颯HAYATE★我儘のべる

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雨が止まない  5



次から次に「人」が挨拶にやってくる。

真剣に心から祝福し、挨拶する者もいれば、偽善的な笑みを浮かべ空々しい挨拶をする者もいる。

はじまってしばらくするとF3がやって来た。若い子たちの歓声があがる。

相変わらずの完璧さだ、そう思った。 アイツらの周りだけ違う空気が流れているみたい。

「つくし、お前って本当に考えてることが丸わかりだよな。 別世界だな、とか考えてるだろ。」

颯介の言葉にハッとして、顔を上げた。

「・・・うん、なんだか私には合わない感じ」

「お前ももうこの世界の人間なんだよ。 おいおい慣れていけよ、というか慣れるより、この世界をお前の世界に変えろよ。」

私の世界・・・? 私の世界ってなんだろう? 

でも颯介の言葉は嬉しかった。 私がこの世界に染まる必要はないってことだよね?

全部壊すわけにはいかない、でも・・・少しずつなら壊して新しく作ってもいい。 そういうことだよね?

道明寺の母親は、私は住む世界が違うと言って蔑んでいた。

でも・・・そう、颯介さんが言うように、この世界を私が住む世界に変えちゃえばいいのよね。

気がつくとF3が目の前にいた。 それぞれが美女を連れていた。

・・・?? 美作さんの隣はわかる。だって桜子だから。

類の相手と西門さんの相手って・・・あれ?

