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小説 「君に何が残せたのかな」-4



日比谷は悩んでいた。
だから結城と別れた後も六本木にあるバーで飲み続けていた。
友達である結城から「死の告知」を受けたからだ。
結城の言いたい気持ちも日比谷にはわかっていた。
綾を苦しめたくない。
だが、残されたものの苦しみも日比谷には解っていた。
携帯を開く。
そこには2年前の日比谷と女性が写っていた。
幸せいっぱいの待ち受け画面。
そう、この横にいるつぶらな瞳の女性が今も生きていればだ。

「あおい、お前ならどうする?」

日比谷は結城の気持ちもわかっていた。
あの二人は乗り越えてきたものが違ったからだ。
そして、次は一人で綾に乗り越えさせることを求めるのも確かに酷だと思っている。

「だから、オレに相談したのか」

日比谷は携帯を見つめながらアドレス帳に入っている人物を探した。
相手は篠塚さつきだ。
結城から明日説明をすると言っていたが先に話して起きたいと思ったからだ。
結城にもばれずに、一つのことを成し遂げるにはこれしかない。
だが、上手くいくだろうか。
相手はあの『結城』だからだ。
日比谷は出来れば『結城』が自分から決断を変えてくれればいいのに。
本当にそう思っていた。
日比谷はメールを打った。

「実は話しがあるんだが、こんな時間からで申し訳ないが、時間とれるかな?」

日比谷は篠塚をさけていた。
だから日比谷からメールをすることなど基本ない。
だが、確かに結城がいう通り、キーパーソンになるのはこの「篠塚」であることも間違いない。
だかこそ、日比谷は悩んでいた。

「なぁ、あおい。オレは自分を保っていられるかな」

日比谷は待ち受け画面に語り続けていた。
日比谷の携帯がなる。

篠塚からだった。

「お久しぶり~
 ってか、日比谷さんからメールなんて滅多にこないからビックリしたよ(^^)
別にいいよ。
 どこにいけばいい?
 ちなみに、私は新宿にいるよ」

すぐに返事が来た。
日比谷は席を立って会計を済ませた。
メールを打つ。

「今六本木だから、新宿へ向かう。
 GAP付近にいておいて欲しい・
 新宿着いたらメールするよ」

そうメールを打って地下鉄に乗り込んだ。


GAP近くに日比谷は行った。
すぐに篠塚はわかった。
すらっとした体系。
長い髪。
つぶらな瞳。
容姿は似ていると言えば、似ている。
せめて髪型が、服のセンスが違っていればよかったのに。
日比谷は篠塚を見るたびにそう思う。
イヤというくらい、日比谷は『あおい』を思い出すからだ。

「お待たせ」

日比谷は声をかける。
篠塚に声をかけるとき、『あおい』と呼んでしまいそうになるからだ。
だから、名前を呼ぶときは一瞬間を空けてしまう。

「全然、さっきまで友達といたから。
 でも、先に帰ってもらったよ。
 どっか入ろうっか」

日比谷はメールで詳細を書かないでよかったと思った。

「ああ、そうだね。
 ちょっと落ち着いたところがいいな」

少し歩きながら隠れダイニングバーに入った。
照明が暗く、狭い空間。
日比谷はこの場所も『あおい』と来たことがあったのを思い出していた。
新宿という街は日比谷にとっては出来れば避けたい場所でもある。
思い出が多いからだ。

「何飲む?」

篠塚が注目を確認する。
ただでさえ『あおい』に似ている篠塚。
照明が暗いからこそ余計に錯覚する。
やめておけばよかったかも知れない。
後悔の思いはある。だが、結城と綾の二人にはこんな思いはさせたくない。
そう、こんな苦しい想いをするのは自分だけでいい。
日比谷はそう思っていた。

「ああ、ビールで」

日比谷は目を瞑りながら、自分自身に集中するように言い聞かせた。
そう、これからすることはある意味結城との頭脳戦なんだから。
ドリンクが来た。

「かんぱ~い」

篠塚がグラスを持ってくる。
ファジーネーブルか。
あの時と違うな。
日比谷はどこかで前に『あおい』と来た時と比べている自分がいる。
料理を適当に頼んで、篠塚に話し出した。

「実は、結城のことなんだけれど
 真剣な話しなんだ。
 ただ、お願いがある。
 これから起こることに協力をして欲しいんだ」

日比谷は結城が病気で後6ヶ月しか生きられないことを告げた。

「え、それって。
 綾は知っているの?」

確実にみんな同じ事をいうだろう。
綾にはあの過去があるから。
だからこそ、どうするのが一番なのか悩んでしまう。
日比谷は告げた。

「結城は綾には言わないで終わりを迎えようとしている。
 そして、その相談を今日受けた。
 明日、結城は篠塚にもその話しをする。
 私も一緒にいるはずだ。
 結城の思いもわかる。
 だが、知らないことがいいのか、知ったほうがいいのか。
 かなり考えてしまう。
 だから、お願いがあるんだ」

日比谷は深呼吸をした。
そう、もうこの選択を変えることはない。

「一つは結城が自らの意思で綾に伝えようとする努力をすること
 もう一つは、3ヶ月経っても何も変わらないのならば、結城に気づかれないように
 綾に全てを話すこと。ただ、その後も結城には結城の望む世界を見せてあげたいんだ。
 そう、つまりあの結城を出し抜くんだ」

日比谷はそう言って、ビールを飲み干した。
日比谷の中で結城はものすごく頭の回転が速い人物だ。
おそらく生半端な対応だとすぐに悟られてしまう。
ただ、綾が何も知らず結城の最期を看取ることもなく終わるのだけは許せなかった。
出来れば結城が自ら話してくれるのが一番だ。
死が目の前にやってきたら思いは変わるかも知れない。
その手助けをしたい。それは思っていた。ただ、あからさまなことをしたのでは逆効果だ。
そして、篠塚だ。多分、結城の思いは理解をすると思う。だが、一番綾に話してしまう可能性もある人物でもある。

真剣な表情で話してる中、篠塚の表情も真剣になっていた。

「私、どちらの気持ちもわかるな。
 確かに一番は結城さんから綾に話すのが一番だものね。
 私は今まで通りでいいの?
 それとも何かするの?」

篠塚はそう話してきた。
篠塚は協力をしてくれる。
それは日比谷の中ではじめから確信をしていたことだったのかも知れない。

夜は長く、時間は短く過ぎていった。



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