颯HAYATE★我儘のべる

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明けない夜 番外 (沙織&楓&類)





何も悪いことはしていない。私は自分の当然の権利を守ろうとしただけ、それなのになぜこんな目にあうの?

それもこれも道明寺財閥のせい、司さんのせいだ。

彼が私を大事にして、お父様のように私を愛してくれていれば問題なかったのに。

それなのに、彼はそうしなかった。

自分の欲望を満たすためだけに私の体を利用したんだわ・・・なんてひどい男なんだろう。






私のいる狭い部屋に男がやって来た。ここから出ろと言う。なんて横柄な態度なの?

我が家の使用人なら即座にクビにしてやるものを・・・

出るわよ、こんな狭くて汚い部屋いつまでもいたくないわ!

私が今度通された部屋は薄暗く、やはり狭い部屋。小汚い机とイス。

そのイスに座れと言う、なんという侮辱だろう。私をこんな部屋に押し込め、こんな汚いものに座れですって?

私は抵抗したが、男の力強い腕に押さえつけられて無理やり座らされた。

怒りが全身を覆う・・・この男は私を誰だと思っているの?

男が私に聞いてきた、どうして司さんを殺そうとしたのか、ですって?

「私と離婚するなんて言うからですわ。お腹に子供までいるというのに・・・」

男がもう一人の男を見た。ただお互いにちょっと見て、また私に視線を戻した。

健吾さんを殺そうとした理由?

「殺そうとなんて思っていませんわ、ただ彼に罰を与えただけです。子供が悪いことをすれば親は叱るわ、それと同じです。」

男たちは何も言わなかった、言えないに決まっている。

私は当たり前のことをしただけなのだから。

私と同じ立場の女性なら誰もが同じことをするはずですもの。

それなのに男たちにはそれがわからない、だから私を悪女のように扱うのね・・・。

本当に男の人って仕方がないわ・・・私は笑いがこみ上げてきた。

早くこの男たちに常識を教えて、家に帰らなければ。

「私は自分の権利を守ろうとしただけですわ。お腹に子供もいるのに離婚する夫なんて、有り得ません。

まだ私を拘束するおつもりなら弁護士を要求いたしますわ!!道明寺の顧問弁護士に連絡を取ってくださらない?」

「・・・あなたは道明寺司を殺そうとしたんですよ。道明寺家の弁護士があなたを弁護するはずがありません。」

なんですって!!この男に自分の立場をわからせるにはどうしたらいいの?

「それに・・・若宮財閥は倒産しましたよ。あなたのしたことが倒産を早めてしまったようですね。」

私は真っ青になった。倒産した?お父様なら、なんとか立て直すと思っていたのに・・・

どうして、どんな男も私の邪魔をするのかしら!!お父様まで私の信頼を裏切るなんて・・・

「とにかく、道明寺家に連絡をしてください。お義父さまかお義母さまに連絡をとってくださらない?」

男は仕方がないというように肩をすくめ、大きなため息をついた。





数日後、私の元へお義父さまがやってきた。

「私に話があるそうだね?」

「ええ、お義父さま、私は不当にこんなところに監禁されています。弁護士をお願いしたいのです。」

「・・・君は自分のしたことがわかっているのか?君が殺そうとしたのは私の息子だよ。なぜ私が君の弁護士を雇わねばならない?」

「まあ!!お義父さまならわかってくださると思っていましたのに・・・。

私は確かに司さんを殺そうとしましたわ、でもそれは自分の権利を守ろうとしてのこと。

私のお腹には司さんの子供もいるんですのよ、お義父さまの孫ですわ」

そう言って沙織はにっこりと笑った。

「・・・君はここに入る前に健康診断を受けた。その時に胎児のDNAを調べたよ。

今の医学は素晴らしいよ。胎児でもDNA鑑定ができるからね。

昨日、結果が届いたんだが、君のお腹の子は司の子ではありえないということだ。これは証拠として裁判所に提出したよ。」

英は、義理の娘だった女をじっと見つめた。この女はすでに狂っている。

どう考えれば自分を正当化できるのだろうか?

