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ウソ -4



「うわぁぁぁ」

私は叫んでいた。けれど、逆に小林さんは落ち着いていた。
そして、その箱に入っていた、眼球を手に取っていた。

「ゆう、これ義眼よ。 ほら、眼球のところがガラスで出来ている。
 これは、ニセモノよ」

そう言って、小林さんは眼球を床に投げつけた。
ぱりんという音とともに眼球は割れていった。そして、その中から一つの紙切れが出てきた。

「なにこれ?」

小林さんがそう言って、その紙切れを取り出した。
そこに書かれていたのは

「栄美製薬 No.2995」

であった。

「栄美製薬って言えば、高見くんが勤めているところよね 確か再生医療が今主軸で、体の一部
を他のものから作るっていう研究が盛んよね。
 でも、そうだとしたら、ゆうが前に見た指も擬体じゃないの?」

右手の親指のつめを噛みながら、小林さんはたんたんと語ってくれた。

「でも、どうして高見がかおりを誘拐するんだ?」

私には不思議があった。それに、高見がくれたヒント。もし、高見がライヤーなら不思議でしかたがない。
私は自分でいいながら、事実が見えなくなっていた。

「まだ、高見くんを犯人、そうライヤーって決め付けるには早いわ。
 でも、なんらかにライヤーには関係してそうよね。
 それに、高見くんなら少なからず、動機はあるわよ。
 これ、言っていいのかわからないけれど・・・」


小林さんが何かを言おうとして、言葉を飲み込んでいた。それは、私のことを思って飲み込んでくれたのかもしれない。でも、私は知りたいと思った。どんな結果でも、いいと思えたから。

「小林さん、教えてほしい。
 高見の動機って一体何なんだ?」

私は恐怖より、好奇心が上回った。

「高見くんは昔、かおりと付き合っていた時期があるの。
 でも、あの二人は、お互いを思いながら理由があって別れなくては行けなかったのよ。
 だから、あの二人は今でもある意味『特別』なのよ。
 私が嫉妬しちゃうくらいね」


小林さんのセリフはある意味衝撃的だったけれど、ある意味納得がいった。確かに、高見とかおりの仲良さは少し違った。でも、そこには恋人のような雰囲気ではなく、いや、恋人というものを超越した何かを感じたことは確かにあった。
ただ、気にしないようにしていた。いや、高見のカリスマ性だと思うことにしていた。
そうやって、自分で勝手に自分を納得させていただけなのかもしれない。

「病院に戻ろう」

私はもう一度高見に会って聞きたかった。いや、何を聞きたいのかはわからない。
けれど、確認したかった。
小林さんが何かを話そうとしたときに、小林さんの携帯が鳴った。

「えっ?」

小林さんはおそらくメールが来たらしく、モニターを見て小さく、でも、確実にそういった。
そして、

「ゆう、ごめんね。
 もうちょっと、私ここにいるから、ひとりで病院に戻って」

と、小林さんは、そう言葉を残した。
私は、かおりのマンションを出た。
出たときに少しだけ、いつもと違う小林さんの声が聞こえた。

「どうしたのよ?」

人には立ち入っていい場所といくない場所がある。それくらいは、私も心得ているつもりだ。
私は、高見がいる病院に向かった。


~再び高見~

病院へ向かう。エスカレーターを上がって、先ほど高見がいた病室に入った。
また、この光景。誰もいない部屋。
キレイにたたまれたシーツ。折りたたまれたふとん。きれいに片付けられた病室がそこにはあった。
一体高見はどこに行ったのだろう。
いや、私は夢でも見ているのだろうか。私は受付カウンターに行って確認した。
看護士さんに聞いたところ、医学的に異常がないこと、それと、当人の希望によりもう退院したとのことだった。

そして、もう一人。エリカもいない。
私は、エリカの携帯に電話した。だが、圏外だった。

「どこに行くかとか言ってませんでしたか?」

私は、すがる思いで、看護士さんに聞いた。
なにやら、高見は仕事場に一度行かないといけないって言ってたとの事。確か、栄美製薬の研究所がこの近くにある。そこに高見はいるのか?
手がかりの無いまま、私はタクシーに乗って栄美製薬研究所まで向かった。途中に小林さんに
「高見がいなくなった」
という事だけはメールしたが、返事は返ってこなかった。


駅からバスで15分のところに工業団地がある。確か何年か前に企業へ誘致のため土地代を安くして工業団地となっていった。
この工業団地のおかげでここは街として変化をしていっているのかもしれない。
広い敷地を多く使っている。地図には研究所とか、第一工場とか書かれている。その工業団地の一角に栄美製薬の研究所がある。日曜日だが、研究所は開いているらしい。

