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小説 「君に何が残せたのかな」-8
私は携帯を見ながら遅くしてもらったのに待ち合わせに遅れそうになっているのがわかっていた。
仕事が一番押している日比谷の職場近くを待ち合わせにしていた。
確か篠塚の職場は新宿。
けれど、一番先に待ち合わせについたとメールが来ていた。
思いのほか時間がかかっていたのでビックリした。
私はようやくの思いで六本木についた。
自分の職場も六本木だが、地下鉄だけのこの場所にオフィスビルを建てたのだろう。
不思議に思う。
私はエスカレーターを上って六本木ヒルズの近くにあるクモの形をしたオブジェのところに向かった。
「遅いよ」
篠塚が少し怒っていた。
そういえば、篠塚とであった時は髪が短かったはず。
髪が長くなったため、余計に「あおい」に似ているように感じる。
確か綾が伸ばしたほうがいいんじゃないのって篠塚に言っていたのを思い出した。
私は逆効果だと言ったが、篠塚も綾の意見を取り入れたんだ。
だが、私が着いた時にはまだ日比谷がきていなかった。
「あれ、日比谷は?」
日比谷が時間に遅れることが少ないのでびっくりしていた。
篠塚が話してくる。
「メール見てないの?」
言われて携帯を取り出す。
メールが来ていた。
地下鉄だったため、ずっと気が付かなかった。
メールでは
「急な会議が入ったので遅れます。
終わりがわからないため、先にはじめておいて下さい
店が決まったら連絡してください」
と書いてあった。
会議か。
そういえば、日比谷は内勤だがたまに時間が読めなくなることと言っていた。
何か起きたのだろう。
私はそう思いとりあえず、篠塚に話した。
「場所、どこにする?」
自分で二人を誘っておきながら場所は決めていなかった。
いや、今日はそれど頃じゃなかったからだ。
この近くで考えてみた。
内容から考えるとどうしてもオープンな飲み屋では話しにくい。
そうすると隠れ家的な場所にどうしてもなってしまう。
篠塚は日比谷のことが好きだし、私もその相談を綾と一緒に聞いている。
変な誤解を受ける事もないだろ。
考えている篠塚に向かってこういった。
「特に決まっていないなら店を決めるよ」
私は携帯から店に連絡した。
「これから3人で席は開いていますか?」
かけた店は予約が取れた。
『SAITS』という創作中華の店だ。
なかなか趣のある店だし、このヒルズからもそれほど遠くない。
店の場所を日比谷にメールして、篠塚と店へ移動した。
大通りから少しだけ入ったところにあるこの店は昨日、日比谷と行った店に比べると照明もあかるく安心感があった。
「へぇ~やっぱり六本木っておしゃれですね」
店を見ながら篠塚はそう言ってきた。
確かに雰囲気はいい店だ。
私は適当に料理を頼んだ。
ビールが出てくる。
「乾杯」
そういってお酒を飲んだ。
よく考えたら私はお酒を飲んでいていいのだろうか?