「・・・私のお腹の子は司さんの子ですわ!違うなんて私を侮辱なさらないで。」

「生まれてからまた調べても同じ結果だと思うがね・・・。松崎健吾もDNA鑑定をしてもらった。

その結果、君の子はあの男の子供に99%間違いないそうだよ。

君はお腹の子の父親まで殺そうとしたんだね。彼が君のために弁護士を雇ってくれるとは思えないね」

沙織の顔色はどんどん悪くなっていった。真っ青というより怒りでどす黒くなっていく。

「お父様に・・・連絡をとります。お父様なら私を助けてくれますわ・・・」

英はただ黙っていた、沙織を見つめ意を決したように口を開いた。

「君に伝えるかどうか迷ったが、こんな状態では伝えた方がいいようだ。

君のお父さんは亡くなられたよ、ガンだったんだ。君が起こした事件でさらに寿命が縮まってしまったようだ。

それに・・・お兄さんは債権者から逃げて行方知れずだ。」

「・・・お父様が・・・死んだ?」

「ああ」

「・・・そんなはずないわ・・・」

沙織はそうつぶやくと気を失ってしまった。






沙織が気がついたとき、白い天井が見えた。白い天井しか見えなかった。

ここはどこ??私はどこにいるの?

「気がついたわね?ここは警察病院よ。あなたは気を失ったの。ちょっと検査させてもらうわね」

知らない女性が私を見ている。

「・・・司さんは?」

「誰ですって?」

「司さん、私の夫よ。とてもかっこいい人。彼ったら私のことが大好きで結婚してくれ、なんて土下座したのよ。

私、かわいそうになって・・・いいわよって答えたの。ねえ、司さんはどこかしら?」

女は不思議なものでも見るように私を見ている。なんて変な人なのかしら。

「・・・あなたの夫は今はいないわ。仕事じゃないかな」

「そうよね!!道明寺財閥の後継者ですもの、とても忙しいのよ。」

「・・・そうでしょうね」

沙織は自分の世界に閉じこもってしまった。

誰も自分を助けることはないとわかった瞬間、彼女は違う世界に行ってしまった。

自分に都合のいい、自分の思うとおりに生きられる世界に・・・。

沙織は看護婦に向かって幸せそうに笑った。

彼女は本当に幸せなのだろう。

彼女も悪夢の夜から・・・目覚めたのかもしれない。


FIN

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● 楓 ●


司の様子が変わった。以前のようなトゲトゲしさがなくなり、冷淡でもない。

どこか・・・暖かみのある人間になったような気がする。

それは沙織さんとの離婚を決意したせいだと思っていた。

牧野つくしを探さなければ、司はダメになると思ったが、なんとか自分で立ち直ってくれたのだと考えていた。

まさか・・・彼女が鷹野財閥の養女になっているとは思ってもみなかった。

探したが見つからないはずだ。




沙織さんとの離婚を決意し、その手はずを整えていた司にずっと気になっていることを聞いてみた。

「もしかして、好きな女性でもできたのですか?」

沙織さんとは仮面夫婦と言ってもまだ生易しいという感じだった。それなのに離婚しようとはしていなかった。

それが突然、離婚すると言い出し、若宮財閥と縁を切り始めた。

だとすると、別の女性と結婚したいのだと考えるのが普通だろう。

「・・・そんなことどうでもいいだろう?」

その質問をした途端、司の表情が固まり冷たくなった。警戒しているのがよくわかる。

以前、牧野さんとのことをあれだけ妨害したのだから仕方がないのかもしれない。

だけど、沙織さんとの結婚生活を見てきて考えが変わった。

以前の私は司よりも道明寺財閥のことを考えていたが、今は違う。

司が幸せになるなら誰と結婚してもいいと思っている。

今の司なら誰と一緒になっても財閥を率いていくだけの力があるし、道明寺も誰と手を組む必要もない。

「いるのね?」

「あんたに邪魔はさせない!!」

怒気荒い司の声に驚いた。私を睨み、牽制していた。私は目を丸くして慌てて否定した。

「もうあなたのお付き合いに反対する気はありません。あなたと沙織さんの結婚は失敗でした。

ずっとあなたの不幸な姿を見て心を痛めていたんです。今度は幸せになってほしいと思っています。好きな方がいるのね?」

私は必死で否定したが、司は信じていないようだった。

過去は簡単には取り消せないものだ、これ以上は何も言うまい。ただ見守っていればいい・・・。




それから2、3日たってから、主人から電話が入った。療養中で仕事から離れている夫からの電話を不審に思った。

「楓か?」

「はい、何かありましたか?」

「・・・先日、司から連絡があった。司は今、付き合っている女性がいる。

私は彼女とのことを認めているし、道明寺にも司にもふさわしいと思っているよ。

だから、君は何もしないでもらいたい。」

夫にまで信用されていないことに衝撃を受けた。 私は今の気持ちを正直に夫に伝えることにした。

「まあ・・・私は司の幸せを願っています。以前のように妨害する気はありません。

司が幸せなら、どんな女性でもいいと思っています。

牧野つくしさんとの仲を壊したのは私の最大の間違いでした、後悔しています。」

「・・・君が後悔していることは感じていたが、今回のことをどう考えているのか、わからなかったからね。

司の相手がどんな女性でもいいというのは同意できないが、今度の相手は道明寺にとっても司にとっても素晴らしい相手だよ。」

「ご存知なんですか? どなたでしょうか。」

電話越しに夫の微かな笑い声が聞こえた。

「言ってしまうと楽しくないだろう? 司が会わせてくれるまで待つべきだね。

それに私自身、会ったことはないんだよ、ただ知っているだけでね。」

夫の電話はそう言うと切れてしまった。彼も認める相手とはいったい誰だろう?

