその子の存在を知らなくても父親は誰々と書けるのだ。

それが嘘だったとしても・・・。

「・・・この子たちの父親にところには何て書いたの?不明って書いたわけじゃないよね?」

そう、不明とも書くことができるのだ。

俺はなんとなく答えはわかっていたが、聞いてみた。彼女が不明なんて書くわけがないし、嘘つくはずもない。

彼女は何も答えずにただにっこりと笑っただけだった。

俺たちはそれを答えと受け取った。おそらく俺の考えているとおりなのだ。

その証明書の父親は「道明寺司」になっているに違いない。

・・・それって・・・司に隠し子ってことか?おもしろい!

いや、違うよね。司に隠されっ子だ・・・本人は知らないし。

う~ん、この状態で笑っちゃいけないけど・・・少し笑える。

司・・・お前、こんなにかわいい子たちを知らないなんて不幸だぞ。

「司に言う気はないのか?」

あきらが言った。俺は・・・なぜかな、言うなんて考えがなかった。

「道明寺には奥さんがいるでしょ?言ったって誰が幸せになるわけでもないよ」

「だけど、お前もあの時の事情は知っているんだろ?司は今でも、お前のことを愛してるぞ」

「ああ。司とあの女はうまくいってない。もともと司は嫌々結婚しているわけだし、

あの女は俺らから見ても好きになれるような女じゃない。」

総二郎があきら同様に牧野を説得しようとした。

「あの時はあれで仕方がなかったのかなって思ってる。でも・・・」

「あきら、総二郎、あの人とした約束を忘れたの?無理に司に会わせるような真似はしないって約束したでしょ?」

俺は二人に数日前の約束を思い出させた。

「ああ、わかっているよ。ただ牧野の思いをちゃんと聞きたかったんだ。」

「な、牧野、無理に司に会わせる気はない。だがひとつだけ聞かせてほしい。

お前はまだ司を愛しているのか?」

総二郎は彼女の顔をじっと見つめ、真剣な顔で尋ねた。

総二郎がここまで真剣な顔をするのは珍しいことだろう。

彼女は答えることを躊躇していたが、その真剣な顔に決心したように言った。

「道明寺以外に愛せる人はいないよ」


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