恋をしました(2)


宇崎竜童の古い曲だ。
私の好きだった人の声に似ている。
彼はもっともっと低い声だったけれど。。。。。
唇や舌の動き、喉の震わせ方、ブレス、それらひとつひとつをしっかりと感じ取れる唄い方。
なんてセクシー・・・。

声の素敵な人って居るよね。
痺れるような低い声、とろけるように甘い声。

お勤めしていた時、私は電話の声を聞き分けるのが得意だった。
相手が名乗る前に「〇〇さまですね。」と言うと相手は驚きながらも喜んでくれた。。。

彼が初めて会社に電話をかけて来た時、弾かれるような衝撃を受けたのを覚えている。
低くしっかりと、それでいて優しいその声は、たちまち女子社員の間で評判になるほど素敵だった。
(モチロン彼の声は一発で覚えましたとも!)

社会的信用と大人の魅力に裏打ちされて、その後会社に出入りするようになった彼の人気は凄まじかった。
私の配属されたセクションに通って来る彼をひと目見ようと、よその課から見物がてら書類を持って来る子まで居た。
どんな人なのか問われる事も多く、私は自然に彼を意識して見るようになっていった。

そして不覚にも恋に落ちた・・・・。
容姿はけして良くなかったと思う。
でも、仕事ができてお酒が強くて一本芯の通った人だった。
会社で毎日、おはようやお疲れ様の言葉をその声で何度も何度も聞いた。
業者さんを怒鳴る怖い声も聞いたし、ドライブしたりコンサートを聴きに行ったりして、笑い声も聞いた。
「好きだよ。」って言ってくれた。

それから、指一本触れる事もしなかった彼の、苦しそうな「さよなら」も。

不倫ではなかったし、上司も仲人をしてくれると冗談みたいに言ってくれていたのに。
20歳近い歳の差が、彼を躊躇させたと後から知る。
情熱に任せて愛し合っていたら今頃どうなっていただろうと考える。
年老いてみじめになりたくなかったという彼の気持ちが切ない。
もう50歳近いはずだから宇崎竜童さんと同じくらいなのかな?

涙のシークレットラブ・・・。
彼が残した音の中から私が選んだこの曲を、彼も時には聴く事があるのだろうか。

そして、こんな私の声を覚えてくれているだろうか・・・・?



© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: