颯HAYATE★我儘のべる

颯HAYATE★我儘のべる

明けない夜はないから 8



『まさか、あの子たちを・・・』

その言葉が俺を縛り付けて、どうしようもない。

あの言葉の意味は?

なんでもないことだと思った。だが、俺のカンはそう言っていない。

調べろ。と、そう告げている。

俺に子供はいない。避妊にはこれ以上ないほど気をつかってきた。

あの女と問い詰めることは簡単だが、そう簡単に口を割る女でもない。

調べるといっても、情報が無さ過ぎてどこから調べればいいのかさえわからない。

とりあえず、今は・・・西田に調べさせている若宮の結果待ちだ。

西田ならきちんと調べ上げるに違いない。

その結果によっては・・・



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆




俺はその日、社に出社し淡々と仕事をこなしていた。

結婚してからというもの仕事をすることで孤独をいやし、ストレスを解消してきたようなものだ。

解消されたかどうかは怪しいものだが・・・仕事しかやるべきことがなかった。

TRRRRRRRR・・・

机の上の電話が鳴った。

「はい」

『社長、受付に鷹野さまがお見えですが・・・』

電話は受付からの直通電話。アポイントのない客がきたらしい。

鷹野?鷹野ってあの鷹野か?

「鷹野・・・鷹野財閥の?」

『はい、鷹野颯介さまです。お通ししてもよろしいでしょうか?』

鷹野颯介・・・あの鷹野つくしの兄貴。いったい何の用だ?

俺は迷ったが、会ってみることにした。

ほどなくして、秘書に案内され部屋に入ってきたのは紛れもなく鷹野颯介。

俺は立ち上がって、挨拶した。

「はじめまして、いや二度目ですね。大河原のパーティでお会いしました。

今日はどういうご用件でしょうか?」

俺は颯介にソファに座るよう促し、秘書にコーヒーを言いつけた。

「そうですね。今日は・・・妹のことでうかがいました」

妹!?あの・・・牧野のことか?いや、鷹野つくしだ。

「妹・・・というと。」

颯介はなぜか微笑むとはっきりといった。

「あなたもおわかりでしょう?妹の紅は以前、牧野つくしという名前でした。

花沢さんたちから連絡がありませんでしたか?」

まさか、こんなにはっきりと、しかもいきなり確信に触れるとは思わなかった。

俺はうろたえて言葉を失った。

「驚かれたようですね。・・・本当は教える必要はないのですが、どうせすぐにわかることです。

今、妹はあなたのお友達と会っています。F4の仲間たちとね。

おそらく、そのご友人たちが今日か明日にでもあなたにその結果をお伝えするでしょう。」

「・・・そう、ですね・・・伝えてくれるでしょう。それを知っていながらなぜあなたが来たのですか?」

颯介はまた笑った。

「物事を早くすすめるためです。そのほうがみんなのためですからね」

俺はわけがわからなかった。

「あなたは花沢さんから若宮智成が以前から道明寺英氏にあなたと娘の縁談を持ち込んでいたことをききましたね?