解らない。
ただ、解ることは一日一回乾杯をしたとしても、私は後179回しか乾杯は出来ないのだ。
ま、最後のほうは病院で寝ているのだからそんなにも回数は残っていないのだろう。
そう思うとなんだか少し変な気分になってきた。
後何回。
私の中でそういうものの見方になってきている。
今までそんなこと意識なんかした事もなかったのに。
料理が出てきて、日比谷の分を取り分けたときに本題に入った。
それまではずっと日比谷のこと、特に昔のことが話題になっていた。
「あのさ、篠塚。話しがあるんだ。
実は私、昨日医者に宣告されたんだ。
余命6ヶ月って。
それでな、実は綾にだけはこの事実を伝えたくないんだ。
協力してくれないか?日比谷も協力をしてくれているんだ。」
私はそう言った。
本当ならば日比谷がいたほうが良かったのかも知れない。
けれど、もうかれこれ30分経っているが日比谷からはメールは来なかった。
篠塚が酔っ払ってもう一度説明をすることになるのだけは避けたかった。
私は恐る恐る篠塚を見た。確実に反対をすると思っていたからだ。
多分、日比谷からのお願いなら聞いたかも知れない。
篠塚はこう言って来た。
「私は、綾に言わないのは反対よ。
でも、日比谷さんが協力をするのなら手伝うわ。
でも、でも、綾が一番かわいそうじゃない。
仲間はずれなんて一番かわいそうよ」
確かに綾だけが知らない。
仲間はずれ。
私は前にもそれをした。
そして、今回も。
もう、あの時と違う。綾も強くなった。私は自分に残された時間を考えながら、綾には未来を知らなくても選ぶ権利はあると思った。
そうだな。私は考えていた。
沈黙だけが続いていた。
携帯がなる。
日比谷からだ。
「遅くなった、今会社でます」
メールが来ていた。
それから日比谷が来るまで変な沈黙があった。
私と篠塚。
お互い思っていることは違っていただろうが。
「お待たせ」
走ってきたのだろう。
息が切れているのが解る。
日比谷は私の篠塚の雰囲気を見て何かを察したのだろう。
「結城、話したのか?」
日比谷が話しかけてくる。
私は、何杯目かすら覚えていないビールを飲みながらただ、うなづいた。
日比谷は続けた。
「篠塚、言いたいことは解る。
でも、結城のこともわかってやってくれ。
綾にとって一番いい方法は私にも解らない。
でも、決めるのは結城と綾なんだ」
日比谷はそう言って篠塚をなだめてくれた。
「日比谷さんが言うなら私は何も言いません。
綾にも何も。
でも、ちょっとは綾の気持ちも考えて欲しい。
取り残されるほうが、残されるほうが辛いんだからね」
篠塚はかなり酔っていた。
篠塚の相手を日比谷に任せて私は一人家に帰ることにした。
家についたら日比谷からメールが来ていた。
「篠塚は落ち着いたよ。
大丈夫だ。また、近いうちに話しがしたいね。
いつ都合がいい?」
私は手帳を開いた。
予定を入れていっている。
明日は佐伯さんに用事をいれている。
そう、遺言状を変えるためだ。それと、もう一つ。
佐伯さんにしか頼めない用事があるからだ。
「今週、木曜日か金曜日でどうだ?」
私は日比谷にメールをした。
すぐに返事が来た。
「金曜日で。木曜日は会議で遅くなるから」
スケジュールを埋めていく。
時間いれて、携帯にもセットをする。
こうやって、スケジュールのもれをなくしていくんだ。
いつからか癖になった行動。
私は眠る前にパソコンを立ち上げた。
そうだ、ブログをはじめたからだ。
私はブログの画面を開いた。
コメントがついている。
1件だ。
誰のサイトも訪問していないのに、コメントがつくんだな。
私はちょっと不思議な感覚でコメント開いた。
「はじめまして
なんだか難しい問題だって思いました。けれど彼女が後からしったら
もっと悲しむと思う。ショックかもしれないけれど事実を彼女に話しても
いいんじゃないでしょうか?だって、一人で死ぬのって悲しくないですか?」
コメントを見ていて、無性に悲しくなった。
一人で死ぬ。
多分私は誰かがいてくれると信じていた。
でも、篠塚はどこかで私の選択を恨んでいる。
いや、日比谷だって同じかも知れない。
私はひょっとしたら6ヵ月後は一人病室で死んでいくのかも知れない。
そう、思ったら無性にむなしくて悲しくなった。
涙が止まらなかった。
携帯がなった。
電話だ。綾からだった。
「もしもし」
私は携帯に出るべきじゃなかったのに携帯に出てしまった。
「え?ゆっくん。どうしたの?
泣いているの?」
携帯越しに綾が動揺しているのが解る。
私は綾の前ではいつも強い自分でいたからだ。
「なんでもないよ。なんでもないから」
自分で言いながら語気が強くなっているのがわかる。
不安定になってきている。
私は自分の感情のコントロールが上手く行っていないのが良くわかった。
「うん、そうならいいんだけれど」
綾が心配そうに話しかけてくれる。
だが、私は自分を奮い立たせようとした。
「うん、大丈夫だよ。ちょっと映画をみて泣いていただけだから」
私はそれらしいことを伝えた。
話しながら頭痛がひどくなってきた。
綾は心配が解けたのか話しを続けてきた。
「そうなんだ。で、ゆっくんさ。
今週なんだけれど、映画見にいかない?
