[たいへんだぁ!]
大きく変わると書いて大変というらしい。
私の父は「安易にたいへんだ、と言って帰って来るな」と言った。
確かに「たいへんよ」と言われるとドキッとする。
それで私は「実は・・・」という事にしている。
「実は・・・」から始めると大抵「どうしたの?」と返ってくる。
そこから、ジワッと話始めると相手が
「それって、大変なんじゃないの」と言ってくれる。
今年に入って「大変な事」になった友人が三人もいる。
何が大変かというとボケたおばぁちゃんを引き取ったのだ。
ここ数年ボケが進んで兄弟が交代で看に行っていたのだが、
誰が主力となって見るか決まらなかったらしぃ。
それとなく聞いていたのだが、私は
「そんなものよ。土壇場にならないと名乗りを上げる人が出てこないの!
そうでなかったら結局誰かひとりだけ通っている、という事にならないと
決まらないの!」と言った。
その時私は「きっと、この人が引き取る事になるだろうな」と思ったものだ。
夫の母親なので意見を言うのを控えているが、イライラしているのがわかった。
それと心底から日常を心配しているのがわかった。
もうひとりの人は当のおばぁちゃんが嫌がるので高校生の娘に
夕方の事を任せて夫と交代で片道一時間半の所を通っていた。
時々、マンションへ連れて帰って来るのだが3日もするとションボリして
「家に帰りたい」と言うという。
その家というのが「実家」の事だと言った。
すっかり子供帰りしているという。
それで実家でない「家」にまた、帰らせて通うのだ。
夜、風呂へ入れて帰宅すると真夜中近くなる、と言っていた。
もうひとりは、ある日突然、
「おばぁちゃんが怪我したので退院したら一緒に住む事にした」と言った。
きれいにして何をバタバタしているのか、と思っていたのだが
病院へ通っていたらしい。
夫もおばぁちゃんも恥ずかしくないようにきれいに化粧して
着るものにも神経を使っていたらしい。
周りに大変そうに思われたくなかったらしい。
言う時期がきたら言ってくれるだろうと思っていたのだが・・・。
「そんな事なら先に言ってくれれば良かったのに」と私は答えた。
私はそれぞれの人に「しばらく会わないと思っていたら
大変な事になっていたのね」と言った。
ひとりは「大変より私、もうガマンならないから、義母がかわいそうだから
引き取る事にしたわ」と答えた。
もうひとりは「夫が落ち込むので何も言わず交代で通っているけど、
娘が友達の付き合いもせず帰ってくるのがかわいそうなので、
ここはおばぁちゃんに来て貰う事にした」と言った。
三人三様にそれぞれ気を使いながら切り出すタイミングを見ていたようだ。
しかし私の「たいへんね」という事に「忙しくなるだけよ」と答えた。
本当に心の底から人の立場や心の痛みを思う人にとって
「大変な事」は「忙しくなるだけ」の出来事なのだと改めて思った。
「大変なのよ!」と言った人は大抵、自分の親でも引き取らないし、
しぶしぶ引き取った人はなぜか、顔が険しくなり、言葉の端々に
棘が感じられる人になっていくのは不思議な事だ。
引き取った人の二人は私に
「人生を終える時、悔いを残したくないの」と同じ事を言った。