バス停を降りてブロック塀とその奥にある木々が影を作っているので影にそって歩いていった。
この工業団地は一つ一つの区画が大きい。私は目指していた栄美製薬の入り口にようやくたどり着いた。
トラックが通るための入り口は封鎖されている。その横に社員用なのかわからないが入り口がある。
覗いてみると、守衛がその中でテレビを見ていた。
「すみません、ちょっと聞きたいんですけれど、御社の社員で『高見』という社員は本日出勤されてますか?」

私は、定期入れに入っていた、高見の名刺を出しながら話した。

「出勤していますけれど、面会ですか? アポイント取られてますか?」

守衛から、事務的に話しを進められる。高見は会社に、ここにいた。なぜ病院を抜けてでも研究所に来る必要があるんだ。解らなかった。だからこそ話しがしたい。
だが、アポイントが必要灘と守衛は話している。私は守衛に向かって

「高尾祐一が受付に来ていると連絡付けて貰えませんでしょうか?」

と、言った。
こういう研究所はセキュリティーの問題もある。確実にアポイントがないと中には入れないだろう。
それは解っている。でも、それと同じくらい、ミーティングルームならば、入るのは難しくないのも知っている。研究をしているGLP棟とかではないんだから。私は守衛が内線電話で話しているのを聞きながら、ずっと考えていた。

どうして、高見が勤めている栄美製薬のタグがついた目がかおりの部屋にあったんだ。
いや、高見はライヤーなのか。解らない。
いろんな事がいっぺんに起こりすぎて何か大事な事を見落としているような気がする。
私はどこかで何かを間違えたのだろうか?それとも誰かに誘導されているのだろうか?
解らない。
ただ、悩んでいる私は守衛の声で不意に現実に戻される。

「こちらに名前を記入して下さい。
 それと、この通行書を胸に付けてロビーでお待ち下さい」

守衛の事務的な対応で、私のぐるぐるした悩みの世界から現実へと連れ戻された。
私は言われるとおり、名前を記入した。

少し上にかかれている
「M.ERI 23:00入室 00:00 退室」
と書かれているのをまねて書いた。
日付は二日前。携帯で時刻を確認して記載をした。
私はロビーへ向かった。

正面の建物の自動扉をくぐった先に無人の受付があった。
おそらく平日ならここに人がいるのだろう。今は、受付には内線用の電話が一つと内線表のみが置かれてあった。
後は、会社の主力製品のディスプレーや、この研究所のミニチュア模型。
かなり良く出来ていた。道には中央にあるラインだけでなく、歩道の縁石までも再現されている。
一体何の目的でここまで詳細なものが必要なのだろう。
私は不思議に眺めていた。ちょうど私がいる場所は覗き込むと受付まであるのが見える。

近くにあるソファに腰をかける。おそらく来客者はこのソファで座って普段は待っているのだろう。
今日は色んなことがあった。思い出すのは病院の消毒液のにおい。甘いエンジェルハートの匂い、
むせ返るほどの血のにおい。
だが、この場所はただの、無機質、無。
そう、それだけだった。
ソファから見える主力製品のサンプルを眺めていたら、その先にある扉の向こうから高見はやってきた。
病室で見たような、弱々しい高見ではなかった。
そう、いつも通り力強い感じであった。

「どうした? 何かあったのか?」

高見からそういわれた。一体、何から聞けばいいのだろう?
私はぐるぐる頭の中で自分が聞きたい事を整理した。

高見の記憶はどこまで戻っているのか?
かおりの部屋で見た「指」と「眼球」、そして、栄美製薬のタグ
そして、どうして、ここにいるのか。

そうだ、大きく分けるとこの3つのはずだ。
私はそう思った。

「もう、大丈夫なのか? さっきまで病院にいたが。 記憶はどうなんだ?」


私はおそるおそる、高見に聞いていった。記憶が戻っていたら、高見が伝えたかったことは一体なんだったのか?そして、かおりと、いや、あの時、かおりの携帯の持ち主と何を話したのか?

聞きたいことはいっぱい増える。だが、返ってきたセリフは違った。
いや、この返答は予想できていたのかも知れない。


「まだ、きちんと戻ってはいないんだ。
 ただ、ちょっと仕事で何かやらないといけないはずだったのをスケジュール帳に書いているの
をみて、職場に来たんだ。
 何か思い出せるのかと思ってな」

いつもより、少し弱々しいけれど、高見は高見であった。
どれと同時に3つ目の質問は聞く必要が無くなった。

記憶を戻したい。そのために、高見はこの場所に来たということ。
では、眼球についていた、栄美製薬のタグを次に高見に見せた。
それと、同時に今日あった事を話した。

一瞬、高見が何かを考えてそして、話し出した。

「祐一、まず、この研究所は再生医療の研究をしているが、主に有機繊維を利用しての擬似体を
作っているんだ。 この眼球の一部は無機質を多く使っている。
 そして、この『栄美製薬』のタグだけれど、ウチの使っているタグとは違う。
 つまり、誰かが意図的に作ったものだ。 だが、はじめに行っていた、血のにおいのする指。
 それは、もしかしたら、うちのサンプルかもしれない。 その指には爪はついていたか?
 外見上の皮脂はウチでは扱っている。 でも、爪は違うんだ。
 覚えているか?」

たんたんと話す高見の話しを聞きながら、思い出そうとした。
だが、覚えているのは、匂いと真っ赤なイメージ。
そして、カルティエの指輪。

そう、爪があったかなんて覚えていない。
それに、原型が残らない形で爆発していた。

だから、爆発させたのか。調べられたら困るから。
だが、それなら更なる疑問が出てくる。

「そのサンプルって簡単に持ち出せるものなのか?」

そう、あの時の指がかおりのものでなく、この栄美製薬のものであるならば、
どうやって、サンプルを持ち出すことが出来るんだ。おそらく、セキュリティーも高いこの研究所から。
だが、高見は驚愕の事実を教えてくれた。

「実は現段階の実験では、簡単な培養液とキッドがあれば、見かけだけのものならば作ることは可能だ。特に、骨や、血管などなく、皮膚と肉だけでいいのならばそれほど難しくない。
実際医療ではまったく役に立つものではないけれどな。
だから、持ち出すというより、簡単なものならば作ってしまうことは可能だ。
ま、実験機材や材料を使うから記録は残るけれど、色んなデータを取る実験をしているんだ。
ちょっとくらい多目に材料をつかったとしたらわからないだろうな」

目くらまし程度のもの。私が見たあの指はニセモノだったのだろうか。
いや、そう思いたいと思っているだけかもしれない。
もしかしたら、指の断片がどこかに残っているかもしれない。それで、ニセモノかホンモノなのか判断できないのか?

私は高見に聞いてみた。

「ああ、それは可能だな。 実際、簡易的に作ったものならば、確実にわかるな。
 DNA鑑定するまでもない。あくまで擬似的なものだから
それに、かおりのものならばDNAを採取しなくても。。。
ま、いいじゃないか。あれば調べるよ」

高見が話しながら何かをごまかした。いや、何かはじめから高見は隠しているのかもしれない。
一体何を。
それは、小林さんから言われた、高見とかおりが付き合っていたという事実。
それが関係したいているのだろうか?
一番触れてはいけないかも知れないブラックボックスにメスを入れた。

「高見、昔かおりと付き合っていたってホントか?」

私は自分の声が震えていたのが良く解った。事実でないと思いたかった。
だが、あの場で小林さんがウソをいう必要も無い。
一瞬固まってから、高見が話し出してくれた。

「ああ、確かに付き合っていた。
 かおりとは。
 実は、付き合って、しばらくしてから知った事実がある。
 かおりの父親とオレの父親は同じなんだ。 つまり、付き合い続けるという事には問題が多す
ぎたんだ。
 だから、別れた。
 いや、別れざるを得なかった。
 それだけだ。
 だから、かおりのDNAを採取しなくてもオレのDNAの配列を参考にすれば解る。
だから鑑定することなんて簡単だってことだ。
黙っていてすまなかったな
じゃあ、その指の破片があるって所に行こうか」

高見に言われて、ただの不安の解消にしかならないけれど、再びかおりのマンションにタクシーで向かった。



~かおりのマンション~

かおりのマンションへ向かう途中、小林さんにメールをした。

「いまからマンションに戻ります」

だが、返事はなかった。
マンションに着いたとき、高見がいきなり言い出した。

「雄一、まず、5階に行きたいんだけれど、いいかな?」

不思議だった。
そう、5階には何もないはずだった。
いや、毎回部屋に行くたびに携帯だけがおかれてあった。
私は、高見が何か思うところがあるのだろうと思って5階へ行った。
そう、何もない部屋。ただ、そこにあったのはまたもや携帯。
ただ、前回までと違うのは形態の機種も違えば、ストラップも違う。
高見の顔色が変わる。

「これ、オレの携帯だ」

そう、今回あった携帯は高見の携帯だった。
高見は少し考えて話し始めた。

「雄一、話を聞いていておかしいと思ったんだけれど、毎回5階には携帯が置かれている。
 そう、誰かが意図的にここに携帯をおかない限り無理なんだ。 しかも、雄一にも見つからな
いようにしないといけない。
 つまり、ライヤーは雄一を見張れる場所にいる可能性が高いんだ」

そう高見は言いながら、二つ折りの携帯を開いた。

「うっっ」

高見はいきなり自分の携帯を床に落とした。

「どうしたんだ?」

私はそういいながら、高見の携帯をてにとった。
ディスプレーに映っていたのは、少し前に見た、

箱に入った指の写真であった。
その画像が待ち受けにされていたのであった。

携帯にメールが来る。

「探し物はみつかったのかい?
                ライヤー」

ディスプレーの写真をよく見ると、指の先につめがついているように見える。

「高見、これって、、、」

私は恐る恐る高見に話しかけた。だが、高見はリアリストだった。

「いや、つけ爪の可能性もある。
 骨が見つかれば話は違う。
 それに、その写真が、雄一が見たものと同じかどうかもわからない。
 とりあえず、6階へあがろう」

私はエレベーターを呼び、配電盤のしたにある場所に「b」と刻印されている場所をかざした。
そう、これだけでエレベーターはその階に連れて行ってくれる。
ただ、エレベーターは基本1階でスタンバイをしていることが多い。
すぐ上の階なのに上がるのに5分くらいかかってしまう。おそらく、このマンションでは近所付き合いなんかもないのだろう。私はそう思うことにした。


6階に、小林さんはいなかった。そして、また、机の上に一つの箱がおいてあった。
恐る恐る開けてみる。
そこには一つの名刺が入っていた。書かれているのは

「ちはや」

そして、携帯番号と、メールアドレス。おそらくキャバクラの名刺だろう。
そして、もう一つポケパラと書かれている雑誌が入っている。
夜の世界のガイドブックだった。確か駅前で置いているのを見たことがある。
そういえば、仕事で接待をする時もされる時もこのポケパラにお世話になったのを思い出した。
手にとって見ると折り目が付いてあった。
手にしたポケパラの折り目がついているところを開くと、見開きでかおりが映っていた。

「高見、これって?」

私は自分の知らないところで起きている現実を直視できなった。いや、今日ずっとソレは続いているのかもしれない。
高見は私が出した二つの物を見て、こういった。

「ああ、知っているよ。
 かおりは夜働いていたんだ。
 でも、別に体を売っていたわけじゃない。
 夢を売っていただけ。
 夜働くことってそんなに悪いことなのか?
 雄一。
 じゃあ、聞くけれど、雄一はかおりのどこを好きになったんだ?
 その、好きになったところは、かおりが過去何かしていたからといって、
 変わるくらいの気持ちなのか?」

高見のセリフが痛かった。確かに、私は夜働くというイメージだけが先行していた。
体を売っていたわけじゃない。夢を売っている。
恋心を商売にしている仕事。でも、だからどこかで何かが引っかかっているのかもしれない。
かおりのことは確かに好きだ。見えないところもたくさんあった。知らないこともたくさんあった。過去何かをしていたからといって、そんなに簡単に気持ちが揺らぐくらいなのだろうか?

いや、違う。
自分自身にそう言い聞かせていた。

「見つからないな」

高見の声で現実に連れ戻される。

どうやら、この部屋にはつめらしきものも、骨らしきものも見つからなかった。

「不思議なことが2点あるんだ」

高見が話し出した。こういう時、高見は頼りになる。

「まず、一つは、骨も、爪もみつからなかったけれど、雄一が言っていて、写真にもあった、
 指輪も見つからないんだ。
 形は変形するかもしれないけれど、存在がなくなるなんて、おかしいことだ。
 それと、もう一つ。
 今回の箱の中身。
 ライヤー自身。 ひょっとしたら、雄一にかおりをあきらめさせたいだけなのだろうか?
 それとも、何か他にメッセージがあるのだろうか? 何か、引っかかるんだ。
 もう一度、そのポケパラを見てみないか?」

高見がそう言って、私はポケパラを眺めた。折っている箇所は、見開きで映っているかおり。
それと、もう一つあった。そこに映っていたのは、
エリカだった。




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