アメリカの小説

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NEW 成り上がり者(トム・ウルフ) ☆☆☆☆ / 文春文庫・上581P、下606P
アトランタを舞台に、いろんな肌の色、いろんな育ち、いろんな職業が繰り広げる事件の顛末。様々なタイプの「やり手」が出てきて、だましだまされ、脅し脅され、すかしすかされ、の丁々発止。重量のある小説だが、いっきに読ませるエンタメ力もある。文庫ながら、表紙(服部朝美さんのイラスト)がきれいでいかす。(2003.8.19)

舞踏会へ向かう三人の農夫(リチャード・パワーズ) ☆☆☆☆☆ / みすず書房・415P
面白い!!!溢れ出るうん蓄!ほとばしる口からデマカセ!!縦横無尽のストーリー。歴史とテクノロジーと人間への愛情がたっぷり詰まって、読み終わるころには優しい気持ちに。こういう本に出会うから、アメリカ小説はやめられない。少しややこしい本を、丹念に読むのが好きな人に。

ガラテイア2.2(リチャード・パワーズ) ☆☆☆ / みすず書房・403P
主人公“リチャード・パワーズ”が、人工知能を育てる話。ガラテイアは、ギリシャ神話のピグマリオンが、理想の女性アフロディーテに似せて作った彫刻の名前(あとがきより)。夫にあらすじを3行くらいで話したら(パワーズを3行で語るのは無理!)、「鉄腕アトムみたいな悲しいところのある話だね」と言った。1作目の「~農夫」ほどの一心不乱さはなく、飛躍っぷりも物足りないけど、次の翻訳を待ち遠しくと思う気持ちはひきつづき強い。

マーティン・ドレスラーの夢(スティーブン・ミルハウザー) ☆☆☆☆☆ / 白水社・281P
アメリカのピューリツァー賞受賞作家による長編小説。ホテルに魅せられた寡黙な青年マーティン・ドレスラー。ミルハウザーの小説には、塔や地下室がよく登場する。奥まった明かりの届かない部屋で、呪われたように物づくりに熱中する人のお話。夢中で読んだ。

真夜中に海がやってきた(スティーヴ・エリクソン) ☆☆☆ / 筑摩書房・254P
過去の作品はエネルギーが塊になって時空間を飛び交っていたが、これは疲れた魂が彷徨っている感じ。でも、小説はたいてい100ページまで来ないとのれない私が、もう3ページ目から夢中だった。「ホテル・リュウ」「小林神社」「島田通り」に笑う。来日して、村上龍、小林恭二、島田雅彦と対談したあとに書いたらしい。エリクソン、意外に義理堅いよい人かも。

北回帰線(ヘンリ・ミラー) ☆☆☆ / 新潮文庫・445P
「ドリーム」 という本の中で、スティーヴ・エリクソンが愛読書だと言っていたので読んでみた。パリでの放蕩生活の中で、意識のおもむくままに書き連ねた散文で、ストーリーらしいものはない。噂の性描写はたいしたことなかった。意外に感傷的な本だった。人間の欲求の力、パリという町の持つ力が鮮やかだった。(2003.8.13)

中間航路(チャールズ・ジョンソン) ☆☆☆☆ / 早川書房・239P
黒人作家が書いた奴隷船の話。表紙のイメージから、てっきり暗くて重々しくてやりきれない本かと思ったら、まるでシンドバッドの冒険!わくわくドキドキのシェラザードの寝物語!シンプルな性格の主人公(与太者なのにやたら博学)によって、人種問題への思想が、さわやかに、力強く語られていた。

平原の町(コーマック・マッカーシー) ☆☆☆ / 早川書房・268P
ニューメキシコを舞台にした国境三部作最終作。チェスが強くて馬に優しい無口な18歳のカウボーイの、恋と友情の物語。詩情と寂寥感があふれている。こんなにかっこいい文章を書ける作者はいったいどんな顔をしているんだろう?ただ、これは少し感傷が勝っていて、これなら二作目の 「越境」 (しびれる!)の方が好きだなあ。