どこかで見たかも、そう思ったのは間違いではなかった。

彼らが私たちの目の前に来たとき、それがわかった。

「芽夢ちゃん、絵夢ちゃん???」

「「はい、おひさしぶりです。お姉さま。」」

二人は美作さんの双子の妹。 以前会ったときに比べるとだいぶ大きくなった・・・

けど、おい!! まだ子供だよ・・・

「類、西門さん、夜のこんなパーティに子供づれって・・・」

私が注意すると二人は・・・

「いや、連れが必要だったけどさ、誰も思い浮かばなかったし。俺らの中で女の兄弟がいるのは司とあきらだけだからな。

この場合、椿姉ちゃんはダメだろ? そうなると・・・こいつらしかいないだろ。」

「西門さんは別にいっぱいいるでしょ? 頼めば一緒に来てくれる女性が!」

「お前ね・・・こんなとこに一緒に来たら、女は勘違いするだろ~が。」

ちょっと唖然とした。 西門さんは相変わらずだ。

「類!あんたはなんで?」

「パートナーとして連れて歩きたいとは牧野だけだから。」

あっけらかんと言う類に慌てた。

「あ、あんた! 何言ってんのよ!!!」

「・・・冗談だけど。 でも、総二郎が二人に頼んでて、二人とも行きたいって言うから。

総二郎だけだと一人だけってことになるでしょ?」

その説明で納得したような、できないような・・・

そんなことを考えていたら、会場がざわめいた。

道明寺・・・5年ぶりに見るアイツの顔。

最初に思ったことは、見たとおりのことだった。

滋さんじゃない――――

道明寺の連れて来た女性が気になった。

彼は誰かを探している、それが私だと思うのは自惚れだろうか。

颯介さんを愛してると思いつつも、そう感じるのは裏切りだろうか。

私がじっと見つめていることに気がついたのか、アイツの視線が私と重なる。

お互いにただ立ち止まって見つめていた。この瞬間、私たちは5年前にいたのかもしれない。

だけど、すぐに我に返った―――――

アイツの隣にいたのは、お姉さんだった。

見つめあう私たちに気がついて、彼女も私を見た。そして大きく目を見開いた。

驚きが伝わる。彼女の表情が全てを物語っていた、お姉さんは何も知らなかったんだ――――

「つ、つくしちゃん?」

駆け寄ってきて私を力いっぱい抱きしめる。 周りは目に入っていないらしい。

会場にいる招待客の視線が私たち、つまり颯介さんと私、F4、お姉さんに集まっていた。

「つくしちゃん!!!本当にあなたなのね!? 会いたかったわ。 でもなぜ、ここにいるの?」

やはり私が結婚したことを知らない。そして、もちろん相手も知らないのだ。

「お姉さん・・・お久しぶりです。―――あの、主人を―――紹介させてください。」

私がそう言うとお姉さんの顔が曇った。わけがわからないのだろう。

「主人の颯介です・・・」

そういって、私は颯介さんを見上げた。彼は笑顔で私に頷いた。

「つくしちゃん・・・結婚したの? 颯介・・・って鷹野財閥の?」

「そうですよ。初めまして、道明寺椿さんですね? 鷹野颯介です。」

颯介さんは笑顔でお姉さんに手を差し出した。 

「そう、結婚したの・・・知らなかったわ。なぜ誰も教えてくれなかったの?」

そう言ってF3を睨み付けた。 道明寺は隣でただじっと立っていた。私を見つめながら―――

何を考えているのかわからない。 なんとなく怖かった。

「姉ちゃんに言っても仕方ないからだよ」

そう言ったのは西門さん。

「仕方ないって・・・お祝いくらいしたかったわ。」

「牧野と司のことをマスコミに無理やり伏せさせたんだ、姉ちゃんからお祝いなんてあったらぶち壊しだろ?