前に言っていた魔法使いのやつ。今回が中篇なのよ。
来年の秋でラストなんだって」
綾の喜ぶ声を聞きながら来年の秋か。
ちょうど1年後か。多分私はそのラストを見ることはないんだろうな。
自分でそう思っていた。
頭痛がひどくなってきた。
そういえば、医者から頓服を貰っていたのを思い出した。
薬を探す。
綾が話しかけてくる。
「ねえ、聞いてる?」
ああ、そうだ。返事を言っていなかった。
私は答えた。
「ああ、そうだね。一緒に見に行こう。
明日も、来年もね」
私はウソを言った。
上手く頭が回ってくれない。
私は、待ち合わせ場所と時間だけを決めて電話を切った。
頓服を飲む。
そういえば、何回か頭痛がひどい時があった。
私は仕事上肩こりがひどいから肩こりからくる頭痛だとずっと思っていた。
ただ、今はわかる。
この病気が原因だったということが。
頓服を飲んで少し落ち着いてからブログを書き始めた。
【タイトル 残り179日】
今日は出かけていました。
後どれくらい自分が外出できるのかもわからないから休みのうちに
行きたいところにいかないとって思って出かけています。
でも、不思議とこう前向きに後の人生と向かい合うと
なんだか気分が落ち込んで涙が止まりません。
さっきも彼女からの電話でいつもと違った対応をしてしまった。
いつか彼女が気が付くか、愛想を尽かすか。
ま、いっそ愛想を着かしてくれたほうが楽かも知れない。
気が付いたら一人病室で死を迎えるのかな。
なんてちょっと思いました。
これだけをアップして私はブログを閉じた。
今日は頭痛がひどい。
私は横になってすぐに眠った。
眠る前に目に入ったのは、私と綾が二人で写っている写真だった。
後何回綾の笑顔を見れるのだろう。
私はまどろみの中そう思いながら眠りについた。
~日比谷 side~
結城が帰った後、篠塚を見た。
かなり酔っている。
どうやら日比谷自身が来る前にかなり飲んでいたのが解る。
「どうして、あんなことを結城に言ったんだ」
日比谷はそう篠塚に話しかけた。
篠塚は答えた。
「だって、なんで綾だけ仲間はずれにするの?
綾はつよいこよ。事実を知らないより知っているほうが絶対いいに決まっている。
それに綾に話すのなら次は結城さんが仲間はずれ。誰かが仲間はずれになるのよ」
篠塚はそう言った。
日比谷は思った。
知らない不幸と知ってしまった不幸。
どっちがいいのか悩んでいた。
だが、日比谷自身も思っていた。
解っている別れならば事前に話しておきたい。
だからこそ綾に伝えようと思ったんだ。
結城を仲間はずれにしない方法。それは結城から綾に話すということだ。
だが、それは日比谷からだけじゃ足りないような気がする。
綾からもお願いをしてもらおう。
順番は違うがそれが一番いいのかも知れない。
綾も苦しいかも知れないが、結城も十分に今まで苦しいものを背負ってきている。
「ちゃんと考えるよ。
それに明日綾と会うことになったから」
日比谷はそう伝えた。
店に来る前に綾にメールをしていたからだ。
「ねえ、それって私も一緒にいていい?」
日比谷は少し考えた。
多分断っても篠塚は着いてくるだろう。
「ああ、解ったよ」
そう篠塚に伝えた。
これが一番いい選択だったのかな。
日比谷は携帯を開いてそこにいる「あおい」に話しかけた。
返事などない。
笑いかける「あおい」
目の前には似ているけれど、どこか違うところを探してしまう篠塚がいる。
不思議なものだ。
比較などしたくないのに、無意識にどこかで「あおい」と比較をしてしまう。
考えていたら篠塚が話しかけてきた。
「ねえ、結城さんにメールしなくていいの?
私を説得したって。
今日会って思ったけれど結城さんの方が今は不安定かも。
私は支える役じゃなく、遠くから介入する役でいるから、日比谷さんが支えてね」
酔っていたのかと思えば鋭いことをいう。
こういうつかめないところが「あおい」と似ていると日比谷は思う。
「ああ、そうだな」
日比谷は結城にメールをした。
夜はどんどん更けていった。
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