アンダーワールド(ドン・デリーロ) ☆☆☆☆☆ / 新潮社・上621P、下611P
アメリカ文学界を先端で引っ張る実力者が、「核」と「ゴミ」を中心に繰り広げる現代アメリカ史。ブロンクスの荒廃、ニューメキシコの荒野、フェニックスの中上流家庭・・・50~90年代アメリカを書きまくって、文句のつけようがない。評価の定まった作家の評判のよい小説には、新しく見つけた喜びはないが、期待はずれに思わせないだけで素晴らしい。小説の出だしが好きだった。学校をサボった少年と1個の野球ボール。デリーロは男らしい作家だと思う。

背信の日々(フィリップ・ロス) ☆☆☆☆ / 集英社・480P
ひとことでは言い表せないような複雑な構成の小説。アメリカに住むユダヤ人の兄弟(兄:小説家、弟:歯医者)が生きる、心臓病、インポテンツ、異教徒の女、シオニズム、人種差別、家族愛・・・の、ライフとカウンターライフ。迫力、生の力が響いてくる1冊。わかりにくい謎の構成の中をおたおたしながら読んでいくと、後半になってじょじょに全体がつかめてくる感じが、非常に面白かった。

この世を離れて(ラッセル・バンクス) ☆☆☆☆ / 早川書房・253P
カナダ国境に近い寒村で起きた悲劇的なスクールバス事故とその後が、関係者4人によって語られる。人間の生き様を克明に描き出し、全編の緊張感とラストの昇華が見事。97年カンヌでグランプリをとったエゴヤンの映画は難解でやるせなかったが、この原作はわかりやすくかつ重厚。

狩猟期(ラッセル・バンクス) ☆☆☆☆ / 早川書房・363P
弟が兄の犯罪行為を語るという点で、マイケル・ギルモアの 「心臓を貫かれて」 を思い出すが、こちらはフィクション。映画「白い刻印」の原作。今どきの作家にありがちな気取りや衒いがなく、陳腐になりやすいテーマをがっしり書いて、筆力を証明している。いつも正攻法で書く人かと思ったら、あとがきに「夢幻的、実験的」作品も書いているとある。もっと他の作品も日本語で読めたらいいのに。手に入る翻訳本が少なすぎて残念!

レス・ザン・ゼロ(ブレット・イーストン・エリス) ☆☆☆☆ / ハヤカワepi文庫・276P
ロスのお金持ちでイカレた青年たちのヤバイ日常。繊細で透明感があり、冴えまくっている。映画も悪くなかったが、優しすぎる筋書きと雰囲気に落ち着いてしまった。切れ加減とクールさで原作の勝ち。長らく本屋で単行本の新本は手に入らなかったが(わたしは古本屋で購入)、2002年10月に文庫化されたようで、読み時お買い時。

コールドマウンテン(チャールズ・フレイジャー) ☆☆☆☆ / 新潮クレスト・557P
1997年の全米図書賞受賞、類のないくらい端正な美しい小説。純文学中の純文学。南北戦争時代の、不器用な男女の愛の旅。泣ける。ダッチ・オーブン料理を愛するダッチャーにもおすすめ。

最後の場所で(チャンネ・リー) ☆☆☆☆ / 新潮クレスト・397P
戦前は在日朝鮮人、駐屯地である従軍慰安婦と出会い、戦後は「日系」アメリカ人としてニューヨーク郊外の閑静な住宅街に住む初老の紳士の物語。罪の意識に満ちた重苦しい雰囲気に前半はつらい思いで読んだが、後半、ぐいぐいとひきつけられる。よい話だった。作家はごく若いコリアン・アメリカンで、証券アナリストの経験もあるイエール卒のエリート。今後が楽しみ。

競売ナンバー49の叫び(トマス・ピンチョン) ????? / 筑摩書房・329P
降参、難しくて全然わからなかった。同じピンチョンの 「ヴァインランド」 も買ってイギリスに持って来たけれど、読みきれるだろうか?自信がない。

ヴァインランド(トマス・ピンチョン) ☆☆☆ / 新潮社・645P
精神の自由を奪いにかかる官憲に翻弄される、コワレ加減(コワレっぱなし?)の家族の愛のお話、舞台は北カルフォルニア。60年代に青春を過ごしたわけでなく、アメリカで暮らしたことがなく、ヒッピーに傾倒したこともなく、サブカルにはまったことも、さらには洋楽に凝ったことも全然無いわたしには、わからないことだらけでつらかったが、わかる人には猛烈に面白い小説なんだろうというのだけはわかった。ポップのパワー炸裂。(2003.8.13)

オウエンのために祈りを(ジョン・アーヴィング) ☆☆☆ / 新潮社・上437P、下460P
極めてアーヴィングらしい。いつだってやりすぎのアーヴィングに、いつだってやられてしまい、下巻は涙を拭き拭き鼻水を垂らしつつ読む。読み終わった瞬間に、もう一度はじめから読み直したくさせるあたりは憎いが、アーヴィングの長編小説の中では、好みでいったら半分より下。どうもわたしが好む作家は、決まってロナルド・レーガンが嫌いなよう。

ピギー・スニードを救う話(ジョン・アーヴィング) ☆☆☆ / 新潮社・254P
長編小説しか書かないのかと思っていたアーヴィングの、短編、エッセイ、文学論。なんだ、短編もうまいんじゃないか!ディケンズ論もいい。でも、この本の魅力は、なんといっても最高に愛らしい(そして表題作を読んでから眺めると涙をさそう)表紙のイラスト。おぃんく、おぃんく。

最後の瞬間のすごく大きな変化(グレイス・ペイリー) ☆☆☆ / 文藝春秋・296P
きれいな表紙の女性作家の短編集、さらりと読めるかと思ったら、どっこい難解だった。少ないページ数、多い余白に、いろんなものが詰まって読後感は充実。作者は1922年生まれのユダヤ系、政治活動家でもあるという。ろくでもない夫に逃げられた主人公が、公園で子どもを遊ばせながら似たような境遇の女たちとうだうだおしゃべりをするシーンが印象的。

誕生日の子どもたち(トルーマン・カポーティ) ☆☆☆ / 文藝春秋・251P
6作(うち5作は少年のお話)入った短編集。表紙のきれいな男の子の写真は、24歳のカポーティだと知って驚く。まるで12歳みたいだ。カポーティは子どものころ「バディー」と呼ばれていたそうだが、これはとても素敵な呼び名だと思う。壊れてしまいそうだけれど、高みに向かってすくっと伸びている美しい小説ばかりだった。

冷血(トルーマン・カポーティ) ☆☆☆☆ / 新潮文庫・559P
「誕生日の子どもたち」(文藝春秋)の表紙の写真ですっかりカポーティの美しさに打ちのめされたわたしは、この本のカバーにのっていた写真で、再び打ちのめされる。“おっさん”になったカポーティは、ブルドッグみたいだった、崩れちゃっていた・・・。とはいえ、カポーティは大人になって、小説も大人らしいがっちりした仕上がり。1959年にカンザス州で実際に起こった4人家族の惨殺事件を綿密に取材したノンフィクション・ノベルはクールな筆致で読み応え十分。(2003.5.24)

推定無罪(スコット・トゥロー) ☆☆☆☆☆ / 文春文庫・上357P、下360P
人間味のある登場人物、緻密な構成、社会問題の扱いなど魅力たっぷり。早くに犯人を推測しやすいことも、徒というより、読み進める楽しさを増しているかも。印象に残ったのは2点。1.アメリカの検事は選挙で決まる政治家である(予備選挙まである!)2.よせばいいのに、アメリカの夫は進んで妻に浮気を告白する(キリスト教精神文化か?)

囮弁護士(スコット・トゥロー) ☆☆☆ / 文藝春秋・494P
人気の元々作家→元検事→現職弁護士の作家が書いたミステリー。といっても、犯人探しも謎解きもないからエンタメ色は少ない。しかし、ビンビンと緊張感の張り詰めた人間ドラマが存分に読める。やっぱりスコット・トゥローは好き。(2003.6.10)



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