なぜ智成氏があんなに必死に縁を結ぼうとしたのか今、調査中でしょう?」

「そのとおりです。父が鷹野さんに何か相談をしていたことも聞きました。内容はわかりませんが・・・」

「・・・ま、それはいずれわかりますよ。調査結果はでましたか?」

颯介は相談内容を教えるつもりはないらしい。

「いえ、まだ。ですが、いずれわかるでしょう。」

「そうですね。ですが、時間がもったいないので私どもが調査した結果をお教えしましょう。」

そう言うと颯介はタバコを取り出し、火をつけた。

「失礼。ここは禁煙ではないですよね?」

そういってテーブルの上の灰皿を指差し、微笑んだ。

「それで、そちらの調査結果は?」

俺は颯介の意図がつかめず、多少イライラしながら聞いた。

「・・・6年前、それまで日本にあった事業拠点をNYに移したことは知ってますか?」

「え?・・・6年前かどうかは・・・」

「6年前なんですよ。ようするに海外進出したんですね。なんの計画もなしに。

日本では知られた若宮財閥も海外では無名だ。はっきり言ってなぜ海外進出したのかわからないね」

若宮智成ははっきり言って見栄っ張りなところがある。

おそらく、海外に本社がある、というのが彼の優越感に火をつけたのだろう。

そして、金ができたのを機に海外進出を果たした。地場調査も計画性もなしに。

「ま、移したのはいいが、事業ってのはそんなに甘くない。ようするにうまくいかなかった。

金はあるが、海外進出に金をかけすぎると日本も一緒に共倒れで若宮財閥は崩壊だ。

そこに娘が言う。道明寺司を気にいった、結婚相手にふさわしい、とね。

父親はそこに解決策を見出したわけだ。若宮財閥令嬢と道明寺財閥の御曹司。

結婚するのに素晴らしい組み合わせだろう? NYでの道明寺のネームバリュー。

利用しない手はないよな。これ以上、金をかけずにNYで成功する方法だ。

断られるなど思いもせずに英氏に縁談を持ち掛けた。ところが丁重に断られてしまった。

智成氏のプライドはズタズタ。そのうえ計画もおじゃん。それで必死だったのさ。

都合よく、英氏が倒れて道明寺が危なくなった。海外では金はあるが名前がない若宮。

名前はあるが倒れかけている道明寺。状況は若宮に有利に働いた。そういうことだ」

俺は話をきいて唖然とした。ようするに利用されたってことか?

あの女のわがままで俺が求められたわけじゃなかったのか。

いや、あの女のわがまま、独占欲が発端ではある。

それに今は若宮よりもわからないことがある。

この男の目的はなんだ?いったいなぜ、わざわざ俺に忠告に来たんだ?

俺は単刀直入にきいてみた。

「あなたは・・・なぜこの話を俺に?何が目的でしょうか?」

颯介は小さくなったタバコをもみ消しながら、俺の目を見た。

「妹のためですよ。そろそろ前に進まなくてはいけない。あなたもね。」

俺は意味がわからなかった。鷹野颯介はこれ以上なにも言う気がないようだ。

ただニヤリと笑い、俺を見ているだけだ。

「妹さんのためというのは・・・妹さんはなにを望んでいるんですか?」

答えが返ってくるとは思っていないが、とにかく尋ねてみた。

颯介はただ黙って俺を見ている。なにを考えているのかよくわからない。

俺よりも数枚は上手の男だ。俺はまだまだこの男にはかなわない。そんな気がした。

「妹がなにを望むかというのはこの場合、関係ないんですよ。状況が前に進むべき時になったということです。

若宮沙織が道は間違っているようだが前に進んでいる以上、俺たちも進まなくてはいけない。

それも相手を追い越し、先を行かなければね・・・」

颯介の言っていることはひとつも理解できない。だが嘘は言っていないことはわかる。

証拠を見たわけでもないのに、俺はこいつを信じていた。

「司くん、君は近いうちに真実を知るよ、それは間違いない。

でもね、その前にきちんと身辺整理をしてもらわないと困るんだ。」

やっぱり訳がわからない。真実を知ることと身辺整理。それに共通することは何だ?

「とにかく、いまはわからなくてもいずれわかる。君がしなくてはならないことは若宮と決別することだ。

話はそれからだね。それと・・・妹には手出し無用だからね。」

「・・・手出し無用・・・どのツラさげて彼女の前にでれますか?」

颯介は笑っただけで何も言わず、席を立った。

「言うべきことは言った、失礼するよ。あとは君次第だ。

このまま腐っていくか、それとも・・・よみがえるか」

そういい残して颯介は部屋を出て行った。

俺の人生は腐りきっている。俺次第でそこからよみがえることができる・・・。

どうすればいいっていうんだ!? 牧野のいない人生なんてどうだっていい。

俺はハッとした。まさか・・・颯介の言おうとしていたことは・・・

俺次第で牧野を取り戻すことができるのだろうか?

俺は西田の連絡を待った。すでに颯介に聞いた事実を西田に伝え、事実確認を急いだ。

西田はすでに颯介の知っていたことを掴んでいた。それも随分前に・・・。

どうやら親父が絡んでいる気がする。早急に親父に会う必要がある。

俺は1週間後、予定を組みなおしNYの両親のもとへと飛んだ。
































© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: