●●●異人たちとの夏

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2004.07.03

(8)

テーマ：レンタル映画(833)

カテゴリ：日本映画

あの場所に私もいる。

しょうゆと砂糖の匂いで満ちている。

「そうとも。おまえは良くやったよ」

人生、上手くいってるわけじゃない。
テレビドラマの脚本家の原田英雄は妻と別れて
生きる目的を失ないくたびれていた。
ある日取材目的で子供の頃住んでいた浅草に出かけ
地下道から地上へ出てみると

「英雄、おかえりなさい」

交通事故で死んだはずの
父と母が彼を迎えてくれた。
幻想的なプッチーニのオペラとともに。

山田太一の原作を市川森一が脚色。
監督は大林宣彦である。
片岡鶴太郎が気性のいい父親を
秋吉久美子が可愛らしい母親を演じる。
息子である原田英雄を演じるのは風間杜夫。
1988年度作品。

英雄の現実の世界は

しかも友人の間宮は英雄の前妻とつきあっているという。
そんな孤独を背負いながら親密になるケイなる女性。
彼女もまた異人なのである。

寄席にいる父親の背中がどうも気にかかる英雄。
父親と「おいちょがぶ」をする英雄。

両親がくれる無償の愛情が彼の心を満たしていく。
もういちど誰かと
幸せになれるんじゃないかと
思えてくるくらいに。

すき焼きが最後の別れのパーティになる。
家族で囲むすき焼きというのは
「祭り」の色彩を帯びているようだ。
なにかといろんなことがあったが
このひとときは苦労を労いお互いの笑顔で疲れを癒す。
そして再び明日に向かうのだ。

「あんたをね、自慢に思ってるよ。」

大人の英雄をみずに逝った両親は
まるで空から彼をみていたように語っている。
みていたのだろうと思う。
そして夫婦は微笑みながら頷いている。
息子の人生はそううまくいってないか知れないが
いろんな苦労を背負いながら
自分たちの年齢を越えて
生きていてくれているのだ。

原田家の３人の役者の持ち味を生かした演技を軸に
大林監督の映像が浅草での日々を
味わい深くしかも幻想的に描いている。
プッチーニのオペラもまた
異人たちとの日々を盛り上げてくれる。
また山田太一、市川森一は
抜かりなく言葉で私たちの心を揺さぶる。
両親に認めてもらうことは
いつの時代でも子供というものの一つの到達点。
そして英雄は子供の頃は言えなかった
感謝の言葉を口にする「ありがとう」と。

半透明になって消えてゆく両親。
すき焼きは「祭り」の色彩を帯びている。
にぎやかに丸い鍋を囲みながら
家族が顔を合わせて今までの苦労を労うのだ。
そして明日に向かうのだ。

英雄もまたケイとの決着がある。
だが彼は両親のいる異界へは行けない。
巡り合わせとは不思議なものだ。
彼は彼女と愛を交わすが、もう住む世界が違う。

そして、明日に向かうのだ。

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http://www2.incl.ne.jp/~shino/jisaku/music/flame51.htm

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