彼が認めるからには、よく躾けられたお嬢様なのだろう。

彼は家柄よりも教養と人柄を重視する。教養があり、人柄の良い人間は会社の利益になると考えている人だった。

それには賛成だが、私はそこに家柄というものを加えて考えてしまう。

家柄が良ければ、教養と人柄は良いという誤解のもとに行動してしまった。

その間違いの結果が、司に地獄を見せてしまった。後悔先に立たずとはよく言ったものだ・・・。





夫から連絡があったのか、司は次第にその女性のことを少しずつ話してくれるようになった。

と言っても、ある財閥のお嬢様で、とても素晴らしい女性だということだけだったが。

司が話すときの表情で、その彼女をとても愛しているということがわかる。

私はまた司の幸せそうな顔を見ることができて、とても喜んでいた。






沙織さんの誕生パーティ。

義母として、メープルホテルの社長として出席しないわけにはいかず渋々とその席についた。

司は何か落ち着かない様子で友達を話している。

いつのまに知り合いになったのか鷹野財閥の御曹司とも話しが弾んでいる。

私は何か変だと感じた。何かはわからないが、ただ・・・変だった。

会場中に視線を這わすと数名のSPらしき人物を見つけた。道明寺のSPじゃない。

鷹野財閥をはじめ、有数の資産家が来ているからSPがいるのは当然のことだろうと思ったが、どうもおかしい。

彼らの視線は司と沙織さんに向いている気がする。

私の知らないところで何かが進行している。もしかしたら、夫は知っているのかもしれない。どういうことだろう。





どれくらい時間が過ぎただろう。気がつくと沙織さんの姿がなかった。

主役が会場から消えてどうするのかと眉をひそめた。

どこに行ったのかと足を踏み出したとき、大きな声が私を止めた。

「道明寺!!!」

驚いて声の方を見た・・・あれは・・・牧野つくしだった。

私は恥かしいことに彼女がなんらかの復讐に来たのではないかと考えてしまった。

だが、その考えも一瞬で吹き飛んだ。

沙織さんがナイフを手に司に向かっていくのが見えたからだ。

私は呆然としていた、それなのに・・・彼女は違った。

司の元へ走り、身をもってかばったのだ。

崩れ落ちる彼女を支え、司は必死に呼びかけている。私は近寄ることさえできなかった。

沙織さんは司の友人とSPが取り押さえた。

鉄の女と言われたこの私が一歩も動けないなんて自分でも驚きだった。

やっと正気に戻ると司と彼女のもとへ一歩を踏み出した。

司の目が心配と不安を映し出している。

その時、私は気がついた。司が愛し、結婚を考えている女性・・・それは彼女なのだと。

「紅! 大丈夫か?」

声をかけたのは鷹野煬介だった。その一言で・・・彼女が鷹野都紅子なのだとわかった。

つまり、鷹野家の謎の娘は牧野つくしだったのだ。

彼女がなぜ鷹野つくしになったのかはわからない。だが、これまで彼女を探し出すことができなかった理由がわかった。

鷹野財閥・・・鷹野家が彼女を守っていたのだ。





司は彼女について病院に行った。私はNYに電話し、夫がつくしさんを鷹野家に預けたことを知った。

まさか、私の知らないところでそんなことになっていたとは。

夫はつくしさんの勇気と人柄を好ましいと思い、足りないのはマナー、装い、経験だと考えたらしい。

道明寺の将来の嫁として、鷹野家にそれらを指導してくれるように頼んでいた。

ただ、自分が倒れるという予定外のことが起き、気がついたときには最悪の状況になっていた。

すぐに親友の鷹野氏に連絡をとると、彼女を養女にして守ってくれていた。

そして約束とおり、自然に教育をしていたのだ。

そして・・・夫はある事実を知らされた。彼女のお腹に司の子がいるという事実。

だから、彼は黙って様子を見ることにしたのだ。彼女と子供たちを守るために。

