Get Out Of My Yard

Barks int

正確無比に超ハイテク・フレーズを繰り出すスーパー・ギタリスト、ポール・ギルバート。彼がオール・インストゥルメンタルのアルバム『GET OUT OF MY YARD』をリリースした。“オレの庭から出て行け”という意味のタイトルを持つこのアルバムでは、とにかくポールがギターを弾きまくっており、まさにファンが待ち望んでいた1枚といえる。実はこれまでインスト・アルバムを作ることを避けていたというポール。ギターキャリア30年にしてこれが初めての全編インストのアルバムなのだ。これにはどんな心境の変化があったのだろうか。 今回の来日中、いくつものインストア・ライヴで新作を披露し超絶テクを見せつけたポールに、今の心境を訊いた。 (2006/9 Barks)

――インストのアルバムはこれが初めてとは意外だね。

ポール・ギルバート(以下ポール):僕にとってシンガーの存在ってすごく重要なんだ。リスナーとして音楽を楽しむときも僕は歌を聴きたいから、レーサーXでもMr.Bigでも、ソロになってからも歌モノが中心だった。エディ・ヴァン・ヘイレンやランディ・ローズ、ジミー・ペイジを初め、僕のギターヒーローは、みんなグレートなシンガーのいるバンドのギタリストだしね。歌がないとつまらないものになってしまう不安もあった。だから今までどんなに求められても拒んできたんだ。でも最近、他のギタリストと同じことをしなくていいんだって気付いた。それで、僕みたいなロックファンが気に入るものを作ってみようと思ったんだ。

――インストのアルバムは好きじゃなかった?

ポール:嫌いというわけではないけど。80年代はサトリアーニとかイングウェイ、トニー・マカパインの初期のなんかは面白いと思って聴いてたんだよ。でもそのうち、あまりにギターが前に出すぎたものばかりになってきて、つまらなくなった。ギターは素晴らしくても、ドラムやベース、他の楽器がどこかに忘れ去られているようで音楽として楽しめないんだ。だから自分がやるならギターはもちろんいっぱい弾くけど、すべての楽器が面白いものにしたいと思った。

――実際に作ってみて、以前の不安は解消したみたいだね?

ポール:そうなんだよ! ホントに不思議なんだけど、やってみたら何の問題もなかった。作っていて楽しかったし、作ったあと自分で聴いていてすごく楽しめるから最高。僕が一人のロックファンとしてこれだけ満足できるんだから、世間のロックファンも同じはずさ。今まででいちばんたくさんギターを弾きまくったから、たぶんギターキッズのみんなも満足できるはずだよ。

――今回はどんなメンバーで作ったの?

ポール:基本的には、去年の日本でのライヴのメンバーだったドラマーのジェフ・ボウダーズと僕だけ。ジェフとはデモの段階からずっと一緒にやってきた。「HURRY UP」を10バージョンくらい作ったときも全部付き合ってくれたんだ。ベースはほとんど僕で、一発録りで録った2~3曲だけマイク・ズーター。それと僕のワイフのエミもキーパーソンだね。彼女にはピアノやオルガンを弾いてもらったし、譜面の読めない僕のかわりに、ハイドンのシンフォニーの中身をすべて解析してもらった。プレイヤー以外ではトム・サイズにミックスを頼んだ。前作『SPACE SHIP ONE』は自分でミックスをやったんだけど、実は僕は左耳があまり聴こえないからすごく苦労したんだ。今回はそのかわりに彼が素晴らしい仕事をしてくれた。だから彼の名前もぜひ載せておいてね。

――曲によってゲストを呼んだりとかは考えなかった?

ポール:それがまさに『GET OUT OF MY YARD(オレの庭から出て行け)』なんだ!(笑)。自分の中にアイデアがたくさんありすぎると、ゲストにいちいち説明するのも大変だ。自分のアイデアは自分で表現したほうが早い。それにゲストギタリストを呼んでバトルなんてあまりに安易だし。でも逆に、ゲストだらけのアルバムとも言えるんだよ。僕は今までヴァン・ヘイレンとかゲイリー・ムーアとかアレックス・ライフソンとか、とっても多くのギタリストをコピーしてきた。どの曲でもどこかに必ず誰かの影響が出ているから、言ってみればたくさんのゲストがいるようなものだろう。本人は弾いていないけどね。

――ジェフ・ボウダーズだけはポールの「YARD」にいていい人物だったんだね。

ポール:そうだね(笑)、彼だけは僕のYARDにいても邪魔じゃなかった。ホントにいいドラマーだよ。彼と僕とは似てるんだ。同じMIに通っていてテクニカルなところが身についてるし、エモーショナルな部分も持ってる。だから気が合うんだ。

――『SPACE SHIP ONE』のとき、キーになる言葉が先にあってそれを発展させて曲を作るって言ってたけど、全編インストの今回は?

ポール:今回は色々だね。「TWELVE TWELVE」はベースのフレーズから生まれた曲だし、「MY TEETH ARE A DRUMSET」はドラムパターンから。もちろんギターから浮かぶアイデアは多いけど、僕はギターを弾いていると自然にドラムやベースが頭の中で鳴って、どんどんアレンジされていくんだ。ギターだけで作るんじゃなくて、全体が同時にできていく感じだね。今回は確かに歌詞はないんだけど、そのかわりにタイトルは重要だった。タイトルの言葉から広がるイメージ、ストーリーが曲ごとにあるんだ。だからライナーには歌詞のかわりにそれを書いておいたよ。

――M1「GET OUT OF MY YARD」の最初の高速フレーズ、さっき目の前で弾いてもらうまでどう弾いているのかまったくわからなかった。

ポール:ああ、あれね(笑)。レコーディングのときはカポを使って、カポの位置を変えては録り、変えては録り、セクションごとに細切れに録っていったんだ。さっきの“人間カポ”(動画参照)は数日前からやり始めたんだけど、意外に簡単だった。実は速弾きって簡単なことをしないとできないというのが僕の持論。だからあれも難しいことはやってないんだよ。ただあのフレーズはポジションがどんどん変わっていくから、聴いただけじゃどう弾いているかわからないだろうね。

――M8「RUSTY OLD BOAT」は、ポールには珍しくファンキーな曲調だね。

ポール:前作のツアーメンバーのオーディションのとき、紹介してもらった中に黒人ドラマーがいたんだ。電話してみたら、彼の声がむちゃくちゃブラックでクールでファンキーだったんだ。それを聴いた瞬間、“これは大変だ!”と思った。僕のストレートなポップソングを彼に叩かせるわけにはいかないぞ、彼のためにファンキーな曲を作らなきゃって。それでできたのがこの曲。自然に浮かんだわけじゃなくて、そのとき必要に迫られて作った曲なんだ。

――日本でのインストア・ライヴでも新作の曲が中心だったけど、かなり手ごたえがあった?

ポール:すごく手ごたえがあったし楽しかった。全部インストって初めてなんだけど、弾いてると途中でどうしてもこう(立ち上がって叫ぶ)“イヤーッ”って、シャウトしたくなっちゃうんだ(笑)。それと、レコーディングは座ってギターに集中できるんだけど、立ってステージで弾くのはやっぱり別物だな。ツアーでやるときはバンドでもっとノリノリでやらなきゃいけないからね。もちろん全部ちゃんと弾けるんだけど、難しい部分もけっこうあるから、帰ったら立って一生懸命練習するよ。

――今回のアルバムやインストア・ライブであれだけすごいギターを見せつけられたら、ギターをやめたくなっちゃうギターキッズもいるんじゃないかな。

ポール:ハハハ(笑)。難しく考えずに楽しんでくれればいいんだけどね。最近僕もそんな経験をしたよ。この前マーティ・フリードマンと会ったんだけど、ヤツの日本語があまりに上手いんでもうイヤになっちゃったんだ(笑)。僕だって日本語は一生懸命勉強してるのに、全然違う。どんなに頑張っても僕はこうなれないんじゃないか、って落ち込んだ。それと同じじゃない? 思えばレーサーXのときは、やることが多くスケジュールも厳しくて分刻み、まるで“音楽軍隊”って感じできつかった。でも自分が好きな音楽をいっぱいできたことはすごく楽しかった。日本語のことも、学ぶプロセスも含めて自分なりに楽しめばいいと思ったら気が楽になった。だからみんなも、とにかく好きな曲、やりたい音楽を見つけて楽しんでほしい。他人と比べることはないよ。

――今後もまたインストのアルバムを作りたいと思う?

ポール:作る前は予想もしなかったけど、すごく楽しかったし満足してる。僕は以前、ギターインストのアルバムをかなり批判した発言をしてたんだ。でも、ちょっとだけ撤回するよ。インストアルバムの可能性を見つけた気がするので、また作ってもいいと思ってる。

――ソロ以外のプロジェクトの活動は今どうなっているの?

ポール:レーサーXはみんな仲がいいから、これからも友達付き合いは続くだろう。それに、いかにもメタルっていうのが時々やりたくなるんだ。だからタイミングが合えばまたなにかやりたいな。今は個別に活動してるだけで、レーサーXは解散したわけじゃないからね。Mr.Bigについては、僕の中ではもう遠い存在、そうだな、伝説みたいなものだな。伝説はそのままそっとしておこうよ。

――このアルバムのツアーの予定は?

ポール:早めにやると思うよ。僕の頭の中にこのアルバムがフレッシュに残っている間にね。今回はギターもすごく難しいから、またレーサーX的な“軍隊”スケジュールできっちりリハーサルをやったほうがいいかもね。完成された形で日本に戻ってきたいから。

――じゃあライヴ楽しみにしてるよ。

ポール:ありがとう。今回は歌がなくてギターに集中していればいいから、最高に弾きまくることになると思うよ。楽しみにしててね。



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