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作家・内藤みかのメインブログ ~電子書籍などの新しいコト〜
レビュー(投稿)
ありがとうございます!
★やまねこさんより(アマゾン投稿用だそうです)
五感で読む恋愛小説
これぞ、著者の術中にハマった読者なのだろうな。が、ハマっている時間が幸せなのだか
ら、仕方がない。ここに描かれているのは甘いだけの恋愛ではないのに…。
症状はいくつかある。最も重症だったのは、ヒロイン加季の置かれている状況と著者自
身、そして、自分自身が重なり、感情移入をしてしまったことである。ここはフィクショ
ンの世界だから、加季は著者の分身であってもすべてではない。わかっているのに、これ
は著者の実際の過去ではないかと思ってしまう。そして、同世代として同じ時代(1993
年)に大学生活を送りながらも、加季と同じ経験をしていなかった自分までもが重なって
しまい。ねぇ、幸せになってよぉ、私も幸せになりたいよぅ、と友達のように話しかけ、
加季も著者も自分もみんなまとめて応援したくなってしまうのである。
1993年。私は、こうやって思い出せるほど、五感をフルに使ってそのときを生きていたわ
けではない。が、ここには、その時代のものがたくさんつまっていて、それが妙になつか
しく、あぁ、たしかに、私はあのとき大学生だったなぁと思い出してしまう。
本書を読むには2つのものが必要だ。しおりをはさまずにタイムスリップするための時
間、そして、ふせん。こんな仙人みたいなことをいう男はいるのかと思いつつも不思議な
力を持ったヒロくんのセリフに、きっと、線を引かずにはいられないだろうから。
ここに描かれているのは甘いだけの恋愛ではない。だが、どういうわけか、加季とともに
泣いて、笑って、息をしながら、思い出を昇華できてしまうのだ。そして、誰かに、何か
に、「今まで、ありがとう。」と言えそうな自分に会える。そして、今の自分、今生きて
いる時間、そして、時間を共有してくれている人たちを、自分のすべての感覚を使って味
わって、ぎゅっと抱きしめて大切にしたくなる。私の眠っていた感覚を目覚めさせてくれ
た1冊だった。
★やまねこさんより(BK1投稿用だそうです)
官能と恋愛のはざま
『あなたを、ほんとに、好きだった。』は、村上春樹氏の『ノルウェイの森』のトリ
ビュート作品であり、「官能小説家が描く、初の恋愛小説」である。また、ウェブ上で著
者は、『ノルウェイの森』を、官能表現を解禁した作品と位置付け、官能を書いてきた自
身は、逆にこの作品で官能表現を禁じ手にしたのだと表明している。
そもそも、「恋愛小説」と「官能小説」の線引きはどこにあるのだろうか?官能の表現の
仕方か、数の多さか、官能を目的にしているか否かの違いか?だいたい、大人の恋愛で官
能のない恋愛はまれだろうし、恋愛感情の全く伴わない官能もないはずだ。
トリビュート小説の書評を書くなら、本家と本歌取りを比較するのが筋かもしれない。だ
が、私は、流行りモノがだいぶ流行ってから手にとることには抵抗感のあるタチで、とう
とう、『ノルウェイの森』に手を出さないままで来てしまった。それに、自分の問いの答
えは、著者の他の作品を読むことで見えてくるような気がしていた。
そういった理由で、新潮ケータイ文庫のサドンデス小説も読んだのである。サドンデス小
説と本書の間にはジャンルの線引きが存在するのかもしれない。しかし、私の中では、サ
ドンデス小説のヒロインの咲希、本書のヒロイン加季、私、そして、著者自身が手をつな
いで高速回転している。咲希と加季。能動的に1人の男を愛し、苦しみ、悩んでいる2人の
女。追いかけられる方が恋愛はきっと楽だろうにと思うのだが、それでも、追いかけるこ
とをぎりぎりまでやめられない。私の経験は、2人のヒロインのものとは全然違うのにも
関わらず、生き方はどこか似ている気がした。
本の中は、フィクションの世界である。舞台に実在する町の名が出てきても、そこに展開
する世界は、作家が作り出す世界なのだ。だから、ヒロインは著者の分身であっても、別
な人間なのだ。わかってはいるのだが、著者の作家になったきっかけと、作品の世界は微
妙に重なり合っている。エッセイを読むと見えてくる、様々な意味において、書いていな
ければ生きられなかったであろう著者自身。どうして書くの? 書いたら思い出しちゃう
でしょ? 痛いんじゃないの? でも、書くことで、経験を昇華していることが文章を通
して伝わってくる。エンディング後のヒロインの幸せと、著者の幸せを本気で願ってし
まった。そして、私自身も、幸せになりたい、と思った。
女の幸せとはなんだろうか? 答えは1つではないだろう。でも、咲希も加季も、私の封
印している何かに訴えてきて、困った。
たったひとりの人を心から愛し、その人に愛されて生きることが幸せ。そうでないと生き
ている価値を確認できない。
ささやかな願い。だけど、今現在、それを叶えている人は、一見恋愛しているカップルの
数や夫婦の数よりも、ずっと少ないのではないか。(前述した理由で、これも読んでいな
いのだが、)案外、負け犬理論もそんな心のすきまから出たものだったりして。
さらに、困ったことがある。本書は、しおりをはさませてくれないが、ふせんをはらせて
しまう作品なのだ。加季の愛したヒロくん。アフォリズム集のようなこの人のセリフのせ
いで、私は恋愛小説にふせんをつけながら読むという初めての経験をしてしまった。ま
た、著者は、五感をフルに使って今を生き、それを五感を使って文章として紡ぐ人だと思
えてならない。自然と句読点と一緒に息をしながら読む自分がいた。視覚だけで読むこと
を許してはくれない。
恋愛小説と官能小説。2つの線引きの一般論はわからない。が、少なくとも、内藤作品に
おいては、2つの違いは、十八禁の官能表現があるかないかであって、描いているものの
根底は同じなのではないか。彼女にとって、官能は目的ではなく、恋愛を描く1つの表現
方法なのだ。表現方法だったからこそ、官能を禁じ手にしても恋愛小説が書ける。内藤み
かは、「恋愛小説家」なのだ。
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