それに、教えなかったことで責められるのは俺たちじゃないと思うけど?」

もちろん道明寺のことを言っているのだろう。それは誰もが思ったことだった。

「そうね、責められるべきは司だわ! 私に同伴を頼んでおきながら詳しいことを話さないなんて!!」

「すみません、ここで争いはちょっと・・・控えてください。」

颯介さんが静かにあいだに入った。

「ここは鷹野の祝いの場です。そういう話は別の場所で。

私とつくしの結婚を祝ってくださるなら、今この場で言っていただければ、それだけで嬉しいですよ。」

これを聞いた道明寺の頬はピクピクしていた。怒っている―――そう感じた。

F3もそれを感じ取ったらしく、彼を凝視している。暴れだしたら取り押さえようとしているのかもしれない。

それにしても、彼が怒る理由がわからない。

「そ、そうね・・・私ったらゴメンなさい。 つくしちゃん、おめでそう。

幸せになるのよ。颯介さん、おめでとうございます。

つくしちゃんは―――私にとって妹みたいなものです、とても大事な妹。

絶対に幸せにしてあげてください。彼女ほど幸せになるべき人はいないと思うわ。」

お姉さんの言葉には気持ちがこもっていた。 過去のいろんなことを思い出しているに違いない。

そして道明寺の記憶喪失で私が傷ついたことも―――――

過去、私と道明寺の味方になり、二人の幸せのために力を貸してくれた彼女が私と颯介さんの結婚を喜んでくれる、それが嬉しかった。

複雑な思いはあるだろうが、その言葉は本心だ。 私はそう感じた。

「「ありがとうございます」」






牧野の横にいるべき男は俺のはずだった。 それなのに自分でその権利を放棄した。

その結果、俺以外の男がアイツの隣で夫づらして立っている。

とても腹立たしかった。それに、あの男は牧野を―――つくし、と呼んだ。

俺にはそれが許せなかった。 

ここで怒りをあらわにするわけにはいかない。 拳を握りしめ必死に耐えた。

プルプルと震えるコメカミに類たちが険しい表情で俺を見ていることはわかっていた。

どこか二人きりになれる場所を探さないといけない―――

俺はどうしても二人で話したかった。 いや、話さなければならない。

俺の正直な気持ちを話し、アイツに許してもらいたかった。

牧野を凝視していたが、アイツが俺を見ることはなかった。 気持ちが冷えていくのがわかる。

牧野―――俺を見てくれ―――

「司!! アンタなんで・・・今日のことを教えてくれなかったの?」

横で姉ちゃんが責めているが、どこか遠くから聞こえているような感覚だった。

「司くん、君とつくしの過去は知っているし、君が記憶を失くしたことも知っている。」

突然、颯介が言った。 話しかけられたことに驚き、返事をすることができなかった。

牧野も驚いた顔で見ていた。

「・・・俺は牧野を愛しているんだ!!」

はっきりと言ってやった。 周りのヤツらの体が硬直したのがわかった。

「そうだろうね・・・とにかく、ここでは話せない。 俺たちは話し合う必要があると思う。

ここに部屋をとってあるから、そこで話そうじゃないか。」

なんだか子供に言い聞かせるような口調だった。 

俺はムッとして、話し合う必要はない、牧野は俺のものだ、と叫びたかった。

だが、そうすればアイツは俺を憎むだろうということもわかっていた。俺は頷き、男の言葉に了解した。

「君たちも来るか? 一応、当事者と言えるしね」

「「「「はい」」」」

「私も行きます」

F3と桜子、椿がついてくることになった。

「あの双子ちゃんはどうするんだい?」

芽夢と絵夢は会場の隅にある立食コーナーで、幸せそうにケーキを食べていた。

「俺たちがいる場所だけ教えてきます。 来たくなったら来るでしょう」

「そうか? じゃ、うちのSPに気をつけておくように言っておこう。」

「ありがとうございます」

あきらはそう言って、二人のもとへ向かった。





颯介が向かった部屋は最上階のスイート。

8人が部屋に入り、腰掛けると颯介が口火を切った。

「さて、俺たちは話しあう必要がある。 お互いの気持ちを言い合う必要がある。

特に司くん、君は記憶を失くしていた分、言いたいことがたくさんあるだろう。

ここで全て言ってみないか? 俺も君の気持ちを知りたいし、つくしもそうだあと思う。

俺たちが前に進むためにも必要なことだろう?」

颯介の落ち着いた話し方に司は怒りがこみ上げてくるのを抑え切れなかった。

「ああ! 言いたいことはたくさんあるさ!!! 牧野を返してくれ!!」

単刀直入に怒りにまかせた言葉を怒鳴った。

周りが静まりかえり、椿の怒りに満ちた声が俺に届いた。

「司!!! あんたってヤツは・・・!!! なんてことを! 信じられないわ。

記憶を失くしていたとはいえ、つくしちゃんにした数々の仕打ちを忘れたの?

返せなんて、つくしちゃんはモノじゃないわ! 

5年も記憶がなかったあなたを彼女は待ち続けなければいけなかったの?

幸せになってはいけなかったの? なんて我儘な言い草なの!!男として情けないわ!」

あまりにも弟の情けない言葉に呆れて涙がでてくる。彼女をどんなにつらい目にあわせたのかわかっていない。

「本当に・・・情けないわ・・・」

司は顔をしかめ、姉の怒りを受け止めた。自分でも理不尽な物言いに気がついていた。

でも、どうしようもない。それほど牧野を―――彼女を欲していた。

「司・・・勝手はことはやめなよ。 自分だけが幸せでいいの?」

感情のこもらない類の声が聞こえた。 自分だけ?牧野は俺とじゃ幸せになれないというのか?

そんな怒りが司の心に渦巻いた。 彼女はもう・・・俺を愛していない?

それは耐えられない思いだった。 信じたくない気持ちだった。

「牧野を返せ、か・・・司、牧野は5年前はお前の彼女だったかもしれない。

だけど、お前は牧野の彼という地位を自分で捨てたんじゃなかったか?」

総二郎の皮肉な声。 俺に思い出させようとしているのはわかっている。

だが、何度もこいつらに言ったように、俺は記憶を失っていたんだ!!

「俺は・・・記憶喪失だったんだ!! 牧野が俺の彼女だったなんて―――

俺はコイツの顔を見るとなぜかイライラして、気持ちが落ち着かなかった。

だから俺のそばから消えてほしかったんだ。 それに類の彼女だと思い込んでたから・・・」

「そうだ、お前は何度も類の彼女だと言った。そして、類も牧野をそれを否定した。

でもお前はそれを信じなかった。 俺たちの友達だと言ったのに大事にしようともしなかった。

お前は俺たちのことは忘れていなかった、それなのに俺たちの友達という言葉を無視しただろう?

どこまで牧野を傷つければ、お前の気持ちは安らげたんだろうな?」

総二郎は怒りに満ちた声で司を睨み付けた。

「俺たちはお前と牧野の幸せを願っていたし、望んでいたよ。

でもお前は記憶を失ったせいでイラだち、荒れていた。 なぜ彼女を見るたびにイラだつのか考えもしなかっただろう?」

あきらは静かに話に入ってきた。 あきらの声にも怒りが混じっていた、でも悲しみも混じっている気がした。

「俺は・・・牧野を愛している!」

「それは5年前の気持ちじゃないと言い切れるのかい?」

今まで黙って聞いていた颯介が言った。

誰もがその言葉に驚いた。 でも納得もした。

司は『俺の時間は止まっていた』とそう言っていた。 それなら、司の気持ちは5年前のものだ―――

でも、牧野を含め、ここにいる者はみんな5年間の成長を遂げている。

気持ちもそれに伴って成長する―――誰もが大人になっているんだ―――

類は司の顔を見つめた。 颯介の言葉に体が硬直しているのがわかる。

たぶん、自分でもわからないのかもしれない。 ただ、牧野を欲し、求めていることだけが今の司には重要なのかもしれない。

司―――俺たちは5年分、大人になったんだ。 お前にもこの5年は存在している。

お前も間違いなく成長しているんだよ。 牧野を忘れていた5年間はそこにあって、消えることのない過去。

滋との結婚でお前は何を学んだ? 牧野を思い出して、お前は何を考えた?

「5年前の気持ち・・・だと?」

「ああ、君は友達に言ったそうだね。 俺の時間は止まっていた、と。

それなら、君の気持ちは5年前の気持ちだろう、違うかい?

俺たちは君が止まっていたという時間も生きていて、苦しみ、悲しみ、そして楽しんでもいた。

君だって、そうだっただろう? 大河原との結婚が間違っていたとしても5年は存在するよ。

その間に気持ちは変わっていないと言い切れるのか? 本当に今もつくしを愛しているのか?」





どうして俺はあの時・・・「今でも牧野を愛している」とそう叫べなかったのだろう。

鷹野颯介の言葉に俺は無言で睨みつけることしかできなかった。

結局、牧野は一言もしゃべらず、俺を見つめるばかりだった。

屋敷に戻ってくる車中、俺はイライラして姉に当り散らしまくった。

呆れた姉は俺を殴り倒し、無言で睨みつけていた。

屋敷に戻ってもイライラは収まらなかった。

頭に浮かんでくるのは―――牧野の俺を見る悲しげな顔。

なんであんな顔で俺を見るんだ?

アイツはもう、俺を愛していないのか?

記憶をなくしている間にした仕打ちを考えれば、それも仕方ないと思っている。

思っているが、俺の気持ちはどうなるんだ!?

俺は周りにあるもの全てを破壊したかった。

姉貴は俺をただ黙って見ていた―――。

この沈黙を破ったのは椿だった。

「司、滋さんはどうしたの?」

俺は言っている意味を理解するのに時間がかかった。

「滋?」

「そう、ここにいるはずよね? あの子はどこにいるの?」

「・・・知らねえ。俺は最近、ここに帰ってないからな。タマにでも聞けよ。

俺は滋がどこにいようと気にならねぇ。 さっさと俺と離婚さえしてくれれば文句ないからな。」

「司・・・滋さんは、あんたの妻でしょう? もう少し関心を持ったらどうなの?」

俺は姉のその言葉に怒りがこみ上げてきた。

俺を罠にかけた女にになぜ関心をもたなくてはならないんだ、俺は滋に怒りと憎しみしか持っていない。

「姉ちゃん―――なんで俺の結婚を止めてくれなかったんだ?」

椿はその言葉に表情を翳らせたが、力強く弟を見つめた。

そして拳を握り締めたかと思うと、次の瞬間には弟に強烈なパンチを浴びせていた。

「情けない男になったものね、司。 アンタが自分で決めた人生を人のせいにするの?

たとえ記憶を失っていても、あんたが道明寺司であったことは間違いないのよ。別人であったことはないの。

ただ、つくしちゃんのことを忘れていただけだわ。

あきらや類、総二郎が必死で彼女を思い出させようとしなかった?

滋さんとの結婚を止めなかった?

結局、それらを無視してアンタが選んだ道なのよ、司。

それなら滋さんとの結婚だって、離婚なら離婚で筋を通すのが正しい道でしょう?

無理矢理に別居して、一方的に離婚すると言ってどうするの?

つくしちゃんの人生を5年前に戻らせてどうするの?―――よく考えなさい、司。」

椿の目には涙が光っていた。 司はただ俯き、姉の怒りに震える声を聞いていた。

お前は俺がいなくても幸せなのか? 牧野―――

信じたくない現実と幸せだった過去が俺の心を襲った。 目の前が真っ暗になった。






「どうして道明寺と話さなかったんだ?」

颯介の言葉につくしはただ黙っていた。 なんと答えればいいんだろう?

「アイツも・・・お前の言葉で正直な気持ちを聞きたかったんじゃないか?」

「・・・それは違うと思う」

つくしの言葉に颯介は怪訝な顔をした。

「彼は・・・たぶん私が正直な気持ちを言ったとしても、自分に都合のいいことしか信じないと思う。

今の彼は―――過去しか見えていないから―――」

颯介はつくしの顔をじっと見つめて、そっと頬をなでた。

「お前も辛いところだな。」

悲しげな表情が胸に痛い。 彼は私の気持ちを理解している―――

私はまだ道明寺を愛している? それは自分でもわからない。

まだ好きなのは事実。 それも愛だと颯介は言ったけど、5年前のような激しい感情があるかといえば――――


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