私は初めて、その隠された事実を知り、新たに恥じ入った。私はなんということをしたのだろう。





司が結婚する―。

おそらく生涯でたった一人愛する女性と。

私は彼女の手術が終わり、数日たってからお見舞いに行った。そして心から謝罪した。

土下座してもかまわないと思っていた。それで許されることではないが、とにかく謝罪したかった。

罵声を浴びせられるかもしれないと思っていたが、彼女は簡単に許してくれた。

自分たちは若すぎた、情熱だけで突っ走っていたと・・・。

私は気がつくとベッド脇で涙を流していた。

今、司は幸せに満ち溢れている。喜びで輝き、結婚の誓いを述べている。

私も・・・その姿を見ることができて幸せだと感じていた。

孫たちがいる。息子、娘がいる。夫がいる。みんなが喜びに輝いていた。

みんな笑っていた。幸せそうだった。私も・・・笑っていた。


FIN



う~ん・・・どうでしょうかね・・・

ま、楓さんのお話はこれで許してください。






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● 類 ●


司を許せないと思ったし、許すつもりもなかった。

実際、俺はまだ許していないと思う。

今、こうして司と牧野の結婚式に出席していても・・・

司のしたことは許されることじゃないし、

彼女を傷つけ苦しめたことが一番の罪だと考えている。

彼女が失踪し、行方がつかめなかったときには司を頼った。

それはどうしても彼女を見つけ出したかったからだ。

彼女を俺が守りたかったからだ。

決して司を楽にさせようと思ったわけじゃない。

牧野に再会した途端、俺にはわかった・・・

牧野はまだ司を愛している―

俺にとっては辛いことだが、彼女に笑ってもらうためには

司と一緒にさせるしかないと思った。

彼女の微笑みは暖かかったが、どこか寂しげだった。

また高校生の時のような笑顔を俺に向けて欲しかった。

「俺と結婚することはできない? 子供たちも俺は愛せるよ?」

俺がそういうと彼女は困ったように笑った。

「私はたぶん、高校の時に一生分の恋をしたんだと思う。

初恋をして、本当の激しい恋をした。それで私の恋愛は終わったんだよ。」

彼女の言う初恋の相手が俺だってことはわかっている。

彼女が俺に惚れていれくれたとき、俺は静しか見えていなかった。

俺が彼女に惚れたとき、彼女には司しか見えていなかった。

俺と牧野は・・・すれ違う運命なんだね。

だけど、俺は嬉しいよ。

君が笑っている、幸せそうに・・・

俺に向ける笑顔にも、もう寂しげな影はない。

司がこの笑顔を引き出せるなら、俺は司をいつか許せるだろう。

今はまだ、多少怒りがあっても・・・

司が彼女を幸せにできるなら、俺は彼女をあきらめることができるだろう。

彼女が幸せなら・・・俺も幸せだ。

彼女が笑っているなら・・・俺も嬉しい。

もし、一度でも司が彼女を苦しめたり、傷つけたりしたなら

俺はもう遠慮しないだろう、良い人でいるのは終わりだ。

どんなことがあっても俺は牧野を司から奪う。

司、俺も牧野のことなら・・・司みたいに貪欲にも冷酷にもなれるんだよ。

彼女のためなら・・・俺はどんなことでもできるだろう。

でも彼女が幸せで笑っている限り、俺は・・・

彼女の幸せは俺の幸せ。

その時、彼女の投げたブーケが落ちてきた。俺の頭に・・・

俺がびっくりして顔を上げると、彼女がこっちを見て笑っている。

・・・俺は幸せだ

俺はブーケを掴んだ、そして・・・そのまま記念に貰っておくことにした。

彼女の幸せの象徴として。

牧野・・・愛してる。君が幸せなら俺は嬉しいし、幸せだ。


FIN







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